今回はほぼオリジナル展開になります。
またこの作品ではパッチワークフィールドの構造としてフランが消し去った世界がランダムに組み合わさってるイメージになっています。
湖畔から少し離れた林に帰ってきた。
ここなら誰かに見られることも無い。
「・・・まだ誰も気付いていないようね。」
予定していたより長くフラウ・ア・ノートリアスにいてしまった。
アスタとサンと明日のことについて確認するため。それとあの二人、赤峰翼とメイアの心を揺さぶるだけのつもりだったのに。
「どうしてあの二人に私たちのことを・・・」
今は消すことはできないけれど明日には消えてもらう人たちに何故私たちの過去を話してしまったのか自分でも分からない。どうせすぐに消えるから話しても問題ないと思った?
私が戻った時、アスタとサンと彼ら二人の間に流れる空気が少し違っていた気がした。
あの二人が絆されているとは勿論思わない。けれど消す相手に向けるには少し柔らかい顔をしていた。
特別強い絆で結ばれている二人。メイア、彼女は私たちと似た存在だと言っていた。それに赤峰翼。彼も他の人とは何かが違う存在。
セブンスの能力で危機感知能力が高い私でも彼ら二人からは敵意というものを感じられなかった。
私の正体に気付いていない他の人たちならまだ理解出来る。なのにあの二人は私の正体を知り、囚われて、仲間が消されるのを見たうえで私に敵意を向けていない。それどころか私たちのことを理解出来ると言っていた。分からない。どうして彼らにとっての敵である私にあんな目を向けられるの?
「・・・・・・怪しまれる前に戻らないと。」
いくら考えても答えは出ない。明日には全てが終わる。答えの出ない疑問に意識を割いて計画に支障が出る前に戻らないと。
林を抜けると声が聞こえてくるけれど昨日に比べるとやはり静か。
昨日はいくつかのグループに分かれていたけれど今は疎らに分かれている。
私がいなくなっていたことにも気付いていない。
(後は全員が寝静まった後にこれを)
ポケットに忍ばせた青島カズヤと川村アミのCCM。
これをサッカープレイヤーのテントに置いておけば動揺している彼らは疑心暗鬼に陥って争いだす。
そうすれば心の力も連鎖的に弱まり私の力に抗えなくなる。
だから今は怪しまれないように大人しくしていなくては。
「あ、いた!探したんだよフラン!」
「っ!?」
息を潜め、キャンプ地に合流した瞬間背後から声をかけられ思わず息を呑む。
声のする方を向くとそこには一人の少年。
赤峰翼とメイアが特に信頼している、彼らの中でも特に強い心の力を持つ一人である松風天馬だった。
「どこに行ってたの?」
彼は私を探していたと言った。つまり私がいなかったことに気付いていた。
何故私を探していた?まさか私の正体に気付いている?
とりあえず今は誤魔化さなくては。
「少し湖の周りを散歩していたの。あんなことがあって落ち着かなくて・・・」
「・・・そっか。けどあんまり一人でいると危ないよ?」
「ごめんなさい。それより探してたって言うのは?」
どうやら誤魔化せたらしい。これ以上の追及を避けるために話題を逸らす。
「そうだった。ねぇフラン!ちょっと時間いい?」
「え、ええ。」
「本当?!それじゃ俺に着いてきて!」
「あ、ちょっと!?」
目的を思い出したらしい松風天馬は私の手を引いてこの場から離れ始めた。
さっき一人でいると危ないって自分で言ったばかりなのに。
まぁその危険の要因は私なのだけれど。
「あの、どこに向かってるの?」
私は今、松風天馬に連れられて湖畔から少し離れた畦道を歩いている。
たしかこっちは今日の昼間に彼が散策することになっていた方角。
私がいた方よりも少し緑が多い気がする。
私が遅れないようにペースを合わせながらも軽やかに進んでいく。流石にサッカープレイヤーだけあって大空ヒロとは大違いの体力だ。
「フランに見てもらいたいものがあるんだ!もうすぐ着くよ!」
さっきまでの畦道から外れ林のを進んでいく。
こんな人目につかない場所で二人きり。今なら力を使っても気付かれる心配はない。
「着いたよ!!」
彼の心が弱まっていれば今すぐにでも消すことが出来たのにと歯がみしていたところで林を抜け目的地に着いたらしい。
木々に月明かりが遮られている上に前を行く松風天馬の背中で見えていなかった目の前の景色が林を抜けたことで開かれる。
「これって・・・!」
林を抜け目の前に広がっていた光景に思わず声が漏れた。
そこに広がっていたのは幼いころに触れた絵本や映画でしか見たことない、何度も憧れ、思いを馳せ、夢にみた光景。
辺り一面の花畑だった。
「綺麗・・・・!」
あの山道に咲いていた数輪の花。その何倍もの数と種類の花たちが一面に広がりっている。赤、青、黄、白、紫、オレンジ、中には黒い花もある。色とりどりの花たちが月明かりに照らされて本当に絵本の世界のような幻想的な光景。
漂う香りもいくつもの花の香りが混ざり合い芳醇な香りとなって私の鼻をくすぐる。
心地の良い夜風が花たちを揺らす音に聴き入る。
視覚、嗅覚、聴覚。飛び込んでくる情報全てに魅了される。
「でしょ!」
隣から松風天馬の明るい声がする。
声色そのままに彼はキラキラと輝く目で私を見ていた。
「今日の昼間にこの辺りを探索してた時に偶然見つけたんだ!」
「どうして私をここに?」
「昨日、お父さんからもらった花が宝物だって言ってたでしょ?それでフランは花が好きなんだなって思って。それにヒロ君から聞いたんだ。フランの世界には花が無いって。・・・フランはさ、一人でこの世界に飛ばされてきたでしょ?なのに昼間あんなことがあって、きっと不安で心細いだろうから。少しは気持ちを紛らわせられるかなって。」
松風天馬と赤峰翼は固い絆で結ばれているのは彼らの話を聞いていれば分かる。
その赤峰翼が消えて普通なら自分のことで精一杯になってもおかしくない。なのに彼は見知らぬ相手である私のことをずっと気にかけている。今も松風天馬は私を真っすぐと、それでいて柔らかな眼差しで見据えてくる。昨日少しサッカーをしたときもそうだ。そんな彼から何故か目を逸らすことが出来ない。
ただ消すべき存在というだけのはずなのに。
彼が特別な心の力を持っているから?赤峰翼とメイアが彼を信頼していたから?
分からない。けれど赤峰翼ともメイアとも違う。同じく鍵になるだろう大空ヒロとも違う。
私にとって松風天馬という男の子がどういう存在かを表す言葉が分からない。
「こっち来てフラン!」
「あっ・・うん。」
困惑する私の手をまた引き花畑に足を踏み入れる松風天馬。
花を踏みつぶさないように気をつけながら花畑の中心までやってきたところで座り込んだ。
「ほらフランも!」
言われるまま彼の隣に座り込む。
花たちとの距離が縮まり一層全身で花たちを感じてフラウ・ア・ノートリアスにいる時のように心が安らいでいく。
そんな私を見て松風天馬が微笑んでいることに気付くと彼はまた話し始めた。
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「やっと笑った。」
「え?」
花畑の中心で花たちに囲まれて本人は気付いていないみたいだったけど、ようやくフランは少しだけ笑ってくれた。
「今日のフラン、なんだか昨日よりも余裕がないというか辛そうだったから。」
フランは今日ずっとどこか気が張りつめているように見えた。夕方帰って来てからは特に。
昨日初めて会った時から見せていた淋しそうな表情とも違う、思い詰めたように見えていた。
フランはあまり表情豊かじゃないから人によっては気付かないかもしれないし、昨日一緒にサッカーをしたりLBXに触れた時に見せてくれたものよりも小さいかもしれないけど確かに柔らかく笑ってくれた。
昼間に偶然この花畑を見つけた時すぐにフランのことが思い浮かんだ。
フランは花が好きなんだろうなと思っていたのもあるし、フラン自身が花みたいに綺麗で、けど吹けば飛んでしまいそうな危うさと儚さを感じる不思議な女の子だからかもしれない。
とにかくこの光景をフランに見てもらいたいと思った。
「フランには笑っていてほしいって思ったんだ。・・・余計なお世話だったかな?」
「・・・そんなことない。とても、とても嬉しいわ。」
俺の独りよがりなんじゃないかと不安だったけどフランは花を愛でながら優しく答えてくれた。
「私の世界には花が無いの。私にとっての花は大好きだけれど図鑑で眺めたり、絵を描くだけで触れられるものじゃなかった。お父さんが誕生日にくれた花もとても貴重で枯れてしまわないようにカプセルから出すことは出来なかったわ。」
「フラン・・・」
「だからこんな一面の花畑で花に囲まれることを何度も夢見てた。連れて来てくれてありがとう。」
「っ!?よ、良かった!フランに喜んでもらえて俺も嬉しいよ!」
初めて自分のことを話してくれたことは勿論嬉しかった。
けどそれ以上に花たちを愛おしそうに抱えて向けられたフランの笑顔は月に照らされたどの花たちよりも綺麗だった。ここに来てからもう何度も見惚れてしまってその度に胸の高鳴りが大きくなってる気がした。
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「なぁメイア。」
「どうしたの翼?」
「あれ、天然でやってるんだよな?」
「でしょうね。」
親友の意外なような意外じゃないような一面を見た。
天然たらしめ。
サンとアスタも歯ぎしりしているような気がした。
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どうして私は松風天馬にこんなことを話している?
彼は戦いを楽しみ溺れている消すべき対象たちの中心的存在だというのに。
私自身の意志を無視するように私の体は彼に感謝の言葉を伝えていた。
こうして計画を遂行することを考えている私とは別にこの光景と彼の言葉に浮かされた私という二人に私がいるみたいに心と体が別々に動いているみたい。
フラウ・ア・ノートリアスであの二人に私たちの過去の話をしたときもそう。私の正体を知ってなお恐れることなく私を理解しようとするあの二人。ひたすらに真っすぐ私に向き合おうとしてくる松風天馬。昨日彼らに出会ってから何かがおかしい。私は一体どうしたというの?この人たちは一体何者なの?
「聞きたいことがあるの。」
「どうしたの?」
「どうしてそんなに前向きでいられるの?これからどうなるかも分からないのに不安じゃないの?」
松風天馬は最も近しい仲間であるはずの赤峰翼が真っ先に消えた。
一番心を乱して絶望してもおかしくない存在。
なのにどうしてこんなにも前を向いていられるのか分からない。
「不安がないわけじゃないよ。けれど下を向いたってなにも始まらない。きっとみんな不安だと思う。だからキャプテンの俺がみんなの隣で勇気づけられるように前を向いていないといけないって思うんだ。」
松風天馬はただの能天気なだけの人間ではないらしい。
キャプテンだからというのはやはりよく分からない。けれど彼の言っていることは少しだけ理解出来た気がする。なぜなら彼の姿は研究施設にいたころ、アスタとサンを元気づけようとしていた私にどこか似ていたから。戦いを楽しむ彼らの考えは理解できないけれど彼のこの思いだけは理解できた。
「けれど仲間が消えてしまったかもしれないのに・・・」
「翼とメイアのこと?あの二人なら絶対大丈夫だよ!」
松風天馬から帰ってきた答えには彼ら二人への揺るぎない信頼が込められていた。
「どうしてそう言い切れるの?」
「上手く言えないけれど感じるんだ。心が繋がってるって。翼は俺にとって信頼できる仲間で、ライバルで、最高の親友なんだ。例え離れていても俺たちは同じ空の下でこの星たちを追いかけているって。」
松風天馬が夜空を見上げながら言う。ここにはいない相手が確かにその先いるかのように手を伸ばしている。
「それにきっと今は翼一人じゃなくてメイアも一緒だろうから。あの二人なら絶対大丈夫だって信じられるんだ。」
「あの二人はどういう関係なの?」
赤峰翼とメイア。固い絆で繋がっていて特別な心の力が生まれていた。松風天馬も彼らを心底信頼しているらしい。どうしてこんなにも信頼できるのだろうか。
「う~ん何ていえば良いんだろう。恋人同士ではあるんだけどそれだけじゃないっていうか、誰も入り込めない特別な何かがあるって感じかな。」
彼らを言い表す言葉を松風天馬は持ち合わせていないらしい。
「メイアは俺と翼の時代の200年後での人間なんだ。俺や翼がサッカーを取り戻すための旅の中でメイアと出会って仲良くなって今は一緒に暮らしてる。」
「違う時代の人間同士がどうして一緒に暮らしているの?」
「俺たちがサッカーを取り戻す旅の途中で二人は出会ったんだ。その旅を通じてお互いに惹かれ合ってたみたい。」
違う時代の者同士が惹かれ合う。確かにそれは特別な関係だろう。
けれど彼らの繋がりはそれだけでは説明がつきそうもない。
「だけど色々あって二人はどうしても戦わないといけなくなったんだ。世界の命運とお互いの未来を賭けて戦って、その戦いがあったから今の二人がある。俺も翼と一緒にメイアのチームと戦ったけどあの二人はお互いに全力で心と体をぶつけ合って、分かり合って、同じ道を歩いてる。俺もずっと翼と一緒に過ごしてきて、ちょっと嫉妬しちゃうこともあるけど。そんな二人が一緒にいるなら絶対に大丈夫、きっと今もどこかで何とかしようとしてるって信じられるんだ。」
松風天馬の語った内容はメイアの言葉を裏付けるに十分なものだった。
戦いがあったから今の赤峰翼とメイアがあると彼女は言った。
戦いによって生まれる繋がりもあると。
今度は何も言い出せなかった。
「そろそろ戻ろうか。あまり遅くなるとみんなが気付いて心配するかもしれないから。」
「・・・そうね。」
少しの沈黙が流れた後、松風天馬が切り出した。
ここに来てからどれくらい時間がたっただろう。
花たちに囲まれ、松風天馬と言葉を交わした。
ここに来る前とは私の中の何かが違っている。そんな奇妙な感覚から目を逸らし私たちはもといた場所へ戻った。
「・・・・・・・・・」
テント内の全員が寝静まったのを確認し身を起こす。
気配を殺しテントから出る。
ポケットの中に忍ばせたCCMの存在を確認しサッカープレイヤーたちのテントに忍び寄る。
(これをここに隠しておけば明日彼らは仲間割れする・・・)
私たちが直接手を下す必要はない。心に撒かれた疑心暗鬼の種は少しの刺激を与えてあげれば芽を生やす。そうすれば後は猜疑心を養分に成長し、いがみ合い心の力は弱まり私の力に抗えなくなる。
『フランには笑っていてほしいって思ったんだ。』
『フラン。あなたはとても優しいのね。』
(・・・・・・っ!?)
CCMを置いてテントに戻るだけでいい。なのに松風天馬の真っすぐな眼差しとメイアの言葉が脳裏をよぎる。
胸に鋭い痛みが走る。この痛みは一体何?
(・・・・これも世界を救うため。)
私は信じない。戦いは何も生まない。繋がりも何もかも失われてしまう。
胸を刺す痛みに強引に蓋をしてCCMを置いてテントに戻った私はある視線に気付けなかった。
「・・・あれはフラン?」
いかがだったでしょうか?
天然超絶人たらしの松風天馬が大暴れしました。
キラードロイド戦の時に偶然花を見つけたようにフランもパッチワークフィールドの全てを把握しているわけではないと思ったので戦いのときが近づく中でほんのひと時の癒しが二人にあればいいなと思ったためこうなりました。
翼とメイアがフランに与える影響やフランと天馬の心情や葛藤を描ければいいなと思っています。
それではまた次回。
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