基本的に短く5話程度で終わらせる予定です。
ご都合主義とキャラ崩壊などが著しいと思いますが、私が中学生だった頃ヲタクになるきっかけの作品だったので思い出深い作品なので書きました。
とりあえずシュウとイノリが仲良くしてくれて入れば嬉しいだけの小説です。
ではどうぞ。
空気を切り裂く音が木霊する。
薄暗い早朝。小鳥のさえずりがささやかな静寂を彩り、心地よい潮風があたりを満たす。
ふたつの影が激しく動き回り、その静寂を掻き消さんと暴れまわっていた。
片方の男が眼前に出されたナイフを紙一重で避ける。
しかしナイフを動かした方も避けられることを見越して肘打ちを顔面に入れる。クリーンヒットを疑わなかったが、当たったのは防御のための左手。
カーボンで構成された消炭色の義手が肘打ちをした男の腕を掴む。それと同時に右足を足と足の間に突き入れて重心移動をしながら相手を弾き飛ばす。ナイフを持った男はたまらず身を翻し着地した。
錆び付いた地面に生えた雑草が抉れる。
男を投げた男が今度は突進し、プッシュキックを繰り出す。
ナイフを持った男がそれを見切り胴を横にずらしながら回避すると、失策に舌打ちをした。プッシュキックはブラフであり、軸足の左足を回転させひねりを加えることでまるで足が伸びたかのように男の横腹を抉った。
ナイフを持った男はたまらず声を漏らす。
しかしその勢いを殺さないまま力の方向へと体重移動し威力を軽減したまま壁に足を突き立てて義手をつけた男に突進を計る。
狙いは首。
だが義手を持った男はそのまま突き出された凶器を持つ腕を掴むと、流れを殺さず回避し、余った腕で頭部に肘を落とす。が、受け流された男はナイフを持っていない腕でガードしつつ体勢を立て直して着地。
2人の間に距離ができる。
目の前の敵の隙を見逃さないよう集中する。
しかしその緊張を緩ませるように、アラームが鳴り響いた。
「っち、食えねーなぁ。」
「だいぶさばけるようになってきた感じがしますね。」
ナイフを太もものソケットにしまいこんで、上着のボタンを外す男、月島アルゴは形の崩れた髪に櫛を通す。
アラームを切り、毎週入れていたこの早朝の組手も今日で最後になるだろう、もしくはしばらくやらなくなるだろうと設定を削除する。
「シュウ………お前本当に行くのか?」
「ええ。」
間を空けずに答えるシュウ……桜満集は首筋に垂れる汗を拭き取り水を口に含んだ。
汗で濡れたままのランニングシャツはとても数年前の彼の肉体とは思えないほどぎちぎちに肉を包み込んでいた。
もともとがっしりとした骨格ではないもののどこか……「彼」を彷彿とさせる。
「別にガイみたいに………いやなんでもない。」
アルゴは言いかけてやめる。
アルゴがここ数年何度も頼み込まれて早朝訓練を手伝っていたのは純粋に仲間としての義理立てからだった。最初こそ胡散臭さとめんどくささで断ろうとしていたのだが、真剣な面持ちのシュウにかつてのリーダーの面影を感じたからというのもある。
「わかってます。ガイはガイで僕は僕。」
シュウの打ち込み用は異様だった。
彼はもとより右腕は義手であり、目は全くと言っていいほど見えていない。
そんな人間が対人戦になれたアルゴと組手を続けるなど並大抵の努力では務まらない。しかも、だ。最近アルゴとほぼほぼ互角に戦っていることがその異様さに拍車をかけていた。
アルゴは昔のシュウを知っているので純粋にその覚悟と努力をかっているところもあれば、1人の兵士として悔しさも感じてはいた。
時刻は午前6時。
まだ日が昇ったばかりであり、都市は起きていない。
アルゴはシュウを見る。
昔のように何かに葛藤している訳でも、つまづいているわけでもなさそうでそういう点では安心していた。何をしでかすかわからない若さを、未熟さを感じない。
だからこそまた1人の戦経験者という意味での先輩として少しだけ心配なのだ。
『まるでガイのように最後は散ってしまうのではないか』と。
「アルゴさん、ずっと組手してくださってありがとうございます。」
「ああぁそれはまぁいい。………アヤセとかにはいったのか?」
「…………。」
「まぁ……言えるわけねーよな。」
シュウは自嘲気味に俯く。
そのうつむき方は昔から悪いとわかっているのにやらない時にする顔だった。その顔をアルゴはよく覚えている。
アルゴは別にシュウが言わないと決めたのならそれでいいとは思う。人間は勝手だ。勝手に生きて勝手に死ぬ。だからそれで誰が困ろうと悲しもうといいと思ってた。昔までは。
だが最近より彼に近づいていくシュウを見て自分も何か変わるべきなのではないかと思ってしまう。
その変化の触りがこのアルゴの「心配」という仕方だった。
もちろんアルゴから伝えてしまうのも考えてはいたのだが、なにぶんそれは筋が通らない。シュウが決めたことはシュウがタイミングを決めて伝えるべきことだ。
「まぁ無事帰ってこいよ。そん時に沈めてやる。」
「………怖いですよアルゴさん。ふふっは。」
心配ではあるがそうやって笑えているのであれば、きっと昔とはまた違った未来になるのかもしれないとアルゴは思った。
それは別として生意気なことを言ったシュウの頭をぽかっと殴ってその場を後にした。
ハレの20歳の誕生日から数週間後。
シュウはハルカとはまた別の家に住んで過ごしていた。現在は大学3年生であり天皇州大学生物学科に所属している。
セフィラゲノミクスをやめて仕事を失ったハルカではあるもののしかして世渡り上手の彼女はすぐに次の研究機関に就職を果たしてはいた。元々の頭の良さと人当たりの良さから引く手数多ではあったのだが、シュウを見守れる距離にいたいと日本の研究機関に属す選択をした。
ヴォイドゲノム、アポカリプスウイルスは件の時にシュウが集め同時に消滅へと至った。地球上にもはやAPウイルスの罹患者はおらず、エンドレイヴのようなゲノム共鳴を使った道具も消え失せた。………………はずだった。
シュウが講義を終えて自宅へ帰宅した日。いつもの日常と変わることがなく道端で子供がぶつかってきて謝罪を受け入れ笑って許す日々。穏やかな日常だった。
ドアを開けてリビングに入るが、普段自動で照明がつくにもかかわらず反応はない。
壁を見ると端末のオフラインモードを示すオレンジ色の光すら消え失せていた。
最初こそシュウはマンション自体のブレーカーが落ちているのかとも考えたがすぐに予備電源に切り替わるはずなのでことのおかしさに気づく。
「お久しぶりですね桜満集。」
部屋に誰かいると気付いた時シュウは見えない目を座らせて臨戦態勢をとる。もっとも目を失ってから聴覚を鍛え上げたシュウが感じることのできなかった存在を用意に補足できるかは微妙だった。
「そう焦らずに。敵意はありませんので。」
穏やかに歳若い男のような声は伝えてくる。
シュウは警戒を怠ることはないが、構えを解く。
夕暮れからすでに暗くなっている中部屋の暗さに目も慣れてゆっくりと誰がいるのか理解する。
「ダァトッ!」
最近のシュウらしからぬ罵声にも似た声が部屋に響き渡った。
しかしつかみかかったりはしない。
それほどにまで目の前の男は驚異なのだ。
シュウは脳裏にかつての悲劇をフラッシュバックさせる。またみんなを苦しめるのか、と。
「まぁ私自身がダアトという名前ではないのですが……いいでしょう。」
不敵に笑う薄い金色の髪はどこかガイを思い出させる。
「なにをっ…………なにが目的ですか。」
シュウは口から溢れ出そうな激情をなんとか抑えて目的を問いただす。
「話が早いことはいいことだ。」
ダアトはくるりと翻して窓の外を見る。夜になり始めて街は昼よりも独特な光を弾き出しながら賑わいを見せている。
「今、ダアトは2つに割れています。黙示録を成就させる側とそうでない側に、ね。」
「もうAPウイルスはないはずでしょう。」
「ええ、ですが完璧になくなったわけではありません。」
その言葉にシュウは心臓を優しく撫でられたかのような感覚になる。
またあの絶望を引き起こす可能性があるということに嫌悪感と吐き気が心を支配していく。シュウとイノリ、そして多くの仲間たちが必死に命をかけて遂げたその成果に泥を塗られた気分だ。
シュウはダアトに掴みかかる。
白く余裕のある服がシワでいっぱいになる。
強化ガラスがダアトの背中を支えて大きな音が隣の部屋まで届いた。
「っ………ええまぁ怒るのも無理はありません。」
反撃することもなく、ダアトは無気力に笑い続ける。
「ダアトに保管されているAPウイルスは地中深くに貯蔵されていてあなたとあなたの番いの影響を受けなかったのですよ。」
「しかし大幅に計画に遅れが出ていることも事実であり、進行できるかも怪しい。……よって内部分裂のような形になっているのです。」
「どうしてっそれを僕にいうんですか。」
「楪イノリ。」
ドクンと心臓が波打つのを感じる。
停滞していた時が動き出すように、左腕が痺れ出す。
ダアトはニヤリと口角をあげる。
「桜満真名の遺伝子は以前も言った通りこちら側にあります。外側だけ、つまり入れ物は何度でも無限に作り出せるわけです。」
褒められた行為ではないがクローン技術は大幅に進んでおり、当然ダアトが滅びない限りマナは無限に精製できるのは道理だ。
しかしシュウには認められない。
「あの時ガイはっ一緒にっ!」
「ええですから入れ物だけなんですよ。」
ダアトがなにを言いたいのかはわかる。
イノリの心もなく、マナの心もない。ただの肉人形だけが今一体保管してあるということだ。
だがそれがなぜ今シュウに明かされたのかがわからない。
「楪イノリを取り戻したくはありませんか?」
「なっ………にを……。」
「勘違いしないでいただきたいのですが、誓って騙そうとしているわけではありませんよ。」
「うっ嘘だっ!」
シュウは動揺で汗をかき背中に冷たいシャツが張り付くのを感じる。声は震え、ダアトを掴んでいた手を離す。及び腰になっているのは誰でも見て取れた。
「まぁ疑うのも最も。ですが事実です。あなたのヴォイドでね。」
ガイはこんな気持ちだったのだろうか。と今更ながらにシュウは苦悩し始める。
想い人が生き返るなら何でもする。そんなのは当たり前だ。
だがそれはイノリとの約束に反する。
イノリは最後になにも言えていなかった。深く会話する時間も長く考える時間もなかった。それでも心から抱き合って伝わることはいくつもあった。
2人でこの悲しみの連鎖を断ち切るんだと、イノリが死ぬことでマナも消し、もう世界中にAPウイルスで生まれる苦しみを出さないために。2人が受け入れて死んだ。
「そ……んなことしてそっちに何のメリットがっ。」
「ありますよ。少なくとも桜満真名、つまりイヴの器は生きながらえることができる。これは願っても無い幸運なことだ。ですがこっちには桜満真名ならびに楪イノリの心がない。」
「そんな僕だってないっ!」
「いいえ。持っています。」
ダアトが普段見せている不敵な笑みと視線をなくして真剣な顔でシュウを見つめる。
シュウは何が何だか分からなかった。
あの日から一度だってイノリのことを考えないことはなかった。
「あなたの中に楪イノリは生きている。」
「!?」
頭が混乱で熱暴走しそうな勢いだった。
目の前のダアトが信用できない。しかし同時に自分に嘘はつけなかった。
「最後の瞬間までダアトはあなた方を観察し続けました。最後に世界中のAPウイルスを受け入れて多くの人の心を感じたでしょう?最後は彼女の心までも。」
「貴方は楪イノリと一度融合している。だからこそ楪イノリはあなたの側にいて常に彼女を感じ続けている。違いますか?」
否定ができない。とシュウは思った。
消えゆくイノリとあの時、結晶に包まれながら多くの彼女の思いを直接味わった。ダアトがなぜ常に感じ続けていることを知っているのかなんて知らないが、もし可能性があるなら。と考えてやはりダメだと思う。イノリと会いたい、触れたいと思う自分の身勝手な行動でまたマナを復活させてしまうのは彼女の覚悟を、多くの人の覚悟を無駄にすることだ。
「………ダアトは事実上凍結です。よって今の所有力な指針は「保留」なんですよ。」
「ほりゅう……?」
「ええ、貴方がもし仮に楪イノリを復活させたとして、桜満真名も復活したと仮定しましょう。貴方が一番まずいと思う展開ですよね?」
シュウの葛藤を見てダアトが補足する。
「ダアトはまだ黙示録を諦めてはいませんが今回は失敗だと仮定しまた先に計画の遂行を図ろうという思考に移ったのです。」
「つまり桜満真名、イヴが恋する貴方桜満集の寿命を待ち、結果的に別の番いを用意するという提案です。」
シュウはその提案が馬鹿げていると思った。だがすぐに「ただの先延ばしにすぎないのではないか?」と考える。
「ええ、ですがどちらにせよ貴方が死ねばやがて黙示録は復活します。それがただ数百年遅れるかもしれないというだけです。」
そう、結局シュウとイノリが決死の覚悟でAPウイルスを排除したとしても隕石として再び地球に来る可能性もある上に、何らかの方法でダアトがAPウイルスを培養する可能性すらある。
あの時にまるで勝ったかのようなスタンスでいたが結局ダアト自体を滅ぼさない限り延々と続くのだ。しかしだとすれば、
「なぜ僕を……今殺さない。」
「ええ議会でもその案は出ました。しかし棄却された。……人為的に貴方を殺せばイヴの怒りをかってしまうのは確実。それを恐れたのです。」
シュウを殺せばいつ目覚めさせたとしても桜満真名は暴走する可能性が高い。
寿命というそもそもの制約があれば納得せざるおえない。シュウは不死身ではないからだ。
「ですから最低限桜満真名を復活させ、そして数百年保留。それが今回のダアトの意志です。」
「…………僕が信じるとでも。」
「信じないならそれも結構です。まぁこちらで新たなるイヴが生まれるのを気楽に待つ程度ですかね。」
シュウは考える。
イノリに会いたい。触れたい。
そして………。
シュウが黙り込む。
「………まぁさほど急ぐ要件ではないですのでゆっくり考えてください。」
「どうして待つこともできるのにわざわざ僕に話を持ちかけたんだ。」
「………貴方が葛藤している姿が面白いのでね。」
ダアトはいやらしく笑うとその場から消えた。部屋には再び静寂が訪れ、リビングにうずくまる1人の男だけが残された。
ダアトとの邂逅から一週間。
シュウは誰が見てもわかるほどに憔悴していた。夜寝ることもなく考え続けているのだ。イノリとの約束を一番に考えて、もうダアトとの接触もなかったことにしたいほどだった。しかしそれが正しい最良の結果だとわかっているにも関わらず頭の隅でイノリとの思い出が濃厚にフラッシュバックする。
彼女の歌を聞かずとも生活の端々に彼女が見える。
それは幻覚でありえたかもしれない世界を妄想しているだけだと理解している。現実に彼女はいないのだから。歌を聞くたびに彼女が目の前にいるような錯覚を覚え、抱きしめ合っていることに一度は病院にもいったが、結局精神的なストレスからくるものだろうとまともに取り合ってもらうことはなかった。
「シュウ。」
大学のベンチに腰をかけていたシュウの斜め右前に綾瀬がきていた。
どこか心配そうな顔つきだった。
「アヤセ。」
先ほどの暗い顔つきとは打って変わって笑顔を見せる。
彼女は慣れた手つきで車椅子からベンチに腰掛ける。綺麗な川がキラキラときらめいていて幻想的だった。
シュウはイヤホンを耳から外すとチラリとアヤセを覗き見る。
美しい髪、女性的な体のライン、健康的な肌。
イノリもあれから4年生き続けていればこう美しい女性に成長していたのだろうか?もちろん昔も十分美しかったが。
「なによ。」
持ち前のじとっとした目でシュウをたしなめるアヤセは少し頰を赤くしながら肘で小突いた。
「やっなんでもないよ。」
シュウは途端になにか恥づかしくなって顔を反らす。
昔もこうゆうやり取りをしたことを思い出してなぜだか笑えた。
「………最近大丈夫?」
アヤセがゆっくりとシュウに問いかける。アヤセでなくとも彼の知人なら誰でもわかるくらいにはシュウは最近おかしかった。
あまり会えていない友達も多かったが、同じ大学にいるアヤセからしてみれば気づいたらすぐにみんな聞いてしまうところがある。そこから巡り巡ってみんなと連絡をとっているうちにやはりどこかシュウのおかしさに皆が気付き始めるのだ。
「……うん。」
その肯定が気を使っているものだということなどすぐにわかってしまう。
「何か悩みがあるの?」
シュウはアヤセがそう聞いてくることに若干の驚きを覚えつつも彼女もまた丸くなったのかもしれないと落ち着いた。
言うべきか言わないべきかはわからない。
「悩みってほどじゃないんだけどさ………その。」
「なに?」
シュウは一度口をつぐんでしまう。
とてもデリケートな相談であると、たとえであると思えたからだ。
「もし大切な人がいなくなって、でもそのあとまた会えるってわかったらアヤセは……会いたい?」
シュウが誰のことを言っているかなんてすぐにわかる。
それでもアヤセからしてみれば、シュウはもうイノリのことに対してある程度折り合いをつけていると思っていた。
だからこそ目を丸くして、でもシュウを傷つけないように答える。
「会いたいわね。会いたくて会いたくて。もう一度話したいし、触れたい。」
「でもそれが会いたい人との約束を破ることになるとしたら?」
「でもその人も会いたいと思ってくれているんでしょう?ならきっと他のことなんてどうでもいいのよ。」
アヤセはシュウとイノリがどういった約束を交わしているのか知らない。それでもシュウがイノリを想う心に疑念を持って欲しくなくて言葉を紡ぐ。勇気付けるように。
「どうでもいい……って。」
シュウはなんともお気楽なアヤセの回答に肩透かしを食らったような感覚に陥る。さすがに真面目に聞いているのにっ!と怒るほどではないにしろなんだか相談する相手を間違えた気にもなった。
「だって会えるならそれは幸せなことよ。」
「………。」
「もしそれで誰かが困るなら。会ってから考えてもいいんじゃない?」
そうだろうか?とシュウは思う。
友達が困るなら許してくれるかもしれない。自分でなんとかできるかもしれない。でもまるで世界の終焉のようなあの出来事が再び起こったらもうシュウの手には負えない。王の力もないのだから。
アヤセは60cmほどあった感覚を30cmにしてシュウの左手を掴む。突然暖かい女の子の手の体温を感じてシュウはびっくりするが、その意図を汲み取ろうと思った。
「シュウ。後先考えず大切な人を守るためにできることをする。それがあなたじゃない?」
アヤセは少しだけ胸が痛んだ。
それがいったいなんなのかわからない。わかりそうでわかりたくないのだ。
だからこそ背中を押す。自分ではなくあの子を追いかけて、と。
シュウは少し下を見つめた後、空を見上げてから一拍、アヤセにお礼を言ってその場を立ち去った。
アヤセは少しだけそのまま川を眺めて、そして少しだけ揺れる顎を引き締める。
『綾姉頑張ったじゃん。』
端末のスピーカーから聞きなれたハスキーボイスが響く。
なんだかその言葉を聞くと無性に腹が立つが同時に少し恥ずかしかった。
「別に。…………わかってるし。」
『でもやっぱり気になるんでしょ?………罪悪感?』
ツグミはズケズケと踏み込んでくる。
アヤセ自体も踏み込んでいくタイプなので、逆に踏み込まれるととても億劫だった。ということはツグミもまた心を探られたくないんだろうとわかる。
罪悪感かもしれないと思いつつ、でも同時に自己嫌悪を入っていた。
アヤセは昔からガイのことが好きだった。自分にない真っ直ぐなところにすごく憧れて、いつしかその憧憬が恋慕へと変わって言った。
ガイとイノリが同衾しているだなんて噂もたったが、結局あの後ガイの病気について語り合って誤解は解けていた。ほんの、ほんのちょっぴりだけイノリを妬んだこともある。
イノリとガイはそれほどまでに通じ合っているような気がしたのだ。
『いいじゃん。好きでも。』
「別に好きじゃないわ。」
すぐに否定してしまい、ツグミには勝てそうにもないと思ってしまう。
最初は不出来な弟を持ったような気分だった。時には失望したことだってある。でもいつも気遣ってくれたし尊重してくれた。
ガイが亡くなったと知った時荒れた自分をちゃんと「見てくれた」。
そこからゆっくり、ゆっくり彼の弱さを知るたびに自分の弱さを知っていって、いつしか彼ありきの考え方になっていったようにも思う。
最初に好きになった人は昔の女をずっと愛し続けてた。
次に好きになった人はずっと彼女を愛し続けてた。
私はずっと選ばれることはなかった。
『不器用だね。綾姉はさ。』
「ツグミだって不器用でしょ?」
『そーかもね……でもこんな言い方あれだけどシュウも乗り越えてもしかしたらいつの間にかシュウの子供綾姉が産んじゃったりぃ〜?』
「なーいぃ!!ないない!」
そうやって茶化してくれるときいつもアヤセは怒ってしまうがそれでもそれが今はとてもありがたく思えた。目尻に溜まった雫をそっと乾かしてくれるように。
本当はまだ書いてあるのですが一旦区切ります。
シュウ×アヤセも結構好きですが今回は負けヒロイン的な感じでいこうと思います。まぁもしかしたら後々絡み入れるかもしれません。もし地雷という方がいらっしゃいましたらどうぞブラウザバックをお願いします。
それと結構ギルクラは思うところがあるので何か感想いただけると幸いです。
だいぶ突発的に筆をとったので穴だらけだと思いますがお付き合いいただけると嬉しいです。