篠ノ之束を恨む少年が篠ノ之束に救われたけど素直に感謝しきれない話 作:細胞レベルでミジンコ
「おはよー」
少年は目覚めて直ぐに篠ノ之束の姿を見たため、顔を顰めながらポッドの液体が抜かれるのを待った。
「うん、これで完全に治ったかな。あとはご飯食べれば大丈夫だよ」
「ISは?」
「ご飯食べてから!」
ポッドの中に差し伸べられた篠ノ之束の手を払った少年が記憶を頼りに前回食事をした場所に向かって歩きはじめる。
どうやら全快したという言葉に嘘はないようで、気だるさや、ボヤけた思考というものは完全に解消されていた。
「色々聞きたいことがあるんだけど話してくれる?」
「……程度による」
謎の機械にレトルト食品をセットした篠ノ之束が少年に質問すると、不承不承といったように少年は頷いた。
篠ノ之束は嫌いだが、助けられたのも事実であるため完全に邪険には出来ないのだろう。
施設に残されていた資料からは読み取れないことについての質問が続き、施設に対しては負の感情以外持ち合わせていなかった少年は篠ノ之束に聞かれたことだけを話した。
「あ、そう言えば君の名前は?」
「忘れた。五年も三番なんて呼ばれてたからな」
施設についてあらかた聞き終えた篠ノ之束が思い出したように質問すると、少年は素っ気なく答えた。
「そっか。それじゃあ束さんが名前をつけていいかな?」
「断る。そもそも名前を呼ぶ必要があるのか? ここにはほかの人間は居ないようだが」
君でもお前でも。他者に呼びかける言葉を使えば即ちそれは互いを呼ぶものとなるのだから、少年は態々名前を貰う必要性を感じなかった。
そのタイミングで機械からレトルト食品が流れてきたため、少年は話を打切るために食事を始めた。
「いただきまーす!」
篠ノ之束の呑気な食前の挨拶に、ほとんど覚えていない昔の景色が少年の脳裏をよぎった。
「はい、君のIS。体内ナノマシンのおかけでクスリも完全に抜けたし乗っても問題ないよ」
「ナノマシン?」
「前に飲んだゼリーだよ。あれには回復用のナノマシンがたくさん入っていたのさ!」
「回復以外の効果はないんだな?」
「うん。束さんも恨まれたくないからね。変な機能とかはついてないよ。……あ、でもISと連動して搭乗者保護機能の強化を内臓の方まで適応する機能はあるかな」
得体の知れないものを何も言わずに摂取させられていたことに顔を顰めた少年だったが、バイタルデータを常に送信し続けたり内側から体を食い破るような機能がないと聞いて一安心して待機形態のISを受け取った。
「筋違いの恨み言だとは分かっているけどね」
「なに?」
少年がぼそりと呟いた言葉に篠ノ之束が聞き返した瞬間、少年はISを纏い篠ノ之束を殴っていた。
施設で代表候補生を殴った時のように受け止められることなくクリーンヒットしたその拳は、篠ノ之束をノーバウンドで壁まで吹き飛ばした。
篠ノ之束に助けられた少年だったが、五年間も募らせた恨みはその程度では晴れなかったのだ。
少年は施設の人間に媚を売るために、施設の人間を恨む訳にはいかなかった。全ての責任は篠ノ之束にあると自分に言い聞かせ、恨む対象をすり替え続けていたのだ。
それが間違っていることだと理解していても、溜め込んだ恨みを無かったことに出来るはずもなく。
その結果がこの蛮行であった。
もし、ナノマシンに少年を害する機能があったのならば、少年は施設にいた時と同じように自分を押し殺していただろう。
しかしそれも後の祭り。生身の人間がISに殴られて生きているはずがないのだ。
「いたたー。まさかいきなり殴られるとは思ってなかったよ」
「は?」
少年が恩人を手にかけたことに自己嫌悪していると、崩れた壁の山から篠ノ之束が飛び出した。
トラックに轢かれるよりも酷い有様になっていないとおかしいにも関わらず、怪我らしい怪我は頭部からの出血のみだ。
服を叩いて土煙を払う程度の余裕すら見せている篠ノ之束に、少年は絶句するしかなかった。
「束さんが死んじゃったら君はこれからどうやって生きるつもりだったのさ」
「……IS委員会に行けばなんとかなっただろ」
少年はバツが悪そうに篠ノ之束の問いに答えた。
殺そうとした相手が生きていて、そしてそれを咎めるのではなく自分の心配をされたのだ。これで無視できる精神性を少年は持ち合わせていなかった。
ちなみに、IS委員会とは特定の国からの干渉を受けない組織だ。
正確には世界各国で綱引きしているため下手な干渉が難しいのだが。
そのため、男である自分がそこに出向けば各国が牽制しあい、悪くない立場が得られるだろうと少年は考えていた。
ただの違法実験に使われていた人間ではそう簡単には行かないだろうが、少年は男性操縦者なのだから。
「IS委員会? ダメダメ。あんなところ一番信用しちゃいけないなところだよ。君が自分の国で酷い目にあったように、どんな国でも碌でもない実験ばっかやってるのがIS業界なの。そんな国が共同で運営しているところが信用出来るわけないじゃん」
わざわざ死にに行く様なものだよと言われてしまえば少年に言い返すことは出来なかった。
ISコアは全部で五百もない。それが世界各国に割り振られているため、どんなに多く保有している国でも十を超えるかどうかという数だ。
コアが貴重品故にISに関する実験は基本的に国が関わるため、世界各国で碌でもない実験が行われているというのならば世界各国が碌でもないということになる。
「君には束さんと生活してもらうよ。三食昼寝付きでお仕事は週に好きなだけISに乗ることと、碌でもない実験をしてる施設を潰しに行く時のサポートかな?」
「正気か? 自分を殺そうとした相手だぞ」
「でも束さん生きてるし。それに、一回くらいなら殴られてもいいかなって思ってたし。でも束さんも死ぬ訳にはいかないから次からは抵抗するよ?」
篠ノ之束は天災とは誰が言った言葉だったか。少年はその言葉が正しいのだと理解した。そして、今までの解釈が誤っていたのだとも。
篠ノ之束の行動のスケールが一般人からしたら大きいために天災と例えられているのだと少年は思っていたが、正確には篠ノ之束の思考回路そのものが天災のソレなのだ。
一般人にはけして理解できぬそれは、天災と呼ぶにふさわしい。
そんな篠ノ之束に丸め込まれた少年は最終的に篠ノ之束と共に生活することを了承する。
決め手はISの補給ができる場所が一般人の利用できる所にはないという言葉だったが。
いくら強力なISでも無補給で動き続けることは出来ない。
エネルギーが切れれば少年はただの十歳児となり、ソレからISを強奪するのは容易だ。
唯一信頼出来る相手として自身のISを思い浮かべる少年にとって、それは許容できないことだった。
「それじゃあ実際に動かしてみよっか? 反乱対策で色々と制限が掛かってたみたいだけどそれは全部解除してあるから窮屈はしないと思うよ」
「本当か! 直ぐに案内しろ!」
「……変わり身早いねぇ。そっちの方が子供らしいけどさ」
今まで仏頂面を貫いてきた少年の表情は夜空に輝く星のように明るくなり、今まで触れようともしなかった篠ノ之束の手を取って壁が崩壊した部屋を飛び出すほどの変わり身だった。
それは、数少ないISとの対話でISが漏らしていた不満が解消されたからであり、少年にとってそれは自分の事のように喜ばしく、枷の外れた状態で自由に飛ばせてやりたいと強く思ったからだった。
書いてるうちに何故か黒くなっていく束を修正しているうちに短くなってしまった。
国が違法実験ばかりしているというのは捏造アンチヘイトに入るのだろうか?
少なくともドイツとイギリスは真っ黒だしなあ。
束も殴ったし実はアンチヘイト小説なのかもしれない。