最後のマスターと召喚魔王   作:メンツコアラ

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読者からのリクエストを頂き、今回の物語を書きました。
ありきたりな物語かも知れませんが、読んでみて下さい。


魔技科の剣士 01

 ───ああ……これは夢だ。

 

「先輩ッ……! 先輩ッ……!!」

 

 彼のすぐ側で、誰かが涙を流しているのが分かる。自分にとってとても大切な人が泣いている。

 

「先輩、しっかりして下さい! 先輩は人理を、世界を救ったんですッ! だから、こんな所でッ…………!」

 

 ───ごめん、◯◯◯。

 

 彼は心の中で彼女に謝る。死を何度も見てきたせいか、もう自分が助からないと分かりきっていたからだ。だからこそ、せめて最後に自分の我が儘を彼女に聞いてもらおうと血でうまく呼吸出来ない喉を震わせる。

 

「◯、◯◯……」

 

「先、輩……?」

 

「手を、握って、くれ、ないか……?」

 

「───はい……」

 

 ◯◯◯は大粒の涙を滝のように流しながら、血に濡れた彼の手を握る。

 

「あの時と、逆ですね……あの時は、私が……」

 

「……………………」

 

「ずっと一緒にいますから……この手を離しませんから……」

 

 

 ───行かないで下さいッ……!

 

 その言葉を最後に聞き、彼の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピ! ピピピピ! ピピピピ!

 

 

「…………ん、んん───」

 

 騒がしい音で意識が覚醒した彼、林崎 立香は唯一動く左腕を動かし、朝の時間を知らせる目覚ましを止める。目を開ければ、眩い朝日の輝き。そんな清々しい一日の始まりに立香は額に手を当て、深く溜め息をついた。

 

「また、あの夢を見るなんてな……」

 

 彼、林崎 立香は転生者である。物心ついた時にはその自覚があった。前世での名前は『藤丸 立香』。凡人類史最後のマスターとして、人類史に名を残した数多の英霊たちと共に奮闘し、最後の敵を倒して凡人類史を救った青年であった。だが、今までの付けが回ってきたのか、立香の体は限界を迎え、最後は大切な後輩に見守られながら眠るように亡くなった。

 

「マシュ……」

 

 相棒(こうはい)の名前を呟き、あの後どうなったのか考えてしまう。尤も分かる術など無いのは分かっているが……

 

「マシュ? 兄さま、マシュマロが食べたいのですか? いけませんよ。朝からあんな甘いものを食べては」

 

「…………………………」

 

 自分のすぐ右側から聞こえてくる声に漸く現実と向き合う立香。見れば、ベッドの上に自分以外の人物がもう一人。

 

「なにをしてるの、鼎?」

 

「兄さまと夜を共にしました♡」

 

「うん。鼎が勝手に布団に入り込んできただけだよね」

 

 満面の笑みを浮かべるネグリジェ姿の義妹『林崎 鼎』に、立香は頭が痛くなってくる。こんなブラコン全快の義妹が本当に数多くの道場破りを果たした『風神子猫(ストームキャット)』と呼ばれる剣士なのかと疑いたくなるが、未だに蛇の如く絡み付いて離れる様子がないその手腕は間違いなく強者のものだろう。

 

「はぁ……兄さまの匂い……ぐへへへ……」

 

「オゥ……」

 

 前言撤回。只の変態だった。

 

(仕方ないか……)

 

 立香は内心溜め息をつきながら身体力強化魔法(エンチャント・オーラ)で自分の体を教化し、鼎の拘束から無理やり脱出する。

 最愛の兄から引き剥がされた鼎の体はそのままベッドから転がり落ち、尻餅をついた彼女は涙目になり、捨てられた小動物のような顔を立香に向ける。

 

「卑怯ですッ! か弱い乙女に対して身体力強化を行うなんてッ!」

 

「か弱くは無いでしょ? ほら。早く着替えないと遅刻するよ」

 

「では、兄さまが手ずからうッ!? ちょっと兄さまッ!? いきなりデコピンは酷いですッ!」

 

「バカな事言わないで早く着替えること。それじゃあ」

 

「あ、ちょっと兄さまッ!」

 

 鼎の制止も聞かず、立香はその部屋から退室し、そのまま家内にある道場へ足を運ぶ。

 毎日丁寧に掃除され、毎日のように誰かが稽古に励むその場所は何処か懐かしい匂いがした。立香はそのまま歩みを進め、中にあった刀掛けの刀を手に取る。

 

(この刀とも今日から暫くお別れか)

 

 せめて最後に、と鞘から抜き、頭に仮想の敵を思い浮かべて剣を振るう。

 相手は前世で共に歩んだ英雄の一人。

 彼が3尺余りはある刀を抜き、立香もそれに合わせて構えを取る。

 

 ほんの僅かな静寂。先に動いたのは立香だった。

 

 彼の間合いに入り、その刃を振るうが、彼はそれを易々と受け止めた。勿論、それは想定済み。すぐさま第2、第3の刃を振るう。

 それでも彼には届かない。

 ならば、と立香は身体力強化魔法を使い、彼に一気に肉薄する。

 だが、立香の刃は彼に届かず、その首を斬られるのだった。

 

 

「───ッ……やっぱり、全然届かないか……」

 

 頭の中で自分が斬られるビジョンが見え、敗けを悟った立香は構えを解き、納刀する。そんな中、いつの間にか訪れていた、<国立騎士学院カリアティド 剣技科>の制服に着替えた鼎が立香に声を掛けた。

 

「お疲れ様です、兄さま。今日も負けたみたいですね?」

 

「負けって……断言するのは酷くないか?」

 

「最後の反応を見れば負けたと分かりますよ。今日の人物は長刀の使い手ですか? それも普通よりも長い刀の」

 

「正解。よく分かったね」

 

「それほどまで兄さまの動きが素晴らしいのです。いないはずの相手が見えたような気がします」

 

 そんな彼女の言葉に感謝を述べた立香は刀を刀掛けに戻し、同じ刀掛けに掛けられていた日本の小太刀を鼎に手渡した。

 

「ありがとうございます、兄さま」

 

「どういたしまして。それにしても、やっぱり鼎はあんなネグリジェよりもこっちの制服が似合うよ。小袖風のブラウスが似合ってるね」

 

「兄さまの制服も素敵ですよ。優しい兄さまに知的なブレザーがベストマッチッ! ヤベーイッ! スゲーイですッ!」

 

「うん。何を言ってるのか分からない」

 

 鼻息を荒くして興奮する義妹(へんたい)にどことなくだが、溶岩の中でさえ悠々と泳ぐ三人の女性たちと同じ気配を感じ、立香は鼎が同じ道を辿らないように天に願う。

 そんな立香の心情は露知らず、鼎は小太刀を腰に提げ、チラッと彼の腰に目をやる。

 

「兄さま……帯刀なさらないのですか?」

 

「……しないよ。俺は剣技科じゃないからね」

 

「……なんで……なんで兄さまの左手に謎痕(エニグマ)なんて浮かぶんですかッ! 女性しか授からない筈なのにッ!」

 

「言っても仕方ないよ。運命とは(Your soul is)最もふさわしい場所へ( carried to the most suitable place )貴方の魂をはこぶのだ(with destiny) 。あのシェイクスピアの言葉だ 」

 

「兄さまの言ってること、私には分かりません……」

 

「つまり、俺はこの運命(Fate)を受け入れるってこと」

 

 そう言って、立香は左手の謎痕を掲げて見せる。

 

 今の時代、謎痕の持ち主は『魔技科(まぎか)』に入学して神魔(ディーヴァ)と契約することが義務付けられていた。

 

 

 ───魔技科。

 これから立香が通う国立騎士学院カリアティドには二つの学科、『魔技科』と剣術を学ぶ『剣技科』がある。そして、林崎 鼎は『剣技科』の女剣士であり、林崎 立香は今日から『魔技科』の『召喚魔法使い』となるのだった。

 

 

 




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