篠ノ之束を恨む少年が篠ノ之束に救われたけど素直に感謝しきれない話   作:細胞レベルでミジンコ

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前回あとがきには(読後感的な理由で)書きませんでしたが、一応アレで終わりです

今回はサブタイ通りのおまけ。本編に書けなかったミニエピソード集のようなものです


おまけ

「そういえば、ドイツのやつは大丈夫なのか? データ消したとはいえ見られたし」

 

 クロエが目覚めて一日。クロエの体力もある程度回復し、一段落着いたところでアストラが思い出したように束に尋ねた。

 

「大丈夫だよ。今年はドイツでモンドグロッソが開かれるしね。奴らもこんな不祥事を表に出せない。襲われた研究所も引き上げ間近な所だったわけだし」

「そんなもんか」

「そんなもんだよ」

 

 疑問……というより心配事がなくなったアストラが会話を打ち切ると、部屋には静寂が訪れる。

 以前より砕けた雰囲気のふたりには、この静寂も辛くない。むしろ心地よいものにすら感じられていた。

 話し、騒ぐのは誰とでもできるが、静かな時間を共有できる相手は少ないからである。

 

「束さま、お兄さま、食事の用意が出来ました」

「よし来た!」

 

 ……その静寂は、クロエが来た瞬間にテンションを上げたアストラによって破られるのだが。

 

「配膳は大丈夫か? 手伝わなくて平気か?」

「お兄さまは座っていてください。パワーアシストも働いているので問題ありません」

「そ、そうか……」

 

「でも、ありがとうございます」

 

 クロエに手伝いは要らないと言われてしょんぼりと席に着いたアストラだったが、クロエに礼を言われるとだらしなく頬を緩めた。

 一年かけて少しずつ成長していたにもかかわらず、ここ数日で何度もワープ進化したような変化だった。

 そもそも、クロエが食事の準備をしているのは本人から言い出したことであり、リハビリの一環でもあるのでアストラが手伝うことなどハナからありはしない。

 クロエの救命のために使用された生体同期型のISにはそこら辺のパワードスーツが真っ青になるほどの――それでも通常のISには劣るが――パワーアシスト機能があるため、クロエの体に負担がかかりすぎるということも無い。

 しっかりとパワーアシストの出力を計算しているため、安全性はバッチリのリハビリなのだ。

 

 今までならばそのへんをしっかり把握した上で手伝いは必要ないと考え、声をかけることも無かったはずだが、随分と人間らしい情緒を身につけたアストラだった。

 要は束に兄としての名前をつけられたアストラは、妹として名前を貰ったクロエが心配で仕方がないのである。

 

◆――◇――◆――◇――◆

 

「なあ」

「なあに?」

「なんで俺も横文字なんだ? 白人のクロエは兎も角俺はどこからどう見ても東洋人だろ」

 

 実際、アストラの生まれは中国である。

 ISを扱う施設で成長したため日本語を学習し、母国語であるはずの中国語はほとんど扱えないが、それでも横文字が似合うような外見ではないのは確かだ。

 これが同じ施設で僅かながら暮らしていた“一番”――銀髪で赤と青の虹彩異色者――ならばこの横文字も様になっていたのかもしれないが、名前を貰ってしばらく経って冷静になってみると、なんともいえない違和感を感じたのである。

 

「んー。将来のため、かなあ? 中国語の名前の方が良かった?」

「そんな事はないけど。で、将来のためって?」

 

 本来の名前を忘れ、三番という記号でしか無かった所に与えられたアストラ・クロニクルという名前を、人種と名前の齟齬に違和感を感じてこそいたが気に入っていたため、ほかの名前の方が良かったかと言われた所でアストラはすぐさま否定し、将来についてという気になる部分を聞き返した。

 

「くーちゃんもそうだけどさ、将来は普通に生活したいんじゃないかなって。今は無理だけど、二人が大人になる時には間に合うように色々考えてるのさ」

「確かに。将来は学校とか行ってみたいとは思ったりしてたけど、出来るのか?」

 

 ドイツでは襲撃者こそいたが処理されたことになっているだろうクロエは兎も角、アストラは中国から束が誘拐してきた存在だ。

 男性操縦者ということもあり、一年以上経った今でも血眼になって探しているだろうことは想像にかたくない。

 なにより、中国はISコアもアストラの専用機として失っているのだから探していない方がおかしいのだ。

 

 仮に中国が完全に諦めたとしても、アストラには戸籍がない。中世ならまだしも現代で戸籍なしなど絶望的すぎるハンデである。

 そんなことから、アストラは普通の生活を夢見てこそいたが完全に諦めていた。

 自立できるまでは、あるいは自立出来るようになったとしても束の手伝いをしてクロエと三人で暮らしてもいいかなと。

 

 しかし、そう思い始めたのもここ最近のことだ。

 クロエと出会うまでは漠然と生活しており、将来のことなど欠片も考えていなかった。心が動くのはISを操縦する時と、碌でもない研究施設や束に対する怒りのみだったのだから。

 

「そのへんを全部クリアする方法があるのさ。といってもまだ固まってないんだけどね? とりあえずは“一人目の男性操縦者”を作り上げるところからかな。どこかの国が公表してくれてもいいけど、期待薄だしね」

 

 アストラは自分以外の適正者を二人知っている。そのため、世界規模ならばあと二、三人くらいは同じ存在がいてもおかしくない。

 ISのお披露目からもう六年たっているのだ。例外が存在した以上、それ以外の例外が見つかっていない方がおかしい。

 

 にも関わらず、認知されていないということは見つけても研究所送りということであろう。

 法のもとに秩序が保たれているとされている世界でも、ISという規格外の機械の前では法も秩序も捻じ曲げられ、踏みつけられるのである。

 

「男性操縦者が世界に認知されれば適性検査をしない訳にはいかなくなる。その時にひょっこりと出ていって椅子を用意させるってことか」

「そういうこと。その時に独特な名前の中国語や日本語だとそっちの方が色々と面倒なことを言いだすかもしれないからね。その点、横文字はある程度の地域は特定できても完全に特定の国の名前だと特定することは難しいから」

 

 計画を実行するとしてもあと四年くらい後になるけどねと束は言う。

 四年後といえばアストラは十五歳。高校生である。また、奇跡的にクロエとアストラの年齢は一致しており、クロエも高校生となる。

 まだ年齢的には小学生のアストラを世界に送り出すのは早いと束は考えていたのだった。

 

 そもそも、義務教育を受けていないのでインテリジェンスは兎も角エデュケーションは最低値に近いのがアストラなのだった。

 特に世界の歴史や地理なんかはISを扱う上で全く必要とされなかったものなので、アストラは全く知らない。

 精々が束の口から語られた近代世界史――ISの歴史程度しかないのだ。ほかの教科の学習内容も似たりよったりである。

 

「まずは――高校生レベルのテキストを難なく解けるようになる程度には勉強してもらうよ?」

 

 学校に行きたいなら勉強も出来るよねと言外に束が込めると、アストラはふいっと視線を反らした。

 勉強はこの一年間、束がアストラにさせようとしていたことである。

 “三番”としての生活には不要だと思っていた当時のアストラは、単純な忌避感と必要性を感じたかったことから拒否していたが、こうして必要な理由を付ければと束は考えたのである。

 

 あるいは、ここ最近で人が変わったようなアストラならば勉強に対して意欲的になっているやもしれないとも思っていた。

 しかし、束の問いかけに対する反応は芳しくない。

 

 そもそも、アストラが学校に行きたいなどと言い出したのは青春というものを楽しみたいと思ったからである。

 アストラの学校に対する認識は同年代の友達が沢山できて季節ごとに様々なイベントがある面白施設である。

 アストラよりも社会常識に疎かったクロエのために見た映像作品から悪い影響を受けた結果がこれだった。

 

「……これは、くーちゃんもこうなのかな」

 

 教育の難しさ、思い通りにいかないということを知った束は密かに頭を抱えた。

 

◆――◇――◆――◇――◆

 

「織斑千冬棄権マジ?」

「決勝戦でこれは酷いですね……」

 

 第二回モンドグロッソ。その生中継をアストラとクロエの二人は見ていた。

 射撃、レース、リングなど様々な種目があったが、やはりモンドグロッソの目玉といえばIS同士によるバトルだ。

 その中でも最も注目されているのは前回王者の織斑千冬。

 その実力は衰えることなく、圧倒的な実力を以て決勝にまでコマを進めていた。

 

 しかし、織斑千冬は決勝戦に現れなかった。

 五分待っても来ず、十分待っても来ず。会場内を関係者が探し回っても見つからず。開催国ドイツでの宿泊施設などを探しても見つからない。

 丸々二時間もの時間、対戦相手と観客と対戦相手を待たせたが、それでも織斑千冬はやってこなかった。

 

「……はあ。これマッチポンプ? いや、対戦相手はドイツ選手じゃないしなあ。となると偶然か」

「どうしましたか?」

 

 束が何やら呟いていると、モンドグロッソから興味を失ったクロエがそれに気づいたように聞き返した。

 先程までも束はぶつぶつと何やら呟いていたが、束よりも優先する事項があったため二人は無視していたため、束も返事があったことにびくりと肩を竦めてクロエに返事をした。

 

「ちーちゃんの弟……いっくんって言うんだけど、その子が誘拐されたらしくってね。ドイツの無線を聞いてる感じだとちーちゃんも参加して奪還作戦をしてたみたい」

「選手関係者を攫われて尻拭いを選手にさせるとか碌でもないな」

 

 ドイツに対するヘイトが高いアストラは、クロエを抱き寄せて辛辣に呟いた。

 よりドイツに恨みを持っていてもおかしくないクロエはと言えば、頬を僅かに赤らめて俯くだけであったが。

 若干十二歳の二人ではあるが、異性への目覚めはクロエの方が早かったようだ。やはり、女子の方が成長が早いということだろう。

 

 余談ではあるが、クロエは自覚していないし、アストラや束も知らないものの、クロエのドイツに対する感情はフラットだ。

 その理由は、アストラの中国に対する感情の平坦さと同じ。

 逆に、クロエがいちばん嫌いな国はといえばアストラに非道な扱いをした中国と挙がる程度には二人は対照的だった。

 

「本当はノータッチで別を擁立しようと思ってたんだけど……。決めた。いっくんを第一男性操縦者にするよ」

「なんで今決めたの??」

「ちーちゃんがドイツ軍に出向しそうだから、その間にいっくんと二人に仲良くなってもらうの。仲良くは無理だったとしても知人程度にはなってもらえば今後が楽だからね」

 

◆――◇――◆――◇――◆

 

「束さま!」

「どうしたの、くーちゃん?」

 

 モンドグロッソからしばらく経ち、いっくんこと織斑一夏との交流を二人が初めてひと月ほど。

 帰ってきたクロエが今までにないほどの勢いで束に飛びついた。

 

「名前には名付け親の気持ちが込められていると教えられました。私の名前にはどのような意味が込められているのでしょうか?」

 

 一夏と二人の仲は悪くなく、一夏から学校の話をしてもらうくらいには進展している。

 クロエは勿論、アストラも斜に構えているものの根っこは純粋であるために、天性の人たらしと言っても過言ではない一夏に秒速で絆され、そして一夏も理由無く誰かを嫌うような人間ではないために直ぐに仲良くなれたのだ。

 

「名前の意味?」

「もしかしてありませんか?」

 

 声に悲しみをのせたクロエに、束は大きく首を振ってそうではないと断言した。

 

「新芽、若枝。つまり、新しく生まれた輝かしい将来があるってことでクロエって言葉がいいかなって思ったんだよ」

「そうだったんですか……嬉しいです! 束さまは新しく芽生えた私が伸びやかに成長できるように色々考えてくれていますし、お母さんとは束さまのような人のことを言うのですね」

 

 束の胸に顔を填め、強く抱きついたクロエだったが、その直後に、何かを思いついたかのようにはっと顔を上げた。

 

「束さま」

「なあに?」

「私は大人になっても、おばあさんになっても新芽なのでしょうか?」

「若々しく咲き誇るほどに美しい。全盛の美しさ。くーちゃんは生体同期型ISの保持者だから、ISの機能で老化がかなり遅くなることがわかってるからね。今の可愛さがずーーーっと続くようにって意味もあるんだよ」

 

 名は体をあらわすというが、名前にふさわしい存在になろうと努力してこそである。

 束が名前に込めた気持ちを裏切らないように、夜更かしせずに健康に暮らそうと思ったクロエだった。




本作の設定を利用してIS原作の時間軸の話を書くやもしれません
その時は小説情報とココにリンクを貼らせてもらいます
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