二度目の人生とフェーダの姫   作:プライムハーツ

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戦いの果て

 

ボールが外に出て一旦試合が止まる。

残り時間ももう少ない。ミキシマックスも限界だ。

まだあと1点負けてる。なんとか追いつかないと。

 

「どうしてだ!どうしてあいつらはまだ立ち上がれるんだ!」

 

グラウンドにSARUの声が響く。

正直なんで立ってられるかって言われても分からない。けど時間が残ってる限り諦めるなんてありえない。

 

「翼。」

「メイア?」

 

ふと声をかけられると隣にはメイアがいた。

けど試合中見せていた勝気な表情はなりをひそめて不安そうに言う。

 

「SARUを・・・SARUを助けてあげて。」

 

「SARUを?」

 

「SARUはフェーダの皇帝としてずっと私たちの先頭に立って戦ってきたわ。SARUが立ち上がったから私たちも戦う勇気を持てた。けど、SARUは今、一人で追い詰められて何も信じられなくなってる。心の拠り所だった自分の力さえ・・・」

 

俺にだけ聞こえるくらいの大きさでメイアは語りかけてくる。俺のユニフォームをきゅっとつまんで縋るような目で俺を見つめてくる。

 

「もうSARU自身止まれなくなってる。力を解放してあなたたちを倒してセカンドステージ・チルドレンの力を証明することしか見えなくなってる。私たちのことも見えていない。SARUは今一人ぼっちなの・・・だから。」

 

メイアが語るSARU。俺の知らないSARUの顔。

けど俺はどこか納得した。

この試合中SARUと向き合った時に感じたこと。

それが間違いじゃないことを確信した。

 

SARUは天馬なんだ。

あの入学式の日から始まった雷門の革命。それを起こしたのは天馬の熱い思いだった。

天馬がいたから先輩たちは立ち上がれた。シードだった剣城とも仲間になれた。俺が孤独に押しつぶされそうなときに手を差し伸べてくれた。天馬とサッカーがみんなを繋げてくれた。

俺達にとっての天馬がフェーダにとってのSARUなんだ。

そして今のSARUはアーサー王の世界で答えを出す前の天馬と同じだ。

フェーダの皇帝として全員を引っ張って世界に力を証明する。それに執着して仲間の声が聞えていない。一人ぼっちで暗闇の中にいるんだ。

なら俺が出来ることは。目の前の好きな子に伝えてあげられることは。

 

「ごめん、メイア。それはできない。」

 

 

 

「ごめん、メイア。それはできない。」

「・・・え?」

「俺にSARUを救うことはできない。」

 

翼から帰ってきた答えは否定だった。

どうして?翼なら、そう思ったのに。

 

「そんな・・・」

「聞いてくれメイア。俺じゃないんだよ。」

「え?」

 

けど翼の声はそれでも優しかった。

 

「SARUを救えるのは俺じゃない。仲間を救えるのは、仲間しかいないんだ。」

 

 

「仲間?」

 

「そう。俺が孤独に押しつぶされそうになった時に救ってくれたのは天馬だった。天馬がキャプテンとしての重圧に囚われていた時、仲間の声を聞いて立ち直れた。暗闇の中にいる仲間を救えるのは、仲間だけなんだ。だから、今SARUを救えるとしたらそれは俺じゃない。メイアたちしかいないんだ。」

 

「私たちが・・・SARUを。」

 

「ああ。SARUに気づかせてやれよ。一人じゃない、一緒に戦う仲間がいるって。俺が出来るのは全力でぶつかっていくだけさ。」

 

「・・・そうね。ありがとう翼!私に気づかせてくれて。」

 

これまでずっとSARUは皇帝として先頭を走ってくれていた。

世界に迫害されていた私たちに手を差し伸べてくれた。居場所を作ってくれた。

なら今度は私がSARUを救う番。SARUの隣に立って一緒に最後まで戦う。

 

 

メイアは何か決心したように戻っていった。

俺も試合に集中しよう。多分次のプレーがミキシマックス状態で戦える最後のプレー。

試合はまだリードされてる状態なんだ。

 

「みんな!全員攻撃をかけよう!」

全員限界が近いことを天馬も分かってる。

だからこその提案だろう。

 

 

「そういうと思ったぜ。」「それがキャプテンとしての判断なら。」

「乗ったぜよ!」「ああ、OKだ!」

 

「俺たちはいつでも天馬についていくさ!」

 

反対する理由なんて一つもない。

この11人なら絶対になんとかなる。

 

全員の力が一つになってる。言葉は無くても全員の意志は通じる。

天馬を中心に全員攻撃に入る。

 

「所詮は最後の、悪あがきだ!!」

「うおおおおお!」

 

ザ・ラグーンも力の全てを解放してる。

天馬とSARU、二人のキャプテンが激しくぶつかりあった瞬間二人の意識が流れ込んでくる。

 

 

『僕たちは未来のために生み出された優れた存在なんだ!』

『どこが違うの?優れていてもいなくても、みんな同じ人間じゃないか。』

 

きっとこれは俺達11人が一つになったから天馬が感じてるものが俺たちの中にも流れ込んできてるのか。

 

『俺にはSARUがどんな思いをしたのか分からないけど、君と俺に違いなんかない!』

「ある!僕はお前なんかとは絶対に違う!僕たちは、セカンドステージ・チルドレンなんだ!』

 

また意識が覚醒する。

いや今の瞬間に時間は流れていない。きっと強い思いのぶつかり合いで生まれた何か。

 

「く・・あああ!」

「ぐ・・邪魔を、するな!!!」

 

天馬とSARUの競り合いでボールがこぼれる。

今ので足が痺れたのか天馬はすぐには動けそうにない。

 

「みんな頼む!」

「任せろ!フェイ!」

 

なんとかこぼれ球を抑えてフェイに託す。

 

「行くぞ!」

「うん!みんな!」

 

天馬が動けなくても俺達は11人で戦ってる。

全員の力が溶け合ったこの力なら全員で最強になれる。

あの時天馬に力が集まったように今度はフェイに力が集まっていくのを感じる。

 

 

「「「「「最強イレブン波動!!!!」」」」」

 

 

「止めろぉぉぉぉ!!!!」

 

ゴール前にザ・ラグーンの10人が集結して壁を作る。

けどこのシュートは俺達11人の力の結晶。

10人の壁を破ってゴールに突き刺さった。

 

「決まった~~~!!残り時間わずかのところでクロノストーム、遂に同点に追いついた~~~!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・なんとか追いついたぞ。」

「もう1点とって逆転するぞ!」

「あ・・・ミキシマックスが」

 

ここまでは来た。あと1点とってこの試合勝って終わる。

けど限界が来た。全員ミキシマックスが自分の意思に反して解除されていく。

ここからは俺たち自身の力で勝利を掴むしかない。

 

「くっ・・・まだだ。これくらい・・・あっ」

 

そんな俺のたちの後ろで倒れこむ音が聞こえた。

振り返るとSARUが倒れこんでいた。

 

「さっきのぶつかり合い。痛めてたのは天馬だけじゃなかったのか。」

「みたいだな。」

 

剣城が隣にやってきた。

天馬はなんとか立てているがSARUはまだ立ち上がれないでいる。

 

「くっ・・・はっ!」

 

そんなSARUを取り囲むようにしてザ・ラグーンのメンバーが集まる。

誰も何も言わない。俺たちも黙って見つめるしかない。

 

「何だ・・この僕が立てないなんて!くそっ・・・そんなはずは無いんだ!」

 

輪の中心にいるSARUはまるで怯えた小動物のように弱弱しく見える。

 

「SARUがあの様子じゃこの試合はもう・・・」

「剣城。いや・・・」

 

キャプテンのSARUが倒れた以上これ以上試合を続けることは出来ない。

そう言いたげな感じだ。

たしかにまだ時間は残ってると言ってもチームの中心のSARUが立てないようじゃ試合の行く末は目に見えてる。けれどそれは立てなかった場合の話だ。

俺は確信してる。さっきメイアに出した俺なりの答え。

彼女なら、いや彼女たちなら。

 

 

 

私の目の前に一人の男の子が倒れこんでる。

私たちフェーダの皇帝、SARU。いつも自信満々で私たちの前を歩いてるSARUが今目の前に倒れている。

 

「何だ・・この僕が立てないなんて!くそっ・・・そんなはずは無いんだ!」

 

懸命に立ち上がろうとしても右足を痛めたのか立ち上がれない。

力を解放して戦ってきた反動で体力の限界も来ている。

 

「僕がこうなってしまった以上、チームはバラバラになる。・・・もう終わりだ!」

 

私たちを恐ろしいものを見るような目で見上げてくるSARU。

私はこの目を知っている。嫌というほど見てきた。

私たちセカンドステージ・チルドレンを見る人間たちの目。

SARUは私たちを繋ぐものは力だと思い込んでいる。

その力を使い果たした今、私たちすら敵に見えてる。

けれど違う。私たちを繋ぐものは力だけじゃない。

本当はSARU自身が作ってくれたもの。

仲間を孤独から救えるのは仲間だけ。翼に教えられた。

なら今、SARUを心の牢獄から救えるのはクロノストームでも大人達でもない。

私たちだけ。ギリスやみんなの目を見る。

やっぱりみんな分かってる。ならやることはもう決まっている。

 

「立ってSARU。」

「・・・!」

「SARU、まだ終わってない。」

私とギリスの声にようやくSARUが顔を上げてくれた。

 

「そうよ。頑張ってよSARU。」

 

「・・・僕にはもうお前たちに誇れる力は残っていない。」

 

「試合時間はまだ残ってる。最後まで一緒にやろう。」

 

「っ!?なぜ・・・」

 

「何故って当然だろ。」「ここまで一緒にやってきたじゃないか。」

「さぁ、いつもみたいに指示してよ。」

オムやニケ、ザ・ラグーンのみんなもSARUに声をかける。

みんな最初からSARUの事を信じていた。アーサー王の世界で翼はみんな松風天馬のことを信じ切ってるのに松風天馬だけが気づいていないと言ってた。今の私たちも同じ。分かってないのはSARUだけ。

 

「聞いてSARU。私たちがSARUに着いて来たのはSARUに特別な力があったからじゃないわ。SARUっていう1人の人間に私たちはここまで着いてきたの。」

 

世界から迫害されて孤独に震えていた私たちをSARUが救ってくれた。

皇帝として振舞って、私やギリスにも決して心の弱いところは見せずにやってきた。

 

「ずっとフェーダの皇帝として私たちの先頭を走ってきてくれてありがとう。けどもう一人で背負いこまないで。私たちも一緒に、SARUの隣に立って戦うわ。だからもう少しだけ頑張って。」

 

SARUに手を差し伸べる。私たちの心は決まってる。

あとはSARUがこの手をとるだけ。

 

「試合はまだ同点だ。けどそのまま倒れてちゃ負けてしまうぞ。SARU、負けるの嫌いだろ?」

「そうよ。じゃんけんに負けただけでムキになって勝つまでやるじゃない!」

「なんとしてでも勝つ!」

 

みんな同じ思い。世界に私たちを認めさせる。そんなこと今はもうどうでもいい。

ただこの試合に勝ちたい。最高のライバルが相手のこの試合、負けるなんて許せない。

 

「・・・・・負けるものか。僕を誰だと思ってる!!」

 

SARUの目に力が戻った。

伸ばした私の手を取ってくれた。普段からは考えられないくらい弱い力だけれど強い気持ちは伝わってくる。

 

「大丈夫?」「立てるか?」

 

「僕も最後まで戦う!・・・お前たちと一緒にな!」

 

もう限界のはずの体と痛めた足を気持ちで奮い立たせてSARUは立ち上がってくれた。

 

「ようやく分かったよ。フェーダが繋がっていたのは力を持ったもの同士だからじゃなかったんだな。」

「気づくのが遅いわよ、SARU。」

 

私たちは同じ志を持った同士で、孤独な心を寄せ合う仲間で、一緒に歩んでいく友達だったのね。

 

「さあ行くぞ!」

「「「おう!!!」」」

 

 

「天馬、剣城。こっからが本当の勝負だぞ!」

「うん!」「ああ!」

 

今ようやくザ・ラグーンは本当の意味でチームになったんだ。

ここからが本当のサッカーなんだ。

 

「よ~し!思いっきりサッカーしよう!」

「「「おう!!!」」」

 

 

この試合最後のキックオフのホイッスルが鳴り響く

試合時間はもう残りわずか。

フィールドにいる22人も全員限界ギリギリだ。

 

「この試合、勝つのは僕たちだ!」

「負けないぞ!」

 

 

お互いにミキシマックスもセカンドステージ・チルドレンの力も使い果たした。

 

 

「ニケ!」

「剣城、右サイドをカバーだ!」

「はい!」

 

 

「ストームゾーン!!」

「く、やるな!」

 

「イムス、お願い!」

「させないやんね!」

 

「フェイ!」

「いただき!」

「流石だね、ギリス!」

 

世界の命運も今はどうだっていい。

最高の仲間と一緒に最高の相手と戦う最高の試合。

目の前のこの試合にただ勝ちたい。

 

「通さんぜよ!」

「いくよメイア!」

「ええ、ギリス!」

 

「ブリタニアクロス!」

 

 

ただ目の前のボールを追いかける。

ゴールを目指して進む。

絶対にゴールは割らせない。

 

「SARU!」

「最後の勝負よ、翼!」

「決めるよ!二人とも!」

 

 

「「「行け!SARU、メイア、ギリス!!」」」

SARUがボールを蹴り上げたのに反応してメイアとギリスが跳ぶ。

あの技、まさか。

一度だけ見たことがある必殺技だ。

 

「これが僕たちの進化の証、フェーダの絆の力だ!!」

 

メイアとギリスがボールを蹴り下したところにSARUが走りこんでいる。

 

 

「「「エボリューション!!!」」」

 

 

「翼!」「頼む!」

 

メイアたちも限界のはずなのにこんな最高のシュートを打てるなんて。

やっぱり凄いな。けど負けない。

残った最後の力、全部使いきるんだ。

 

「うおおおお!アスタリスクロックGX!!!」

 

天馬がそよかぜステップを完成させたみたいに俺だって初めて身に着けた必殺技で止めて見せる!

 

「ぐぐぐぐ・・・だあああっ!!」

 

「そんな!?」「弾いた!?」

 

6枚の石が砕け散るのと同時に3人のシュートを弾き返した。

やれることはもう全部やった。

けど十分だ。弾いたボールの先にはあの3人が走りこんでる。

 

「決めてくれ!天馬、剣城、神童先輩!」

 

 

「「「エボリューションGX!!!」」」

 

 

「決まった~~~!!クロノストーム遂に逆転!!そしてここで試合終了~~~!!ラグナロク最終戦、勝ったのはクロノストームだ!!」

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