ちょっとモテてる彼には、迫ってくる女の子たちの行動の意味がわからなかった。
「先輩……あの、一緒に帰りませんか?」
これがわからない
僕は自転車通学だし、こいつも自転車通学。駐輪場で会ったことがある。
つまり、二人で自転車で帰ることになる。
それになんの意味が?
帰るときにおしゃべりしたいのなら自転車通学では諦めるべきだ。だって自転車で横並びに走るのはルール違反だ。
かと言って縦に並んで話そうとしてもよく聞こえない。
大声で叫びながら話すことになる。
ならいっそ自転車押せば? いやいや、家から遠くて歩きじゃ時間がかかるから自転車通学しているのだ。歩いていたら本末転倒だし、めちゃくちゃ時間がかかる。帰って勉強したらなんだりしたい。時間は有限なのだ。
そもそもそんなこの子と仲良くないし、そこまでの時間間が持つのだろうか。
もし途中で会話がなくなっても別れ道まで距離があったら? きまづいだろう?
黙って並んで押して歩くのか? それとも「じゃあ」なんて言って自転車に乗るのか? 自転車に乗って黙って分かれ道まで行って「また明日」なんて別れてみろ。その明日は来なくなるぞ。
というか自転車を押して並んだらもっとじゃだろうが。自転車の分厚みが増すんだぞ? 鉄壁のディフェンスがもはやダイヤモンドのディフェンスになってしまう。そして腕も足も疲れる。
そんな思いをしてまでこの子は僕と帰りたいのか? それとも一緒に帰るというイベントに憧れているだけで何も考えていないのか?
わからない。
この子の真意がわからない。
「今日用事あるから、ごめんね。また今度ね」
これが多分正解。角の立たない断り文句。保留、先送りともいう。
しょうがないじゃないか。考えた結果一緒に帰るとめんどくさいんだ。どんな結果になってもめんどくさい。もうちょっと無言でも気まずくない仲になってからにしてくれ。もしくは共通のハマってるものでも見つけてくれ。語るから。
「そ、そうですか……。わかりました。また今度機会があれば」
「うん。じゃあまたね」
「はい。お疲れ様でした。また明日、先輩」
一人自転車に乗って帰る。これでよかったのだ。だって1時間はかかるし。そうそう高校なんて近くにないんだよ。アニメとか漫画で歩いて帰るのはバスとか電車とかの通学なのか? 本当に定期代と見合った距離なのか? それともお金持ちか?
良いなぁ金持ち。金持ちの息子とかがドラマとかでいう「親に敷かれたレールの上を走るのはもう嫌なんだ!」的なこと言うの嫌いだ。なんだよ良いじゃんか敷かれたレール。僕も敷かれたレールの上を走りたい。お前そのまま行けば将来安定やぞ? 大体めんどくさい親に描かれてるけど間違いなくお前を思ってのことだからな? 良いじゃん、ちょっとずれても別のレールがあるよ。だって親が金持ちだもん。なんとかなるさ。金があればどんなことでも学べるぞ? どんな環境だって整えられるんだ。羨ましい。文句言うななら変われよ。なんで貧乏の女の子に惚れるの? 僕に惚れろ。養ってくれ。なんで明るく優しくて黒髪ショートの貧乳でそれを実は気にしつつも気にしてない体を装うスレンダークール系の幼なじみで家が隣の石油王の娘がいないんだろうなぁ……。
いたらこんな感じの黒塗りの高級車で送迎されてるんだろうなぁ……って、見たことあるなこの車。
「オーホッホッホッ!! なんですのその自転車は貧乏人は自転車も貧相ですのね! かわいそうですから家まで送って差し上げてもよろしくてよ?」
これがわからない。
なんでこんなに高飛車で人を馬鹿にした地位度をとるのだろうか。こっちが金持ちへの羨望を口にせずに隠してるんだからそっちも思ってても隠して欲しい。
そもそもなぜ馬鹿にする対象の貧乏人の僕を送ってこうとするのか。僕に好意を抱いてるからだろう。
だとしたらもっと疑問だ。そんな態度で好きになる人がいるのだろうか。高飛車お嬢様が許されるのは二次元だけだぞ。現実じゃあただの嫌味な成金くそやろうだ。馬鹿にしやがって、SPとか黒服がいないところで犯すぞ。する度胸もないけど。捕まるし、なんなら捕まる前に黒服に殺されるし。ちょっとした怒りで命を捨てる僕じゃない。
話が逸れた。まぁ、なんというか。そんな態度で来られるとヒモになれるかなって思ってもちょっとキツい。いや、だいぶキツい。これが毎日同じ場所に住んでて続くと思うとストレスで死ねる。
もしかしたら関係が深まればデレデレになって現実もペロペロ舐められるほどの甘々な生活が待ってるかもしれない。見た目は可愛いし。そうなったら良いけどなって見ないとわからない。
そして変に近づいてもし、捨てられたら? もしくはこっちが捨てるようなことになったら? 絶対面倒だぞ。そしてヒモには多分なれない。だって僕が親だったらヒモなんで許さないもの。彼女にお金があるんなら良いけど、今はまだ彼女の親が金を持ってるわけだし。お家のゴタゴタに巻き込まれたくない。できることならやり手のキャリアウーマンで年収ウン千万円稼ぐようになってからアタックしてきて欲しい。成人して金稼いでれば家も強く出れないでしょ。もしなんらかの強硬手段に出られても大丈夫なように実業家としてのし上がってからが一番良い。喜んでヒモになる。その歳まで思ってくれてるならストレスとか感じる前に喜びで埋め尽くされるよ。男冥利に尽きるね。うん。
「ありがとう。でもお手を煩わせるわけにもいかないから大丈夫だよ。自転車つむところもないし、置いてくわけにもいかないから」
たぶんこれが正解。きっとトゥルーエンドに繋がってると信じてる。黒服が睨んでるの怖いし早く行って欲しい。時間をかけてる場合じゃないんだよ。学校の帰りは大体お腹痛いんだ。うんこが漏れたらどうしてくれる。人として終わってしまうだろうが。もしそうなったら養ってくれるのか? ……くれそうだからちょっと困る。
「あら、そうですの……。わかりましたわ、お邪魔しましたわね。また明日学校で会いましょう。ごきげんよう……」
しょんぼりしてたな……ちょっと可愛かった。心なしかアホ毛も垂れてるように感じたし。
お腹の中の津波と戦い抜き家にたどり着く。よかった。僕の人生はまだ無事だ。生きてるって素晴らしい。早く早くと焦る気持ちを落ち着けながらしっかりとでも素早く家の鍵を回す。
ガチャガチャ
ン???
閉まってる? 今開けたよな? いや、もしかしたら焦って二度回してしまったのかもしれない。落ち着け。ここで時間を食ってるとやばいぞ。こういうのは一歩間に合わずに死ぬんだ。映画で見た。
「あ、おかえり。なに? 鍵開いてるのわからなかったの?」
なんで僕の家にいる? いや、わかる。わざとらしく身に着けているエプロンと左手のお玉が答えを僕に教えてれる。こいつはご飯を作っていたのだろう。朝母親が今日遅くなるとか言ってたし、どこからか聞いたのか母親殿に頼まれたのかは知らないが、たぶんそういうことだ。
でも母親殿、それは明らかに悪手でしょうよ。だってこの幼馴染は死ぬほど料理が下手だもの。メシマズヒロインが許されるのは二次元だけだから。飯が不味いとか普通に嫌だ。飯はうまい方が良い。なんだって不味い飯をくわにゃならんのだ。こいつに作らせるくらいなら自分で作る。現代はなんだってレンジで作れる良い時代なのがわからんのか。しかもこいつ不味いとか言ったり、残そうとすると泣くんだもの。お前マジそれやめろ。女の涙に庇護欲そそられるのはそれなりに余裕のあるヤツだけだから。お前の飯でそんな余裕ないから。追い打ちで瀕死になるだけだから。だが現実は非情で瀕死になっても交代はできないんだ……。誰か変わってくれよ。ダークマターとかのわかりやすいメシマズじゃなくて、調味料の量や種類が微妙に違うリアルなメシマズだから。材料がもったいない。もったいないばあさんがでるぞ。むしろ僕がもったいない爺さんになる。
「あ、あぁ。来てたんだ。悪い、今腹痛いからさちょっとどいてくれない?」
「あ、ごめんごめん。どうぞごゆっくりー」
お前バカやめろよ。男の子は小学生の時からうんこするのをバカにされすぎて、嫌気がさしてるんだぞ。ほんとそういうところやぞ。
ふぅ……
今日の飯は何だろうか。塩と砂糖を間違えてなければいいけど。メシマズの王道だけど一番単純に不味い間違いだからな。やっぱ王道って王道になるだけの理由はあるんだよな。匂いてきに味噌汁は確定だろうな。って、あいつ味噌汁のお玉持ってたのかよ。お玉持って歩きまわるなよ床に垂れたら汚いだろ。掃除する前にスリッパで踏んだらもう大変。目を皿にして床を見なければ。
「いただきます」
「はい、めしあがれ」
結局床に垂れた味噌汁は見つからなかった。垂れなかったのか、拭いたのか。あいつに聞くまではわからない。シュレーディンガーの味噌汁。その味噌汁を一口……うん。普通。ちょっとしょっぱい程度。普通に食える程度。だが二杯は飲みたくない。塩分取りすぎてやばくなる。……いや、これ僕がしょっぱいのに慣れたのか? それはまずい。調教されてるじゃないか。うちの親はなぜかこの幼馴染と僕をくっつけようとするからな。飯になれたとバレたら包囲網が一気に狭まりそうだ。いやだ!! 僕は飯が上手な娘と結婚するんだ! 具体的には唐揚げをちゃんと揚げてくれる娘とか。最近は家で揚げ物する家庭が少ない気がするのは僕だけだろうか。くたくたになって仕事から帰ってくると鼻腔をくすぐるのは揚げたての唐揚げの匂い。一気に腹が減るのを感じながらキッチンで唐揚げを作る嫁の横に。出来立ての唐揚げを一つ盗み食いをして「もう、早く着替えてご飯にしましょう」と言われる。そんな嫁と結婚するんだ。
「どう、おいしい?」
「普通」
「そっかー。結構上手になったと思うんだけどなぁ」
「ごちそうさまっと……。まぁ、前よりはおいしいよ」
「ほんと?! よかったぁ……」
しっかしキッチン汚いなぁ。これ僕が片付けるのか? この惨状を? 勘弁してくれ、いつになったらあいつは後片付けを覚えるんだ? 後片付けというか掃除だけど。料理は食えるようになってはきた(僕が調教されていることには目を向けない)が、それ以外なにもできないからなぁ……あいつ。バカだし、不器用だし。ほんとに結婚できるのか? 家事のできる男を捕まえないと一人暮らしも厳しいんじゃないんか? あーやだやだ。高校でたら一緒に住むことになりそうで嫌だ。近所付き合いってつらい。親の庇護下にいるから逆らえない。いや多分本気で嫌がればやめてくれるだろうけどさ。日本人ってつらいよね。雰囲気に負けちゃうんだもの。早く彼女か養ってくれる寄生先をみつけなければ。できれば寄生先をね。
夜。というか深夜。誰もが寝静まる丑三つ時。嘘。誰もがってことはない。きっと社畜が徹夜で仕事をしているし、ニートがゲームしてるかコソコソと冷蔵庫を漁ってるはず。知らないけど。多分。
そんなド深夜僕が寝てる部屋に誰かが入ってくる。女の子だ。正確には僕のストーカー。部屋に入って来るし何なら布団に潜りこんでくるアクティブなストーカー。ストーカーされるほど好かれてるのは嬉しいけどね。だって女の子からそんなに求められてるんだよ?嬉しいじゃないか。うれしいよね?多分男ならちょっとは可愛い女の子にストーカーされたいって思ってるはず。多分98%ぐらいいるはず。でもね、いくら嬉しくてもそれ犯罪なんすよ。しってました?あと多分ナイフを持ってるのも怖い。頬にぺちぺちしてる。怖い。いやほんとに怖い。
「きょ、今日はみっ見てただけで、六人もの女と親しげに話してましたね……。だめですよ、だめです。だめなんです。私だけを見てください。私だけと話してください。私だけを愛してください。私以外の女の子を視界に入れないでください」
うーん。テンプレ乙。そんなこと言ってる場合じゃないけど。普通に命の危機だし。わたし魔女のキキ!そしてこっちは命の危機!迫る未来は死体遺棄?!印を踏んでる場合でもない。むしろ踏まれてるのは僕だから。布団の中で馬乗りにされてるから。なんでだろうなぁ。今まで部屋に入ってきたりすることはあってもナイフとか取り出さなかったじゃんかぁ。パンツ持ってっていいからさ。すきにしてよ。命だけは助けたくれないかなぁ。ていうかやっぱ監視とかしてたのね。部屋にもあるのかな。あったら最悪なんだけど。絶対オナニーとか見られてるよね。性癖とか把握されてるじゃん。あれ?もうある意味死んでない?むしろ死にたい。なんでストーカーとは言え女の子に性癖把握されたオナニーまで見られなくちゃなんないんだよぉ…。助けて誰か。
「でも大丈夫。きっとあなたは最後には私を選んでくれるはず。ですよね?…ふふ。怖いんですか?心拍数があがってますよ。寝たふりしても無駄です。わかってますから。えぇ。わかってます。あの女どもと仲良くしてるのも私との仲をバレないようにするためのカモフラージュだって。お世辞にも私は学校で普通とは言えませんからね。わかってます。私のような根暗と関わってるとほかの人たちにバレるとあなたに余計な迷惑が掛かりますからね。でも大丈夫です。もうすぐです。もうすぐ終わりますから。ふふふっ、楽しみに……していてください、ね?」
やだやだやだやだやだやだやだ。怖いよぉ何する気だよぉ。絶対ヤるよこいつ。イカレてるもん。目がマジだもん。目開けてないからみえないけど。まじで怖いよぉ。タイムリミットいつだよ。正解どこだよ。普通に犯罪だよぉ。警察にいこうかしら?助けて国家権力!!まじで怖かった。よかった帰ってくれて。頬にぺちぺちあたるナイフがほんとにこわかった。ちびった。絶対ちびった。トイレ行きたい。でも目を開けたくない。開けたら視界いっぱいにあいつの顔が映りそうだもん。ホラーゲームでみた。絶対いる。つまり目を開けなければいないと同じってこと。…このまま寝よう。眠気が限界にいけば寝れるでしょ多分。
しかし、彼女たちはほんとに僕とお近づきになりたいのだろうか。ほんとにそれで僕が惚れると思ってるんだろうか。もうちょっと考えた方が良いと思う。でも、多分恋愛ってそういうものじゃないんだろうな。
やっぱり、恋愛ってよくわからん。
可愛い女の子にストーカーされたい?
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されたい
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されたくない
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されてる
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されてた
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むしろしてた