受けループ使いがジムチャレンジをするのは間違っているだろうか 作:zetta
「レイジ!まだ寝てるの?今日は、ポップのお兄さんからポケモン貰うんじゃないの?」
「俺はポケモンは要らないよ。俺には父さんのポケモン達が居るからね」
すると、母さんはもう何十回とこのやり取りを繰り返しているというのに1回目と寸分違わない憂いを帯びた瞳を僕に向けてくる。
「レイジ、本気なの?もしかしたらあなたも、あの人みたいに、、、」
「わかってるよ母さん。それでも、俺はやらなきゃいけないんだ。」
そう言って、俺の方からも1回目と違わない真剣な眼差しを机に転がるモンスターボール達に向けた。
俺は
「もう言っても無駄みたいね。あなたが帰ってきた時にその瞳が濁っていないことを願っているわ」
「うん。ありがとう。母さん」
そう言い残し去ってゆく母さんを横目に輝かしき5年前までの日々に思いを馳せた。
俺の父親はチャンピオンだった。それも無敵の、ダンデ以上に無敵のチャンピオンだった。プロリーグ戦では、全戦全勝。ただの一人も父さんとそのポケモン達に勝つことができなかった。俺は父さんのバトルが好きだったし、何より父さんの使っているポケモン達が大好きだった。
ポケモンバトルがしたい。そう思った俺は父さんにポケモンバトルのイロハをたくさん質問した。すると父さんは夢を語る少年のような眼差しでいろんなことを教えてくれた。その話によると父さんはどうやらこの世界とは別の世界から来たらしい。その世界でポケモン達と一緒に
レート2000越えなる偉業を達成したらしい。にわかには信じがたい話だったが、父さんとポケモン達の常軌を逸した強さやポケモンバトルの理論、ポケモン達のほとんどが色違いだったことから俺は父さんの話を真摯に聞いていた。
そんな中、ある日を境に父さんがこんなことを呟くようになった。
「俺は生まれる時代を間違ったのかも知れない」
その言葉にどの様な意図があったのか分からないが、父さんが何かに悩んでいることは確かだった。それもそのはすだ、父さんは確かに強かったが、チャンピオンとしての人気は低迷していた。試合に勝ってもヤジばかり、試合会場でデモ活動をしている奴らもいた。
何故そこまで人気がなかったのか、どうやら父さんの使うポケモンとその戦術が問題だったらしい。
父さんは自分のパーティーを
受けループとは耐久力の高いポケモンで相手のポケモンの攻撃を受け切り、半永久的に回復技を使用して時間を稼いで、その間に、どく・やけど、などのスリップダメージや低火力の攻撃技などでジワジワと相手のポケモンの体力を削ってゆく戦術のパーティーらしい。
一見隙のない良い戦術の様に見えるが、確かに人に見せるものとしては欠点が多かった。通常のバトルよりも時間がかかることや、代わり映えのしない場面が多く、見栄えが悪い。更に対戦相手のメンタルをも破壊しかねない最悪の戦術だったのかもしれない。
それでも父さんは受けループを使うことをやめなかった、父さんには、受けループ使いとしての信念があったし、なにより自分のポケモンたちを愛していたのだ。
だが、父さんをよく思わない者の中にローズと言う男がいた。その男は多国籍企業であるマクロコスモスのオーナーであり、ガラル地方のポケモンリーグの委員長でもある。
ローズは人気のない父さんがチャンピオンでは集客力がなくビジネスとして良くないと父さんにチャンピオンを辞退するように迫っていた。
父さんの瞳が徐々に曇っていったのはそのせいだろう。
そんな中、ジムチャレンジを無敗で潜り抜け、ジムリーダーとのトーナメントも白熱した熱いバトルの中を通過してきた、ダンデという男が父さんに挑戦することになった。
その戦いっぷりから周囲からは今度こそ父さんからチャンピオンの座を奪えるのではないかと期待された。
しかし、試合に父さんの姿はなかった。父さんは試合を棄権した。
恐らくポケモン達を人質に取られたのだろう。リーグの前には手持ちのポケモンのチェックがされる。ドーピングを防ぐためだ。その時だろうか、それか、ポケモンセンターに根回ししていたのか。いずれにせよ絶対に、してはならない事だ。
しばらくすると殆どのポケモン達は返ってきたが、皆ボロボロだった。
ただ、
父さんは未だ何処かに監禁されているのか、それとも、もうローズに始末されてしまったのか、それは分からない。だが、それを明らかするため、そしてローズの行いを世間に告発するため。俺はチャンピオンにならなければならない。
それに加えて俺は世間に問いたい。
「強いポケモン、弱いポケモンそんなのは人の勝手。本当に強いトレーナーなら好きなポケモンで勝てるように頑張るべき。」
これはジョウト地方の四天王カリンの名言だが、では好きなポケモンが強すぎた場合はどうすれば良いのだろうか、強すぎてつまらないからと簡単に切り捨てられて良いのだろうか?
それこそ、
だからこそ俺はーーー
「おーい!レイジー!お前本当にポケモンいらないのかぁー?」
あの煩わしい叫び声はポップの声だ。決意を新たにしていたのを遮られ苛立ちが募った俺は、乱雑に窓を開けて外を見下ろした。
「ポップと、、ユウリも居るな。ポップはともかくユウリまで、待たせるわけにはいかないか。」
俺は愛するポケモン達をバッグに入れると、最後にドヒドイデの入ったモンスターボールを握りしめ、自分に言い聞かせるように呟いた。
「よろしくな相棒。」