天然で儚げで可愛いらしい年上のお兄さんは好きですか?~オリキャラ中野家長男√~ 作:崇藤仁齋
懐かしい夢を見た。
五年前、小学生の時の修学旅行であの子と出合った時の夢だ。
「風太郎かぁ……じゃあフーちゃんだね」
バカなことをやるしか能のない自分に変わる切っ掛けをくれた出会い。
見た目不良の男の名前をなれなれしくもちゃん付けで呼んできた可笑しなあの子との出会い。
「そっかフーちゃんにも妹がいるんだ。私にもね大事な妹たちがいるんだ」
互いに長子で妹がいるという共通点から仲良くなるまでに時間はかからなかった。いや、今思えばあの子のどこか天然っぽくて朗らかな雰囲気がそうさせたのかもしれない。
「私あんまり身体強くなくて。私が生きているのも妹たちが生命を分けてくれたおかげで、今だってお母さんや妹たちにたくさん迷惑かけてる」
実際ちょっと連れ廻しただけで息も絶え絶えで顔を真っ青にしたのには肝を冷やした。それでも虚弱なあの子を護るようにして廻った京都観光は思いの外楽しかった。
「だからね、こんな私でも誰にも負けないような何かを身につけて、そしていつかお母さんや妹たちに言うんだ。皆がいてくれたから、生かしてくれたから私はここまで来れたんだよって。そうしたらきっと私が生きている意味ができると思うから」
虚弱体質というハンデを背負っていても誇れるモノを残そうと前を見据えるあの子が純粋にすごいと持った。
そしてこうも思った。すぐにぶっ倒れる虚弱なあの子が頑張るのに自分が頑張れなくてどうすると。
だから自分もあの子に誓った。
自分は勉強を頑張って、いい給料を貰えるようになって、妹に何不自由のない生活をさせると。そうすれば必要とされる人間になると思うからと。
「うん。お互い頑張ろうフーちゃん」
そう言ってつないだ手の温かさは覚えているのにあの子の名前だけが思い出せなかった。
******
その言葉を聞いたとき上杉風太郎の身に衝撃が走った。
「ご飯とお味噌汁を単品でお願いします」
なんともったいないことを。
ご飯と味噌汁を単品でだと? 笑わせる。
一見そのチョイスはこの学食で最安値で済ます組み合わせかもしれない。だがしかし、この場での最適解はそれではない。
本来はこの様なお節介を焼く質ではないが、この道の先達としてヤツの誤った認識を正さなければ――そんな上から目線な心持ちで風太郎はとんちきな注文をしたバカに声をかけた。
「おい、そうじゃない」
「はい?」
声をかけた相手がキョトンと抜けた表情で風太郎を見るが風太郎は気にすることもなく言葉を続ける。
「ライス単品二〇〇円、味噌汁単品一〇〇円で計三〇〇円。だが、ライス単品の二〇〇円でライスに味噌汁、さらにお新香を付けることができるお得メニューがある。それは――」
「それは?」
ニヒルな笑みを浮かべ溜めを作る風太郎の雰囲気にあてられたのか件の人物は息をのむ。
その意外とノリの良い反応に気を良くした風太郎は勝ち誇った笑みを浮かべながらこの食堂での最安の真理を語った。
「焼肉定食、焼肉抜きだ!」
そうして焼肉定食焼肉抜きを手に入れた風太郎はもう件の人物に用はないとウォーターサーバーでタダ水を汲みいつもの席に着こうとした時だ。
「っ! 私の方が先でした。隣の席が空いています。移ってください!」
空腹だからだろうか、かち合った風太郎に気の立った声を上げたのは他校の制服を着た女子生徒だった。
「ここは毎日俺が座っている席だ。あんたが移れ……ってあんたさっきの」
「さっきのってどう言うことです? 私とあなたは初対面のはずですが」
「いやあんた、さっきライスと味噌汁を単品で頼もうとしてた食堂情報弱者じゃ――って、ええぇぇぇ!? 二五〇円のうどんに一五〇円のエビ天が二、一〇〇円のイカ天、カシワ天、サツマイモ天、おまけにデザートが一八〇円のプリン! 〆て総額一〇三〇円! 昼食に一〇〇〇円オーバーとかセレブかよ!」
「な、なんですか!? 別にいいではないですか! 人のお昼ご飯にケチをつけないでください!」
「あんたが頼みすぎなのは事実だろうが。太るぞ」
「太っ!? あなたみたいな無神経な人、初めてです!」
ある意味学校の有名人である風太郎と他校の制服を着た美少女の丁々発止のやり取りに周りが何事かと視線を集める中、そんな二人に声をかける人物がいた。
「五月ちゃん?」
「千早!」
プレートの上にご飯とお味噌汁とお新香――風太郎と同じく焼肉定食焼肉抜きを乗せた件の人物の登場に風太郎を威嚇していた少女、五月は表情を喜色に一転させると向かいの席を指さした。
「遅かったですね。さあ座って早く食べましょう!」
急かす五月に件の人物、千早は風太郎を見やると困ったような顔をして五月を窘めた。
「もう。ダメだよ五月ちゃん、喧嘩なんかしちゃ。他にも席は空いているんだから私たちがそっちに行こう。ね?」
「うっ……。でもこの人は私に失礼なことを」
「それならこの人は私にお得になるメニューを親切に教えてくれたよ。ほらこれでお相子。ね?」
「うぅぅ~」
未だ納得いかないのか頬を膨らます五月の頭を撫でながら千早は風太郎に取り合っていた席を譲り渡した。
「ごめんね。私たちは隣に座るから君はここ使って。あっ、それとさっきはありがとう」
身長差から見上げるように風太郎を見つめて笑顔でお礼を言ってくる千早に風太郎の頬に朱が差す。
自他供に認める勉強星人で恋愛や友情は不要なモノであるというのが風太郎の持論だ。一時の気の迷いで人生を棒に振るなど以ての外と自分を戒めると、千早から視線を外すため五月に話を振った。
ここで話を切り上げて席に着かないあたり風太郎も若干冷静さを欠いているようだ。
「れ、礼を言われる程じゃない。それより二人してそっくりな顔だな。双子か?」
「違います」
「違うよ~」
「なら姉妹か」
「違います」
「違うよ~」
「……まぁ、世の中には良く似たヤツが三人はいるって言われているからな! こんなこともあるだろう。じゃあ俺は昼飯にするから!」
連続で推測を外したことに居たたまれなくなったのか風太郎は今度こそ話を切り上げると席について手を合わせた。
話しかけるなオーラを全開にする風太郎を後目に千早と五月も席についてそれぞれの昼食に箸をつけるが千早の昼食の内容に五月は顔をしかめる。
「ダメじゃないですか千早。ちゃんとお肉やお魚も食べないと」
「あんまり食欲なくて、ついね」
「ついじゃありません。あなたは身体が丈夫じゃないんですからちゃんと食べないとダメじゃないですか。ほら私の分けてあげます」
「いいよ~。五月ちゃんご飯食べるの大好きでしょ。悪いよ」
「悪いことなんてありません。それにあんなことはもう嫌なんです。あなたには少しでも健康でいて欲しい。だからちゃんと食べてください」
「……うん、わかった。じゃあ貰うね。ありがとう、五月ちゃん」
隣の席のそっくりさんたちのそんなやり取りを聞き流しつつ早々に昼食を胃袋に納めた風太郎はポケットに入れた携帯電話が震えていることに気がついた。
どうやら妹からのメールのようだ。すぐに連絡を寄越すようにとのお達しだったので電話をかけるために風太郎は席を立つ。
そんな彼に未だ半分も昼食を食べれていない千早が風太郎を見上げ笑顔で手を振ってきた。
「またね」
「お、おう」
千早の不意打ちに風太郎は生返事を返すと逃げるように食堂を後にするのだった。
ちなみに妹のらいはからの話は高額報酬のアルバイト――お金持ちのお嬢様たちに勉強を教える家庭教師の話だった。上手くいけば我が家の借金を完済できるかもしれないとの話に風太郎も気炎を挙げる。
だがこの時、風太郎は予想だにしなかった。
これから始まる家庭教師のアルバイトが困難極まる仕事になることを。
恋愛を不要のモノとしてきた自分が想い想われることになることを。
そして、五年前の――あの子との再会が待っていることを。
中野千早 キャラクターマテリアル
■イメージCV:南條愛乃
■パーソナルカラー:白
■年齢:一八歳
■誕生日:四月二日
■身長:一五九cm
■体重:一人で四五kg
■好きな食べ物:アイスクリーム
■嫌いな食べ物:唐辛子
■好きな飲み物:ノンアルコールカクテル
■よく見るテレビ:映画放送
■好きな映画:沈黙系
■日課:体温脈拍測定
■お気に入りスポット:涼しい所
■読む本:画集
■朝食:お粥派