『いや…神谷さん。まさか、イギリスが…魔術協会がこんな事を隠していたとはですね』
『ええ。正にマッドサイエンティストと、言えた所でしょう』
10月半ば程のある日。テレビでは連日のように時計塔やイギリスが浸隠してきた真実がニュース番組でお茶の間で次々と告げられていく。
封印指定と称して、素質の有る凄い人間を殺したりさらっては神経の一本一本に至るまで分解して、ホルマリン漬けで保存。勿論、その中には胚の段階で発育が停止したイナバの兄弟達も含まれる。そうなった人間は魔術師からすれば絶好の研究材料だ。
他には不老不死に成りたいから、吸血鬼を増産してはゾンビだらけで集落1つを滅ぼしたり、もうこんなのが序の口と言いたげな内容であった。国際法で禁じられている人体実験、遺伝子操作、ボロが出るわ出るわ。根源に至るために色々とやって来た事が次々と出てくる。
その上。イギリス政府にも魔術協会の関係者は多く、イギリスは言い逃れ出来ない。神秘の秘匿と称して多くの人間を口封じに殺害してきた事実も有り、魔術の総本山とも言える時計塔の地位は地に堕ちた。社会的に抹殺されたも同然である。
「最近のネットは直ぐに広まるからな。考え方を改めなかったら、ダメだな魔術協会さん」
と…言いながら珈琲を飲むのは我らが火影であるエンマである。彼は自宅である久遠寺屋敷でテレビを見ながら、時計塔が送るであろう末路を想像しながらニュースを見る。
だが、中にはエンマも想定外なニュースが有ったのだ。その内容はミカエル率いるエクソシスト+米軍が奮起したのだ。彼等が奮起したのは世界を守るため『アメリカン・ジャスティス!!』を掲げる為である。ニュースでも時計塔のとある人達が吸血鬼を作っちゃったりしたのは有名であり、その吸血鬼も未だのばなしにされている所もある。だからこそ、ミカエル達は世界を守るという大義を掲げて吸血鬼狩りを始めたのだ。
当然、世界でも多くのシンパが居る天界。彼等は広いコネクション等を駆使し、吸血鬼を見付けては抹殺。だが、そのお陰で吸血鬼の驚異から助けられた人々も居ており、救われた命も有る。
「正義を大義にして、大量殺戮でもするのか?旧悪魔政府を滅ぼした俺が言える義理じゃないが」
珍しくシリアスモードのエンマが言う。確かにエンマは旧悪魔政府との戦争で、ほぼ1人で大量殺戮を繰り広げた。これに関してはエンマは正義だとは思っていない、民間人や日本人として生きる事を決めた悪魔を全員日本に逃がしたとしても彼は数多の悪魔を滅ぼした。
そして、そのエンマが行った半日戦争よりも遣り過ぎな正義をミカエル達と米軍はやってるのだ。吸血鬼の完全なる抹殺、正義を掲げてエクソシストや天使の力、現代兵器の圧倒的な力で次々と吸血鬼を抹殺してるのだ。
『さあ!正義を掲げ、人に仇なす吸血鬼を倒すのです!!正義は我々に有り!!』
『『『ぉおおおおお!!』』』
テレビの画面にはミカエルに奮起された軍人、エクソシストが士気を高める。
時計塔のお陰で吸血鬼も実在する事が大々的に報じられた。その吸血鬼を全て倒すため、いや滅ぼす為にミカエル達は正義の裁きを降すのだ。
はぁ…と溜め息を吐き出してエンマは食パンを噛る。火影は朝も早く、リビングの食卓には未だ自分しか居ない。
と言うのも久遠寺屋敷の住民は殆どが夜型だ。魔女であり、三咲町の管理者であるアリスも夜型。吸血鬼のレミリアちゃまは当然夜型であり、学校が有ろうとギリギリまで寝ている。瑞鶴とユウキは夜型ではないのだが、エンマよりは遅めだ。イナバに関してはランダムであり、エンマより早ければ家族で一番遅く起きる事も有る。最近、此方にやって来たオルガマリーちゃんは背伸びをしているが、子供らしくぐっすりだ。
だが、久遠寺屋敷の住民は更に増えた。ライネスやフィオレもこの屋敷に住みだしたのだ。部屋は余ってる為に問題はない。因みに弟のカウレスや他の生徒はカタッシュ農園の寮である。
時計塔の真実が暴露され、世間の批難はイギリスに向けられる。ミカエルには絶好のチャンスだった。グラム等の宝具の件や和平を結んだのに禍の団に対しても対策を打たなかった自分達に対する視線が少ない今こそ、自分達の好感度を上げるチャンス。
それに時計塔のお陰で明らかに成った吸血鬼の存在。正にミカエル達にとっては絶好のチャンスだった。人に危害を加える吸血鬼を滅ぼし、人を救う大義を得たミカエルは米軍と共に実行に移したのだ。
「なあ…ミカエルさんや。本当に吸血鬼を全員、皆殺しするつもりか?
中にはひっそりと生きたい人も居るんだぞ。そんな彼等も全員殺すのか?」
もう、これは虐殺なのかも知れない。しかし、人外全てを人として認めるのは日本だけ。ならば、米国等では人に危害を加えない種族だけが人なのだろう。ならば、米国等では人に危害を加える吸血鬼は害獣同然なのだろうか。
それはエンマには分からない。だが、もし……ひっそりと生きたい吸血鬼から助けを求められたらエンマは助けに向かうと心で決める。戦争を止めるために。
「てか、ミカエル。草薙の剣…忘れてね?」
元気ハツラツに米軍を率いるミカエル。だが、エンマは思う。ミカエルが米軍を率いているという事は、ミカエルは草薙の剣の修復を行っていない。既に修復が終えてるならとっとと返す筈だが、連絡が一切無い。もしかすれば、ミカエルは支持率upと吸血鬼狩りの為に草薙の剣の事を忘れてるかもしれない。
その日の夕方頃。
一誠はアーシアと共に駒王大学の講義室に来ていた。何故なら、その講義室では定期的だが魔術や神器の扱い方を多角的に教える授業が行われるのだ。
神や人外を人間として接し、人と共に暮らす唯一の国、日本ならではだろう。関東では駒王、九州では冬木と様々な地方に裏側での授業を行う学校は次々と指定されている。その学校では時計塔で現代魔術科を始め、ウェイバーと共に時計塔で授業を行っていた先生達が教壇に立ち、新しい新天地で各々の教え子達に物事を教えるのだ。
「それにしても…人が多いな」
一誠が言うのも無理は無い。自由参加とは言え、多くの受講生が講義室に集まっていた。中には駒王で裏側の講義を行う教師の指導を受けるために、旅行中や他府県からやって来た人達も居たのだ。
一誠が教室を見回すと、時計塔が崩壊してから関東に移住した現代魔術科…エルメロイ教室の生徒達も居たのだ。
ライネス、ルフェイ、カウレス(一方的に一誠は知ってる)、イナバ、フィオレ。一誠が知っている人も居れば、一誠の知らない青年も居る。とは言え、彼等は一角に集まっており、同じエルメロイ教室のメンバーなのだろう。
「あの人達って、エンマさんの息子さんの学友ですよね?」
「一応そうなるよな。イナバの奴は三咲町に戻ってるしな」
エルメロイ教室の生徒の皆様。日本を謳歌。すると、目当ての名物教師が講義室にやって来た。女性のような長い髪、日頃から胃痛にやられ続けたのか眉間にはシワが刻まれていた。
「諸君。静粛に。私がウェイバー・ベルベットだ。この駒王で定期的だが、魔術や神器に関する授業を行う事になった。以後、宜しく頼む」
しかし、その数日後。
「火影様ァァァァア!」
ルーマニアに有る吸血鬼の本拠。そこに核爆弾に匹敵する爆発が起き、ギリギリまで吸血鬼の生存者を救助したエンマは爆発に巻き込まれる。
その3日後。エンマの手で逃がされた吸血鬼以外の吸血鬼が滅び、爆発が起きた現場を調べた米軍と天界。そこには瓦礫の山しかなく、生物の生存は確認されなかった。
遺体は発見されなかったとは言え、生存は不可能。米軍と天界から初代火影 千手エンマの死亡が日本に通達された。
次回!エンマ死す!?デュエルスタンバイ!!