アルファーからとんでもない暴言を吐かれてから直後の事だった。
「ニンフ?聞こえるかしらニンフ?」
「っ!ガンマ!?」
シナプスからでも通信可能な機能を搭載した耳からガンマ―――ハーピーが通信を掛けてきた。ハーピーと私はあまり仲が良くなく、事あるごとに罵倒や暴言を繰り返してきたエンジェロイド。それも姉と妹の2対1だから不公平もあったもんじゃない。…話がそれたがそんなハーピー…の姉の方が私に通信を入れるなんて珍しかった。
「何よガンマ?アンタが私連絡を入れるなんて珍しいじゃない」
「マスターの命令よ。貴方は廃棄処分確定、ウラヌス・クイーンの側で自爆しろってさ」
「…ああ、やっぱりね」
首輪のタイマーが鳴っているのは前から知っていた。つまり自爆することは確定ということ。
「けど貴方が私達を手伝うっていうなら話は別になる」
「どういう…ことよ?」
「私達が今からウラヌス・クイーンを破壊しに行くわ。マスターがあの天使から解析した一部の技術で作られた人形を2機随伴させてね」
ハーピー達が言っている天使、かつて何故その場にあったのか何が目的で作られたのかまるでわからなかった残骸。それを解析し終えたってことは――
「あれが作られたっていうの!?」
「いや、まだほんの一部しか分かってないみたい。でもいずれ全て分かる事よ」
「私に…どうしろと?」
「もぉちろん、ウラヌス・クイーンを破壊する為に手伝って欲しいのよ。未知の技術とはいえ流石にウラヌス・クイーン相手じゃ勝てるかどうか分からないからね。あ、別に断ってもいいわよ?そんなに廃棄処分されたいならね」
「っ……!」
「明日、太陽が昇る時に近くの山に来るわ。それまでに決断しておいてね〜。じゃあね♪」
と言って、ハーピーは通信を切った。私はハーピー達の言葉に何も返せなかったのだ。
アルファーやオルガが帰ってきてどうやら私に言った事は嘘だったみたい。あー…そういえば朝やってたドラマでそんな事言ってたわね。多分それをみてアルファーは嘘ついたんだと私は分かった。
アルファーに謝られたけど「少し傷ついた」って言ってみるとしょんぼりとした顔になっていたのでそらがたまらなく面白おかしく思えて思わず笑っちゃったわ。
かつてのアルファーだったらこんな顔しなかったと思う。これも多分智樹やオルガがアルファーを変えたんだなと私は思った。
「(大切にされてるのねアルファー)」
すると、オルガが私に話しかけてきた。今回の騒動で少し疲れたのだとか。……まあ、私もアルファーに言われた時は凄いショックを受けたから気持ちは分かるわ。
でもアルファーも人間らしくするという点ではいいんじゃないの?とオルガに聞くと
「まだまだ荒削りだな」
なんて言ってたけどその言葉に私も同意した。オルガはアルファーが兵器だって事は知ってるから恐らくそう言う点でもやっぱり荒削りなんだと思えた。
ここに来て、色んな事を知った。シナプスにしかないもの、逆にシナプスにはないもの。そして此処は―――シナプスにはないものだった。
「(そんな場所を壊される訳にはいかない)」
どうせもうすぐ自爆する運命にある。此処に来ていつしか此処を大切な場所と認識し始めていた私はハーピー達を食い止める決意をした。ハーピー達の他にあの天使の技術から作られた人形は本当に未知の存在。勝てるかどうか分からないけど、例え私が壊れたとしてもオルガや智樹アルファーをやらせはしない。
そして私はオルガに嘘で固めた別れを告げた。
ただ、オルガの作ったあの魚。もう一度食べてみたかったな
ニンフが帰ってこない。その事実に嫌な感じを持った俺はいの一番に智樹に相談することにした。
「う〜ん…ニンフがねえ…」
「ああ、智樹も薄々感じてたとは思うがニンフは別に俺達の事を嫌ってるわけじゃねえ。だから、突然消えるなんてまずありえねえしなにより俺にあんな事言って帰ってこねえなんてねえ筈だ」
「確かに。ニンフはオルガに懐いてたしな…」
「どうかされましたか?」
智樹がうーんと頭を捻らせているとイカロスが茶の間に入ってきた。俺はニンフの事についてイカロスに話した。ニンフが変な遠回しの言い方で家を出たこと、それから帰ってきてないこと、そして俺が持っている違和感を。するとイカロスはスッと目を閉じ再び開けるとこう口にした。
「恐らく、ニンフのが戦いに巻き込ませない為にこの家から出たのだと思います」
「戦い…!?なんなんだよそりゃ!?一体どういう事だ!?」
焦った俺はテーブルに身を乗り出してイカロスの片を強く掴む。智樹に制止されたものの、それでも落ち着く事は出来なかった。何故、何故アイツが戦いなんか――
「あの子が『私を破壊する』という命令を失敗に終わらせたため恐らくは別のエンジェロイドが私の所へ向かってくるでしょう。シナプスにいるニンフのマスターはそういう人です。そして――ニンフは一人でそのエンジェロイド達を食い止めに行ったのだと思います」
「ま、待てイカロス!その話は――」
「破壊って…どういう事だよ…?」
イカロスが言った事に智樹は困惑せざるを得なかった。なんせ、智樹から見たら突然やって来たエンジェロイドだが、例え期間が短くとも楽しく暮らしてきたと思っていたのが智樹の所感だからだ。そんな智樹の気持ちを他所に更にイカロスは言葉を続けた。
「マスター、私は
おどおどしく、しかし悲しげな目で智樹を見つめる。その言葉にキョトンとした智樹だがイカロスは続けて言った。
「長らく黙っていて申し訳ありませんマスター。ですが…ですが、今だけは側にいることを許してください。あの子は…ニンフはやっと本当の意味で笑うようになりました。私はあの子を助けたいのです。マスターが望むのならいつでも目の前から消えます。ですが…今だけは」
「ようやく…本当の事話してくれたなイカロス」
「え…?」
イカロスがずっと胸の内に秘めていた秘密。状況が状況だった為話さざるを得なかったイカロスだったが、返ってきた反応は拒絶や恐怖等ではなく笑顔だった。
「薄々だけどそうだろうと思ってたよ。まあ、オルガとイカロス間に秘密があるってのは少し思うところがあったけどな」
「マスター…」
「けど、俺が断言してやる。お前は兵器なんかじゃない。お前はこの家で俺達と一緒に暮らしてる家族だ。だから…目の前からいなくなるなんて言うな」
智樹がそう言うとイカロスは涙を一粒また一粒と流した。とても小さく、けれどもよく聞き取れるような声で「はい…マスター」と震えた口調でそう呟いた。そんなか弱い姿を見た智樹は小さく微笑んで俺に視線を向けた。
「オルガ、イカロスの為にサンキューな」
「別に俺はなんもしてねえよ。全部イカロスが決めた事だ」
「そっか。……じゃ、早いとこニンフを探しに行こうぜ。アイツ、オルガの作った鮭食べたいって言ってたんだろ?なら食べさせてやらないとな?」
「あぁ、その通りだ。ニンフの事も、イカロスを壊しに来るエンジェロイドの事も全部ひっくるめて俺が…いや、俺達がなんとかしてやろうじゃねか!」
「それじゃ、連れてきてよかったね」
突然、智樹でもイカロスでもない声が聞こえてきたに俺は少し驚いて、そして安心めいた物を感じた。なんせ、聞こえてきたのはミカの声だったからだ。
「なんだよ、結構早いじゃねえかミカ」
「俺だけじゃない。皆もいるよ」
「そはらに会長!?それに兄貴もじゃねか!」
ミカの後ろに立っていたのはそはら、会長、守形の兄貴だった。全員かなり真剣な目でこちらを見ていた。
「ニンフさんが大変な事になってるって本当?オルガさん」
「ああ、本当だ。ニンフの奴が1人で俺達を助けようと無茶な事をしてる。最悪死ぬかもしれねえ」
俺がそう言うとミカを除いた3人は驚くが、すぐに真剣な顔で俺達を見つめた。
「だったら助けないと。ニンフさんが死んじゃうかもしれないなんて絶対にさせない」
「俺もそはらと同意見だ。顔馴染みが死ぬなんてのはオルガだけで十分だ」
「イツカ君が死ぬのは面白そうだけど流石にニンフちゃんは可哀想だわ〜」
一部俺への風評被害が混じってはいるが皆ニンフを助けるという気持ちは同じだった。そしてミカは俺を、かつて俺に期待して見ていたあの目をしていたが口元は少し口角を上げていた。
「ねぇオルガ。次は何をすればいい…ってのは聞かない。今は俺達皆でニンフを助けたい。連れてってくれるよねオルガ?」
俺は回りを見渡す。ここにはニンフの事を大切に思っている奴が集まっている。なら!団長である俺が先陣切らなくてどうするってんだ!
「ああもちろんだ!ニンフは俺達の家族だ!なら俺達が家族を守んのが当たり前の話だ!」
俺の言葉に皆が頷く。そして俺は宣言する――
「最短で行く!ニンフを助けるぞ!」