シャトルがハイパースペースを出て、私達はモラバンドに辿り着いた。
まだ軌道上にいるのに、暗黒面のフォースが身体の芯まで凍えさせる。すぐ真下に、赤い大地が広がっていて、血のようだった。正確には赤い砂だけど、その赤々しさが血を連想させた。
荒れ果てた地に降り、シャトルは渓谷に着陸する。
「ダンタム、シャトルにいて。」
「………」
「どうしたの?」
私が起きてから、ダンタムはずっとこの調子だ。目の前にいるのに、私を私として見ていない。まるで、私が別人になったかのような視線を向けてくる。
「アリス、行かないでくれ。」
「ごめんなさい、それは聞けない。」
「っ……アリス!!」
彼の手を拒み、シャトルを降りる。
後戻りはできない。私が闇に踏み込まなければ、全てが変わってしまう。レイやビリーの為にも、潰されるわけにはいかない。
神殿を目の前に、私は立ち止まる。
この中に入れば、暗黒卿の洗礼を受けることになる。暗黒卿に逆らうことは許されない。最悪の場合、良心を捨てる必要がある。
その時、私はジェダイではなく、シスとしての選択をしなければならない。
「………」
神殿に踏み込み、待ってきたランタンで中を照らす。神殿は荒れていて、30年、それ以上誰の来訪もなかったのだと理解できた。その最奥に、オールド・タングが刻まれた墓標がある。
「“我、シスに忠誠を誓いし者なり”。」
古代シス語で読めば、墓標から灰が舞い上がり、人の形を作る。マントのフードを深く被り、その目は金色に染まっていた。亡霊のムウン、“ダース・プレイガス”が不気味な笑みを浮かべる。
『アリス・レイン、待ち侘びたぞ。』
「私に力を与えて。シスの力を。」
『覚悟はできていような?』
「できてる。ダース・プレイガス、私に力を頂戴。」
『良かろう。だが、お前には憎しみが足りぬ。暗黒面に踏み込むだけでは、シディアスには勝てんぞ。彼奴への怒りを力に変えるのだ。』
怒りと憎しみに身を委ねるのは、とても簡単だった。
暗黒面のフォースが、私を支配するように呑み込む。光明面のフォースとは違い、支配権は暗黒面のフォースにある。シスは皆、ダークサイドの奴隷だ。
一度手を出せば、逃れるのは難しい。
『素晴らしい暗黒面だ、レイン。感じるぞ、お前の怒りを。』
「でも、すごく虚しい……」
何かが抜け落ちたような感覚だった。人として大切な何かを失ったような欠落感がある。これが、暗黒面だ。
だけどこの虚無感が、通常では為し得ないことを可能にする。
大事なものを手放して、力を手に入れるのがこの暗黒面だ。
『全ては整った。お前は今からジェダイではなく、シスだ。名も無きシス卿よ、我の前に跪け。』
「名も無き?」
『既に我は死んだ身、シスの名を与えることはできん。さぁ、跪け。』
私は大人しく従い、跪く。
ランタンの灯りに反射して写った床には、闇に堕ちた自分がいた。瞳は金色に染まってしまい、その目からは涙が流れる。多くを裏切った女が、そこに写っていた。
『アリス・レイン、我が復讐を果たせ。』
「やっぱり、それが狙いだったんだ。」
プレイガスの強い怒りを感じる。
ダース・プレイガスは、シディアスに寝込みを襲われ殺された。奴はその恨みを、今でも忘れていない。私にしつこく割り込んできたのは、死んだ己に代わって復讐させたいからだ。プレイガスが私を暗黒面に誘ったのは、復讐、それだけの為だ。
『シスは互いを利用する。お前がこのダース・プレイガスを利用したようにな。違うか?』
「………違わない。」
『誓いは為された。シスを裏切れば、お前は報いを受けるだろう。』
「どうすればいい?」
『まず、“あの娘”を殺せ。』
あの娘、それが誰なのかすぐに分かった。
ガラクタ漁りだった、新芽のジェダイであるレイだ。私は、あの子の出自を知っている。当然、プレイガスも知っているだろう。
シディアスにとって、レイは貴重な存在だ。
レイのフォースは強い。私や、スカイウォーカーの血筋よりも強い。それ故に、シディアスの復讐を果たす為の存在になる。
奴の目的は、私を含むジェダイへの復讐。ジェダイが滅びることが、シディアスの望みだ。奴がレイを暗黒面に引き込めば、シディアスの復讐は果たされる。
「できない……」
『情けを捨てろ。お前はもうジェダイではない。』
プレイガスの言葉が胸に刺さった。
誰かを手にかけたことは、一度だけ。今まで誰も殺せなかった。まだ人道的だったから。
ジェダイではないと言われて、記憶の底に埋めていたあの感覚が戻ってくる。
「プレイガス、一つだけ解せないことがある。」
『なんだ?』
「シディアスは、なぜ私を暗黒面に堕とそうとしたの?」
『自分で聞くといい。今のお前なら容易いだろう。』
「………そうかもね。」
感覚を研ぎ澄ませ、エクセゴルを探す。濃い闇を探して、私は早々にシディアスを見つけた。奴も私に気付き、口角を上げる。
互いを認識したところで、私はフォースの幻影をエクセゴルに飛ばした。
目の前に機械に繋がれたシディアスがいて、奴は私を見て嬉しそうな顔をする。
暗黒面に堕ちても、奴への不快感は拭えなかった。
「シディアス、あんたの望み通り暗黒面に踏み込んでやったよ。」
「良いぞ、アリス…余が望んだ其方が、ついに…!」
「でも、あんたには従わない。」
「何…?」
「暗黒面に手を伸ばしたのは、あんたを殺す為。殺す相手に従ったりしない。」
尚も拒絶する私に、シディアスは笑うだけだった。
「ただ、分からないことがある。今は私じゃなくても、レイがいる。なのに、なぜ未だに執着する?」
「アリス……まだ分からぬか。」
「答えろ。」
もう取り繕った性格でいるのはやめて、そう返した。私の本性とも言える姿に、シディアスは満足気だった。怒りを込めて見れば、奴は煽るように言葉を紡ぐ。
「否、其方は気付いておるだろう。余が其方にかけた秘術の意味を……」
「まさか…私が術を解けないと踏んで……?」
「アリス、術の解き方を知っていたはずだ。だが暗黒面を拒み、其方は愛する者を手に掛けなかった。アリス・レイン、其方が暗黒面を拒み続けた故に、余は選ばれし者の肉体を手に入れるのだ。」
ようやく、奴の魂胆が分かった。
レイの方が強いのに、なぜ私に執着するのか。
それは私が選ばれし者で、選ばれし者は支配されてこそ暗黒面の力を強くさせるからだ。そう、アナキンのように。私の肉体を乗っ取り、レイを操る。私がダメなら、ビリーがいる。だけど、ビリーは歳を取る。私の息子だから、乗っ取られることはなくても利用されるだろう。
奴に踊らされるわけにはいかない。
「なら、」
「もう遅い!今更暗黒面に手を伸ばしたところで、既に手遅れだ!其方の肉体は余の物だ!術を解かなかったことを嘆くが良い!!」
「っ!!」
私は慌てて意識を切る。
モラバンドの神殿の床に手を着き、荒々しく息を吐く。
暗黒面に踏み込んだのに、奴が怖い。
シディアスが死んだと信じ続けて、時折見えた気配も気のせいだと言い聞かせてきた。夢に現れても幻だと思って、奴の気配を信じなかった。何度も何度も、否定した。
なぜなら、信じたくなかったから。
私は奴に近付いてはいけない。シディアスを殺したくても殺せない。近付けば、私の若い肉体を乗っ取られる。それを避けるには、術を解く必要がある。
術を解く為には、最愛の人を手に掛ける以外選択はない。
嫌だ、ダンタムを殺したくない。
彼を拒んだ私が馬鹿だった。
もう、死んでしまいたい。