黒の大輪は思うがままに   作:痔ーマン

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インフィニットオルフェンズを見直していたら創作意欲が湧いたので旧作を作り直して初投稿です。
多分ある程度書き溜めてからの投稿になると思います。


1話 芽生え

多くの人にとって人生の節目となるイベントの1つに受験が挙げられるだろう。

その壁は高く、暑いほどにその後の人生に大きな影響を与えるものだ。

 

IS学園。女性しか使用できないISを専門的に学ぶ、あらゆる国家からの干渉を受けない学校。国立ならぬ世界立と言ったところか。競争相手は全世界の同世代。それがこの学園の門をより狭きものとしていた。

必然、そこを目指す者も、その家族も、否応なしに熱が入るというものだ。

何が言いたいかと言うと、俺は義姉の受験に家族そろって付き添っているというだけの話なのだが。

 

「榊…いえ、入学にあたっては元の性に戻すのでしたね。篠ノ之箒さん」

 

義姉とその横に座る俺の両親、そして俺に視線を移しながらスーツの女性は箒の本当の苗字を告げる。

箒の本当の苗字は要人保護プログラムと呼ばれる国家による最高レベルの機密事項だ。それを知っているという事はこの女性は国の人間だろうか。

 

「はい。良い機会ですし、ISに関わる以上、この名前とはいつか向き合う必要があると思いましたので…ところで…あの、千冬さん、ですよね?そんな話し方でしたか?」

 

「…保護者の方も一緒なのだから相応の話し方をします。しかし、前にあった時と比べて随分と落ち着いた雰囲気になりましたね…榊さん達のお陰だと思います。教師として、1人の友人としてお礼申し上げます」

 

そう言って女性、千冬さんは俺と両親に頭を下げた。昔からの友人、ということであれば家に来た時のように荒んだ状態の箒のことも知っているのだろう。今となっては本人も笑い話にするくらいだが、当時の箒は本当に荒んで、というよりは擦り切れつつあった。

 

「箒が持ち直した、貴女にそう思えてもらえたなら幸いです。けれどそれは私達ではなく、箒自身が向き合った結果ですよ。私達はほんの一時とはいえ、親として姉弟として出来る事をしたにすぎません」

 

母が千冬さんに向けた言葉に俺は軽く首肯する。実際、何か特別なことをしたつもりは無いのだ。俺にとっては箒はいつしか本当の姉のようになっていたし、多分、姉弟だったら当たり前のようにやっていることをする日々でしかなかったのだから。

 

「それでも、要人保護プログラムという手段しか選べなかった私にとって榊さんは恩人です。私事で恐縮ですが、私は親を知らずに育ってここまで来てしまったので、この制度に少なからず疑念を持っていたのですから」

 

「まぁ、当事者にとってはあまり良い内容ではありませんもの。親しい間柄の人がそうなれば気になってしまうのも仕方ないです」

 

実際、母が言った通りで要人保護プログラムとやらは当事者になって初めてわかるその内容は“要人”に近しい人物を隔離し、その監視と必要ならば“要人”に対する人質と取れるものだった。ついでに監視されるのは少しばかり業腹ではなかったと言えば嘘になる。

 

「けれど、私達にとっては娘が出来たようで幸せな日々でしたから。貸し借りは無し、ということで修めませんか?織斑さん?」

 

「えぇ、そうですね…」

 

そこから千冬さんが話はじめたのは基本的には入学にあたるガイダンスがほとんどだった。箒の実姉がISの母“天災”篠ノ之束であるが故に生徒だけでなく、職員にも意識してしまう者が出るであろうことを2人の友人でもある千冬さんから説明するため、彼女がこの場を設けたらしい。

 

「そして、今日を最後に榊 箒という人間は存在しなかったことになります」

 

「…はい」

 

千冬さんの言葉に箒は俯き、膝の上で両の拳をぐっと握りしめた。

最初から決まっていたことだ。要人保護プログラムの性質上、“対象がそこにいた”事実を抹消する。未成年である箒は彼女の実の両親以上にその名を変え、その度にそれまでの彼女を捨てる必要があった。

怒りか、悲しみか、あるいは無力感か、震える箒の背を母が優しく撫でる。

 

「大丈夫。榊 箒っていう女の子の情報が消えても、貴女が私達の娘で、あの子の姉であった思い出は消えないわ」

 

「…はい…はい…っ」

 

その言葉に箒の背は一層震え、母の胸に顔をうずめる。千冬さんのファンということでさっきからずっと固まっていた父はそんな2人を支えるように抱いていた。

 

そんな家族の別れを目の前にしながら俺の意識は完全に別の事に割かれていた。

何か、俺に伝わってくる。

言葉ではない。だが何者かの意志が俺に放たれている。

正確に言うならこの施設に入った時から伝わっていた。

最初は義姉との別れにナーバスになったのだろうと思ったが、時間の経過とともにその“声”、言葉ではない“声”はどんどん強くなっていく。

誰だろう。どこにいる?

そんなことを考えて、答えを求めるように半ば反射的に立ち上がる。

 

「?百太郎君でしたか、何かありましたか?」

 

千冬さんが訝し気にこちらを見る。彼女には聞こえていないらしい。

 

「“声”が、聞こえまして…」

 

俺の思考は何故か上手くまとまらず、言語化しようとしても口から出るのは曖昧な内容だけだ。

 

「百太郎?」

 

母の胸の中で泣いていた箒も不安気にこちらを見る。祝うべき門出の日にこんな顔はさせたくなかったのだが。

 

「地下?…に誰かいますか…?」

 

強くなっていく“声”。それはどうやら俺の下から聞こえてくるようだ。しかしおかしい。この部屋は施設の1階で、案内図には地下室など無かったはずだ。

 

「!…キミは…」

 

千冬さんは立ち上がると俺の手を握った。顔が近い。ファンである父さんには悪いことをした、かも知れない。

 

「何が、聞こえるんだ?」

 

「言葉じゃあ、無いです…意思?…感情?うぅん…想いがダイレクトに響くというか…」

 

「…榊さん、篠ノ之、私に付いてきてください」

 

その言葉と共に千冬さんは立ち上がり、俺の手を引いていく。“声”は依然、俺に向けられていて、体も思うように動かず、結果的に俺は千冬さんに導かれるがままに歩を進めていた。

 

「織斑さん、一体どこへ?この子、どうしちゃったんでしょう?」

 

母は俺を心配そうな目で見ながら千冬さんに問いかける。俺も気になるところだ。上手く口が動かないが。

 

「百太郎、大丈夫か?おい、私が分かるか?」

 

箒は器用に膝を曲げて猫背になりながら歩く俺の顔を見ながら頬に手を当ててくれていた。本当に器用に歩くな。膝鍛えられそう。

そんなことを考えながら、上手く言葉を口に出来ない状況をどうにかしようと内心で考えているうちに辿り着いたのは、存在しない筈の地下室だった。

 

「織斑さん、ここ地下があったんですか…?まるで研究施設のような…」

 

俺達を代表するように父が千冬さんに言葉をかける。実際、そこは用途が分からない機械がいくつも並べられ、職員と思しき人たちは皆白衣だ。

 

「!?織斑さん、彼女等は一体…?」

 

俺達が入ってきたことに気付いた職員がこちらに駆けてきたが千冬さんはそれを手で制して進んでいく。歩を進めるたびに“声”は強くなる。

 

「百太郎君、まだ声は聞こえているか?」

 

「はい、ずっと…あぁキミか」

 

“声”を発している何者か、それが分かる距離に来た時、俺の視線の先にあったのはISだった。

 

「IS?どうしてここに?」

 

「ここはIS学園が所有する施設です。ISの希少性とセキュリティの観点から公開はしていませんが、研究施設も兼ねています」

 

「しかし千冬さん、なぜ百太郎を…」

 

「今に分かる…百太郎君、ISに触れてみてくれ」

 

そう促されて歩を進める。思うように足が動かず、まるでゾンビのように足を引きずっている。俺の後ろでは父や母、箒、職員の人たちも「まさか」だとか何か言っている。一体何だというのだろう。まぁ俺自身、結構オカルトな発言をしてしまったと思うけれど。

 

「ふぅ…着いた」

 

寄りかかるように触れた瞬間、視界が光に包まれた。眩しい筈なのに、瞳は刺激を感じない、不思議な光だった。そして次の瞬間には先程まで体を、思考を覆っていた倦怠感のような重さが綺麗に無くなっていた。

 

「なんだキミ。足が痛いってそれだけでずっと叫んでたのか」

 

そして俺はこの子の“声”を正しく理解した。ずっと足が痛いけど誰も治してくれなかったらしい。まぁ、外見的にこの子が怪我してるかなんて人間には分からないだろうしね。

 

「ってアレ?みんな縮んだ?」

 

そう言えば、と箒達へ視線を向ければ何故かみんな俺を見上げるように見ていた。いや、実際に見上げていた。

何だろうと己の体にを見れば何という事でしょう。四肢には機械のような手足が付いていて、俺の視点は随分と高い場所へと移っていたようだ。

 

「痛いのは、右脚か」

 

四肢を軽く動かすと、右足を曲げようとしたときに若干の違和感とともにこの子の“声”が強くなる。

そんな俺を見て、箒は驚愕と、絶望と、歓喜を混ぜ合わせたような表情でつぶやいた。

 

「百太郎が、2人目の男性操縦者…!」

 




オリ主君の名前は“千”冬、“一”夏と共通点作るために“百”を使ってキラキラしてない名前ということで百太郎にしました。
安泰じゃ。とかは言いません。まぁISなら誰でも大抵の攻撃は安泰ですが。
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