黒の大輪は思うがままに   作:痔ーマン

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2話 終わりと始まり

ISを起動させた俺は次の瞬間には何をどうやったのか千冬さんにISから引き剥がされ、研究施設のさらに奥にある部屋へと連れていかれた。

 

「千冬さん、あの子ですけど右足、多分膝当たり痛めてるので見てあげてくださいね」

 

「あぁ分かった!よく言っておくから今は此処にいてくれ!ご両親も申し訳ないが状況が一気に変わりました、ここで待機をお願いします!」

 

千冬さんも想定外の状態に混乱しているのだろう、語気がやや荒めだ。両親も箒も何をどうするべきか分からない様子で、当事者である俺が一番冷静なのは当事者故にだろう。

あの子、ISの“声”は大人しくなった。言葉を交わしたわけではないが、言いたいことは伝わったと満足したのだろう。

 

「なぁ、百太郎。大丈夫か?」

 

「うん?あぁ何も問題ないよ箒。元気元気」

 

心配そうにこちらを見つめる箒に意味も無く腕をぐるぐると回して見せる。先日報道された箒の想い人でもある“1人目”の騒ぎを見れば自分が極めて複雑な立場に立たされていると想像するのはそう難しいことではない。まぁ“1人目”の家族である千冬さんが当事者なので最悪の状態にはならないだろう。もしヤバそうならあの子呼び出して飛んで逃げよう。

そんな事を考えながら不安そうな表情のままでいる箒をあやしていると千冬さんが部屋へと戻ってきた。

 

「…いきなりだが百太郎君。IS学園に入学する覚悟はあるか?」

 

千冬さんの表情は、実質選択の余地など無いことを問うているのだろう。毅然とした様子だがどこか辛そうなものだった。その表情だけで、彼女がこちらのことを心から案じてくれていることが伝わってくる。

 

「それがベストってことでしょう。良いですよ、義姉もいるし退屈しなさそうです」

 

それに、今や俺は世界に2体しか存在しない超希少生物なのだ。誰が密猟者に変貌したか分からない今、強固な籠が必要だ。少なくとも、俺自身が何かしらの後ろ盾を得るまでは。

 

「そうね。いい機会だし、寮生活で自分の事をやってみてもいいわね」

 

「母さん、そういう問題では…まぁ、あまり重荷に感じすぎる事も無いが」

 

両親も賛成のようだ。流石に不安そうな顔を隠しきれているわけではないが、箒というISに深くかかわらざるを得なかった人を良く知るだけにどうするのが最も安全かをもしかしたら俺以上に察しているのかもしれない。

 

「ありがとう…榊さん、ご子息のことは必ずお守りします」

 

「えぇ、でも生徒としてはビシバシお願いしますね。この子、普通の勉強はともかくISに関しては素人だから」

 

「ふふ…えぇ、承知いたしました」

 

話がまとまった後、俺と両親は延々と書類にサインを書き続けた。

これがとにかく多い。怪しい書類が混ざっていたら見逃してしまうだろう。

まぁ、書類の概要は千冬さんから説明されたので内容に不安は無いが。ちなみにこれらの書類は簡単にまとめると外国だけでなく国内の組織からも干渉されないための地固めのようなものだった。

 

「皆さん、書類作成のご協力ありがとうございました。百太郎君にIS適正があったことは明日の朝に公開します。皆さんは今後1週間、IS学園が用意した宿泊施設を使用していただくことになります。ご不便をおかけしますが、セキュリティ上避けられない部分になりますのでご了承ください」

 

トントン、と机の上で書類をまとめた千冬さんは改めて俺達に頭を下げる。これからお世話になるのは俺なのだが、まぁ“1人目”の件もあるし少なからず回避できない苦労というものが待っているのだろう。

 

「あまり気にしないでくださいな織斑さん。ちょっとした旅行と思うことにしますわ。ねぇあなた?」

 

「あぁ、そうだな」

 

「ありがとうございます。百太郎君は教科書一式が2日ほどで届くので入学までに軽く目を通しておいてくれ。弟にも送った参考書も一緒に送らせておく」

 

「ありがとうございます」

 

「…あの、千冬さん。百太郎達が泊っている間私は…」

 

それまではじっと俺を見ているだけだった箒が口を開く。本来なら、今日はIS学園への入学に伴って榊から篠ノ之に戻る箒とのお別れの日だった。それが何時の間にやら俺までIS学園に入学する流れになっている。状況が落ち着くまで俺達も政府の保護下に入るのならば確かにまだ箒と一緒にいれないこともないだろうが

 

「すまないが箒、彼が男性操縦者であると公開する以上、そこに要人保護プログラムの対象者までいた。それが束の妹だ、となってしまうと収拾しきれん…予定通り、ここでお別れだ」

 

千冬さんの答えは否、だった。そう告げられた箒が今にも泣きそうな顔をしているのを見て、俺は彼女のやたら長い髪をわしゃわしゃと撫でまわす。

 

「!?百!こら止めないか!」

 

「ははははは。また会えるんだからそんな泣きそうな顔をするんじゃないよ姉上」

 

悪くない気分だと思う。

思っていた人生は、一瞬にして消え去った。

思ってもみなかった人生の道が現れた。

不安が無いと言えば嘘になる。不満が無いと言えば嘘になる。

ただ、それでも、悪くない。そう思った。

 

「っ!泣いてなどいない!」

 

「はいはいそーですねー」

 

「コラ!百!」

 

そう、こんな日々がまだ続けられるのだから。

色々大変になるだろうけど、そう思った。




メモ帳で書いているんですが思ったより文字数少ないですね。

ちなみに箒は基本的には「百太郎」と呼びますが油断したり感情が昂っている時は「百」と呼びます。

百太郎側は基本的に「箒」ですがからかい交じりに「姉上」「姉さん」など色々呼び方を変えることがあります。
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