ヘリオローザが沈黙し残されたのはフランただ一人となった。
そのフランの心は大きく乱れていた。
ヘリオローザを通じて流れ込んできたヒロたちの思い。
死闘の中にあってなお彼らの心からは闘争心や憎しみの炎が全く感じられなかった。
戦いは憎しみを生み人の心を蝕むもの。だからこそフランは世界から戦いを消し去ると決意した。
この数日間で何度も感じた困惑。ヒロたちだけではない。フラウ・ア・ノートリアスでの翼とメイアも。そして正体を明かした時の天馬もそうだった。戦いに溺れる天馬たちの心には憎しみの炎が渦巻いているはずなのに彼らは敵であるフランに対して今に至るまで対立はすれど憎しみをぶつけてこなかった。
『本当の戦いは憎しみ合うことじゃない。悔しくて泣いたり、嬉しくて笑ったり!そんな気持ちを感じさせてくれる!俺たちは真剣な心と心をぶつけ合ってるんだ!!!』
天馬が示してみせた戦いの形。アスタとサンが絆され自分から離れていったあの感覚。
『フラン!あなたも気付いてるはずよ!このままじゃあなたも世界を滅ぼした愚かな人間たちと同じになってしまうって!』
フランの力に抵抗する強い心の力を砕くために天馬たちを打ち負かし絶望させる。
戦いに溺れる者たちへの抑えきれない怒り、戦いそのものへの憎しみ。
戦いを消すための方法としてフラン自身が戦いを利用しているという矛盾に気付かないほどフランは愚かではなかった。
「そんなこと・・・認めない・・・認められるはずがない!」
されど信頼していた仲間たちが自分から離れ、戦いの形を否定され、自分が抱える矛盾を直視して耐えられるほどフランの心は強くは無かった。
「あなたたちは敗北して・・・絶望するの!!」
フランが自身の心を守るためにとった方法はこの場にいる全員が望まないものだった。
フランが過酷な実験の日々を送る中で決して捨てずに最後まで守り続けていた人間性さえも捨て、戦いを消すために全てを消す破壊兵器と化すこと。
それは皮肉にも研究者や為政者が望んでいたものだった。
「はああああっっ!」
上空に舞い上がったフランがオーラをボールに込める。
それだけではない。上空に浮かんでいたLBXのバトルフィールドとなっていた巨大な岩盤も取り込んだサッカーボールはまさに混沌の力で生まれた巨大な隕石といえるものだった。
「全て・・・・・・」
「消えろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
心さえも手放し最後に残ったたった一つの目的を果たすためだけに史上最強のシュート、カオスメテオが放たれた。
フランの放ったカオスメテオはゴールに向けて放たれたと言うにはあまりにも規模が違いすぎた。
戦いに溺れるこの世界全てを破壊するためのシュート。
「あやつ何もかも消すつもりじゃ!」
「これでは時空の混乱どころか、この世界そのものが消えてしまう・・・」
「もう打つ手はないのか・・・」
アルノ博士や山野博士たちはこのシュートが招く結末を理解していた。
理解してなお彼らには何もできない。
世界の命運はグラウンドで戦う者たちに託された。
「来るぞ!」
「負けるものか!」
「僕がキーパーなんだ・・・僕が止めなきゃ・・・・」
シュートを止めるのはキーパーの仕事だとボロボロの体で立ち上がろうとする信助が、いや全員が見たのはキャプテンマークをつけた背番号8の姿だった。
「フラン!!俺たちは、君の心を受け止める!!!!」
「天馬!」「天馬さん!」「天馬くん!」
フランのカオスメテオを前にして天馬は一歩も引かず迫りくるシュートを、それに込められたフランの全てを受け止めるために。
「ゴッドハンド・・・W!!!!!」
両手から生み出された二つのゴッドハンドがフランのカオスメテオを正面から受け止める。
二つの技がぶつかり合った瞬間に天馬は感じた。フランのどこまでも深い戦いへの憎しみと悲しみを。
(フラン・・・君の悲しみはこんなにも・・・)
天馬の全身全霊のゴッドハンドWすら意に介さず押し込んでいく。
「まだ、まだ!」
それでも天馬は諦めない。フランの心を全て受け止めると決めたから。
必死に踏ん張り一歩、また一歩フランの元へ足を踏み出す。
短い時間だったかも知れない。それでもフランと過ごした数日の記憶が、目に焼きついたフランの笑顔が天馬を奮い立たせる。
「くっ・・・はああああっっ!!」
「ぐっ・・・!?
天馬がフランの悲しみを感じたようにフランも天馬のどこまでも真っすぐな気持ちを感じていた。
感情を捨て破壊兵器と化したはずのフランの胸に走る痛み。
その痛みを振り払い尚もパワーをあげたフランに天馬がまたしても押し返される。
これほどの力に何とか踏みとどまれているのは天馬の強い想いがあってこそだが、フランの力に対抗するには天馬の力だけでは不可能だった。
「くっ・・・っそ・・・え?」
満身創痍の体で全ての力をふり絞り続ける天馬が力尽きかけたその時、天馬の支える者たちがいた。
「翼!それにアスタ!」
「天馬!お前は一人じゃない。俺たちも一緒に受け止める!」
「フランを、フランを救うんだ!」
翼とアスタが天馬の背に手を添え支える。
二人だけではない。
「信助!剣城、SARU!みんなも!」
いつも隣にいて一緒に走り続ける天馬を全員が支える。
絶大な力を持つフランを前にしても揺るがない天馬の強い心が一人一人の力を大きな力に変える。
「アスタ!どうしてなの・・・戦いは私たちから全てを奪ったじゃない!なのに何故そいつらの味方をする!?」
悲痛な叫びだった。
自分の前に立ち戦いに溺れる天馬たちに力を貸すアスタの姿がフランの悲しみを大きくする。
悲しみに比例するようにカオスメテオも力を増す。
「フラン!君が一番知っているだろ!憎しみの先にあるものを!!」
「くっ・・・・・!?」
憎しみの果てにあるものを知っているからこそフランは世界を変えることを決意した。
しかしそれはフラン自身を憎しみという心の牢獄に閉じ込めてしまっていた。
心の牢獄からフランを救い出すためにアスタは持てる力の全てをふり絞る。
「これは・・・!?」
ゴッドハンドWがまばゆい光を放つ。光に目を向けるとそこにはゴッドハンドに乗ったバンやヒロたちのLBXたちがいた。
「みんな止めるぞ!」
「はい!」
7機のLBXたちもエネルギーの全てをつぎ込む。
そしてそこにもう一機LBXが現れた。
「サン!?あなたまで・・・!?」
「姉さんにこれ以上失って欲しくないんだ!!」
本当の姉のように慕ってくれていたサンまでもが天馬たちの味方をすることにフランを大きく揺さぶる。
サンも最も大切な存在であるフランがこれ以上傷つき失うことを止めるために立ち上がった。
「ゴッドハンドとLBXの光が・・・一つに・・・!」
二つの力が溶け合い一つになる。
サッカープレイヤー。LBXプレイヤー。セカンドステージ・チルドレン。セブンス。
全ての存在が心を一つにし合わせたその力は美しい輝きを放っていた。
「これが!気持ちをぶつけ合う、勇気によって生まれた絆の力!!」
ただ出会っただけでは生まれなかった。
同じ時間を過ごし語り合い、対立し、全力でぶつかり真剣な心と心をぶつけ合ったからこそ生まれた力。
「くっ・・・うあああああっ!!!」
「「「俺たちは諦めない!!全部受け止めるんだ!!!」」」
そしてその力は一人の少女の心を受け止める。
光輝くゴッドハンドがカオスメテオもろともフランを優しく、どこまでも優しく包みこんだ。
『凄いよフラン!サッカーもきっと喜んでる!」
『フランさんは花が好きなんですね。』
天馬たちと過ごした記憶がフランの脳裏を駆け巡る。
『フランには笑っていてほしいって思ったんだ。』
「これも・・・戦い・・・」
ずっと忘れられなかった一面の花畑。自分に向けられる天馬の曇りのない目。
この戦いで誰よりも自分に熱い心をぶつけてきた少年に抱きしめられたフランは全てを受け入れた。
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全ての憎しみを受け止められ、戦いを受け入れたフランは妖艶な黒い魔女のような姿から元の可憐な花のような少女の姿に戻っていた。天馬は抱きしめていたフランをそっと下し解放した。
そんなフランの元にアスタとサンが歩み寄る。
「これがこの戦いで生まれた絆なのね。」
「そうだよ、フラン。」
「憎しみ合うだけの争いからは本当の勇気は生まれない。」
「勇気を出してぶつかり合えば見えて来るものも変わる。」
「本気でぶつかりあってこそ本当の意味で理解しあえることもあるわ。」
「同じ人間同士、必ず分かりあえるのさ。」
天馬が、剣城が、神童が、メイアが、SARUが。この場にいる全員がフランに優しく語りかける。
「勇気・・・」
「勇気や絆!それがあれば未来だって変えられます!」
未来を変えるのに必要なもの。それはたった一人の絶大な力じゃない。
ひとりひとりの小さな勇気、人と人との絆なんだ。
「未来を・・・変えられる・・・ごめんなさい。私に気付かせてくれたのね。」
「ああ。・・・でも、でも違うんだよ。」
「そう、違う。僕たちが気付かせたんじゃない。姉さんの意志さ。」
けれどこの戦いの終わり。それは大きな別れを意味する。
アスタに肩を貸した時に感じた違和感。
人であれば必ずあるはずの温かさ、鼓動。それがアスタからは感じられなかった。
「あなたたちは・・・」
「これで俺たちはもう」「必要はなさそうだね。」
アスタとサンの体がまるで蜃気楼のように透けていく。
「待って、どういうこと・・・?」
「俺たちはフランが呼び寄せた幻。君が君のままでいるための。」
そう。きっとアスタとサンはあの施設の崩落の時にはもう帰らぬ人になってしまっていた。
「そう、だった。私・・・忘れてた。ううん、忘れたくなかったんだ。自分がひとりぼっちになったことを。絶対に認められなかった。」
ひとりで施設を出たフランは滅びた世界で一人ぼっちになってしまったことを悟った。
そんなの耐えられるわけがない。フランはフラン自身の心を守るためにアスタとサンという仲間の幻を生み出した。フランの力はその幻に実体を与えた。
そうしてアスタとサンはフランのために動いてきた。
さっきの戦いでもフラン自身が心のどこかで憎しみの果てにあるものに気付いていたからこそ俺たちと共に戦った。誰でもない。フランのために。
「私、やっと受け止められる。自分が一人ぼっちだってこと。」
「僕たちは姉さんと別れてから、ずっとこの日を待っていたのかもね。」
「こんな気持ちのいい仲間に出会えたからこそ、元の優しいフランが戻ってきてくれたのかな。」
役目を終えた二人の体はもう殆ど消えかかっている。
まさしく幻のように最初から存在しなかったのか。
たしかにこの二人はフランが生み出した幻。
だけど戦った俺たちには分かる。アスタもサンもたしかにそこに存在し、彼らにも意志があったことを。
未来は変えられる。ならば
「アスタ!サン!俺たちは未来を変えて見せる。だから、また会おうな!」
フランたちが平和に暮らせる未来を作ることが俺たちの役目だ。
そして未来が変わればアスタとサンともまた再会できるはず。
だから別れではなく再会を約束しよう。
「ふっ。お前は最後まで不思議なやつだな。・・・ああ!また会おう!」
「姉さん、先に僕らの世界で待ってるよ!」
「アスタ、サン!」
二人は最後、本当に気持ちの良い笑顔を浮かべて消えていった。
「さてと・・・天馬。いってこい。」
「・・・うん。」
アスタとサンが消え、ただひとり残されたフラン。
このままではフランは本当の意味で一人ぼっちになってしまう。
だけど大丈夫だ。
「フラン。今の君はもう一人じゃないよ。」
あの日、フランと初めて出会った時のように天馬がフランに手を差し伸べる。
「私を、許してくれるの?」
「うん。フランは世界を救うためにたった一人で頑張ってきた。本当のフランはとても優しい人だってみんな分かってる。だからフランはもう一人じゃないよ。」
「・・・・ありがとう、天馬。」
フランは初めて本当の意味で天馬の手をとった。
「フランが笑っていられるような花が咲き誇る世界になるように、俺たちは未来を変えて見せるよ。」
たった一人の女の子のために未来を変える。
口にするのは簡単かもしれない。けどそのためにはこれからどれほどの困難が天馬に待ち受けるんだろうか。けど天馬は必ずやり遂げるんだろうな。
「なぁメイア。」
「うん。帰ったら議長たちを説得しましょう。」
ルートエージェントである俺たちが未来を変えることになるかもしれない。
けどより良い未来のためだ。なんとか説得しよう。
「空が・・・」
空が光に包まれる。たぶんフランが消したもの、組み替えた世界を開放したんだ。
空からは未来が希望にあふれたものになるようにと花びらが舞い散っていた。
「あなたたちに出会えて良かった。」
アスタたちと同様にフランも姿が消えかかっている。
未来に変える時が来たんだろう。
「フラン!・・・また、会えるかな?」
「私はあなた達が未来を変えられると信じてる。そしてあなたたちが変えてくれた未来を守って見せるわ。だから、また会いましょう!」
まだ伝えたいことがある。そんな天馬の手を掠めるようにフランは姿を消した。
アスタたちと同じく、再会の約束を残して。
そしてそれはバンさんたちとの別れも意味していた。
俺たちとバンさんたちの体も透けていく。世界が元の形に戻る時が来たんだ。
「お別れだね。」
「いつかまた会えると良いですね!」
「今度会う時はサッカーを一緒にやろうね!」
「LBXも!」
「サッカー!」「LBX!」
「「「やろうぜ!」」」
「フランたちとまた会うためにも頑張らなきゃな、天馬。」
「翼・・・うん!」
こうして二つの世界と未来を巻き込んだ不思議な出会いは幕を閉じた。
花も水も建物も、あたり一面何もない砂漠が広がる世界があった。砂塵が空を覆い世界を照らす太陽すらも煤けた荒廃した世界の片隅に一人の少女がいた。
両の目からあふれた涙も、愛を叫ぶ喉も、手の中にある宝物である花も、全てが枯れ果てた少女が立ち尽くしていた。
誰かを愛したかった、誰かに愛されたかった少女はこの世界にたった一人残された。
けれど少女の心にあるのは絶望では無かった。少女が抱くもの。それは「勇気」。
過去で出会った少年少女たちとの絆を胸に、広がる砂漠へ一歩を踏み出した。
「フラン!」「姉さん!」
勇気の一歩を踏み出したその時背後から声がかけられた。
少女が振り向くとそこには二人の少年が立っていた。
「お帰り、姉さん!」
「アスタ!サン!」
二度と叶わなかったはずの再会。それはまさしく奇跡。
だが奇跡はそれだけでは無かった。
少年たちの指さす方へ少女が振り向くと何もない色を失った砂漠は辺り一面色とりどりの花畑へと姿を変えた。花畑にでは少女と少年たちの家族が手を振っておりその先には近未来的な都市が広がっていた。
未来は変わったのだ。
全てを取り戻した少女は枯れ果てたと思った涙を流し、そしてどんな花よりも綺麗な笑顔を浮かべたのだった。
いかがだったでしょうか?
本編を初めて視聴したときはアスタとサンが衝撃の事実すぎて絶句したことを覚えています。
イナダンについて少し私見となります。
フランは個人的にイナイレ史上圧倒的最強キャラだと考えています。
世界を滅ぼしうる力や反物質爆弾からも生還するなどセカンドステージ・チルドレンやギャラクシーのテクノロジーとも隔絶していて正面からは絶対に倒すことのできない、いわば負けイベントの無敵キャラのようなものだと思っていまし倒すべき”敵”ではないと思っています。
だからこそ戦いというものを憎むフランを戦って倒すのではなく受け止めるという決着が美しいものだと思います。今作でもそこは意識していました。
これにてイナダン編は終了・・・・・・ではありません!もうちっとだけ続くんじゃというやつです。
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