オナホ華道   作:プリン

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オナホ華道 7

『いやあ、随分とご馳走になってしまったでありますなぁ。また気を遣わせてしまったか、反省……』

 

 あきつ丸は扶桑らの部屋を後にしつつ、膨れたお腹をさすりながら考える。自室では一人反省会とばかりに独り言を言うあきつ丸だったが、流石に共用の空間ではしない。

 

 と、昨夜まるゆから聞いたことを思い出す。

 

『いやいや、扶桑殿から誘って頂いたのにそう気後れすることもあるまい。お招き頂いたならありがたく従ってもいい筈』

 

 そう考えると、少しばかり肩の荷が軽くなった。

 

『そういえば、自分が何者なのかの手掛かりは分からずじまいでありましたな。提督殿は人と話せば分かると仰っていたでありますが……』

 

 口元に手を当て、やや猫背になりつつ歩くあきつ丸。

 

『そうだ、長門殿! 鎮守府最古参の彼女であれば有力な情報をご存知かもしれない。もしかしたら、自分の着任に立ち会っているかもしれないのであります』

 

 思い立ったが早いか、あきつ丸は執務室へその歩みを向けた。

 

 

 

 

 執務室に着くと、あきつ丸は壁に黒板が取り付けてあるのを見つけた。縦軸に七曜、横軸は○○六○から二三○○までの時刻が書いてある。隣には張り紙がしてあり、

 

「提督の予定(着任の有無、面会の可否)はここで確認のこと。妙高」

 

 と、万年筆か何か、大変な達筆で書かれている。その下にさらに画鋲で紙が留めてあり「落書禁止 提督」と、赤の筆文字で大きく書かれている。

 

「なるほど……」

 

 黒板の縁から草花を生やされたり、そこかしこに「カレー」「おやすみ」「###と###(判読不能)」など好き放題書かれたりしているのをまじまじと見るあきつ丸。黒板の右隅には、チョークで描いたとは思えない、精密な提督の似顔絵が描かれていた。

 

「ひどいもんだろ、やめろと言ってるんだが……」

 

「や、提督殿」

 

 気付いたら、提督が執務室から出てきて、隣に立っていた。

 

「どうだ、新しい日程は平気か?」

 

「まだ半日ばかりでありますが、不思議と快調でありますな。そうだ、長門殿にお話をお伺いしたい。しばらくはご予定も無いようですし、執務室にお邪魔しても良いでありますか」

 

「そうだな、長門も予定は無い。許可しよう。ああ、俺は急用で遠征艦隊の様子を見てこなきゃならん。同席はできないが、いいか?」

 

「了解であります」

 

 返事をすると、あきつ丸は執務室に入っていった。

 

 

 

 

「長門殿、失礼するのであります」

 

 あきつ丸がドアを開けると、長門はこちらに背を向け、窓枠に肘をつき、鎮守府の練兵場を眺めていた。あきつ丸に気付き、ゆっくりと振り返る。

 

「おや、あきつ丸か。達者にしていたか? 先日来た時は随分思い詰めた様子だったが」

 

 その声は、凛々しくも頼もしげな、どこか優しさを感じさせる響き。

 

「まだわからないのであります。あの時は自分、何故戦うのか、自分が何者なのか、どうしても知りたかったのであります。そう伝えたら、提督にはもっと色々な艦娘の話を聞くようにと……」

 

「ほう……」

 

 長門はあきつ丸から目を離さず、真剣そうに耳を傾けた。

 

「それであきつ丸よ、その真意はまだわからないのか?」

 

「真意? 提督の、でありますか?」

 

 あきつ丸は暫し考え込んだ。単に見聞を広める? それとも歩き回ることで知ることになる真実が……? 

 

「皆目見当もつかないのであります……」

 

 長門が目を細めた。

 

「これは憶測だが、提督はあきつ丸に鎮守府に愛着を持って欲しいのではないか? 仲間を理解してこそ信頼して背中を預けることができる。ここに暮らす皆を知ってこそ、ここを守ろうという意気込みも湧く。きっとそういう腹積もりなのだろう。もっとも、この長門にもわからん、深慮遠謀ありきなのかもしれんがな」

 

「なるほど、であります」

 

 頷ける理屈ではある。確かに、今日のような交流があれば、扶桑を守りたいという想いも湧いてきた。冷静になってみれば、あきつ丸は五十鈴だって守りたいと思っていた筈だ。

 

「理屈にこだわっても、戦う意味は見えないということでありますか」

 

「おお、わかってくれたか」

 

「それはわかったであります。しかし、自分が着任した時の事もお伺いしたいのであります」

 

「それなんだがな」

 

 長門は重々しく口を開いた。

 

「実はあきつ丸が着任したとき、私は一時的に秘書艦を外れていたのだ。ええと、確かその時は大淀か……。まあ、誰が秘書艦だったにせよ、明石は立ち会っていただろうな」

 

「なるほど、であります、今度は大淀殿と明石殿を訪ねてみるであります」

 

「フッ、収穫があることを願っているぞ」

 

 長門が微笑んだ。

 

「……あ、そうだ、長門殿は『オナホ華道』、ご存知でありますか?」

 

 なんとなく尋ねるあきつ丸。

 

「オナホ……かどう? なんだそれは? 是非教えてくれ!」

 

 長門のあまりの食いつきの良さに面食らってしまった。

 

「なっ長門殿、顔が近いであります……」

 

「いや、な。以前この鎮守府の流行に乗り遅れ、少しばかり恥をかいたことがあってな。この長門、流行には敏感でありたい。あとな……私の出撃が資材を食うからと、普段は温存されているようでな。正直、退屈だ……」

 

 温存されていることについて語るとき、長門の顔には僅かばかりの寂しさが滲んでいた。

 

「では明日、扶桑殿の部屋までご一緒するのはいかがでありますか。あの……出撃が無いのなら」

 

「本当か? 是非行かせてもらおう」

 

「では、明日は扶桑殿の所に行く前にこちらにお伺いするのであります」

 

「ああ、待っているぞ」

 

 そして、あきつ丸は執務室を後にした。まるゆの言う通り、艦娘はそんなに怖いものじゃない気がしてきた。

 

 

 

 

 翌日、扶桑の部屋。

 

 そこには、扶桑、山城、あきつ丸、長門の他に、何故か時津風、浜風の姿もあった。

 

「あの……時津風、浜風、何しに来たんですか」

 

 山城は不機嫌そうだが、時津風らはどこ吹く風だ。

 

「だってあきつ丸が遊びに行くって言ってるし〜? 置いてくなんてずるいずる〜い」

 

「私も、艦隊で共有されている情報を抑え損ねるわけにはいきません」

 

 各人、思い思いに理由を述べる。時津風のは理由になっていない気がするが。

 

「まあ、いいじゃない。山城。他の子に親切にしてあげられれば、山城も分けてあげられるくらいには幸せだと実感できるわよ。きっと……」

 

「姉様……」

 

 山城は感銘を受けた様子で扶桑を見つめた。

 

「では、始めましょう。と、言いたいところだけど……オナホは人数分も無いわ……」

 

「ほう、じゃあなんだ、収穫にでも行くのか?」

 

 長門は訳知り顔で割り込んだ。

 

「何言ってるんですか? オナホが道端に生えてるとでも?」

 

 山城が呆気に取られた顔で突っ込む。

 

「そういうものじゃないのか。ディルドは収穫したからな。失礼した」

 

「あら、不思議なこともあるのね。でもオナホは海で獲れるものと、ここで作られているもの、そして、外から来るものがあるわ」

 

「海で……? じゃあアレは貝……か何かを彩色したものなのでありますか」

 

 あきつ丸が頭をひねる。

 

「まあ、そんなところ……ね」

 

 扶桑はどこかズレを感じたが、あえて否定はしなかった。

 

「皆さん、床の間に飾ってあるTENGA。あれも一例でしかありません。オナホには無数のバリエーションがあります」

 

「山城の言う通りよ、色も形も、ものによって全く違うわ。あのような外殻に包まれたもの以外にも、中身が露出しているもの、皮の薄いもの……」

 

「ふむ、典型的な巻貝と、ウミウシやナメクジの差、のようなものでありますか」

 

 あきつ丸は冷静な分析をした。

 

「んー、踏んだら汁とか出るやつ? キモイキモイ〜」

 

「時津風、それはアメフラシです」

 

「多分汁が出るのもあるわよ。猛烈に震えるのもあるから……」

 

「ひぇっ……それはちょっと怖いよ……」

 

 時津風は、巨大ナメクジが靴の裏でのたうちまわる様を想像した。

 

「では姉様、これは宿題ですね。各員、次回の集合までに自分のオナホを調達すること。いいですか。次回は……」

 

「明後日の夕方にしましょう。日曜の夜だし、きっと誰も予定はないわ」

 

「よし、任せろ。ビッグセブンに相応しいオナホを見つけてやる」

 

 長門が意気込む。

 

 と、やおら浜風が口を開く。

 

「すみません、結局どこでオナホが手に入るのですか」

 

「駆逐艦寮になら、詳しい子が居た筈だわ。聞いてみたらどうかしら」

 

「オナホに詳しい駆逐……いや、オナホについてなんて聞いたこともありません。時津風は?」

 

「雪風のことではないよ。たぶんね」

 

 当の駆逐艦たちには思い当たりがないらしく、ああでもない、こうでもないと話している。

 

「じゃあ、今日はこれまでです。姉様、お昼にしましょう」

 

「では皆さん、きちんと用意してくださいね」

 

 食堂に出掛けて行く扶桑、山城に続いて、四名も退出した。

 

 

 

 

 あきつ丸が居室に戻ると、敷布団と毛布が一組敷いてあり、そこに一人分の膨らみがある。頭側に出来た隙間から電気スタンドの光を取り込み、いかにも夜更かしする気満々といった様子だ。

 

「まるゆ殿、何をしているのでありますか」

 

 あきつ丸が呼びかけると、まるゆが中からもぞもぞと這い出してきた。

 

「えっと、明日の予習です! 糸の結び方とか、餌の付け方とか……木曾さん、面倒くさいことは任せとけって仰ってたんですが、やっぱり、出来る限りはまるゆがやった方がいいかなって……」

 

「なるほど」

 

 まるゆは木曾の面倒見の良さを理解しつつも、頼りきりにはなりたくないらしい。

 

「立派な心掛けでありますな……。それで……どうして毛布に潜っているのでありますか」

 

 その様子を見てまず感じた違和感を問うあきつ丸。

 

「いや、明日は早いので、なるべく暗くした方が寝られると思ったんです」

 

「だから毛布の中に。それで、電気スタンドは?」

 

「潜ったら本が読めなかったので……」

 

「ふむ、それでは結局眩しくて寝られないのでは?」

 

「はい……はい? ……確かに……そうですね」

 

 自分の行動の不条理さに頬を赤くし、本で顔を隠すまるゆ。

 

「まるゆ殿。欲張り過ぎでありますよ」

 

 まるゆにそっと笑いかけるあきつ丸。

 

「その本、借りてもいいでありますか。自分も出来る限り覚えておきましょう」

 

「でも、あきつ丸さんも早起きするでしょう」

 

「たまには人の厚意に預かっておくものであります。まるゆ殿が仰ったのですよ。それに、自分は朝早いのには慣れているのであります」

 

 あきつ丸がそう答えると、まるゆは暫く困り顔であきつ丸の顔を見つめ、口を開いた。

 

「あきつ丸さん、今日は良いことあったみたいですね」

 

「それはそうでありますな。今日というか……数日のうちに色々あったのであります」

 

 あきつ丸は最近のことを思い出した。扶桑のこと、山城のこと、オナホ華道のこと、長門のこと……。

 

「そんな風に見えました。さて……明日も……よろしくお願いします……」

 

 まるゆは本を読んでいたままのうつ伏せで、枕に顔を段々と埋め、そのまま眠りに入ってしまった。

 

「さて、自分はもうひと頑張りでありますな」

 

 あきつ丸はまるゆの読んでいた釣りの本を拾うと、机に乗せ、頁をめくり始めた。




ログインするたびに「着任しました」と言われるので、勤務中を着任していると表現する世界なんだろうと思っています。
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