アソーカの無実がようやく認められ、事件は解決した。
オルデランへ出立する用意をしていると、私はそのアソーカに声をかけられた。
事件は解決したのに、悲しそうな感情が伝わってくる。アソーカは恐らく、評議会を信用していない。
私が彼女と同じ立場なら、そうする。
信用してもらえなかったから、信用しない。信頼関係とは、お互いを信用してこそ生まれる。どちらかが信用をしなくなったら、信頼関係は成り立たない。
どちらにせよ、アソーカはもう─────
「マスター・レイン」
「アリスでいいよ、アソーカ。無実が証明されて良かった。」
私の言葉に、アソーカは小さく礼を言う。
「マスターから聞いたわ。貴女が時間を稼いでくれたって。感謝します、マスター・レイン。信じてくれてありがとう。」
「正しいと思ったことをしただけだよ、パダワン・タノ。」
「………私、オーダーを去ろうと思うの。」
やっぱり歴史通りだ。
信じられないから、オーダーを去るしかない。戦争が始まった時点で、歴史は変わらないんだ。
つまり、アソーカが去ることは決まっていた。
「どうしたの?」
「何でもない。アソーカ、何が正しいかなんて、私は人それぞれだと思ってる。バリスを信じたのも、間違ったことじゃない。間違ったのは、バリスなんだから。」
バリスを信じたアソーカは悪くない。
バリスも、ジェダイとしての務めを果たそうとしただけ。評議会も、務めを果たしただけ。多少の違いはあるが、やっていることは同じだ。
何が正義なのか、それはその人個々の価値観の違いでしかない。
私の信じていることも、正しいか分からない。
「そろそろ行かなきゃ。アソーカ、フォースと共にあらんことを。」
「フォースと共に、アリス。」
ガンシップに乗り込み、プラットフォームを離れる。段々と小さくなるアソーカは、離れていく私のガンシップを見つめていた。
その後のアナキンは、随分落ち込んでいた。
パダワンを守れなかったこともあるけど、何より、事件が解決したのにアソーカが去ってしまったことも後悔の一つだ。
クルーザーに戻った私は、即座にブリッジに向かい、オルデランへの出立を指示する。
「将軍……」
「提督、ハイパースペースへ。」
「……了解しました。」
クルーザーの乗員達も、爆破事件のことは知っている。だからと言って、事件のことを嘆いてはいられない。
軌道へ出たクルーザーはハイパードライブを起動する。提督はブリッジを出て行くが、私は去らずにハイパースペースを呆然と眺めていた。
自分が正しい、それだけじゃダメだと思ってしまった。
フォースの意志に投げられた問いの答えは、未だに分からない。時代の流れに従うか、逆らうか、決めかねている。傍観は許されないのに、逆らえと言われている。
今になって、ドゥークー伯爵の言葉を思い出す。
「気に入らない。」
かつてジェダイ・マスターだった奴の言葉は、その通りだった。何ら間違ってない。ドゥークーの言葉を肯定したら、逃げてはいけなかったと認めることになる。絶対に認めたくない。
逃げることの何が悪い?
逃げ道がある限り、私は目を逸らす。
「レイン将軍、評議会からの通信です。」
「出して。」
投影機の下へ行くと、マスター・ヨーダがホログラムに現れる。
『何を迷っておる?』
「揺らめきを感じたんですね。」
『それも大きな波じゃ。感じたのはわしだけではない。メイスやオビ=ワン、キットも感じた。ヴィジョンを見たな?』
爆破事件のすぐ後、ヴィジョンを見た。もう見ることはないと思っていた、ムスタファーの悪夢だ。以前の悪夢と違うのは、アナキンに刺されるシーンではなく、クルーザーで独り警戒警報を聴く夢だった。
未来の何が変わったのか分からないけど、また目を逸らしたことで、何かが変わった。
「答えられません。」
『アリス、』
「戦いには集中します。」
『一つだけ答えよ。見たヴィジョンは良いものか?』
「………いいえ。」
『分かった。フォースと共にあらんことを。』
「フォースと共に、マスター。」
通信が切れ、私は溜め息を吐く。
たかがジェダイ一人逃げたところで、何を左右したのか理解できない。
「将軍……?」
「しばらく休む。」
「了解しました。」
ブリッジから出ていき、シャッターが閉まった後、私はハンガーベイに向かう。
少し頭を冷やさないと。
新しいヴィジョンは、クルーザーに警報が鳴り響いて、私は何かから逃げていた。R7を連れて、クルーザーを脱出しようとしていた。何から逃げているか、考えなくても分かる。
結局、死に場所が変わっただけだ。
「────────」
誰かの声が聴こえて、私は辺りを見渡す。フォースを探っても、誰もいない。空耳だと思ったけど、違う。はっきり声を拾った。
「────────」
言っていることは聴き取れないけど、声が聞こえているのは確かだ。
次に認識したのは、もっと鮮明な声と、フードを深く被った霊体だった。
『やっと届いた。』
女性らしく、聴き覚えがある声だった。
彼女の声は遠くて、空間を隔てているような感覚がする。
「あんた誰?」
『誰でもない。』
「シスの秘術?」
『違う。私はある惑星のジェダイ寺院から、貴女とコンタクトを取ってる。』
ジェダイ寺院には、多くの秘密がある。寺院はフォースの力が働いて、評議会が知らない秘密もある。私は、知らないことの方が多い。
元の世界の知識があっても、どのジェダイ寺院か特定することは難しい。
『どうして逃げるの?』
「あんたは、小石が運河の流れを変えられると思うの?」
『例え小石でも、行動次第で波を起こすことができる。飛び込む場所も、分かるはず。』
「分からなくていい。」
『答えは知ってる。だから、一言だけ。』
彼女は一呼吸すると、口を開く。
『嘘吐き。』
「っ!!」
文句を言おうとしたところで、誰かの足音が聴こえた。
「レイン将軍?」
「軍曹……」
軍曹の声に振り向き、視線を戻すと誰もいなかった。
「どうされました?」
「何でもない。ハンガーベイにいるから、着いたら呼んで。」
「分かりました。」
霊体のあの女性に言われたことが、頭の中で木霊する。
嘘を吐いた覚えは………ある。
モヤモヤを抱えたまま、私は戦場へと舞い戻った。オルデランを攻撃する連合軍は減り、私が残る必要がなくなるのは、遠くなかった。
実質、オルデランの平穏は約束されたようなものだ。
ジェダイの存在意義が分からない。