オナホ華道   作:プリン

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オナホ華道 2

 オナホを作ろうとしたらあきつ丸ができた。

 

 

 

「オナホを作ろうとしたらあきつ丸ができた」これが真実である。

 

 彼女の求める出生の秘密を無駄なく簡潔に伝えるならこうなる。だが伝えてよいものなのか。誰しも出会いには――人生の転機には運命的なものを求めている。自伝を書く者は己の出生、師との出会い、生業、立ち向かった困難、伴侶との馴れ初め、そういったものはなるべく劇的に記すことだろう。自伝なんぞに興味はないとしても、己の出生というのは自分の生の始まり、この世界との出会いであり、奇跡であって欲しいものだ。奇跡というのはいかにも情緒的で空疎だが、だとしても人は望まれて生まれたいし、信仰がなくとも己の誕生は祝福されていて欲しいだろう。

 

 だが私はあきつ丸の出生にあたって――彼女ではなくオナホを求めていた。

 

 

 

 

 その晩も、私はいつも通り執務を終え眠りに就こうとしていた。起きたら演習・任務の指示、出撃部隊への采配、各艦の肉体的・精神的疲労の管理、建造・開発の監督……。すべきことは枚挙に暇がない。それが一日分の日程に収まるとはとても思えないだろう。並みの人間には。

 

 しかし、それをやるのが提督である我々の務めだ。我ながら体力絶倫この上ないと思う。相手にするのが艦娘たちでなければとっくに潰れていただろう。彼女らが自分を慕ってくれているということが心の支えなのは疑うべくもない。

 

 だが、自分の周りがうら若き乙女で満たされているのはいいことばかりでもない。時折中大破して、あられもない姿を晒しているのだから猶更だ。

 

 彼女らがこちらを好いているのだから、手を出したところで自由恋愛の範疇だし、思いを遂げることに後ろ暗いところは何もないのではないか。そう自問することもあったが、それを是とすることはどうしてもできなかった。

 

 彼女らは部下であり、同時に戦局を進める駒でもある。故に、信頼を得ることでより優れた能力を発揮させよう、という打算ありきで付き合っている部分は確かにある。自分は彼女らを欺いているのだという罪悪感から目を背けることは、私にはできなかった。

 

 とにかく鬱屈としていた。「男」という獣が、心の檻の中で暴れ、扉を揺すり飛び出そうとしている。その扉を、提督として課されている責任と、艦娘たちの思慕に応えるため己に貸した責任の両腕で押さえ込んだ。押さえれば暴れる心は傷つき、力み続ける腕は困憊し、どちらも限界に近づいていた。獣を宥めることで、なんとか日々をやり過ごしていた。

 

 その日も私は、己を宥めるべく、ベルトに手を伸ばし、己の獣を解き放った――

 

 

 

 

「提督、報告です」

 

「なっ⁉」

 

 いきなり執務室のドアが開け放たれ、大淀が入ってきた。提督は己の恥部(比喩的にも、文字通りにも)を見られまいと、咄嗟に腰を下ろす。が、提督の尻は座面ではなく肘掛に向かっていった。肘掛に尻を着いてバランスを取れるわけもなく、椅子ごと豪快に床に倒れていく。急いで座ろうとした分、勢いよく床に叩きつけられた提督が、「ぎっ」とも「いっ」ともつかない悲鳴を上げる。

 

「あの、提督⁉大丈夫ですか⁉」

 

 仰向けに倒れた提督を気遣い、駆け寄ろうとする大淀。

 

「待て、来てはいかん‼」

 

 それを制する提督。当然である。二人の絶妙な位置関係のせいで奇跡的に執務机で隠れているものの、現在の提督の様相といったら、「ズボンを下ろした状態で仰向けに倒れ、股間にはテントを張っている」という、この上なく情けないものである。幸いにも、突然に起きたあまりの大災害で、股間キャンプは急速に撤収に向かっていたが。

 

「すごい音がしましたが……何をなさっているのですか」

 

「ある種の訓練だ」

 

 正確には訓練の準備だが。

 

 出任せとはいえ、訓練とは提督もうまく言ったものである。実戦に駆り出される懸念が無い時も行うこと、時には訓練それ自体が目的となってしまうことも似通っている。

 

「はぁ、訓練……」

 

 釈然としない大淀。これも当然である。提督自身が戦う理由などない。もっとも、軍人の体が鈍るのが好ましいはずもなく、訓練をしていること自体はおかしくないが。しかし椅子と机の間でする必要があるのか。

 

「いや何か隠していますよね、さすがに匂いますよ」

 

「匂う、だと……? まだ何もしていないが?」

 

 顔は大淀に向けつつも、机で隠れる位置を保ちつつ、ベルトとズボンを整える提督。

 

「訓練なさっていたのでは⁉いや、匂うってそういう意味じゃありませんよ、別に汗臭くもありません。隠し事をしているんじゃないかと……」

 

「そうだろう。洗濯には拘っているからな。いやそうじゃない。何も隠してなどいないが」

 

 そんなことを言われた大淀が、「隠していないなら何故ああも慌てていたのか」と疑問に思わないわけもなく。

 

「失礼致します」

 

 先の忠告を無視し、提督に歩み寄ってきた。

 

「待て! あと三秒!」

 

 もうベルトも締め直したが、急いで整えたからいろいろと心許ない。

 

「何を隠すつもりですか!」

 

 ナニならもう隠してある。

 

「いや、隠すとかじゃない! グ……腰をやったかもしれん」

 

 それらしい理由で誤魔化す提督。

 

「大丈夫ですか? 肩をお貸ししますから、まずはお立ち下さい」

 

「済まんな……」

 

 とりあえず、どこか痛めたという言葉に偽りは無かった。実際彼の尻の穴は、肘掛の先端が少し刺さったのか、猛烈に痛んだ。ありがたく大淀の肩を借りる提督。

 

 大淀の肩に手を回すと、覚悟していた以上に顔が近かった。鎮守府勤めはそこそこ長い提督だが、艦娘の髪の香りをここまで近く感じたのは初めてだった。想像していたような潮の香りはしない。洗髪料の香り。風呂はこの後行くつもりだったのだろうか、微かにするのは大淀の香りかだろうか――などと考える自分に気づき、己の獣を解き放てなかったことを思い知る提督。雑念を鎮めるべく、より効率の良い任務の回し方などを考えることにした。

 

 提督が、己を強く持ちつつ、なんとか立ち上がろうとすると、すぐさまよろけ、体は後ろに倒れ始めた。急いで直したせいか、ズボンの裾がかかとに引っかかっていた。

 

「提督!」

 

 倒れようとする提督を支えようと、大淀は提督の背中に回した腕に力を込め、踏ん張る。

 

「ぬっ⁉」

 

 それに応え、大淀の首に回した手に力を入れる提督。さらに強い密着に、提督の第二の心臓が拍動を始めた。

 

「あの、先ほど驚かせたせいでお怪我をさせてしまったなら、申し訳ありません……」

 

「いや、関係ない。いやあるか。とにかく大淀に非は無いから気にしないでくれ」

 

 ようやく立ち上がった提督は、大淀と向き合う形となった。

 

「でも、それは私のせいではありませんか?」

 

 大淀の言わんとすることを理解しかねる提督。大淀はややうつむき加減だ。視線は提督の顔よりずっと下を向いて……。

 

「なんてこった……」

 

 提督の社会の窓から、再開したキャンプの賑わいが見える。

 

「ああ、これはだな……」

 

 提督は困惑する。教えた覚えは無いし、知る機会も無いにも拘らず、大淀はなぜか男の生理現象を理解していた。もっとも、艦娘それぞれの知識量や精神年齢はばらばらだし、生まれついての記憶にもいろいろある。元々知っていたとすれば仕方あるまい。そう理屈をつけて納得しつつも、提督は大淀の多聞を呪った。

 

「提督、そういう意識をお持ちだったんですね。てっきり全くお持ちで無いのかと」

 

「無い訳はないがこれは違う!」

 

「それは違わない証拠でしょう」

 

 じりじりと提督に近づく大淀。

 

「落ち着け、気の迷いだ。特に意識しなくてもこうはなる」

 

 至極まっとうな反論をする提督。しかし。

 

「ならば持て余しておいでなのでは? 気の迷いで駆逐艦などに手を出すよりは……」

 

「だからって今は性急すぎるだろう」

 

「もうっ! こんな状況になっている今そうしないで、いつするのですか!」

 

 むしろ冷静になり始めた提督に、大淀が詰め寄る。

 

「提督も鎮守府の募集要項はお読みになったでしょう。あなただけの無敵連合艦隊を作るのは提督の任務です。私も、提督だけのものです。何も間違ったことではありません」

 

 腰にあるセーラー服の合わせを弄びながら、提督にじりじりと近づく大淀。

 

「本気なのか……?」

 

「はい。私は提督のこと、お慕いしていますよ。提督は、嫌ですか」

 

「嫌なわけは無いが……」

 

 提督はむしろ好いている。鎮守府の誰もを。しかし。

 

「俺達はどだい対等じゃない。大淀達を作ったのも俺なら使うのも俺だ。生殺与奪を握った相手に媚びられて喜んでいられる程、俺は単純じゃないぞ。それにここに居る男は俺だけだしな。大淀が俺に惹かれるのは、俺の人格が好ましいからじゃないんじゃないのか?」

 

 やや焦りを見せながらも、それらしい拒絶をする提督。だが、大淀の方からしたらそんな理屈で自分が抱いている感情を否定されて納得するわけもなく、意に介さず、ゆっくりと提督に近寄ってくる。もう、息がかかるくらい近くに、大淀の顔がある。

 

「私が何を求めているかなんて、提督の考えることではありません。それに、提督が本心からではなく、勢いに任せてだとしても、私は、構いません」

 

「悪いが、今必要な程困っちゃいない」

 

「でも、提督のそれは今苦しそうですよ」

 

「ほっとけば治る」

 

「だとしても、私は提督を放っておきたくありません……!」

 

「落ち着け、こういう話はしかるべき場を持ってしようじゃないか」

 

 大淀はゆっくりと顔を伏せ、数歩退き、深く息を吐いた。

 

「案外ロマンチストなんですね、提督」

 

 業務の時のはきはきした雰囲気が見る影もない大淀の姿を見て、提督は己の言葉が無遠慮に過ぎたかと悔いた。同時に、大淀の冷笑的な言葉が彼の胸に刺さる。意趣返しのつもりか、あるいは彼女の率直な感想なのか。いずれにせよ、艦娘達の運命のすべてを握ったつもりだった提督にとって、己の優位に対する確信を揺るがすには十分な言葉であった。

 

「では、何故提督は新しい艦娘を迎え続けるのですか」

 

「ッ……」

 

 大淀に責める意図は無かったかもしれないが、提督からすれば、己の振る舞いの姑息さを浮き彫りにする問いであった。だから、提督は大淀を見つめている他なかった。

 

 答えることも言い訳することもなく、立ち尽くすばかりの提督に耐えかね、大淀が口を開いた。

 

「報告します、提督。燃料がかなり余っています。私としては、日替わり任務以外の建造や開発で使ってしまうのがよいかと」

 

「……わかった。早速、工廠に向かう。秘書艦が必要だ、大淀も来てくれ」

 

 大淀をそっとしておくべきかと思った提督だったが、わざわざ他の者を呼ぶ気も起きなかったので、連れて行くことにした。

 

「承知しました」

 

 執務室を出ていく提督に合わせ、大淀が踵を返した。二人で数歩歩くと、大淀は急に立ち止まった。気付いた提督が歩みを止める。

 

「あ、提督、社会の窓は閉めてください」

 

 提督は、さもバツが悪そうにジッパーを上げると、廊下を歩き出した。

 

 

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