【完結済】Fate/Grand Order 煉獄魔境大罪記ゲヘナ/虚ろなる煉獄の聖杯【長編版】 作:朝霧=Uroboross
1-1 日常の一幕
〈カルデア内 外周廊下〉
「治療の時間ですッ!!」
「どう見ても治療じゃないよっ!?」
医療用のメス(どこからどう見ても鉈)と包帯を手に走る看護師の姿をした《サーヴァント》と、それから必死に逃げる少年。
この少年こそ、そう遠くない以前に人類最後のマスターとして戦い抜いた人類史の"希望"、『藤丸 立香』である。
そんな少年を追いかけているのは、第五特異点において共に戦った、《クリミアの天使》こと『ナイチンゲール』。
「毎回だけどただの足の擦り傷だよ婦長!?」
「擦り傷であろうと治療は必要です!!」
──それだけで切断案件なんて洒落にならない────立香はそう思いながらカルデアの中を逃げていく。その中で、ふとロマン博士がいたらこんなことには、と思った時、
「わぶっ!?」
「きゃぁ!?」
ふと、立香は自分が何かとても柔らかいものの中へと顔を突っ込ませた。それと同時に女性の驚きの混じった悲鳴のようなものも聞こえてきた。
ナイチンゲールに追いかけられて慌てていたのもあってか、大急ぎで立香はそこから抜け出す。
「はぅぅ……」
「わわっ、ごめんリップ。大丈夫?」
顔を離して目の前を見ると、恥ずかしいそうに顔を赤くして困ったような顔を浮かべている『パッションリップ』と、呆れたような、それでいて非難めいた目を向ける《メルトリリス》の二人がいた。
「うぅ……手、手が……」
「え? ……あ! ご、ごめん!」
未だにリップの胸元に手を置き続けていたことに遅まきながら気付き、慌てて離す立香。その勢いで数歩後ろによろめいてしまう。
「はぁ……ほんと、ハーレム案件にならないと気が済まないんですかぁ? センパイ」
そんな呆れ口調ながらもどこか面白そうに言いながらリップの後ろから現れる《BB》。
そんなBBに対して、と言うよりもリップに対して弁明をしようと立香は口を開きかける。
「────捕まえました。時間が惜しいので手術を行います」
「へぁっ!?」
気付けば真後ろにナイチンゲールが立っており、そのまま襟首を捕まれ、身動きができない体制にまで持っていかれる。
──────立香はメルトに助けを求めた!
「何? アンタみたいな愚鈍なマスターなんて助けるわけないじゃない。というか、ここじゃなくて医務室でやって。私のヒールに汚い血がついたらどうするのよ」
そう冷たく突き放すメルトリリス。立香のすがるような目に少し気まずく、けれどもどこか悦んでいるようにも見える。
ナイチンゲールがメルトリリスの言葉に対して少し考えるような素振りを見せた後、立香を引きずってその場から離れようとした。
「おやマスター、丁度良かった。今ホットケーキが焼けたところなのだが────生憎と忙しそうだな」
「
「……分かった。だからそのオカンと言うのはやめてくれ」
そんな言い合いをしつつ現れたのは《エミヤ》である。立香の心の声が駄々漏れレベルではなくはっきり言っていることに対してツッコミをいれながら、エミヤはナイチンゲールと対面する。
「その治療精神は尊敬するが、いきすぎれば毒にもなるぞ、ナイチンゲール女史」
「ですが、いかに擦り傷とは言えそこから伝染病が────」
立香は黙して話の流れを見ながら、エミヤの救いに期待していく。
「何、その程度の傷ならば唾をつけておけばすぐに治る──────おっと……」
エミヤの口が滑る。その場に一瞬の静寂が流れ、気まずいような空気が流れる。
最初に口を開いたのはナイチンゲールだった。
「……気になる治療法ですね。それは本当ですか?」
「いや何、ただの言葉の綾なのだがね。実際の効果の程は私もよく知らないのだよ」
「ふむ…………」
そう思案して、ナイチンゲールは立香の方を向く。立香はそこから関連してとても嫌な予感がしていた。
このサーヴァントとしてのナイチンゲールは治療や医療の為ならば一切のことをためらいもなく行動する。
そして、立香の危惧ははたして、現実のものとなる。
「……成る程、試して見るのも一考ですね」
そう言ってナイチンゲールは立香の傷口に口を近づけていく。
「うぇ!? ふ、婦長!?」
本人は医療関連として真剣にしようとしているのだが、いかんせん傍目から見ればそれは足に口づけしようとしているかのようであった。
そうして唇が触れかけた時、
「────ップッ。これでいいでしょう。経過については後日医務室にて聞きますので安静に」
「「「「………………」」」」
そう言ってスタスタと去っていくナイチンゲール。その場にはなんとも言えないような空気が漂っていた。
だが、それも仕方ないと思われる。なぜならあの空気から察するにそのまま唇を付けかねず、そうでなかったとしても唾液が扇情的に見えるやもしれないと思うところがあったのだ。
しかし、現実はそうではなく、ただ唾を吐きかけられただけである。より当てやすくするために顔を近づけた、ただそれだけなのだ。
「あー…………すまない。お詫びといっては何だが、マスターのホットケーキは少し豪華にしておこう」
「……うん、ありがとうエミヤ。そうだったね、婦長はあれが標準だったね…………」
なんとも言えない空気の中、二人の気まずそうな会話から横槍が入ってくる。
「ふん、私の方がよく効くわよ……」
そんな風に軽く拗ねたような声が、立香の後ろからする。ふと振り向くと、メルトリリスが立香の頭を自身の服の袖でペシペシと叩き、顔はそっぽを向きながらに言っていた。
そんなメルトリリスに立香はすこしはにかんで見せる。
「うん……そうだね、ありがとメルト」
「ッ…………。ナマイキなのよ、アホでバカで鈍感でトロくてマヌケっ面のくせに……」
そう言って叩く勢いは増すものの、メルトリリスの顔はほんのりと赤らみており、そこには二人だけの空間が出来上がろうとしていた。
「はいはーい! そんな甘い空間は超どうでもいいので、というか他人の目の前でしないでくれますぅ?」
だが、不機嫌そうに眉間を震わせながらBBが二人の間に割って入ったことで、二人ははたと正気に戻り、立香は座り込んでいた姿勢から立ち上がる。
多少驚いたのか焦ったのか、少しばかりもたつきながらであったが、エミヤに連れられて食堂へと向かう。
行きすがらエミヤは周囲を、何かを探すように見渡し、立香に聞く
「そういえば、キリエライト嬢は一緒じゃないのかね?」
その質問に立香は「あー……」と思い出すかのようにして答える。
「マシュはダ・ヴィンチちゃんに呼ばれていったかなぁ」
修正:メルトのセリフを改変しました。ちょっと違和感あったもので……。