翌日からは本格的に授業が始まった。
ISの歴史、といってもそれ程長いものではないので触り程度からPIC、ハイパーセンサー、シールドーバリアーetcの基本機能についての話がほとんどだ。
「はい、今の段階で分からない人はどれくらいいますか?」
その言葉には誰も反応しない。ある意味当然だろう。ISに関わる学校への進学を志す者にとっては初歩中の初歩で、素人の俺でさえ予習できた範囲なのだから彼女達が分からない筈がない、が。
「せ、先生!全然分かりませんっ!」
残念ながらもう1人の初心者は分からなかったらしい。あれ?お前の姉上、ブリュンヒルデじゃありませんでしたっけ?
「…織斑。参考書を入学前に送っておいた筈だ。それは読んでいないのか?」
「いや、電話帳と間違えて捨てました…」
と言い終わる前に出席簿が一夏の頭に振り下ろされる。今日日、電話帳を置いている家庭があるとは驚いた。…捨てるなら何故そもそも電話帳を家に置いていたのだろう…更新する必要があるほど沢山かけるのだろうか…?
「はぁ…まったく…。榊、お前は問題ないか」
「はい。時間は有ったので一応教科書は一通り目を通しています。この辺りでは特に疑問はありません」
実際、一夏だって間違って捨てるという前時代的なボケをしなければこの程度は分かっただろう。
「よろしい。…織斑。再発行してやるから一週間後までに覚えておけ」
「いや、一週間であの厚さは…」
「この辺りの知識が無いと置いていかれる一方だぞ。やれ」
「はい…」
実の姉が担任教師と言う状態でこんな空気になるのは中々キツそうだ。織斑先生も公私を分けているつもりだが実弟というだけあって一夏には手が出たり他よりも厳しい印象がある。まぁ友人として出来る事はしてやろう。俺も教えられるほど知識があるわけではないが。
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「PICってのはISの基本的なシステムだ。これがあるからISは空に受けるし自由に加速、減速ができる」
「おぉ…成程…」
「…ちなみに一夏。PICは何の略だ?」
「えっ!?…ぱっしぶ…い…?」
「パッシブ・イナーシャル・キャンセラー。略称だけで覚えるなー。あやふやな覚え方しても頭に残らんぞー」
「うぅ…すまん…」
休み時間、とりあえず初歩的な部分から一夏に教える事にした。俺自身、改めて気付く部分もあるだろうし復習という意味もある。
「でも百太郎はすげーな。俺と同じで素人だったのに…」
「俺は適正分かってから1ヶ月以上、保護目的でホテルに缶詰めだったからな。時間だけはあったんだよ」
「お勉強中申し訳ありませんが、少しよろしくて?」
そんな事を話していると後ろから声を掛けられた。「よろしくて?」初めて聴きましたわそんなお嬢様言葉。振り返ると金髪の女子、確か名前は
「オルコットさん、だったかな?」
「えぇその通り」
見事なブロンドの髪をファサっと撫でるオルコットさん。様になってるな。練習したのだろうか。
「百太郎知り合いか?えっと…悪いなオルコットさん?俺まだクラスメイトの名前覚えきれてなくて…」
一夏は申し訳なさそうに頭を掻くが当のオルコットさんは信じられないモノを見るように一夏を睨め付ける。多分彼女、俺達を除けば新入生で一番有名だと思うんだけど。
「一夏。オルコットさんはイギリスの代表候補生だよ」
俺の紹介に気を良くしたのかオルコットさんはまたも髪をファサっとやる。何なの。機嫌が良いとやる動作なのソレ。
「代表候補生って何?」
瞬間、俺もオルコットさんも、俺達を遠目に見ていたクラスメイトの全てが凍り付く。マジか。マジですか一夏さん。ここまでぶっ飛んでるといっそ清々しいぜ…!
「一夏。リピートアフターミー。代表候補生」
「代表候補生」
「読んで字のごとくだよ。国家代表のIS操縦者、その候補生だよ。むしろ他の意味に取れたら教えてくれよ…」
「その通り!そちらのかたは多少、物を知っているようですわね!そう、貴方方はイギリス代表候補生にして本年度入試主席の私セシリア・オルコットのような選ばれた人間と同じクラスになった!」
あれ?もしかしなくてもオルコットさんも別方向に面倒くさい感じの人だぞ。自己顕示欲つよつよウーマンか?
「あー、その、すまん。それがどうかしたか?」
一夏は一夏で理想的な火に油を注ぐムーブをこなしている。この状況マジで面倒くさい。誰か変わって、とこちらを見ている相川さんを見つめるが視線を逸らされた。
「っ…私は入試で唯一教官を倒したエリート中のエリート、ですのよ」
「え?俺も倒したけど」
「なんですって!?」
おぉそれは驚きだ。俺は一発当て…掠らせるだけしかできなかったんだが。
「そ、そんな…私だけと…聞きましたが」
まぁ俺と一夏の試験はかなり特殊な物だっただろうし、その時点では、ということだったのだろう。
「女子限定ではってことだったんじゃないか?百太郎はどうだったんだよ?」
俺に話を振るな。オルコットさんが顔真っ赤にしてこっち睨んでるじゃあないか。
「負けたよ。織斑先生、どこぞのボスキャラみたいに『10分、私は攻撃しない。当ててみろ』とか言われて剣先ちょっと掠らせるだけで限界」
「えっ!?百太郎、千冬姉と戦ったのか!?」
「お、織斑先生と…」
「ま、相手も違えばお互い得意分野も違うだろうしソコはあんまり気にすることじゃあないでしょ。っていうか代表候補生なんだからオルコットさんが俺達より強いのは自明の理だよ」
もうこれ以上この状況を引き延ばしたくないので俺は多少強引に感じながらも話をまとめようとする。っていうかオルコットさん何で急に俺達に絡みに来たんだよ…。
「なんでだ?どっちが強いかなんて戦ってみなきゃ分からないだろ?」
一夏くーーーーーーん。空気を読んで下さーーーーーい。正直この状況どっちが強いとか賢いとかそう言うのはもうどうでもいいでーーーーす。俺を解放しろ。
「なっ…!あ、アナタ…ッ!」
ほらぁ。オルコットさんの顔色が更に赤くなってる。毛細血管切れてそう。
「い、一夏。OK分かりやすく例えよう。スポーツを初めて数時間なのが俺達で、その競技を10年間、国で最高レベルの訓練を受けていたのがオルコットさんだ。どっちが上手いかは明白だろう?」
「確かにオルコットさんの方が有利だろうけどさ。勝負はやってみなきゃ分からないだろ」
瞬間、救いの鐘が鳴る。一夏はまた何か余計なことを言いだしていたような気がしないことも無かったが俺の耳に入るのはこの鐘の音だけだ。
「ほーら皆ー!授業が始まるよー!席についてー!一夏もオルコットさんも!授業!授業!」
「いや、百太郎、まだ話は」
「授業!授業!」
「そうですわ私の実力をですね」
「授業!!授業!!」
その時の俺は思考を放棄すると同時に、1つの決意をしていた。次の休み時間はギリギリまでトイレにいよう。もう勝手にやってくれ。
「皆さん、席について…榊君!?どうしたんですか!?」
「授業!!!授業!!!授業!!!」
「…大丈夫か榊…?」
あぁ授業は楽しいなぁ。
しかし一夏君、突っ込んできたのを交わしただけのほぼ事故試合をよく自分の勝利扱いに出来ますね…。いや結果的には勝ちなんですけど他人には言いにくいタイプの勝ち方じゃないですかアレ。
まぁそれを言い出すと他国の一般生徒にイキり散らしちゃう代表候補生のメンタリティも突っ込まなきゃいけないんでスルーです。