【完結済】Fate/Grand Order 煉獄魔境大罪記ゲヘナ/虚ろなる煉獄の聖杯【長編版】 作:朝霧=Uroboross
マモンは自身の宝具で造り上げた万魔殿の玉座で、優雅にワインを飲んでいた。
というのも、この玉座は魔力回復、ワインはダメージの治癒をかねており、決して慢心しているわけではなかった。
悪魔だなんだと言われる彼らだが、そこには各々の
「────ふぅ、ちィっとばかし飛ばしすぎたか……」
すっかり疲れきった顔で背もたれに体を預けるマモン。内包する魔力は確かに悪魔であるが故に膨大であるが、だからといって無尽蔵にあるというわけではない。
宮殿の周囲に取り付けられた監視カメラ代わりの"
「戻るまであと4割……流石はサーヴァントってとこか……」
そこには先程までの下卑たような苛烈さはなく、まるで上に立つ者かというような圧倒的な空気をかもしだした"王"がいた。
もうしばらく休んだらいくか────そうマモンが思った矢先のことだった。急激な魔力の高まりを感じ、急いでその方向を確認する。
「オイオイオイオイ、冗談じゃねぇぞあの"槍"はよォ!?」
魔力の高まる場所を見たマモンは、必死といわんばかりに宮殿の防御結界を張り直す。
だがしかし、時既に遅しというべきだろう。魔力の集中体は極光を放ちながら宮殿へと向かってくる。
────其は全ての幻想に楔を穿つもの、全ての夢想を砕くもの。かつて誇り高き騎士王に与えられし偉大なるもの。輝けるは聖槍、名を────"ロンゴミニアド"と。
「あそこです」
しばらく樹海の中を歩き回り、ついにグレイが一点を指差す。そこは──────、
「おい、なんにもねぇぞ」
カゴの中の真ん中の虚空のみであった。
ただその一点のみを指差していたグレイは、モードレッドの不機嫌さをはらんだ声に怯えるように身をすくめる。
しかし、その後ろからエルキドゥが前に出て、指された虚空を見つめる。
「…………へぇ、すごいね。世界の裏側に隠れるなんてさ。しかも巧妙に隠してる」
エルキドゥが感心したように言いこぼす。そう、今エルキドゥが言ったように、マモンの万魔殿はこの世界と薄皮一枚挟んだ裏世界に隠されていたのである。
グレイはそんなこと露知らずであったが、エルキドゥ、そしてギルガメッシュはマモンがその裏世界に隠れていることに気付き、小さな不快感を抱いていた。
「さて……どうやって引きずり出す?」
「決まっておろう、力づくにだ」
ギルガメッシュが不遜にもそう言い放ち、自らの宝物庫を開けようとする。しかし、そこで手をあげたのはグレイだった。
「待って下さい」
そしてギルガメッシュの前に出て、怯えを含みつつもしっかりとした目付きで、しっかりとした決意をもって対面する。
「拙に、やらせて下さい」
「…………ほう? ならば、我の行動を妨げるほどの余程な理由はあるのだろうな?」
普段と変わらないようで言いも知れぬ不機嫌さを表すギルガメッシュ。だが、グレイはキッとギルガメッシュを見て言い返す。
「拙は、まだ何の役にも立っていません。だから、拙がやるんです、やりたいんです。師匠に、拙の今までを見せるためにも」
ハッキリと自分の意見を言うグレイ。それを押し黙って見つめ続けるギルガメッシュ。
「…………ふふ、ふはは、ふはははははは!」
唐突に笑い始め、グレイは目を丸くして驚く。てっきり「万死に値する」などと鎧袖一触に振られるものだと思っていたが、返ってきた反応は予想外のものだった。
そして、
「良かろう。だが、しかと撃ち落とせよ。手抜きでもしおれば只で済むと思うな」
「っ! はいっ!」
笑みを浮かべて了承するギルガメッシュに、喜色満面で返事をするグレイ。そして、ギルガメッシュらから離れ、マモンが隠れている方へと体を向ける。
その傍ら、エルキドゥがギルガメッシュの隣へと歩み寄る。
「珍しいね。ギルから譲るなんてさ」
「なに、あの騎士王と同じ顔をした人形が、どのようなことをするかが楽しみになっただけだ」
仁王立ちで変わらずに言うギルガメッシュに、エルキドゥは「全く、素直じゃないね」と呆れ気味で返される。そんな反応に、多少ムスッとしながらなものの、グレイの動向を観察するギルガメッシュだった──────。
──────許可された、良かった。グレイはそう思っていた。一か八かだったか、不機嫌になるよりも、まさか笑われるとは思ってもおらず、呆けた顔をしてしまったグレイだが、今はその顔を引き締まっている。
「スゥー……フゥ…………行くよ、アッド」
「おうさ! 任せなグレイ!」
匣を天に掲げ、グレイは匣へと魔力を集中させていく。否、匣にかけられし"封印"を解く言葉を述べていく。
「……"Gray……Rave……Crave……Deprave……"」
グレイが綴る言葉が連なるにつれて、アッドの雰囲気がガラリと変わっていく。それはまるで、今までのは全て演技で、その無機質な機械のような雰囲気こそ本当のものなのだと言わんばかりに。
『擬似人格停止。魔力の収集率、規定値を突破。封印礼装、第二段階限定解除を開始』
「"Grave……me……。……Grave……,for you…………"」
次第にアッドは、匣の形から巨大な光の槍へと姿を変えていく。そうして、その槍先をマモンが隠れているであろう中心部へと向ける。
「古き神秘よ、死にたまえ。甘き謎よ、ことごとく無に還れ。──────聖槍、抜錨。『
輝ける螺旋を描いて、それは放たれる。全ての幻想を打ち砕く聖槍は、確かにその宮殿へと向かい、そしてそれを護らんとする結界に阻まれる。
だが、その結界も、まるで紙を貫くかのように破れていき、ついに最後に拮抗していた結界でさえも打ち破ってその宮殿を捉える。
聖槍の光は、宮殿の中央には巨大な穴が空け、あまつさえ茨を檻さえも貫いて破壊して彼方へと飛んでいく。地響きを鳴らして墜ちていく宮殿から、一つの人影が舞い降りる。
「……やってくれンじゃねぇか、テメェら。────死ぬ覚悟はできてンだろうなァッ!!」
そこには、墜落する宮殿を背に、とてつもない威圧感を持って激昂するマモンの姿があった。