電車で揺らされること30分、俺達のいた町はいつの間にか遠くなり山ばかりだった筈の景色が見渡す限りの海となっていた。
「おい、オルガ。あれ三日月のプギーじゃね?」
智樹が俺の肩を叩いて電車の窓の方に指を指す方向を見ると確かにプギーがミカを乗せて走っていた。俺より一回りデカイのにも関わらず電車と同等のスピードで走り続けていた。しかも、プギーの顔を見る限り疲れた顔なんて一切見受けられねえ。
「ホントにどうなってんだあの猪?」
「俺も長年山の中で住んでいるがあんな猪は見たことがない。ましてや空見町にあんな猪がいるとは気付きもしなかった」
「守形の兄貴でも知らねえのか…。でもそんな猪を手懐けるなんてやっぱすげよミカは」
「オーガス君を風紀委員にしたのはやっぱり正解だったわね〜」
会長が一安心といった様子でそう呟いた。…あれはほぼ強制だったような気もするが言うだけ野暮だな。すると、そはらが窓から身を乗り出し
「お〜い三日月く〜ん、プギーちゃーん!」
とニッコリ笑ってミカとプギーに手を振った。プギーは走る事に集中して反応してなかったがミカはどうやら聞こえたようで手を振り返していた。まだそんなに日数は経ってねえのにもう打ち解けてるみてえだなミカも。
「そはら、そんな身を乗り出すと危ないぞ」
「あれ?智ちゃん心配してくれるんだ?」
「当たり前だろ?幼馴染なんだしな。ほら、引っ張ってやるからじっとしてろよ?」
そう言って智樹は手をワキワキしながら窓から身を乗り出してるそはらに近づいた。しかもやべえ笑い方してやがる。そはらも本能的に気づいたのか素早く乗り出していた体を引っ込めた。
「と、智ちゃん?今いやらしい目で見てたよね?」
「いやぁ?そんな事ないぞぉ?俺は幼馴染として心配してだな?」
そはらが体を引っ込めたって言うのに智樹はまだ近づいていた。しかも言ってる事と顔の表情がまるで逆な為そはらも信じていないみてえだ。やべえな、ここら辺で智樹を止めねえとチョップが炸裂する。智樹が食らう分には良いが俺までダメージが来るなら話が違う。
「智樹、その辺で止めと―――」
「智ちゃんのエッチ!」
俺が止めるよりも早くそはらのチョップが放たれ智樹の脇腹にクリーンヒットした。そのダメージはそのまま俺に来るわけであって…ああ、この流れだな。
「ウ゛ッ!」
「痛っ!」
智樹のダメージの大半はオルガが肩代わりしたことで智樹は蹲るだけですんだがオルガはやはりそうはいかなかった。
《キボウノハナー》
「だからよ…素早くチョップするんじゃねえぞ…」
団長命令を響かせ希望の花が咲いた。のだが…
「フフッ、面白いわね〜イツカ君は」
それを見た会長は心底愉快そうに笑っていた事はオルガの知る由もなかった。
そして―――
「着いたぞ海ぃ!!」
なんだかんだ海に着いたオルガ達。
「結構長かったわね〜」
「空見町からここまでかなり距離があるからな。…ところでいつまでオルガはいつまで死んでいるんだ?」
そう、オルガは電車で希望の花を咲かせてからここに到着してなお蘇っていなかった。余程そはらのダメージが大きかったのかピクリとも動いていない。それを見ていたそはらはどこか申し訳なさそうな顔をしていて智樹も若干後ろめたそうな顔をしていた。
「ブモッ」
「皆どうしたの?」
と、そこでプギーと三日月が到着した。守形先輩が今までの経緯を三日月に話すとチラッとそはらと智樹の方を見た。それに気づいた2人はビクッとしたが三日月は特に何も言わなかった。
「んじゃ、俺が起こしてみるよ」
「ん?三日月、出来るのか?」
「分からない。けど、やらないと皆海に来たのに楽しめないだろ?」
そう言って三日月はオルガの所に向かった。倒れてるオルガを揺さぶると
「オルガ、起きて。起きないから皆困ってるよ」
と言った。元々起きないのはそはらのチョップのダメージのせいであってオルガは決して悪くないのだがそれでも三日月はオルガを揺さぶった。すると、三日月はオルガを揺さぶるのを止めて立ち上がった。
「オルガと長い付き合いだと聞いているが、やはり三日月でも駄目か――」
と守形先輩がそう言ったとき三日月が光出した。
「な、なんだ!?」
「三日月君!?」
その場にいたイカロスを除く全員が驚愕した。だが、三日月は気にすることなくバルバトスに変身し――
「オルガ、起きないなら…キツイのいくね」
両手にメイスを顕現させ、しっかりと握りメイスをオルガに力一杯振り下ろした。ドンと鈍く重たい音が鳴りどう見ても死体蹴りどころかオーバーキルですらあった。
だが……
「うっ…ぐっ……はっ!?」
ピクリともしなかったオルガは見事蘇った。
「オルガ起きた?」
「おお…ミカ。ていうか、ここ海か?」
「そうだよ。皆、オルガが起きないから困ってたよ」
「何!?そいつはすまねえ。心配かけちまったな……ん?お前らどうした?」
オルガの起こされ方や三日月がバルバトスに変身した事やらで頭の情報処理が追い付かなくなった一同はイカロスを除いてポカーンと口を開けっ放しだった。
〜数分後〜
さっきの事で困惑してた奴らには「俺は、鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!こんくらいなんて事はねえ!」って言ったら全員納得した顔になったのでそのまま海で遊ぶ事にした。んで、俺はと言うと……
「どうした兄貴ぃ!そんなんじゃ俺が先にゴールするぞぉ!」
「中々やるなオルガ」
守形の兄貴と共に水泳の競争をしていた。砂浜から往復で50メートル泳いでどちらが先にゴールするかがルールだ。
で、俺はというと既に往復し後10メートルもしない内に砂浜に着く頃だった。それに比べ守形の兄貴は俺の後ろに追随するしかできていなかった。このまま行けば守形の兄貴に勝てるな!そう思っていた。
一方砂浜では―――
「あら、イツカ君頑張るわね〜」
会長と三日月が2人の勝負の行方を見ていた。
「会長はオルガが勝つと思う?」
「んー、確かにイツカ君は英ちゃん相手によく頑張っていると思うけどあれは英ちゃんが勝つわね〜」
「ふーん、俺も同じだ」
「あら、てっきりイツカ君を応援してるものだと思っていたのだけれど?」
「守形先輩はまだ全力じゃない。だからオルガは勝てる見込みがない」
「ふふ、よくわかっているわね〜」
もうちょいだ!もうちょいでゴールだ!悪いが守形の兄貴、この勝負頂くぜ!そう思っていた時だった。
「ふむ、ではオルガ。俺も本気を出すとしよう」
「は?」
後ろから守形の兄貴の声がすると急にスピードが上がりだした。嘘だろ!?今まで本気じゃなかったのかよ!?
後少しという所で追い抜かれ、先にゴールしたのは守形の兄貴だった。
「……負けちまったな」
全力全開で勝負したから後悔とかはねえが、少し悔しかった。後少しって所だったんだけどな、まさかまだ全力じゃねえってのは予想外だぜ。勝負に負けた俺は泳いでゆっくり砂浜に上がろうとすると上から手を差しのべられた。
「いい勝負だった。またやろう」
「正直悔しいが…また相手頼むぜ守形の兄貴」
守形の兄貴の手を掴んで砂浜に上がった。しっかしすげよ守形の兄貴は。まだまだ勝てるきがしねえな。
「よし、オルガ。次は早食い対決はどうだ?」
と、守形の兄貴が後ろに指を指すとそこには「夏盛り!ドタバタ早食い対決!」って書かれた旗が立てられていた。
どうやったらあんなネーミングになるのは疑問だが。
「すまねえ兄貴。ちょっとばかし気になる奴らがどうなってるか見に行きてえんだ。俺はパスするが早食いなら俺よりミカの方が強ぇぞ?」
「………女か?」
「いや、そうじゃねえ。どっちかって言うと恋愛に発展しそうでしない奴らの恋のキューピッドみたいなかんじだ」
「オルガがキューピッドなのか?あまり似合わなさそうだが…」
「そりゃねえぜ兄貴」
確かに俺が翼生えて弓矢構え、ほぼ全裸状態だったら自分でも吐きたくなるが別にそんな姿にならなくとも恋愛に発展させることには可能だしな。今回はそはらの背中を後押ししたが今頃うまくやれてるかな?
「なら、早食い対決は三日月とする事にしよう。オルガはキューピッドとやらに専念するといい」
「サンキューな兄貴」
そう言うと守形の兄貴はミカの所に、俺は智樹達の所に向かったんだ。
で、気になって智樹達の所を岩場に隠れて様子を見に来たんだが………
「ほらイカロス!もっと足を動かして!」
「こう…ですか?」
「まだだ!もっと早く!」
「はいマスター」
ちょっと待てぇ!?なんでそはらじゃなくイカロスと泳いでんだよ!?いや、泳いでるじゃなくて泳ぎを教えている、という方が正しいが今はそんな事関係ねぇ!そはら!何処行ったそはらぁ!
辺たりを見回して見るがそはらの影が見当たらねえ。何処行ったんだそはらの奴?これじゃお膳立てした俺の努力が意味ねぇ…。
「あら〜桜井君とイカロスちゃん仲が良いわね〜」
と、後ろから声が聞こえてきた。
「会長!?」
「覗き見とはいい趣味してるわねイツカ君?」
「覗き見っちゃ覗き見ですけど、どちらかと言うと影で応援する側です。ていうか、どうして此処に?守形の兄貴とミカの対決でも見てたんじゃ?」
「途中まで見てたのだけれどイツカ君がこそこそ何かしてたから弱みを握っ………何してるのか気になってね〜」
「アンタホントにすげえよ…。色んな意味で」
「それほどでも〜」
「誉めてねぇ」
何考えてるのかさっぱりわからねえ会長を他所に引き続きそはらを探す事にした。会長も何故か付いてきてるが気にせず、智樹達には気づかれないよう辺りを見回ってきたがマジで何処にも居ない。
「そはらの奴、ホントに何処行ったんだ?」
「そはらちゃんを探してるのかしら?」
「そうですよ…。ってか知らないで付いてきてるんですか?」
「そうねぇ。もしかするとあの向こう側にいるボートにそはらちゃんがいるかも知れないわねぇ」
俺のツッコミを他所に会長が海の方に指を指すと確かにオレンジ色のボートがかなり小さいが見えた。あの小ささを見る限りかなり遠くにいる見てえだが……まさか!?
「会長!智樹にそはらが泳げるかどうか聞いて来てくれねぇか!?俺はボート屋の所にそはらが来たかどうか聞いてくる!」
「分かったわ」
そう言うと俺は走って近くにあるボート屋に赴く。
「おっちゃん!此処にポニーテールでオレンジ色の水着来てかなり大きい胸をした女の子来なかったか!?」
「ああ、その子ならちょっと前にオレンジ色のボートを借りに来ていたよ。彼女かい?」
「いやそうじゃねえが…。サンキューおっちゃん!」
聞きたい事を聞くと急いで智樹達の所に向かう。そはらが泳げないなんて事ないように頼むしかねぇ。そして、智樹達の所に着くと最悪の報せを聞くのだった。
「会長、どうだった!?」
「やっぱり、そはらちゃん泳げないみたいわね。イツカ君の方は?」
「こっちも当たりだ。そはらがボートオレンジ色のボートを借りたのは間違いないねぇ。とすりゃ、あの遠くにいるボートが…」
そはら、と言うことになる。ここからだとかなり距離があるしあんなに遠いとなると潮の流れも早くなってる筈だ。
「そはら!」
「智樹!?」
智樹が海に飛び込みそはらの方に泳いで行った。
馬鹿野郎!何の準備もなしに泳いでいったら智樹も潮にながされるぞ!くそっ、どうしたら…
「どうしたのオルガ?」
気がつくと後ろにミカと守形の兄貴がいた。恐らく早食い対決が終わった後だろう。2人とも何故かトウモロコシをかじってやがる。
「ミカ頼む!そはらが遭難して智樹がそれを助けに行ったんだがそれじゃ智樹も危ねえ!力を貸してくれ!」
「わかった。ちょっと待って」
ミカが自分の右手を見つめると光だし、右手にあるものが現れた。それはバルバトスの武装の1つ、ナノラミネートソードだった。
「これを」
「あん?これでどうするん――」
すると、突然ミカが俺をうつ伏せの形で押し倒した。そして右手に握られたナノラミネートソードを俺の背中に刺す。
「ぐっ!?」
「我慢してねオルガ」
ミカがソードで刺した俺をそのまま引きずり海に出た。何考えてんだ!?って思ったのもつかの間。何故か俺は浮いた。それもミカが俺の背中に立った状態でも。
「ボゴボゴボゴッ!?(どうなってんだこれ!?)」
これサーフィンって言うのか?そうしてる内に泳いでる智樹に追い付いた。
「智樹!オルガに乗って!」
「!?……わかった!」
ミカに言われて智樹も俺に乗ったが2人乗っても沈む事はなかった。ホントにどうなってんだこれ?
そうして俺達はそはらの方に向かって行った。