何も見えず、何も聴こえない。
私はまだ、暗い空間にいた。暗黒面のフォースが私を捕らえて、身動きができない。外の様子は分かっても、薬のせいで意識は虚で、何もできない。
いっそのこと、エズラが殺してくれたら良かったのに。
いや、やはりダメだ。エズラが私を殺したら、彼は暗黒面に踏み込むことになる。あの子に手を下させてはいけない。
シディアスは、私のことをよく分かっている。
自分の意志ではないとはいえ、ダンタムやエズラを傷付ければ、私は苦しむ。操られた私が、2人を殺そうとしているんだ。どうしようもなくて、心が苦しい。
奴は、私の弱さを理解している。抗えないことも、知っている。抗うには暗黒面の力が必要だということも、その暗黒面に頼ろうとしないことも分かっている。
『何がジェダイ・マスターだ……』
呟いた声は、暗闇に木霊する。
次の瞬間、“尋問官”はダンタムを殺そうとライトセーバーを振り上げる。必死に抵抗し、奴の動きを止める。最悪の事態は免れたが、尋問官は自らの手の甲を、ライトセーバーで貫く。
痛みが私を襲い、思わず悲鳴を上げてしまう。
痛みと同時に、暗黒面が私を呑み込み、意識を手放してしまった。
どうか、誰も殺していませんように。
────────
惑星ヤヴィンの衛星、ヤヴィン4。
戻ってきたエズラとルードは、意識のないアリスを連れ帰ってきた。彼女はすぐにバクタ・タンクに入れられて、治療が施された。会議室に入ったルードは、モスマに頭を下げ謝罪する。
「モスマ議員、エズラを連れ出したことを謝罪したい。」
「謝罪は必要ありません。しかし、一言くらい相談していただきたかったです、ルード議員。」
ルードは反乱軍の意向と関係なく、惑星ガレルに訪れていたのだった。エズラを伴ったのも、彼の独断だった。
「貴方には本当に、クローン戦争の頃から苦労させられます。」
「どういう意味だ?」
「アリバイ工作に、元老院の、」
「もういい。やめてくれ。」
「レイン将軍ですが……医療ドロイドによると、昏睡状態の原因が分からないそうです。最悪の場合、このまま目覚めないことも……」
「諦めない。アリスも、希望を信じるだろう。」
ルードは会議室を後にして、アリスのバクタ・タンクの前に近付く。彼女は、以前眠り続けたままだった。誰が話しかけても、反応しなかった。
「ルード議員、よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「奥様のお身体ですが、薬が過剰投与されていることが分かりました。」
医療ドロイドがルードにパッドを渡し、アリスのカルテを見せながら説明する。
「薬?すぐ解毒できるのか?」
「すぐには不可能です。」
「なぜだ?」
「一度の過剰投与ではないからです。操られていたのは、長い時間をかけた過剰投与のせいです。薬を抜くのも、時間がかかります。」
「どれくらいかかる?」
ルードの問いに、医療ドロイドは考え込む。ドロイドが長く考える程、容態は深刻だと物語っていた。ドロイドはルードに、はっきりと不明だと答える。
「データにない薬品です。肉体と精神にどのような影響を来すのか、予測不能なのです。肉体が完治した後、精神的損傷を克服するのは本人にしかできません。」
「………」
「議員、彼女はジェダイですね?」
「そうだ。それがどうした?」
「でしたら、奥様の気力次第です。私のデータ上、ジェダイは全てにおいて未知数です。良くも悪くも、希望は捨ててはいけません。」
そう言って、医療ドロイドは次の仕事に移る。
アリスはルードの妻だが、ジェダイでもある。ルードはそれを再認識して、希望を信じることを決めた。アリスが常に信じていた、未来の希望を。
最愛の人に幸運が訪れることを、ルードは祈った。
────────
暗闇の中で、一人で正座する。
肉体の感覚を感じられないけど、正座をするつもりで心を穏やかにした。
暗黒面の力に立ち向かってばかりでは、私に未来はない。暗黒面を理解して、受け流すことも覚えなければいけない。現実のツタミニスと同じように。
今になって、ツタミニスの意味が分かった。
『アリス』
この場所にいるはずのない声が聴こえる。
私がよく知る声だ。
『アリス、希望を見失うな。』
声の方に振り向くと、小さな光が見えた。消えそうな光だけど、とても大切な光だと感じた。消してはならない。
その光を掴むように、手を伸ばした。
届きそうで届かなくて、膝をついたと思ったら、ダンタムと婚儀を挙げた屋敷にいた。静かな空に、綺麗な山々が目の前にあった。だけど、最愛の人は隣にいない。
屋敷の中に踏み込むと、外とは打って変わり、とても静かだった。
ダンタムの名前を呼ぶが、屋敷の中にもいない。どの部屋にもいなくて、私は屋敷を飛び出す。山道を走り、木々が開けたところで急停止した。
一歩先に進めば、崖下へ真っ逆様だ。
『アリス』
さっきと同じ声に振り向けば、今度こそダンタムが立っていた。
『アリス、どこへ行く?』
目の前にいる人は、ダンタムじゃない。
恐怖を覚えて後退るが、少しでも動けば崖から落ちる。裸足でいることに気付いたけど、そんなことはどうでも良かった。とにかく、目の前にいる誰かが怖い。
『こっちに来るんだ。手を掴め。』
『嫌だ……』
『アリス!!!』
『っ!!!』
その怒号に萎縮してしまい、足を踏み外してしまった。悲鳴を上げ、私は崖下に落ちていく。底の見えない闇に呑まれるようだった。
落ちた場所は、どこかの玉座の間だった。よく見れば、この場所を私は知っている。立ち上がって辺りを見渡すと、懐かしい人がいた。
『パドメ』
彼女の名を呼ぶと、パドメは私に向き直る。彼女は女王としての姿で、私は当時と同じジェダイ・ローブを着ていた。会いたかったと言って抱き締めれば、彼女は何も言わずに抱き返してくれた。
『“私達”と同じ過ちをしないで、アリス。』
『同じ……?』
『アナキンは、私の為に道を踏み外したの。貴女も、ルード議員の為に間違ったことをしようとしている。今の貴女は、あの時のアナキンよ。』
『どうすればいいの?』
『心から信じて、彼を。そして、善い心を。アナキンにも、善い心は残っているわ。どうか見失わないで。』
段々とパドメの姿が薄れて、私は彼女を必死に呼び止める。
まだ言いたいことがあったのに。
次の瞬間、私はバクタ・タンクのガラスに額をぶつけていた。それに気付いたドロイドが、誰かを呼んでいた。私はガラスを叩き、今すぐ出すように懇願する。水が抜かれてガラスが開くと、座り込む。
真っ先に駆け付けたダンタムにタオルをかけられ、抱き締められた。
「会いたかった……」
人の温もりがこんなに心地良いなんて、初めて知った。