花見はあの人間…オルガのお陰で私も楽しむ事ができた。初めはあまり気が乗らなかったけどオルガの誘いで何故か私自身も楽しく感じていた。アルファーのマスターが変な事をする度にオルガが死んでしまうという変な事が起き続けていたせいでいつの間にか私も一緒になって笑っていた。
……本当はアルファーを破壊しようとする為、手始めにアルファーのマスターを捕らえて有利を取ろうとしたのだけれどアルファーのマスター…智樹だっけ。その智樹がアルファーの事ずっと撫でて褒めていたものだからそんな光景を見ていた私はいつの間にか毒気が抜けたような気分だった。そうして、オルガと話をしていたのだけれど…
『俺達鉄華団はニンフの事も歓迎するぜ?』
なんて事を言っていた。あの後、アルファーが私の笑顔を久しぶりにみたって言っていたけど…。その時の私はちょっと取り乱して「そんな事ないわよ!」なんて返したけど私自信も薄々感じてはいた。シナプスに居た時と今じゃ感じるものがあった。
「楽しい…か」
シナプスに居た時はそんな風に感じられていたのはほぼ最初の頃くらいだった。
あの花見が終わってた次の日、私は智樹の家にある鏡の前に立っていた。自分についている首輪を見る為に。
「(やっぱり…ね)」
首輪の左にあるラインが点滅している。これは私が
「どうしたんだため息なんかついて」
後ろから聞こえた声の方に振り返るとそこにはオルガが立っていた。
「あら、起きてたの?」
「そりゃ起きる時間だからな。朝飯できてるぞ、早く食わねえと冷めちまうぜ?」
「はいはい」
私は洗面所から離れると朝食が置いてある部屋に到着し、座って食べだした。箸を使っておかずの焼き鮭を摘まんで口に運ぶと、その鮭はいい塩加減でとても美味しかった。
「美味しい…」
「だろ?鉄華団団長の特製焼き魚ってやつだ。初めてにしちゃ結構上出来だろ?」
横にいた智樹も怪しそうにしながら食べてみると目を見開き「確かに美味い」って口にしていた。
「でもさオルガ、どうやって作ったんだこんなの?」
「イカロスに教えてもらって自分なりにアレンジしただけさ。大した事はしてねえよ」
「ふむ、確かにこの鮭は美味いな」
オルガの横に座って黙々と食べていた眼鏡……確か守形だったかしら?その守形がオルガの作った焼き魚を評価しながら目にも止まらぬ早さで魚を食べていた。
「今更驚きやしねえがいつの間に居たんだよ兄貴…」
「まあ、美味しそうな匂いがしてな。再びここに来たわけだ」
「それ前も言ってなかったか?」
そんなこんなで朝食を食べ終えると私は部屋のテーブルでくつろぎながらテレビを見ていた。横で智樹とアルファがなにかしているのだけれど特に気にすることもなくくつろいでいた。
「ちょっくら出掛けてくる」
使った食器を洗っていたオルガが唐突にそう告げた。
「どこいくの?」
「ん?ああ、ちょっと買い物にな。ニンフも来るか?」
「んー…」
チラッとアルファーの方に向くとまだ智樹と何かやってるみたいだった。せっかくだし買い物っていうのもよく分かっていなかったから行ってみるのもありね。
「うん、付いて行く」
それからというもの、流石にいつも着ている服だと危ないと言われたので白いワンピースを着る事にした。この服は私に抱きついてきた子…そはらが着ていた物らしく私が家に出る前に智樹が借りてきたんだとか。それを着た私は背中に変なマークを着けたコートを着たオルガと一緒に外に出て歩く。
「その背中のやつなんなの?」
「これか?これは鉄華団のマークだ。決して散る事のない鉄の華、って意味で鉄華団の皆で考えたマークだ」
「鉄華団の皆って智樹やアルファーとかと?」
「いや…このマークはな、ミカや今は遠く離れている場所で前に進み続けている仲間達と一緒に考えたんだ。智樹やイカロスと会う前の話だ」
そう言うとオルガはどこか懐かしむような顔で空を見上げていた。ミカ…っていうのはあの馬鹿みたいにでかいロボで私の張ったシールドごと鈍器で叩きつけたヤツの事ね。
智樹やアルファーと会う前の話という事は何かあったのかしら?
「ちょこっとだけ興味あるわねその話」
「いつか話してやるよ」
そんな他愛のない話をしているといつの間にか商店街に来ていた。ここに来て初めて色んな人間を見たけどこれが中々面白かった。シナプスで作られた物よりかなり劣化してる機械とか見たことない食べ物、色んな物がそこにあった。けれども、何よりここの人間達は凄く楽しそうだった。
「ねえオルガ。ここの人間ってなんでこんなに楽しそうなの?」
「なんでって…そりゃ皆が自分が心の底から楽しいと思える事をしてるから…か?」
「そうなんだ…」
それこそ、あの変な残骸を研究していたあのマスターとほぼ同じ表情をしている人間達。けれどもマスターとは違いここの人間達は狂気じみた感情を見受けられなかった。
下界の人間達はこういうものなのかと思い初めた時、あるものが目に移った。
「お、そこの可愛いお嬢ちゃんリンゴ飴1つどうだい?」
このリンゴ飴と呼ばれる物をジーッと見ていたら前にいた人間にそう声を掛けられた。見るからに恐らく食べ物なのだがどういった物なのか全くわからなかった。
「欲しいのか?」
後ろからオルガがそう聞くと私はコクコクと小さく頷いた。すると、オルガが「おっちゃん、このリンゴ飴1つくれ!」と言うと下界で使われている貨幣を差し出しリンゴ飴を1つ手に取った。そしてそれを私にくれたんだ。
「いいの?」
「ああ、ついでだしな。それに俺が買いたいやつも見つかったしな」
「何買うの?」
「ああ、それはだな――」
商店街で買い物してから歩くこと数十分。私とオルガはある1つの家に来ていた。オルガがインターホンを鳴らすと
「はいはい」と1人の老婆が現れた。
「こんな所にどちら様だい?」
「初めまして、オルガ・イツカって言います。ミカ…三日月・オーガスが世話になってるって聞いてて遅くなりましたがお礼に来ました」
「ああ、三日月の言っていたオルガ君ね。三日月や〜、オルガ君が来てくれたよ」
とこのお婆ちゃんが大声で言うと中から三日月・オーガスが紺色のワイシャツ姿でタオルで頭を拭きながら現れた。
「オルガ、来てくれたんだね。それに…」
ジッと私の方を見つめてくる。数秒間その状態が続くと三日月の口が開いた。
「アンタ名前なんだっけ?」
…そう言えば私名前名乗ってなかったっけ?初対面で会ったときは敵対してたし花見の時もあまり喋ってないし……確かに名乗ってないわね。
「…ニンフよ」
「よろしくニンフ。俺は三日月。三日月・オーガス」
少し笑って自己紹介してきた三日月。けれど…あの目なんか怖いわね。私はオルガに後ろに隠れるとオルガは少し驚いていた。それを見た三日月はオルガの方に向いて、
「懐かれてるねオルガ」
なんて言っていた。べ、別に懐いてるわけじゃないけど!
「どうかな。そうだ、持ってきたこれ桜さんとミカで食ってくれ。口に合うかはわからねえがな」
と言って、先程商店街で買ってきたちょっと高そうなお菓子の詰め物を三日月に渡した。
「おやおや、こんな律儀に」
「いえ、ミカがいつも世話になってるんです。これくらいしないと示しがつかないもんなんで」
「世話になりっぱなしなのは私の方だけど…そう言ってくれるとありがたいねえ」
ホントに嬉しそうにお婆ちゃんは笑っていた。すると、後ろにある畑の方から何やらドスンドスンと大きな足音が響き渡ると「ブモォォッ!」と私よりもかなり大きな猪が飛んでやってきた。
「プギーじゃねえか!元気にしてるか?」
その猪は花見でもチラッとは見ていたけど、その猪…プギーはオルガに懐いていた。確か三日月のペット?だけど何故かオルガにも懐いてるとか。智樹は蹴飛ばされたらしいけど…。
「ブモッ、ブモッ」と嬉しそうに体をオルガに擦り付けてて見た感じだとフワフワそうなその毛皮はとても心地よさそうでちょっと羨ましかった。
「ニンフも触ってみたら?」
気づかれたのか三日月にそう促された私は少しずつ近寄った。それに気づいたプギーは私を見るやいなや、近づいてきて私にも体をスリスリと擦り付けていた。
「モフモフしてる…」
「良かったなニンフ。お前もプギーに懐かれてるじゃねえか」
プギーの毛皮はとても心地よくしばらく体をプギーに預けていた。
空は既に夕暮れになっていてそろそろご飯もできる時間だから三日月やお婆ちゃんと別れの挨拶をして家に戻ってきた私達。少し疲れたものだからテーブルにうつ伏せになっているとアルファーから声を掛けられた。
「どうしたのアルファー?」
「実は…」
どうやら智樹に笑いなさいって言われて練習していたもののニヤリと擬音しか出てこなさそうな笑顔しかできなかった為悩んでいたとの事。
「確かアルファーってプロテクトとか全部解除してたから……ああ、アルファーって戦闘に特化しているから感情の方が駄目だったわね」
そう言うとコクコクと頷くアルファー。うーん…笑顔ねぇ…。
「シナプスにいる時より今の方がニンフは笑ってるから分かるかと思って…」
「……そう」
ホントに、ここに来て初めての事が沢山あった。今日だってそうだ。ここで住む人間達の、不自由な癖に何一つ不満げがなく一生懸命に生きている姿を見て驚かされる事ばかりだった。その中でも特に驚いたのはオルガなんだけどね。
「うーん…あっ、そうだ!」
「?」
アルファーを笑顔にさせる名案が唐突に閃いたのでそれをすぐに実行する事にした。
〜翌日〜
「おはよう〜…」
頭をかきむしりながら部屋から降りてきた智樹。トントンと刃物がまな板にぶつかる音がしていたのでキッチンでイカロスが朝ごはんを作っている事がすぐに分かった。
「おはようございます、マスター」
「おはようイカ…ロス…」
智樹の言葉が詰まる。あれほど笑顔を作るのが難しかったイカロスがとてもいい笑顔で出迎えてくれた事に驚きが生じた。そして――
「(あ、あれ!?めっちゃ可愛い!?)」
その笑顔を見た智樹はかなり赤面になっていた。
「どうかされましたか?」
グイグイと近寄ってくるイカロスに更に顔が真っ赤になる智樹。
「(あ、よくみるとおっぱいでけえ。…じゃなくて!)」
「おはようございます。どうした智樹?何かあったの…」
「おはようございますオルガさん」
イカロスの笑顔を見たオルガもかなり驚いた顔をしていた。すると、後ろからニンフが近づいてくると成功したと言わんばかりのドヤ顔をしていた。
「やはり成功したわね!」
「ニンフがなんかやったのか?」
「これよ!」
バッと勢いよく出てきたのは接着剤だった。少し疑問になったオルガはイカロスの顔を注意深くみるとイカロスの顔が妙にてかっている事に気がついた。
「って、接着剤で固めたのかよ!?」
我ながら上手くいった、と思っているニンフとは裏腹にオルガの言葉を聞いた智樹は急いでイカロスの顔についた接着剤を取ろうとするのだった。