元老院ビルを出た後、速攻でジェダイ公文書館に来ていた。
評議会に議長とのことを知られたくないから、マダム・ジョカスタには頼らなかった。
シスの秘術を調べる為に、データにアクセスする。だけど、シスの資料はほとんどなかった。当然といえば当然だよね。
アクセス権の前に、ジェダイ・オーダーは基本的な情報しか知らない。
机に頭を落とし、項垂れる。
「アリス、何を調べている?」
ハッとして顔を上げると、マスター・ヨーダが公文書館に来ていた。マダム・ジョカスタではなく、私に用があるらしい。
「気になることがあっただけです。それはそうと、行き先も告げず、どこかへ行っていたそうじゃないですか。」
「そのことについて、少しばかり付き合ってくれんか?」
「分かりました。」
パネルを閉じ、マスター・ヨーダを追って公文書館を出る。
聖堂の外へ出たところで、マスターは立ち止まった。
「アリス、ヴィジョンを見たと言ったな。何を見た?」
「よく憶えてますね。」
「答えよ、アリス。」
「聞かなくても分かるんじゃないですか?」
私が知っているものを、フォースの意志に見せられたのだから。
再び歩き出して、私は続ける。
「マスター、貴方は旅で何を見たんですか?」
「シスの暗黒卿の正体を知った。そして、お前のことも。」
「………」
「議長がお前を気に入る理由がよく分かった。アリス、未来を知るのは危うい。目を背けてきたのは、その為か?」
今度は私が立ち止まり、肯定する。
「以前から、悪夢を見ています。その悪夢で、マスター・クワイ=ガンに警告されました。」
フォースの意志とは言わなかった。マスター・ヨーダが出会ったのも、クワイ=ガンだ。その方が説得力がある。
「逃げてきましたが、そう簡単にはいきませんでした。宇宙のフォースは私を許さない。目を背けたしっぺ返しです。」
「何のことじゃ?」
「マスターが言ったでしょう?未来を知るのは危うい、と。私は未来を知ってるだけ。見たわけではありません。」
見た状況は違えど、知っていることに変わりはない。
マスター・ヨーダと話せば、私もマスターもお互いの謎が解ける。望んだ形ではないけど、解決への道が見えるだろう。シディアスから受けたこの“呪い”も。
「私の秘密に気付いたシディアスは、幼稚な術をかけてきました。」
「シスの秘術か。」
「はい。事実、逃げられなくなりました。」
現実逃避すら許されない。フォースの意志は、傍観を見過ごさない。全部シディアスのせいだ。
「未来を知っているということは、クワイ=ガン・ジンの死や、この戦争が起きることも知っておったのか?」
歩みを再開し、マスターの問いに答える。
「知っていました。」
「なぜクワイ=ガンを救わなかった?」
「警告はしました。ですが、死は避けられなかった。それ以降、その責任から逃げることを決めたんです。」
下手に歴史を変えようとすれば、私が死ぬ可能性もある。生に執着しているけど、ごく当たり前の概念だ。私はジェダイである前に、一人の臆病者なのだから。
「自分の死も分かります。」
「なんと哀れな……」
「同情なんて要りません。シディアスにも、必ず報いは受けさせます。」
「報復は禁じているはずじゃ。」
「反撃もいけませんか?」
恨みを以て反撃しなければ、掟に反しないはずだ。まぁ、表向きの話だから嘘だけど。真意は私にしか分からないんだから。
「シスと戦う時は、ジェダイとしてライトセーバーを握れ。個人の感情で戦うな。ジェダイをやめたいというのは、その為か?」
「その通りです。ここまで引っ掻き回されて、感情穏やかなのはあり得ません。」
シスの誘いを断って、脅しも突っ撥ね、その結果がこれだ。
老けない身体にされ、逃げられなくされて、私は逃げ場を失った。
あの時のドゥークー伯爵の言葉が、また脳裏に浮かぶ。シスのことを解決していれば、今のような状況にならなかったかもしれない。奴の言う通りだ。
奴の忠告が現実になった。
「アリス、暗黒面と戦う為に、その暗黒面へ手を伸ばしてはならん。」
「………心得てます。」
「良き心掛けじゃ。」
ミイラ取りがミイラになってはいけない。
「マスターは、評議会に旅のことを明かしたんですか?」
「いいや、話しておらん。」
シスの陰謀で戦争が始まったと、言えるわけないか。
「話は以上じゃ。」
「マスター・ヨーダ」
「何じゃ?」
「時が来たら、痛みに耳を傾けてください。」
「心に留めておこう。」
マスターに背を向け、聖堂の中に戻る。
忠告はした。痛みとは、悲鳴のことだ。私がこんなこと言わなくても、マスターは粛清を生き残るけど、念の為だ。
マスター・ヨーダには、アナキンの子供を鍛える役目がある。
決めるのは本人だけど。
「R7、ちょっと来て。」
相棒に声をかけ、ラボまで連れていく。
R7-D4をラボに押し込み、レンチやスパナを取り出す。だが、工具を見たR7は発狂してしまう。
スクラップにされると思ったらしい。
「いや、違うよ!あんたを改造するの!………え?」
荒ぶってたのは狂喜かよ!!
R7はホログラムを出して、R7自身が考えた改造の提案をしてくる。ドロイドならではの改造に、私はついニヤける。
「さすが性悪ドロイド!って!痛い!褒めてるのに!」
え?褒め言葉でしょ?あれ、違う?
「さて、それじゃあ始めるよ。」
R7の電源を落として、頭部を外す。コンピューターとシステム基盤を繋いで、新しいプログラムを加える。このシステムプログラムは、条件が揃った時に実行されるものだ。
戦争が終わる時の為に。
あとは、R7が望んだ改造だ。
頭部を戻し、ボディの側面を開く。アームを取り外し、素材を変えて新しいアームを付け直す。聞いた時は驚いたけど、ジェダイに従うR7らしい改造だった。
ボディの側面を閉じて電源を入れると、R7はご機嫌だった。
「おはよう!どう?あ、うん。それは良かった。」
アームを眺めて喜ぶR7に、笑ってしまう。バイナリーでお礼を言われた。
R7がお礼なんて、また珍しい。
「アリス」
ぐるんと振り向き、マスター・プロに笑顔で応対する。
「どうしたんですか?」
「R7と何をしている?」
「メンテナンスしてたんです。」
表情が固い私に、マスターはR7をジッと見る。
やべぇ、勝手に改造したのがバレたかな?
「R7、本当か?」
R7は私の言い訳を肯定する。
この世界のドロイドは、経験も相まって嘘を吐ける。個性があるから、誤魔化すこともできる。
このR7-D4も、嘘を吐けるし騙すこともできる。
「そうか。R7、任務だ。」
R7がラボを出ていき、私も続いてラボを出ていこうとマスターの横を過ぎる。
横を通ろうとしたところで、肩を掴まれ止められた。
「なぜ目を合わせない?」
「そんなことないですよ?ちゃんと目を見て話してます。」
「では、どうして視線を反らすんだ?やましいことがあるんだろう。」
よく見ていらっしゃる!!
ちゃんと目は見てる。でも、マスターが視線を合わせようとする度に反らしていた。その場を誤魔化そうとしているのがバレてる。
「私が勝手に悩んでるだけです。」
「R7のメンテナンスもその為か?」
「気が紛れます。」
「お前は物事に関して、消極的すぎる。己にさえもだ。無謀なことは絶対にするな。」
「はい、マスター。」
頷くと、マスターはラボを出ていく。
今のジェダイの中では、マスター・プロが私を一番理解している。そのマスターが、ここまで言ってきたのは意外だった。言ったことは間違ってないけど。
もう少し広い視野で見なきゃ。
ジェダイ粛清は目前だ。