オナホ華道   作:プリン

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オナホ華道 9

「いや、絶品でありますな!」

 

 さくさくと天婦羅を頬張るあきつ丸。衣に包まれた身が、口の中でほろほろとほぐれる。淡白な白身に垣間見える確かな旨味が、衣との絶妙な調和を見せている。生臭さを殆ど感じないのは、鮮度と下拵えのなせる技か。

 

「これはハマりそうであります……」

 

「まるゆ、こんな美味しいお魚食べるの始めてです……」

 

「気に入ったんなら良かった。折を見てまた誘うぜ」

 

 頭からバリバリとキスを食らいながら、木曾が答える。テーブルの脇から、間宮が折に詰められた天婦羅を差し出した。

 

「どうぞ、残りも揚げておきました。またご用命下さいね!」

 

「おお、礼を言うぜ間宮。こいつは本当に美味い」

 

「ありがとうございます!」

 

 それから、三人はお互いの近況報告、その日の振り返りなどをし、食事を終えた。

 

「ご馳走様。まるゆ、先に部屋に戻っててくれるか」

 

「は……はい……今日はその、ありがとうございました」

 

 事を察したのか、まるゆはおとなしく二人と別れ、自室に戻った。

 

「……じゃあ、ソレをなんとかしねぇとな」

 

 木曾はあきつ丸の提げる袋に目をやった。

 

「はっ……提督に聞きに行くのでありますか」

 

 あきつ丸は防波堤で述べた通りに答えた。

 

「そうだな……独断はロクな結果にならん。提督に判断を仰ごう。だが……」

 

「だが?」

 

 あきつ丸がつぎの言葉を促す。

 

「俺は一つ持っていくから、お前は残りを明石に持って行ってくれ。こいつには俺個人としても興味がある。機密に触れていた場合は提督に見せた時点で情報が統制されて、一本残らず闇に葬られかねないからな……」

 

 木曾としては、ディルドの時の失態を踏まえ、最大限譲歩した判断であった。

 

「了解であります。では、木曾殿は残りをお願いするのであります」

 

 あきつ丸は一つを受け取ると別のビニル袋に詰めて、工廠に走った。

 

 

 

 

 

 

「ごめん下さい、で、あります」

 

 工廠の錆びた扉を開くあきつ丸。思い返してみれば、一人でここに来るのは初めてだ。

 

「はーい……あ、あきつ丸! 一人で来るなんて珍しいですね、どうしました?」

 

 明石は普段通りの快活さであきつ丸を迎える。一方のあきつ丸は、神経質そうに辺りを伺いつつ、おずおずと話し出した。

 

「あの、今ここに居るのは明石殿と自分だけでありますよね……」

 

「ん? そうですね。えーと、何か込み入った話でも……?」

 

 神妙な面持ちで聞き返す明石。

 

「何というのは……これのことで……」

 

 そう言うと、あきつ丸はビニル袋に収められたそれを差し出した。

 

「はぁ」

 

 明石は、新しい改修資材か何かか、あるいは差し入れかと思い、受け取って中身を見た。すぐさま明石の顔が強張る。

 

「木曾殿は敵の体組織ではないかと言っているのであります。提督に取り上げられる前に、明石殿にお見せするようにと……」

 

 知りえた内容を漏らさず伝えようとするあきつ丸。

 

「これ……オナホですね……」

 

 明石は想定外の物体の出現に困惑している。

 

「なんと。これもオナホでありますか。色々あるのでありますな……」

 

 明石の困惑をよそに、あきつ丸はあっさり受け入れてしまった。

 

「え? 意外と詳しいんですね、あきつ丸は……」

 

「はい。昨日、扶桑殿から教えて頂いたのであります。オナホであれば、木曾殿もあそこまで慌てることないでしょうに」

 

「あの……はぁ。あきつ丸は、オナホが何なのか分かってるんですか?」

 

 きょとんとするあきつ丸。

 

「……華器でありますよね」

 

「違います! えー、火器を収める、治めるためのものというべきでしょうか……」

 

 穏当に済ませようと、適当に言い繕う明石。

 

「ふむ。……何一つわかりませんな」

 

「まあ、分からないならそれでも構いません」

 

「自分が構うのであります! 自分も、木曾殿も気が気ではない……」

 

 明石は、柄にもなく感情的にまくし立てるあきつ丸の顔を見つめ、どうしたものかと逡巡する。

 

「そうですねぇ、男子の嗜み……? に使う道具ですから、木曾さんが心配するようなものではないのは確かです」

 

「男子の嗜み……。オナホは武具なのでありますか、竹刀のような……」

 

 あきつ丸は、オナホに思いを巡らせる。

 

「まあ……鍛錬に使うという意味であれば、決して遠くはない、ですかね!」

 

 明石はやけくそ気味に答えた。

 

「ふむ。わかったのであります。これで今夜は安心して眠れそうであります」

 

 感謝を述べると、木曾に報告すべく、急ぎ工廠を後にするあきつ丸であった。

 

 

 

 

 

 

 その頃。執務室で提督が海図を眺めていると、木曾がドアに体当たりせんばかりの勢いで入ってきた。

 

「どうした木曾、ノックもせずに」

 

「おい、これを見ろ!」

 

 ビニル袋を突きつける木曾。

 

「何なんだ一体」

 

 受け取った提督は、ごそり、と袋を広げ、

 

「ッンン〜⁈」

 

 声にならない叫びを上げた。そこには、オナホがあった。

 

 提督は、自らが投棄したそれが帰ってきたこと、よりにもよって木曾がそれを持っていることに、ただ驚愕するしかなかった。

 

「海で釣り上げたんだが……この禍々しい形に色、ヌルヌルした感触……もしかしたら深海棲艦の一部なんじゃないのか?」

 

 提督はあまりの衝撃に硬直し、何も答えない。

 

「おいどうした? やっぱりマズいもんなのか⁈」

 

「それはな……それは……」

 

「これは……?」

 

 木曾が執務机に手を着き、提督の頭を覗き込む。

 

「安心しろ……。俺が……海に捨てたモノだ」

 

 絞り出すように告白する提督。

 

「……なんだ、あんなに慌てた俺が馬鹿みたいだな」

 

 執務室に駆け込んだ自分を恥じてか、木曾はバツの悪そうな顔をし、帽子の上から頭を掻いた。

 

「で、何なんだ、これ」

 

 提督は、詰問から逃れることはできないと悟ったか、顔を上げた。そして、机の端の花瓶に飾られた花(長門が置いてくれたものだ)をちらと見遣った。

 

「これはな……」

 

 提督は、袋からオナホを一つ取り出すと、おもむろに執務机に置いた。

 

「こうやって使うんだッ‼」

 

 そう言うと、花瓶の花を引き抜き、オナホの穴に突き刺した。

 

「はぁ……そんなことしていいのか? 潮で花が駄目になりそうだが」

 

 大仰な予備動作の割に大したことのない行動に、木曾が湿った視線を寄越す。

 

「本来はよく洗って使うんだ」

 

「ふーん……まぁこの器……」

 

 木曾が花の刺さったオナホをまじまじと見つめる。

 

「あんまりいい趣味とは言えんな。捨てて正解だったんじゃないのか? しかし海にモノを捨てるのは感心しないねぇ。環境に悪いし、それ見てまるゆがビビってたぞ」

 

 怯えていたのは主に自分のせいだということに、木曾は気付いていないのだろうか。

 

「わかった。気をつけよう」

 

 海に投棄するのはやめていたし、もうオナホが手に入るあてもないが、とりあえず返事をする提督。

 

「邪魔したな。失礼するぜ」

 

 ドアを引き、部屋を後にする木曾。彼女は、己の想像が杞憂であったことに安堵した。しかし心の隅では、得体の知れないソレが存外大したことのない用途に使われる代物だったことに拍子抜けしていた。

 

「あ、木曾殿。わかったのでありますか、あの……オナホのこと」

 

 あきつ丸は既に執務室の前まで辿り着き、木曾を待っていた。

 

「ああ。オナホって言うのか、あれ」

 

 そこをたまたま通りかかった一人の艦娘の耳に、ソレの名を確認する木曾の声が届いてしまった。

 

「オナホ……今オナホと仰いましたか?」

 

 大淀である。

 

「そうだよな? あきつ丸」

 

「ええ、オナホであります」

 

「今、木曾さんがお持ちのモノが?」

 

 大淀が、木曾の提げている袋を指差す。

 

「ああ、そうらしい」

 

「それをどちらで……? いえ、もしよろしければ、頂いてもよろしいでしょうか」

 

 中身も確認せず欲しがる大淀を、木曾は一瞬不審に思った。しかしその用途がわかってしまった今、木曾には持っておく理由もなかった。

 

「いいよな、あきつ丸」

 

「構いはしないでありますが、一つにして欲しいのであります。申し訳ない」

 

 あきつ丸は、扶桑姉妹からの宿題を忘れたわけではなかった。それに、今後様々な花を活けることを考えると、オナホは多いに越したことはないはずだと考えた。

 

「あきつ丸さんは、この……こちらの物を何に使われるのですか?」

 

「何って、それはオナホ華道であります」

 

「オナホ華道……ですか……?」

 

 困惑を隠せない大淀。

 

「扶桑型のお二人が教えてくれるでありますよ」

 

「そうですか……とりあえずこちら、ありがとうございます」

 

 大淀は、透明なオナホを片手に廊下を歩いていった。

 

「大淀殿、オナホ華道でなければ何をするのでありますかね……」

 

「さぁねぇ。あんなのは置いといて、俺の部屋で天ぷら食いながら一杯付き合わないか?」

 

 木曾は、自分を蚊帳の外にしてなされた、意味不明の会話には興味を失っていた。

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい。あの、何だったんですか、あれ」

 

 その晩、あきつ丸が自室に戻ると、まるゆが早速、調査結果を聞いてきた。

 

「あー、少し飲み過ぎたようで……あれというのは、これでありますか」

 

 手に持ったビニル袋を掲げ、あきつ丸が答える。

 

「え、あきつ丸さん、飲んでいらっしゃったんですか? 部屋では飲まれないので、意外です……。それ、持ち帰れたなら、危ない物ではなかったんですね」

 

 あきつ丸に飲酒の習慣が無かったので、初めて酔っ払いを見るまるゆ。驚きはするが、釣り上げた軟体のことを尋ねるのは忘れない。

 

「そう、あれはオナホであります」

 

「オナホ?」

 

「主に花を活けるでありますよ。本来は殿方の嗜みに使うらしいでありますが……」

 

「そうなんですか……?」

 

 まるゆにしてみれば、「殿方の嗜み」なるものもまた謎なため、さらに困惑するしか無かった。

 

「……いやぁ、艦娘と飲むというのも存外楽しくはありましたが……木曾殿と同じ感覚で飲むと……ダメになりますなぁ、まさにうわばみでありました」

 

「大丈夫ですか? まるゆ、水持ってきます」

 

「いや、大丈夫であります。そうでありますね、給水ついでに夕涼みでもしてくるであります……」

 

 よろよろと回れ右をし、部屋を出ようとするあきつ丸。

 

「その状態で一人では危ないですよ。まるゆがお供します」

 

「ありがたい……」

 

 力なく礼を言うと、あきつ丸はよろよろと廊下を進んだ。少し遅れて、まるゆが後ろをついていった。

 

 二十一

 

「ハッ? 自分、落ちていたでありますか?」

 

 あきつ丸が目覚めると、机の前に座るまるゆの姿が目に入った。

 

「昨日、水を飲まれたあと、そのまま部屋に戻って眠ってしまいましたよ」

 

「そうでありますか。いやまずい、出撃の時間が!」

 

 あきつ丸が大慌てで時計を確認すると、針は〇九二〇あたりを指している。

 

「落ち着いてください。今日は日曜日です」

 

「そうでありますか、いや、そうでありますね。これは失礼……」

 

 日曜は基本的に任務の予定を入れられていないことを思い出して、あきつ丸は胸を撫で下ろした。同時に、今日は扶桑の部屋でオナホ華道をする日だったということを思い出し、胸の高鳴りを抑えられなかった。自分で手に入れたオナホで、自分の作品を作り出すという、初めての体験。それを艦隊の仲間たちと共有できると思うと、なんとなく胸が躍った。扶桑の眼鏡に適う作品はできるだろうか。

 

「あきつ丸さん」

 

「何でありますか?」

 

 うきうきとした気分で荷物の準備をしていると、まるゆが話しかけてきた。

 

「あきつ丸さん、本当に表情が変わりましたね」

 

 まるゆはどこか嬉しそうに告げた。

 

「……楽しいであります。自分、最近楽しいというのが何なのか、分かってきた気がするのであります」

 

 あきつ丸もまた、自分の表情が綻んでいるのを実感しながらそう答えた。そして、オナホを収めたビニル袋を携え、扶桑の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、まずは宿題を見るわね。皆さん、自分のオナホはお持ちかしら?」

 

 一同が扶桑の部屋に揃うと、まずオナホの備えを確認した。あきつ丸、時津風、浜風は、それぞれ正座し、自分の前にオナホを置いている。しかし、長門は何故かプラスチックの棒を置いていた。

 

「長門さん、それは……?」

 

 棒を見て、山城が尋ねる。

 

「ディルドだ」

 

「何ですって?」

 

 その返答を受け入れかねたのか、山城が聞き返す。

 

「ディルドだ」

 

「知っています。それは茶道をするためのものです。長門さんもよくご存じでしょう」

 

「すまない、自分なりに探して、いろいろ聞いてみたんだが……。しかし見つけることはできなかった。陸奥は何も教えてくれない……。それでだ、陸奥の反応を見るに、オナホとディルドは姉妹艦のようなものだと思ったんだ」

 

「その認識は間違ってはいないわ。でも、それではオナホ華道はできないわね……」

 

「駆逐艦の皆はちゃんと調達できたのですね」

 

「あ、これ? 秋雲がくれたんだよ~。なんか、通販で買ったとか言ってた!」

 

「薄い本の資料にするために購入したと言っていました。こんなものを手に入れてどうするんだ、とも」

 

 二人とも、さも当たり前であるかのように、そこにオナホを置いている。

 

「長門さん、本当にきちんと探されたんですか?」

 

「当然だ。私は知っていそうな艦娘皆に聞き、ありそうなところは全て探した。しかし駄目だったんだ。大目に見て貰えないだろうか」

 

「長門さん。オナホはオナホ華道の命。今から探しに行っても遅くは……」

 

「そうか、ならば皆がここに居るうちに、何としてもオナホを調達してみせよう」

 

 立ち上がろうとする長門を、扶桑が制した。

 

「長門さん、その必要はないわ。山城、長門さんだってできる限りの努力はされているの。今回は、そこまで厳しく教え込む必要もないんじゃないかしら。

 

 落ち着いて、長門さん。オナホが無いなら竹輪や、こんにゃくに切れ目を入れたもので代用できるわ」

 

 扶桑はにこやかに、いたって優しく長門に代用手段を伝えた。

 

「分かった。竹輪なら確か自室の冷蔵庫にあった筈だ、取って来よう」

 

「お待ちください、長門殿。オナホなら自分が二つ持ってきたのであります」

 

 あきつ丸は、ここぞとばかりにオナホ入りビニル袋を差し出した。

 

「本当にいいのか? 渡りに船だ。恩に着る、あきつ丸」

 

「釣りをすればいくらでも手に入るのであります」

 

 あきつ丸は謙遜するように、しかしどこか得意げに答える。

 

「釣り……?」

 

「あきつ丸さん、今、釣りと仰いましたか」

 

 山城、扶桑がそれぞれ釣りという語に反応した。

 

「はい。防波堤から投げたら釣れたのであります」

 

 さらっとオナホを入手した経緯を伝えるあきつ丸。

 

「そうなのね……。私たちは海岸線を歩いているときにそれを拾ったわ」

 

「打ち上げられたクラゲかと思いましたが、よく見ると違ったんです。持ち帰って調べたらオナホと分かりました」

 

「山城、オナホは案外、沖側にも居るということね」

 

「そうですね、姉様。ありがとう、あきつ丸。オナホに関する見識が少し深まったわ」

 

「そ、そうでありますか、なんだか照れ臭いでありますな」

 

 あきつ丸は予想外の称賛を浴びて赤面した。

 

「とにかく、これで全員の器が揃ったわね。山城、始めましょう」

 

「そうね、姉様。皆さん。始めますよ、オナホ華道を!」

 

 二人の声で、オナホ華道の幕が切って落とされた。

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