夏が終わり、学校が始まってから秋を越えて冬の季節になったこの頃。家の中にいるイカロスは智樹からある命令が下されていた。
「おつかいに行ってきなさい」
「おつかい…ですか?」
イカロスが首を傾げる。どうやら智樹は、エンジェロイドであるイカロスに人間らしく振る舞わせるため手始めにおつかいという簡単な事を任せる事にした。
「なぁ…智樹?イカロスにはまだ早いんじゃ…」
「かと言ってこのまま何もしなきゃイカロスが不振に思われちまうだろ?やらないよりよっぽどマシだ」
確かに智樹の言ってる事は分かる。この前の一件でイカロスにはとんでもねえ力があることが分かった。それを他の奴に知られたら最悪ここに住み辛くなる。それよりか町の奴らと仲良くなった方が不振がられるよりかよっぽどマシって事だが…。
「ただな、智樹。今やるよりかもう少し後でもよくねえか?」
「オルガ…なんでそんなに弱気なんだ?らしくないぞ?」
「なんだかな…虫の知らせっていうのか?悪い予感がしてな…」
「そんなもん気のせいだっての!ほら、イカロスこれ」
智樹がイカロスに一枚のメモを渡した。そのメモにはカレーを作る為の材料が載ってある。
「これは…?」
「そこに書いてある物を買ってきなさい。それがおつかいだ」
「分かりました。では行ってきます」
イカロスが立ち上がり玄関に向かおうとすると智樹があることを思いだしイカロスを一旦留めた。
「イカロス、別に空を飛ぶなとは言わないけどあまり人目のない所で飛ぶんだぞ」
「分かりました。なるべく人目のない所で飛ぶようにします」
「よし!じゃあ行ってきなさい!」
「はい。行ってきます」
イカロスが玄関に向かいドアをバタンと閉まる音がした。果たしてうまく行くのか…というか、さっきから変な胸騒ぎがする。……やっぱり心配だな。
「なぁ智樹?やっぱ俺心配だからイカロスにバレないように着いて行くぜ」
「オルガ…少しは信頼ってもんをだな」
「いや、いつもなら信頼するんだが今回はちょっとな」
「はぁ…。まあ、そんなに心配なら行けば?俺はやることあるから行けないけど」
「すまねえ、恩に着る!」
玄関に向かい家の外に出た俺はすぐにイカロスの尾行を開始したんだ。さっきからくどいくらい言ってるが胸騒ぎがする。それも、イカロスが問題を起こすんじゃなく別の何かがイカロスに何か起こすっていう確信みてえなもんが俺の心の何処かにあったんだ。なんでかは知らねえが、そんな事起きないといいが。
どうやらイカロスは智樹の言っていた事を忠実に守ってるみたいで無闇に空を飛ぶ事なく歩いて商店街に来てたみてえだ。イカロスに追い付くのにちょっとばかし時間が掛かった為、既にイカロスは買い物を始めていた。因みに今イカロスがいる店はというと…
「(なんで豆腐屋にいるんだよ!?)」
そう、イカロスはメモには書いてない筈の豆腐屋にいた。ここからだと遠目だがイカロスは興味深そうに豆腐を眺めている。豆腐屋のおっちゃんも困り顔になってたが少しするとイカロスはその場を離れた。
「(次は何処に行くんだ?)」
イカロスにバレないようにコソコソと動く。時には電柱に、時には客を装って紛れたり等隠れながら尾行した。
と、次にイカロスが止まった場所は野菜屋だった。
「(お、遂にカレーの材料を買うか?)」
だが、俺の思った事とイカロスが取った行動は全く別だった。イカロスが手に取った野菜はじゃがいもでも人参でも玉ねぎでもなく、スイカだった。
「(スイカ…?イカロスが大事そうにスイカを持ってたのは覚えてるが流石にスイカを買うなんざしないだろ…)」
と思っていたがなんとイカロスはスイカを買いやがった。
「なんでスイカなんだよ!?」
あまりの衝撃につい声を出しちまった。お陰でイカロスに振り向かれたがとっさに近くにあった俺でも入るような大きな段ボールがあった為、その中に入った。イカロスも不思議に思ったのかこっちに来たが、少しキョロキョロすると何もなかったかのように戻っていった。
「(あ、危ねえ…)」
俺はすぐに段ボールから出ると、イカロスの様子を引き続き見ることにした。今の所問題は……あるにはあるが大した事はない。スイカを買ったくらいで大した事ねえ。
「(お、次は……本屋?何故だ?)」
出来る限りイカロスに近づき何をやっているのか見てみた。考えるとしたカレーのレシピ本か。まあ、それ買っても一応はカレーに類いする物だしレシピ本一冊あるだけでそれを見りゃ誰でも作れるしな。が、イカロスは違う本を持っていた。
「(エロ本じゃねえか!?なんでエロ本なんざ持ってんだよ!?)」
智樹の奴がいつもエロ本見ているからそれでか!?エンジェロイドとはいえ外見は女性だから目がつくし、何より本屋のおばちゃんも困惑してやがる。ま、まあ流石に買うなんて事は―――
「これ下さい」
「(いや買うのかよ!?)」
あ、ありえねえ…。イカロスがそういうのは疎いから大丈夫だろと思っていたが駄目だった。いや、待てよ?もしかしたら智樹の為に買ってるのかもしれねえ。そうだと信じてえ…。けどそんな事情本屋のおばちゃんが知るわけねえからおばちゃんも困惑から苦笑いに変わってんじゃねえか。もう段々とカレーとかけ離れてるが今度おつかい行かせるときはそはらにでも頼んで一緒に行ってもらおう、そう決意した俺だった。
結局イカロスが買ったものはスイカとエロ本っていう訳のわからねえ物だったが特にこれと言った問題はなかった為一安心した。が…
「(ん?イカロス?)」
そう思ったのもつかの間、イカロスが突如裏路地に入った。裏路地なんて特に用はねえ筈だが…?そしてイカロスは翼を広げ空に飛び立った。だが、飛んだ先は智樹の家ではなく山の方角だった。
「アイツ何処に行くんだ?」
どちらにしろここに居ても仕方がないため、俺は飛んでいったイカロスに着いて行くのであった。
〜一方、山では〜
「ウフフフ、さあ来なさいアルファ…」
山に生えている木の枝にちょこんと座る1人の人間。いや、その外見は人間であるもののイカロスと同じく翼が生えた者だった。綺麗な水色の髪をツインテールに纏め、露出した白い服を着こなし背中の翼は透き通った透明の翼。
空高くにあるシナプスから下界に降りてきたニンフだった。
「私から発せられる特殊な電波はエンジェロイドにしか感知できない。それを不思議に思ったアルファは必ずこっちに来るわ」
まるで森の妖精かのように美しく、可愛らしい声で笑うニンフ。けれども、アルファ―――イカロスをここに呼ぶ理由はイカロスの破壊だった。
「ああ、早く見てみたいわ。貴方の絶望するその顔をね…」
静かにクスクスと笑うニンフ。だが、ニンフは気づいていなかった。イカロスを追いかける者が1人いること、そしてニンフから発した特殊な電波はイカロスと他にもう1人いた事を。
「なんだ?この感覚…」
ニンフが電波を放ったとき、それなりに距離がある所でニンフの電波を感じ取った者がいた。それは、畑の作業を桜とプギーでやっていた三日月だった。
「河原に行った時にイカロスって子から感じた奴と同じ…いや、少し違う…」
そう、三日月は河原に住む守形先輩の元に野菜を届けに行った時、丁度オルガや智樹、そはらとイカロスが来ていた時があった。その時、三日月はイカロスから言葉には表せれない何かを感じとっていたが今回の事でその感覚はより明確となった。
「どうしたんだい三日月や?」
「あ、桜ちゃん。…なんか山の方から変な感覚があってさ」
「変な感覚?」
「うん。どうやって言ったらいいかわからないけど、取り敢えず変な感覚なんだ」
「そんなに気になるなら行ってきてもええよ?」
「……いいの?」
桜ちゃんはニッコリと笑い俺の肩を叩いた。
「ここしばらく学校や畑仕事で疲れているじゃろ?気分転換にでも行ってくるとええよ」
「ありがと、桜ちゃん。プギーは置いてくから俺1人で行ってくる」
「ブモッ!?」
留守番なの!?と言いたそうなプギーを他所に三日月は変な感覚がした山の方に向かっていった。
「確かこの辺りに…」
商店街から飛んできて山の中にある神社に降りたイカロス。この辺りから電波を感じ取った為、辺りを見回すが誰1人としていなかった。
「気のせいかな…」
普通ならば、まず自分と同じ…即ちエンジェロイドでもない限りあのような電波を感じとるどころか電波を発することもできない。だが、もしかしするとレーダーの誤りだったのかもしれない。
神社の回りをよく見回し、レーダーでも確認するがやはりエンジェロイドはいなかった。やはりレーダーの間違いだったのだろう、そう結論付けて再び商店街に戻ろうと翼を広げた時―――
「あら、もう帰るのかしら?」
と、後ろから声がした。振り返ると1人の女の子が立っていた。
「久しぶりね、アルファーまさかホントに来るなんてね」
「だ…れ…?」
「あぁ、そういえばプロテクトがかかってるんだったわね。だったら一応自己紹介しておくべきかしら――」
そう言った瞬間、超スピード迫りイカロスの顔を掴みを地面に叩きつける。
「破壊する前にね?」
そう、目の前の女の子はニコッと笑ってそう言った。
「スキャン開始」
イカロスの顔を掴んでいる手が光る。すると、自身にあるシステムや記憶等見られているような感覚に陥った。
「機能プロテクト99%正常、可変ウイングプロテクト72%正常、記憶域プロテクト100%に思考制御プロテクト100%…?
ああ…そうなんだ。まるで……人形ね!」
押さえ付けられていた手の圧がさらに強くなり一層地面にめり込む。するとイカロスを軽々と持ち上げると速さと力強さの乗った蹴りをイカロスの腹に叩き込み神社の更に奥まで蹴飛ばした。
「元々貴方を壊せって命令だけど、壊れるギリギリまで痛めつけてそれからシナプスに連れて帰ってあげようか?同じエンジェロイド同士だしそれくらいは
吹き飛ばされたイカロスに近づいてくるニンフ。その言葉には若干の同情が入ってるようにも見えるがイカロスはそんな事は気づけない。
「ウラヌス…クイーン…?……私は…愛玩用エンジェロイドタイプα――」
「貴方が愛玩用?笑い話もいいとこだわ!」
イカロスを次々と痛めつけるニンフ。
「わた…し…はあいが…よう…」
「ふぅん、あくまで愛玩用って言いはるのね…なら」
再びニンフに頭を捕まれ手のひらから電波がイカロスに送られる。その電波はイカロスのレーダーにも反応があり、一種のハッキング電波だった。
「私は電子戦用エンジェロイドタイプβニンフ。私のハッキングシステムで貴方の記憶域のプロテクトだけ解いて上げるわ。貴方は愛玩用なんてチャチなもんじゃないってこと思い出させて上げる」
その時イカロスの
空に浮かび上がる私を見上げる人達。
その人達を――撃ち殺す私の姿。
感情もなく、涙もなく、ただマスターに命令された事を実行する。
人が建てた物を潰し、人の命を蹂躙し、文明という文明を全て滅ぼした。
この記憶は――私の過去の記憶。
ふと、
『兵器はなんか嫌だなーって』
これじゃ、これじゃ私はまるで―――
「そこら辺にしといてくれねえか?お嬢ちゃん」
私が記憶を取り戻し私は愛玩用なんかではなく兵器だと知った時、いつもマスターの隣にいた
団長!?何間に合ってんだよ!?団長!?