私達が去った後、パドメはスキッフを用意してC-3POと乗り込んだ。
アナキンと真実を探す為に。
パドメの感情は、困惑と不安で一杯だった。彼女と親しい私にとって、とても辛かった。その感情は、アナキンにも伝わっているはずだ。それなのに、アナキンの憎しみが和らぐことはなかった。
「行くぞ。」
小声でオビ=ワンに急かされ、私達は人知れずスキッフに忍び込んだ。倉庫に身を隠し、オビ=ワンが扉をフォースで閉める。
壁に寄り掛かっていると、パドメの感情に影響されて涙が出てきた。
泣いていることに気付かれ、オビ=ワンが顔を覗き込んでくる。
「アリス」
「何でもない。パドメの感情に涙が出てきただけ。」
「そんなはずないだろう。」
「本当に何でもないから。」
そんなことを言っているが、影響されて私も同じような気持ちになっていた。
パドメとアナキンを失うのが、恐ろしい。なぜ執着がいけないのか、今更だが理解できる。喪失への恐怖が、私を暗黒面に誘う。
喪失への恐怖が、どれだけ克服が難しいのかよく分かる。友人の死を受け入れるなんて、到底できない。アナキンを守ろうだなんて、考えが甘かった。
私はマントの裾で涙を拭って、立ち上がる。
「アリス、待て、どこへ行く?」
倉庫を抜け出そうとする私を、オビ=ワンが止めてくる。
「パドメのところに行く。」
「彼女の信頼を裏切る気か?」
「もう裏切ってる。」
こうして隠れていることが、パドメを裏切っているも同然なんだ。
「オビ=ワンはここにいていいよ。私は出て行く。」
「………」
倉庫を抜け出して、コックピットへ向かう。
ここで逃げたら、パドメを守れない。アナキンが、パドメに手を出すかもしれない。
コックピットに着くと、パドメと3POが私を見て驚く。
「アリス!?」
「パドメ、ごめん。」
「マスター・レイン!あぁ…なんてこと……」
頭を下げる私に、パドメが座席から立ち上がる。
拒絶されることを覚悟していると、パドメが口にしたのは予想したものと反対の言葉だった。
「ごめんなさい、アリス。」
「え……?」
顔を上げると、彼女はアパートメントで話した時より悲しそうな顔をしていた。
「そんな表情をさせてしまった…」
「パドメのせいじゃない。」
「いいえ、何かあるんでしょう?」
「何かあるわけない。私はただ、パドメとアナキンの幸せを、」
「貴女の幸せは?」
そう問われて、私は黙り込む。
自分の幸せなんて、一度も考えたことがなかった。考えていたのは、パドメとアナキンのことと、逃げることだけ。ルード議員に求婚された時も、自分のことは考えず、議員のことしか考えてなかった。
「貴女は、ジェダイ・オーダーを去ることができたはずよ。」
「そんなことない。」
「あえて残っていたんでしょう?でなければ、ジオノーシスで私を庇ったりしないはずだわ。」
間違いじゃない。私を突き動かしてきたのは、パドメとアナキンの友情だ。その友情がなければ、私はジェダイ・オーダーからも逃げていた。
「アリス、ありがとう。」
パドメはそう言って、私を抱き締める。
これを最後のハグにしたくない。足掻けるだけ足掻く。今回だけは、逃げない。
「これからアナキンに会いに行くんだね……」
「ええ……」
パドメは否定しなかった。
コックピットのナビは、ムスタファーの座標が入っていた。アナキンは、ムスタファーにいる。
「パドメ」
「どうしたの?」
「アナキンを愛してる?」
「愛してるわ。アナキンが無事なら、私はそれでいいの。」
このまま行けば、私はアナキンに殺される。あの悪夢が現実になるんだ。散々回避する方法を探してきたけど、避けられないらしい。
「安心して。私には殺せないから。」
「アリス………?」
「大丈夫。」
パドメは“殺せない”の意味を分かっていない。私は“殺さない”んじゃなく、“殺せない”。アナキンの方が強く、私には太刀打ちできないから、殺されるしかない。どう考えても、殺される道しか見えない。
アラートが鳴り、船がハイパースペースを抜けたことを告げる。スキッフは、ムスタファーにプラットフォームに着陸した。
着陸した後、パドメは頭を抱える。
アナキンに会いに来たものの、私とオビ=ワンが言ったことが嘘だと信じたいんだ。アナキンはパドメへの愛はあるが、それは行き過ぎた愛だ。行き過ぎた愛は、失うと負の感情に繋がる。
外にアナキンが見え、パドメはスキッフのハッチを駆け下りていく。
「君の船が見えた。どうして来たんだ?」
アナキンは、パドメを抱き締める。
一緒に出てきた私の姿を見て、アナキンは顔を歪めさせた。
あぁ、これはもう死亡フラグだ。
「アリス……」
「アナキン、話を聞いて。」
「何を聞けと言うんだ?最高議長から、もう全部聞かせてもらった。あんたに聞く話はない。」
やっぱり、シディアスに吹き込まれている。
「私も殺す気?」
「ジェダイは滅ぶべきだ。あんたもだ。」
「子供まで殺して、産まれる子供に胸を張れる?」
アナキンはパドメを見る。
私が言った子供とは、パドメのお腹の子ことだ。
「アナキン、嘘よね……?」
「パドメ、銀河の為なんだ。」
「信じられないわ…嘘……子供達まで殺したのよ!?」
「仕方ないんだ。新しい帝国の為、ジェダイは滅ぶべきなんだ。」
「けど、オビ=ワンとアリスは友人でしょう?どうして……?」
どうして?
それは、アナキンが大切なのはパドメだけだから。シディアスに吹き込まれたアナキンは、私とオビ=ワンを信用しなくなった。
「その代償は?アナキンもアリスも善人でしょう!お願いアナキン、やめて!」
「パドメ、アリスが未来を知っていたとしたら、どうする?」
「え……?」
「アリス、パドメが死ぬと知っていたな?戦争も、母のことも!」
「まさか、そんな……」
「議長を信じるの?」
「否定しないんだな。」
否定したところで、アナキンの信頼を取り戻せるとは思えなかった。
予期した通り、私の言葉は届かなかった。アナキンは完全に、暗黒面に呑まれてしまった。私の声が届かない、深淵の底へ。
「私のことは殺してもいい。けど、約束して。何があってもパドメに手を掛けないって。」
「分かった、誓おう。」
「アリス!ダメ!」
ライトセーバーを起動させ、アナキンが真っ直ぐ私に向かって歩いてくる。
私は動かず、黙って立っていた。
一歩、また一歩と近付くアナキンは、とても怖かった。映画でパドメが叫んだように、目の前のアナキンも別人のようだった。私を慕っていたアナキンは、過去の幻影だ。
パドメは、アナキンの豹変ぶりにショックを受けていた。
アナキンがパドメの為に行ってきたことが、パドメを苦しめている。私の行動も、パドメを悲しませている。私もアナキンも、それを分かっていなかった。
「アナキン!やめて!お願い!」
「君も裏切るのか?」
「違うわ!貴方が裏切ったのよ!アナキン、私、生きるのが辛いわ……!」
涙を流すパドメに構わず、アナキンはライトセーバーを振り上げる。
私は抵抗せず、その罰を待つ。
アナキンの表情が、悪夢で見た姿と重なった。夢で見た表情、感情、心の苦しみが、私を襲う。これは、現実だ。
現実を受け入れよう。