体感する時間の経過は必ずしも一定では無くて、今回の場合はそれがとても早く感じた。
俺が2人目の男性操縦者であることは千冬さんの言った通り報道され、1人目である千冬さんの弟、一夏君とともに連日報道された。
何の関係も無いだろうに自分でも何をしていたか覚えていない幼少期の写真が全国、あるいは全世界に見られたのは頭を抱えざるを得なかったが。
ちなみ両親は爆笑していた。
そんな日々の中で俺がしていたのは新しい生活の準備だった。
それ以外に出来る事が無かったとも言うが箒から教わった剣術、千冬さんからもらった教本と入学後に使う教科書の中身を確認するといったことだ。当然時間は余るので暇つぶしに教科書の落丁探しと千冬さんの現役時代の試合映像を見たりもした。
窮屈さを感じなかったと言えば嘘になるが思ったよりも悪くなかった。
「じゃ、行くよ。2人も大変だけど頑張って」
「百太郎に比べたら大したことないわよ」
「あぁ、お前こそ気を付けろよ。…織斑さんが言うには“そういう”目的で近づいてくる奴もいるみたいだし…」
両親は箒の家族と同じく要人保護プログラムの対象となった。今日この日を境に別の名前で、別の仕事をして生きることになる。政府からの補償で手取りは以前よりよっぽど良いと母は笑ったが、子供の前だからこそそう見せたのだろう。
その辺りについては今日までに話し合ったし、少なくとも榊家の中ではまとまった。思い残すことはない。
「その時はブリュンヒルデブレードを頼るよ」
「…いってらっしゃい」
「気を付けてな」
「うん。夏休みとかは色々申請して会いに行くよ…いってきます」
家族としてするべき事は全てした。あとは前に進むのみだろう。
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「(思ったより視線の圧がキツーイ)」
前に進むのみ、そうは言ったが入学初日に出来る事など大して無く、俺は一夏君と共に教室の一番前の席で身動き1つせず座っていた。
まさか鞄を空けるだけで周囲がざわつくとは思わなかった。本当に珍獣扱いなのだなと改めて実感しつつ、視線だけを動かして周囲を見る。
資料では呼んだが本当に最新、というか次世代の学習環境と言えるだろう。黒板はディスプレイっぽいし生徒の机も何やら色々な機能が備わっている様だ。横幅も広くて使いやすいのは好印象である。
「…」
そんな事をしていると髪の長い少女、我が義姉にして一夏君の幼馴染である箒が教室に入ってきた。俺の事を見て一瞬苦笑いした後、一夏君を見て顔を真っ赤にしている。頑張れ義姉、恋はビビったら負けだぞ。お前が持っている少女漫画にそう書いてあったぞ。
まぁ当の一夏君は俺以上に気が気で無いようで誰が入って来たかなど確認する余裕も無いようだが。
予鈴が鳴ると教室の扉が開き、眼鏡を掛けた女の先生が現れた。割とカジュアルな恰好の先生もいるのだな。…幼い感じだけど、職員だよな?
「皆さん入学おめでとうございます!私は副担任の山田真耶です」
あぁ良かった。良かった?まぁとにかく先生だった。ハキハキと挨拶をしてくれたが誰も何の反応も示さない。まぁ異物が2つほどいる以上、そんな余裕も無いのだろう。この状況の原因となってしまった1人として、せめて俺だけでもと拍手をする。拍手の数倍のざわめきが起きて俺の拍手は掻き消された。
その後は五十音順に簡単な自己紹介をする流れになった。流石、俺と違って狭き門を実力で潜り抜けてきた連中なだけはある、淀みなく、スムーズに進んでいたが一夏君のところで流れが止まった。うんうんと唸っていて、話す内容に悩んでいるうちに自分の順番になったことに気付かなかったのだろう。
山田先生の大きな声でようやく反応した一夏君の自己紹介は「織斑一夏です、よろしくお願いします」の一言だった。
声から緊張がありありと伝わってきて失礼ながら思わず吹き出しそうになってしまう。
いや、本当に失礼だろう我慢しよう俺。
「っ…んふっ…くくっ…」
あ、駄目だ漏れてる。
その次の瞬間、またも教室のドアが開き、入ってきたのは
「げぇ!?関羽!?」
千冬さんだ。確かに偉人の美少女化は流行っているがそれはお前の姉だし美女であっても美少女はとうに過ぎている。
「誰が三国志の英雄か。馬鹿者…挨拶もまともに出来んのかお前は…」
その言葉と共に板、紙とか上で挟めるやつが一夏君の頭に降り注ぐ。痛そう。
「織斑先生お疲れ様です。もう会議は終わられたんですか?」
「お疲れ様、山田君。挨拶を押しつけてすまなかった」
そうして教壇に立って教室を一望すると千冬さんが口を開いた。
「諸君、私が織斑千冬だ。このクラスの担任を務めることになる。この一年間で君たちをただの新人から鍛え上げるのが私の仕事だ。よろしく」
瞬間、クラスに怒号とも言うべき黄色い歓声が響き渡る。
「千冬様、本物よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
ミーハーな俺の父でも会えて感激してたくらいだ、この学園に入ることを目標にしてきた彼女たちにとってはそこらの芸能人以上に会うこと自体に価値があるのだろう。
その後、ボルテージが上がる一方の教室を黙らせた千冬さんは自己紹介を再開させ、俺の番がやって来た。幸い、一夏君の尊い犠牲と千冬さんのエントリーで教室も良い感じに温まっていてタイミングとしてはベストに近い。
「榊 百太郎です。ISに関しては素人同然なので一日でも早く皆さんに追いつけるよう頑張ります。先生方にも初歩的な質問をさせていただくこともありますが、どうぞよろしくお願いします」
「はい!よろしくお願いしますね!」
山田先生の反応は好感触。千冬さん、織斑先生と呼ぼう。彼女も満足気に頷いてくれた。俺としても会心の出来である。
そんな感じでクラス最初のイベントは無事終了した。
チャイムが鳴ったところで同じ男だからという事もあって一夏君が俺の席にやって来た。
「織斑一夏だ。男同士仲良くやろうぜ」
そう言って手を伸ばしてくる。成程、箒が言っていた通り良い奴らしい。
「榊 百太郎だ。こちらこそよろしく…先生と紛らわしいから一夏君でいいか?」
「呼び捨てでいいよ!俺も百太郎って呼ばせてもらうからさ!」
そんな爽やかな青春の1ページを刻んでいる俺の視界に箒が写る。らしくもなく距離を測りかねている様子なので目力を込めて「来い」と告げる。
「すまない、少しいいか?」
なんだその決闘でも申し込むかのような声と顔は。
「え?あれ?…箒か!?久しぶりだなぁ!」
幸い一夏はそんな箒の様子よりも再開の方に意識を向けてくれたらしい。なんと初日にして屋上で2人きりというシチュエーションまで掴むことに成功した。やるな義姉。頑張れ義姉。そんな思いを込めて俺は箒に親指を立て、彼女もまたこちらに小さく親指を立てた。ご武運を…姉上。
しかし一夏が教室から出る=教室の男は俺のみ、ということでせっかくの休み時間なのに教室はシン、と静かになった。どうしよう、と悩んでいるとずいぶんと袖の長い女の子が近づいてきた。何それサイズミス?
「やっほ~。ねぇねぇお菓子持ってる?」
「残念ながら持っていないね。機会があれば仕入れておこうか?」
「そっか~。じゃ、ポッキーあげる」
持ってるんじゃあないか。…いや、会話の出だしとしてか。どうやら社交的な感じの子だし気を遣わせてしまったようだ。
「いただきます。…ところでその袖どうしたの?サイズミス?」
「違うよ~…IS学園の制服は改造OKなんだよ~。私はこれくらいが落ち着くからこうしてるだけ~」
「改造、制服…!なんかカッコイイな…俺も食べ物隠せるポケットとか付けようかな…」
「も~。この袖はそ~いうのじゃないよ~」
最先端の制服事情に思いを馳せていると他の生徒も周りに近付いてきた。やはり誰かしら話していると近寄りやすい空気が生まれるようで、やや壁はある感じだったが他愛もない話をして過ごし、入学初日は終了した。
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「いやー。ほんと百太郎がいて良かったよ…男が俺1人なら最悪女子と相部屋になってたかもしれないし」
その後、ガイダンスを終えた後俺達は山田先生から部屋の鍵を貰って寮内を歩いていた。
もはや学生寮の規模を超えた大きさである。どこぞの高級ホテルでもモデルにしているんじゃあないだろうか。
「ははは。流石に年頃の女子と相部屋は無いだろう…おっとここか」
「おぉー!広いなぁ!」
「相部屋とはいえ学生2人につきこのサイズの部屋とは大したもんだな」
部屋は想像以上に広く、豪華だった。ベッドなんてクイーンサイズではないだろうか。そんな寝相悪い生徒でもいたの?と気になるくらいにはデカい。
「なぁ!俺窓側でもいいか?」
「あぁ、構わない。しかし本当に良い部屋だな。マジでどこぞのホテルを参考にしてそう」
と話しているとケータイにショートメッセージが届く。箒からだ。
『百太郎、ルームメイトは一夏か?』
『イエス』
『部屋番号を教えてください』
『1025』
『感謝』
と短いメッセージのやり取りをする。
「?百太郎、電話か?」
「いや、家族から上手くやってるかってチャットが来ただけ」
頑張れよ姉上殿。ウチに来てからの3年間、事ある毎に俺に語って聞かせた想い人をモノにする絶好の機会なのだから。
部屋番号は適当です。
(5/30 流れ確認のために動画確認したら少なくともアニメだと1025だったので修正)
それはそれとしてIS戦までが遠い…遠くない…?