マスター・シャンの攻撃に、私は防戦一方だった。
ジェダイやシスは、相手の動きを予知しながら戦う。熟練したジェダイ同士が一瞬で勝敗がつくのは、優れた予知をしているからだ。ライトセーバーの腕だけじゃなくて、予知能力も関わってくる。
どちらがより先の予知をするか、駆け引きを制することで勝敗が決まる。
防戦ばかりの私に比べてマスター・シャンが圧倒しているのは、こちらの動きを私よりも予知しているせいだ。
「気付いているかしら?貴女、暗黒面に近付いているのよ。」
「そんなアホな。」
こんなこと言ってるけど、防御に手一杯で私には余裕がない。
「シスの秘術をかけられたのが、何よりの証拠。心に隙を生んでいるのは、自分自身によるもの。」
そう言ったマスターを、フォースで押し飛ばす。受け身を取ったマスター・シャンは、何事もなかったかのように優雅に立つ。
「隙なんてありません。用心はしていました。」
「それなら、なぜ私が現れたのか分かるはず。その意味を考えたの?」
「考える必要はないです。マスターが現れた、それだけ。」
冷めた視線に、マスター・シャンは眉を寄せる。
「何も分かってないのね。アリス、貴女が逃げることをやめない限り、未来はない。」
「立ち止まれって?説教も大概にしてください。ジェダイの滅亡を、目の前で見たくない。」
「ドゥークー伯爵が忠告した通りよ。逃げてばかりでは、何も解決しない。」
「フォースの意志が、ドゥークー伯爵の言葉を使うんですか?あいつはシス卿なのに。」
「シス卿だからよ。ドゥークーはシディアスのアプレンティスだけれど、彼にも理想がある。貴女を嫌うのも、その理想に反しているから。全てのシス卿が、同じ理想を持つわけではない。」
ドゥークー伯爵の言葉を、また思い出す。
シスの忠告なんて無視してたけど、フォースの意志にまで同じことを言われた。シディアスに弄ばれたのは、その業なんだと痛感せざるを得ない。今まで耳を塞いできたツケだ。
ドゥークーは間違っていなかったけど、なんか腹立つ。
「やっと理解したようね。近い未来、貴女は孤立する。信用していた者達に追われ、後戻りは許されない。」
「私にどうしろと……?」
「これから、貴女にツタミニスを学んでもらう。短時間でね。」
ツタミニスは聖堂で教えられてはいるけど、殆どのジェダイは扱えない。熟練したジェダイで使えると言ったら、アナキンかマスター・ヨーダくらいじゃないだろうか。それくらい難易度が高い。
もちろん、私はできない。
「ライトセーバーを渡しなさい。」
「冗談ですよね?」
「本気よ。ツタミニスを使うとは、どんな状況だと思うの?」
「………追い詰められた時?」
「ご名答。ということは、ライトセーバーは必要ないわよね。」
フォースでライトセーバーを奪われ、マスターは私のライトセーバーも使って切りかかってくる。
素手でどう戦えと!?
マスター・ヨーダのように、フォースに熟練しているわけじゃない。私にツタミニスができるとは思えない。試しはいらないとよく言われたけど、これは試さなくてもできないと分かる。
「避けてばかりでは終わらないのよ。」
「っ……!」
右腕の二の腕にライトセーバーが掠る。
ライトセーバーの相手に、どう反撃すればいいのか分からない。防御に手一杯で、考えている暇はない。というか、考える時間を与えてくれない。
不意にフォース・プッシュを受け、壁に背を打つ。冷戦や、シス帝国と戦ったマスターのフォースは、想像以上だ。マスター・シャンの実力に比べたら、私なんて足元にも及ばない。
立ち上がる前に、マスターの青いライトセーバーが眼前に突き付けられる。
マスターの殺気は、間違いなく本物。
「ツタミニスを習得しなければ、ここで死ぬことになるわ。」
「そんなこと………」
「ないと思ってる?確かに、私は3000年程前のジェダイだわ。けれど、貴女と私が向き合っているこの状況は、現実よ。」
現実だというのは、理解している。理解できていないんじゃない。したくないんだ。
「経験から学ぶのも、ジェダイの教え。それが無理なら、貴女はここで死ぬ。」
「これが経験?馬鹿馬鹿しい。」
「そう、残念だわ、アリス。」
マスターのライトセーバーが、真っ直ぐ私に突いてくる。何度予知しても、ライトセーバーが私を貫くことは変わらない。
ただ、行動しなければ、だ。
「っ!!」
両手を突き出し、手の平を重ねてライトセーバーを素手で受け止める。フォースに集中して、プラズマの刃を必死に防ぐ。自分はできると己に言い聞かせ、歯を食いしばる。
ツタミニスを、習得できたんだ。
そこで、突然ライトセーバーが収められ、私は膝をつく。
「期待を裏切らなくて良かったわ。」
「やめてください。」
「なぜ?」
「私が何を考えてツタミニスを成し得たのか、分かりますよね。」
「ええ。」
唯一考えたのは、フォースの語りかけを拒むこと。
フォースの語りかけを無視して、自分の意志を貫いたら、自然にできた。ジェダイなら、本当だったらフォースと強い繋がりがなくてはいけない。なのに、私は反対のことをした。
会得した要因が、シスの思想に近いんだ。
「自覚させる為だったんですね。」
「その通り。暗黒面と戦う上で、貴女には決定的に足りないものがあった。それが、暗黒面に近付いている自覚よ。」
「ツタミニスが一番手っ取り早い、と。」
「ええ。」
マスター・シャンはそう言うと、部屋の石扉を開放する。
「もう貴女を引き止める理由はない。選ばれし者と、彼の愛する者のところへ戻るといいわ。」
「ご教授感謝します。」
「最後に一つ。ジェダイが滅びる未来は変わらない。それを忘れないで、アリス。フォースと共にあらんことを。」
「はい、マスター。フォースと共に。」
礼をして、マスターに背を向ける。
部屋を出ていき、通路を抜けて寺院の外へと出た。陽の光が目に滲みて、思わず目を細める。ようやく慣れて、滝口から落ちる水流の下を通り抜けた。
来た道を歩いて沢に近付くと、アナキンが向かってきていた。
あの表情を見る限り、私に何かあったと感じたらしい。
「大丈夫か?」
「何か感じたの?」
「ああ。強いフォースを感じた。何があった?」
「寺院の力が働いただけ。」
「働いただけって……それならあんなに強いフォースは感じないはずだ。」
「いいの、気にしないで。自業自得だから。」
アナキンの表情を見ないように、来た道を戻る。草原に着くと、テントは片付けられていた。後は、戻るだけ。
ちょっとした鍛練のつもりだったのに、精神的に疲れた。
寺院の試練は、あれが最後であってほしい。