黒の大輪は思うがままに   作:痔ーマン

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一人称視点に早くも限界を感じたので三人称視点にします。
これまでのは…どうしよう。その内修正するかもです。


第8話 異変の兆候

セシリアとの試合を制し、ピットに戻った百太郎を彼らは四者四様に迎え入れた。

山田真耶は感極まってか身振り手振りを大きくしながら教師とは思えぬ語彙の貧弱さで褒めたたえ、織斑千冬はただただ簡潔に、けれども口元を緩ませて賞賛し、次戦の準備で身動きの取れない織斑一夏は自分も続こうと決意を新たにし

 

「よくやった。流石だ、百」

 

「ん。次やったら負けるけどね」

 

義姉弟は言葉少なく軽く拳を合わせた。それだけで十分お互いの言いたいことは伝わると彼らの表情は語っていた。

 

「榊。すまんが次の試合が終わればまた出番だ。すぐに機体チェックを開始しろ。傷んでいる箇所次第では延期も考える」

 

「はい先生。…でも俺も黒牡丹もどこも傷めてませんから、延期は考えなくてもいいと思いますよ」

 

そのまま百太郎は真耶のナビゲートを受けながら機体を固定させる。ちょうど並ぶ形になった一夏に向けて軽くサムズアップすると一夏もそれに応えた。

 

「悪いね、一夏。次のセシリアはもっと強いよ」

 

「?どういうことだよ?」

 

「うーんそうだなぁ…。正直俺が勝てた理由の5…7割くらいはセシリアの油断があってのことだからね。多分次の試合は最初から本気モードだから…一瞬で潰されないよう注意しろよってこと」

 

セシリアの心境の変化、それについては教師2名は当然、長年剣術を嗜んできた箒も肌で感じていた。仮に一夏が試合データを細かく分析し、そのデータを読み解ける立場ならば彼も試合中盤から後半にかけてセシリアの戦闘機動はより鋭いものになっていたことを客観的事実として認識できただろう。結果的に敗北したといってもその動きを可能とした心境のまま次の試合に臨んでくるというのはそれに挑戦する立場からすれば脅威他ならない。

 

「そっか…でも、そっちの方が俺もやりがいがあるさ!」

 

そう言って得意げに笑う一夏の脇腹に千冬が振るった出席簿が見事に食い込む。

 

「意気込みは大したものだが、オルコットの中、遠距離戦の技能は1年、いや学園全体で見ても指折りの物だ。お前はあくまで未熟な挑戦者、それを忘れるなよ、織斑」

 

「いってて…分かってるよ千冬ね「学園では先生と呼べ。敬語を使え馬鹿者」…すいません織斑先生」

 

「…はい、はい…。織斑先生、オルコットさんの機体チェック、補給完了したとのことです。織斑君、落ち着いてね」

 

「ありがとうございます、山田先生…それでは織斑、発進準備を開始しろ」

 

「…はい!」

 

「男を見せろよ、一夏!」

 

「任せとけって」

 

そんな様子を見ながら百太郎は機器に固定された黒牡丹をまるで大切なペットにするような手つきで撫でていた。コロコロと表情を変えながら、まるで話しているかのように。

 

「百太郎」

 

「ん?」

 

「いや…一夏の試合が始まる。お前も何か声をかけてやってくれ」

 

箒の言葉に黒牡丹を撫でていた手を止めて、反対の手を軽く顎に乗せて何か思案するような仕草を見せた次の瞬間には一夏に言葉をかけた。

その視線は、彼のISに向けながら。

 

「楽しむと良い。その子、白式もお前と一緒に戦えるのが嬉しいようだから」

 

「お?おう!じゃあ、織斑 一夏、白式、行きます!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一夏が試合会場に飛び立つと、先程の試合と同じようにセシリアが空中に静止し彼を見下ろしていた。しかし、その表情にあったのは相手を卑下する様な不遜なものは一切無い、ただ挑戦者を迎え撃つ、そんな先達としての覇気だった。

 

「始める前に」

 

一夏と視線を合わせると、セシリアはポツリ、と口を開く。

 

「始める前に貴方にもお伝えしておきます。…先日の無礼な発言、そして男性と言うだけで貴方を見下したこと、心よりお詫びいたしますわ」

 

「え…?あ、いや…俺の方こそ、言い過ぎた。ゴメン」

 

まさか頭を下げらると思わなかったのか、一夏もセシリアに続くように頭を下げる。

 

「だからこそ、この戦い、私は全力で貴方を迎え撃つことを誓います。それが私、セシリア・オルコットが貴方に向けられる最大の礼儀であり、代表候補生として挑戦者に向けるべき礼儀であると信じるが故に!」

 

「なら俺は、今の俺に出来る全力でお前に挑む!」

 

その宣誓の終わりを合図にしたかのようにカウントダウンが始まり、試合開始の声と共に一夏は挑戦者として駆け、セシリアは迎え撃つ。

 

白式に装備された武器はただ1つ、刀型の近接武装『雪片弐型』のみである。

それを知った一夏の胸中には、困惑と喜びの2つに分かれていた。

困惑は当然、武器が1つしかないことである。先に戦った百太郎のISにも剣と射撃武器があったのだから、自分にも最低2つはあるのだろうと根拠も無く思っていたのと、まさか剣1本しか武器が無いことなどそもそも想定していなかったのである。

喜びは、自分がこの1週間に重ねてきた努力をどうやら活かせそうだと思えたからだ。一夏が今日までにしたのは箒との剣の修行である。中学時代、少しでも家計の役に立ちたいと伝手を頼ったバイトの中で衰えていった剣の腕を少しでも向上させる。それが箒の考案した修行だった。他に出来る事があるのではないか、とも考えたがこうしてISを改めて使ったからこそ分かる。結果論かも知れないが、箒の修行は間違っていなかった、と。

手に持つ『雪片弐型』を握りしめる。自分ではない、ISの手で握っても、実際に剣を手にした時と寸分変わらぬ感覚が手に伝わってくる。

 

「うおおおおおおっ!」

 

果敢に攻め立てる一夏を、セシリアは紙一重に躱すと勢いを殺し切れず方向転換のために一瞬足を止めた一夏を正確に撃ち抜いた。

 

「速度は大したものですが、少々雑さが目立ちますわよ!」

 

「ぐあっ!…クッソ!」

 

一夏の機動力は確かに高い。恐らく代表候補生、あるいはそれに肉薄する実力を持つ一部の生徒を除けば初見で完璧に対応するのは難しいだろう。

しかし、相手はイギリス代表候補生、セシリア・オルコットであり、加えて彼女は今相対している一夏以上の機動力を持つ相手に土を付けられた直後である。

 

「これなら、どうだぁ!!」

 

「(!瞬時加速)ですが!」

 

半ば直感的に発動させた瞬時加速に対しても驚きこそすれ的確に対応する。彼女を良く知る人であれば今の彼女の仕上がりはこれまでの試合の中でも有数の物であると評したであろう。偏見に曇った心を晴らしたセシリアの力は、今やこの戦いの最中により高みへと登ろうとしていた。

 

「くそっ…!また躱された…!」

 

対する一夏は試合開始から一撃も攻撃を当てられない己に不甲斐なさを覚えていた。セシリアは確かに強く、自分は素人同然であることは彼も理解した上で。

そんな一夏の脳裏に浮かぶのは先の試合でセシリアとの死闘を制したもう1人の男性操縦者、百太郎のことだった。

 

「(アイツの剣はすごかった…動いた、と思ったら次の瞬間にはオルコットを斬ってて…速さだけじゃない、きっとタイミングとか間合いとか色々考えてるんだろうな…でも今の俺は…!)」

 

武道における「静」と「動」。百太郎のIS戦における戦闘機動を見て一夏が感じたのは正にそれであった。一夏は百太郎がどれ程の間剣を握ってきたかも知らない、IS戦と言う特殊な場面での剣のみしか見ていないため、同じ流派であることも知らない。だが、彼にとっては千冬、箒を除いて明確に自分より上だと認められる剣の使い手、それが百太郎だった。

 

「(俺もアイツみたいに…アイツにも負けたくねぇ…!力を貸してくれ、白式!)」

 

その想いに白式が応えたのか、それとも丁度そのタイミングが来ただけなのかは分からない。だが、次の瞬間、白式が大きく輝くとともに一夏の手には光輝く剣が握られていた。

 

「…まさか、単一固有能力!?」

 

その様子を見ていたセシリアは驚きと共に警戒レベルを更に引き上げた。通常、ISが持つ単一固有能力は第二次移行に至ることが出来て初めてその発現の可能性を期待されるものだ。一次移行を終えたばかりの一夏の白式が起こしているのは紛れもなく、例外中の例外であった。

 

「これは…千冬姉の剣…!」

 

それを見て誰よりも驚いたのは、その剣を手に持つ一夏本人だったかも知れない。

彼の姉、千冬が世界を制し、ブリュンヒルデの名で呼ばれるようになるに至った無双の剣。

銘を『零落白夜』。

シールドバリアーを無力化し、直接シールドエネルギーにダメージを与える防御不能の刃である。

 

「行けるっ!これならっ!」

 

その剣をしっかりと握り直し、一夏が再び仕掛ける。

この攻撃はセシリアにとって2つのイレギュラーを発生させた。

まず1つは瞬時加速による移動が先程までに比べて大幅に上昇していたこと。瞬時加速はエネルギーを貯め込む時間によって加速力に差を付ける事は可能だが、試合で使う場合は個々人が微調整を繰り返した結果到達するいくつかのパターン化されたものに落ち着くのが自然だが、そもそも瞬時加速を半ば直感的に使用している今の一夏のソレは発動毎に大きなムラがあり、結果的にセシリアはその速度を見誤るという状況に陥ったこと。

そしてもう1つは『零落白夜』によって延長された刀身のリーチである。無論、相手の武器に起きた変化も、それによって発生する有効範囲の変化もハイパーセンサーは彼女に伝えている。

しかし、いかに優れたセンサーをISが搭載しているとはいえ判断するのは生身の人間である以上、ミスは起こり得る。今回の場合、2試合続けて日本刀型の近接武装を扱う相手と相対した結果、セシリアの中で武器のリーチに対する判断の速度を少しでも早くするため試合の中で蓄積した直感に委ねていたことが災いした。

 

「きゃああああっ!!」

 

『零落白夜』の想定を超える威力に大きく体制を崩しながらもセシリアは即座に次の判断を下す。

想定外、予想外の事態などこれまで何度も直面したではないかとその心を滾らせて。

 

「…行きなさいっ!ティアーズ!」

 

くるり、と立て直してすぐさまティアーズを射出する。その数は3。先の試合で見せたのとは別パターンでの攻撃であある。攻撃の度にその位置を調整するティアーズはまるで雨のように一夏への攻撃を続けているが、ここでもセシリアにとって予想外の結果が生まれていた。

 

「(あの剣…光学兵器を切り裂きますのね…!)」

 

2機のミサイル式BT兵器を除けば全ての武装が光学兵器であるブルー・ティアーズにとって、白式の持つ『零落白夜』は考える限り最悪の相手であった。セシリアの脳裏に彼女が日頃から申請していた実弾兵装の登録をつっぱねていた担当者の顔が思い浮かび、内心そら見たことか、と頭の隅で考えつつもセシリアは次の一手を導き出していた。

 

「!もう1機来たか!」

 

その答えは単純明快。奇しくも先の試合と同じ4機のティアーズによる包囲攻撃である。

防御をあの剣に頼っている以上、白式に射撃武器は搭載されていないと判断したセシリアは先の試合では失敗した包囲攻撃こそ、この場で取れる最善手の判断した。

 

「ぐっ!…くそっ!」

 

一方でその攻撃に晒されながらも一夏は相手の弱点に気付いていた。

 

「(やっぱりアイツ、この武器を使っている時は自分も身動きが取れなくなるんだ…!)」

 

このままでは追い詰められる、否、自分に残されたシールドエネルギーを考えれば恐らく仕掛けられるのはこれが最後だと判断するや否や、一夏はまず自分を包囲するティアーズへとその剣を向ける。複雑な機動ではあるが、IS本体に比べれば出力に劣るBT兵器に第三世代機である白式が追いつけない道理は無い。残り少ないシールドエネルギーを更に犠牲にしながらも一夏は素早くティアーズを切り落とし、その勢いのままセシリアへと最後の突撃を慣行せんとする。

 

「お見事です。…が、そこまで想定内ですわ」

 

セシリアはそれすら予想していた。否、そこに辿り着くと信じた。

ISを動かして間もない初心者が己に肉薄することを信じた故に、彼女は一夏の取るであろう戦術の全てを見抜くに至ったのだ。

ティアーズが撃破された次の瞬間には既に残された2機からミサイルを射出し、それさえも突破してくるであろうとすでにライフルを構え、一夏に狙いを定めている。それに気付いた一夏は歯噛みしながらもそれに一矢報いんと更に加速する。両者最後の攻防が交差する、と誰もが固唾を呑んだ次の瞬間だった。

 

「「!?」」

 

白式の動きが止まり、ブルー・ティアーズの武装にロックが掛けられる。

セシリアが目にしたのは『非攻撃対象』を意味するエラーコードであり、一夏が目にしたのは『シールドエネルギー残量0』のメッセージであった。

 

「まったく、締まらんオチだな」

 

ピットで試合を見守っていた千冬の一言と共に、試合終了の宣言が会場に響き渡った。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ピットに戻った一夏にまず声をかけたのは箒だった。

 

「一夏!最後のアレはなんだ!?」

 

「それは俺の方が知りてぇよ…千冬姉、これ千冬姉と同じ剣だろ?どうなってるんだ?」

 

一夏の言葉とともに視線を向けてきた箒を見て千冬は大きくため息をつく。

 

「織斑先生、だ」

 

まったく、と呆れた様子を見せながらも千冬は淡々と語っていく。

要約すると、白式が持つ『零落白夜』はISのシールドバリアーを無効化し、シールドエネルギーに直接ダメージを与えられる極めて強力な単一固有能力である反面、その強力さ故に使用中は常に自身のシールドエネルギーを消耗することになるデメリットを抱えているという事だった。

 

「シールドエネルギーの減少は表示されていただろう。IS戦においてシールドエネルギーの管理は最優先事項の1つだ、今後は注意しろ」

 

「で、でもそもそも一次移行のISが単一固有能力に目覚めること自体イレギュラーです…」

 

真耶は白式のメンテナンスを開始しつつ、よく意味が分かっていない様子の一夏に説明を続けて行く。

 

「一部のISは単一固有能力、読んで字のごとくそのISだけしか持たない特殊な能力に目覚めることがあります。ただ、今までに確認されてきた単一固有能力はいずれも第二次移行を終えたISに限られてきましたから、織斑君のIS、白式に起きたのはイレギュラーそのものなんです」

 

「えぇっと…つまり」

 

「つまりですね。織斑先生が言った通り、扱いの難しい機能ではありますが一次移行の段階でそれを使えるというのは他のISに対するアドバンテージになるわけです。今後も使いこなせるよう練習を怠らなければ、きっと織斑君の武器になりますから頑張ってくださいね!」

 

その言葉に一夏は「成程」と理解したのかしていないのか判別できない様子で頷きながらも、自分の手に入れた力に対してある種の達成感、充足感を得たように白式に視線を向けた。

 

「それでは、最終戦の準備に入る。榊は反対側のピットへ移動だ。私も同行するが…待機形態には出来るか?」

 

「こうかな?…あっできた。っていうか移動くらい1人でできますよ?」

 

パッと一瞬光ったと思えば次の瞬間には黒牡丹は黒いブレスレットとなって彼の腕に巻かれていた。千冬はその様子に頷くとともに教員証をブラリと見せる。

 

「ピット間での移動は教員もしくは審判の動向が必須だ。今回のようなクラス内での行事はともかく、進路を左右する様な試合での不正行為を避けるためにもな」

 

「成程。では、行きましょう…一夏、また後でな」

 

「おう!」

 

ヒラヒラと一夏に向けて手を振りながら、百太郎は千冬と共にピットを後にした。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ところで榊、黒牡丹の使っていた…『空犬』と言ったか」

 

「あぁ、俺もビックリしましたよ。こいつ『中距離武装』としか表示してくれなかったから銃みたいなのかなと思って使ってみたら左腕がガシャガシャ変形するんですもん」

 

「……そうか」

 

何か考え込む様子の千冬を見て百太郎は何だろうと小さく首を傾げる。彼としては『空犬』を使用したタイミングも使い方も初戦としては悪くない内容だったと思っていたが、元世界最強である千冬からしたら下策だったのだろうかと思い至り少しバツが悪そうに口を開く。

 

「もしかして、使い方悪かったですかね…?」

 

「ん?…あぁいや、そうではない。変わった武装だったのでな、個人的に少し気になっただけだ…使い方も悪くはなかったと思うぞ。今後も精進は必要だがな」

 

「ありがとうございます。射程もあるし攻撃に使っていけるようにしたいですねー」

 

セシリアに教えてもらおうかなー、と電気を反射して妖しい輝きを放つ黒牡丹を眺める百太郎と同じく、千冬も黒牡丹を睨むように見つめていた。

 

「(あの武装…展開装甲を使用したものだった…いや、そもそも黒牡丹に剣以外の武装があるという報告は無かった…)」

 

試合当日に搬入となったが用意されたISに関するデータは千冬が確認していた。主に政府や企業等が不正にデータを入手するための機器などを仕込んでいないかのチェックが目的ではあったが、武装についても目を通していたが、黒牡丹も白式と同様、近接武装のみのISの筈だった。しかし、他ならぬ千冬自身が黒牡丹の2つ目の武装を目撃している。

 

「(私では見つけられない手口で武装を仕込んだとするなら束か…?いや、アイツが榊の機体に手を加える理由が無い…データ取り?それこそその気になれば未登録の武装などという分かりやすい疑いなど用意せずに調べ上げられる力がアイツにはある)」

 

隠されていた異質な武装から友人を思い浮かべるもその可能性を千冬はすぐに否定する。

“天災”篠ノ之束。ISの生みの親にして千冬の友人である彼女は、分かりやすく表現するなら人嫌いの極致だ。自分が認めた、あるいは心を許した相手以外は徹底的に拒絶し、見下し、否定する。血の繋がった両親ですら彼女は拒絶したのだ。そんな彼女が、結果的に関係こそ良好であったとはいえ政府の都合で数年共に生活しただけの男を特別扱いするはずがない。

であるならば一体誰が、どのような手段で、と千冬の頭の中で次々と疑問の連鎖が生まれていく。

 

「?先生、IDカードを見せてくれって表示が出ましたけど」

 

「…あ、あぁ。そうだな。…よし、開いたぞ」

 

生徒の言葉に反応出来ない程思考に没頭していた千冬は軽く頭を振るうと百太郎を伴ってピットへと入室する。中では既に今日の試合を終えたセシリアが機体のチェックを行っていた。

 

「あら、百太郎さん、織斑先生」

 

「邪魔するぞ、オルコット。…調子はどうだ」

 

「ブルー・ティアーズの方は問題ありませんわ。ただ、ISに乗って間もない百太郎さんに負けたのは堪えていますが」

 

「ふふ。その割にはいい顔をしているぞ」

 

「そうですね…確かに不思議と気分は晴れやかですわ…それはそれとして次は勝ちますわよ?百太郎さん?」

 

「いや、次やったら普通に負けるから」

 

お手上げだ、と両手を上げる百太郎をクスクスと笑いながら話始めるセシリアを見て、千冬は今回の事は荒療治ではあったが良い結果にまとまってくれて助かったと内心ホッとする。彼女にとってブリュンヒルデ、元世界最強という称号は一教師としてはいささか派手過ぎるものであり、積み重ねてきた経験と、積み上げられたイメージは必ずしも彼女にとって理想的な教師としての働きを助けるものでは無かったのだ。

とはいえ彼女が教師になって分かったこともある。思った以上に子は知らぬ間に育つ、ということだ。教師としてそれを知る結果になったのは彼女にとってはあまり望ましくないことではあったが。

 

「織斑の機体チェックが完了し次第試合を開始する。…オルコット、準備の手伝いを頼む。榊はいつでも出られるようにしておけ」

 

「承知いたしましたわ」

 

「了解です」

 

まぁ少なくとも、今年の新入生は悪くない。そう思う千冬であった。

 

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