天然で儚げで可愛いらしい年上のお兄さんは好きですか?~オリキャラ中野家長男√~   作:崇藤仁齋

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お呼びじゃないのよ、あんたは

「今日から君たちの家庭教師になった上杉風太郎です。これから楽しく勉強を――って、何故だ!? 何故二人しかいなぁぁぁあいっ!」

 

 中野家リビングに風太郎の叫びがこだまする。

 相場の六倍の報酬で六人兄姉妹たちの家庭教師に来たはずなのにリビングにいるのは長男の千早と四女の四葉だけだった。

 

「まずは部屋から出すところからとは先が思いやられる……」

 

 あまりの高難度のミッションに心が折れかけるがこれも我が家の借金返済のため。ひとまず二人――全体の三分の一が残ってくれたと良い方向に解釈しよう。

 

「てか、お前たちはよく残ってくれたな」

「そんなの上杉さんの授業を受けるために決まっているじゃないですか!」

「家庭教師のお仕事とはいえ家に招いたお客さんだもの。放ったらかしにはできないよ」

 

 

 他の姉妹たちが家庭教師など不要と各々の部屋に逃げ込む中、そう言ってくれた二人に風太郎は感激した。

 

「四葉、千早、抱きしめてもいいか?」

「えぇっ!? いやぁ、それはぁ……」

「はい、どうぞ」

 

 いきなりの抱擁要求に引き気味に風太郎から距離をとる四葉に対し、千早は笑顔で両手を広げた。

 準備万端とばかりの千早に四葉は二人の間に割って入ると千早を背に庇った。

 

「ダ、ダメだよ千早! 上杉さん! 私が抱かれますから千早だけは許してください!」

「何かその言い方誤解を招くから止めて」

 

 まるで妹の貞操を守るために身を差し出す姉の台詞に風太郎も頭が冷えた。

 

「じゃあ改めて他の姉妹を呼びに行くぞ」

「はい! ではご案内しますね。私たちの部屋は手前から千早、五月、私、そして三玖、二乃、一花、の順番です」

「なら手前の五月から行くぞ」

「はい! みんな根は言い娘だから話せばきっとわかってくれます。それに――」

「それに、何だ?」

「私たち五つ子に対する最強の切り札もいますから」

 

 そう言って四葉は千早を見る。

 

「うん?」

 

 意味深な四葉の言葉に当の千早は小首を傾げるだけだった。可愛い。

 

 

 ******

 

 

 結論から言おう。

 部屋に籠城を決め込んでいた残りの四人をリビングに集めることに成功した。

 

「いやぁ、良かったですね上杉さん! 千早のお陰でみんな揃いましたよ!」

「まぁ、千早にお願いされたら断れないよねぇ」

「私は別に。ちょうどクッキーを作ろうと思ってただけよ」

「二乃素直じゃない……。もちろん私は千早のために来た」

「私もです! それによくよく考えてみたら四葉が一緒とは言えあなたが千早にいかがわしい真似をしないとも限りません。千早は私が護ります!」

 

 風太郎では話も聞いてくれない姉妹も千早がお願いすれば一撃だった。

 とにもかくにもこれで最初のミッションはクリアだ。気を取り直して『さぁ、勉強を』と言い出そうとした風太郎だったがそうは問屋が卸さなかった。

 

「このクッキーおいしいです! また腕を上げましたね二乃」

「まぁ、これくらいは乙女の嗜みだしぃ」

「何でそこで私を見るの……」

「べっつにぃ」

「むぅ……!」

「ふわぁ~。あっ、そう言えば私の荷物届いてなかった?」

「どうでもいい……」

「それよりこれからどこかに遊びにいかない?」

「なら夕飯も外で食べましょう。どこがいいでしょうか?」

「じゃあほら、この前行った割烹料亭行かない? あそこのお通しの塩辛おいしかったからさぁ」

 

 女三人よれば姦しいとはよく言ったものだ。

 端から勉強する気がない一花、二乃、三玖。勉強する気はあったのだろうが食欲にあらがえない五月と、とても勉強ができる雰囲気ではなかった。

 勉強が手に着かずノートに落書きしている四葉や千早の方がまだマシだ。ちなみに千早の絵はめちゃくちゃ上手かった。

 

「(こいつら、どうしようもねぇ!)」

 

 次いで立ちふさがった問題に風太郎はまたしても頭を抱えるが本当の危機はこれからだった。

 

「千早、あんた少し顔赤くない?」

 

 千早に飲み物の入ったグラスを渡した二乃が千早の顔色を見ると心配そうに問いかけた。

 

「あ~、うん。少し熱っぽいかも」

「千早おでこ出して……。やっぱりちょっと熱があるね……」

「大丈夫ですか、千早!?」

「まぁ、今日も暑かったし転校初日だもん。千早には少し厳しかったかな」

「今日はもう部屋で休みなさい。四葉、付き添ってあげて」

「了解! さあ、行くよ千早」

「うん。じゃあみんな、後のことはよろしくね」

 

 そういって千早は四葉に手を引かれリビングから出て行ったのだった。

 

「これでよしっと。ねぇ、あんた――」

 

 あれよあれよという間に数少ない味方であった二人と分断された風太郎。

 そんな彼に千早の後ろ姿を見届けた二乃は可憐にクルリと向き直ると冷たい表情を浮かべて言ってやった。

 

「乗り気の千早の前で言うのは気が引けて言い難ったんだけど私たちってさぁ、ぶっちゃけ家庭教師なんていらないんだよねぇ。本当は薬でも使って無理矢理排除したかったんだけど、千早がいるからね」

「どういう意味だ?」

「あの子が誤飲すると大変だもん。だからこうして平和的な手段に訴えてるってわけ。おわかり?」

「っ! 俺の仕事はお前たち全員を卒業させることだ」

「そう。まだ諦めないんだ。じゃあ、ここはさらに平和的に民主主義で決めたいと思いまーす。家庭教師はいらないって人、手を挙げてー」

 

 そう言いながら手を挙げる二乃に一花、三玖、五月もノータイムで手を挙げた。

 まさに四面楚歌。今の風太郎に味方は一人もいなかった。

 

「千早と四葉を賛成に加えても四対二。公正な投票の結果、家庭教師は不要ということに決まりました。拍手ぅ!」

「勝手に決めるな! 俺は――」

「まだわかんないの?」

 

 なおも食い下がろうとする風太郎に二乃は呆れたように額に手を当てて天を仰ぐと冷ややかな視線を風太郎へと向けた。

 

「お呼びじゃないのよ、あんたは」

 

 こうして風太郎の家庭教師初日は何も勉強を教えることなく終わったのであった。

 

 

 ******

 

 

 明けて翌日。

 日曜日の中野家に風太郎の叫びがこだまする。

 

「今からテストを受けて貰う!」

 

 昨日は素気なく追い返された風太郎だったが起死回生の妙案を思いついたのだ。

 

「昨日、俺をお呼びじゃないって言ったな。ならそれを証明してくれ。合格ラインを越えたヤツには金輪際近づかないと約束しよう!」

 

 家庭教師としての自身に課せられた仕事は六人全員の卒業。

 何もバカ正直に六人全員を相手にする必要などない。赤点候補のヤツだけの勉強を見ればいいのだ。それなら難易度はグンと下がる。それ故のテストだ。

 

「わかりました。受けましょう。これであなたの顔を見なくてすみます」

「はぁ。別に受ける義理はないんだけど。あんまり私たちを侮らないでよね」

 

 特に風太郎に強い敵意を持つ五月と二乃が自身あり気なのが大きな救いだ。彼女たちが生徒から外れてくれるのなら風太郎の心労は少なくてすむ――と、この時の風太郎は本気で思っていた。

 

「採点終わったぞ。すげぇ一〇〇点だ! ……姉妹五人合わせてな!」

 

 一花、一二点。二乃、二〇点。三玖、三二点。四葉、八点。五月、二八点。

 合格ラインの五〇点を越えた者は姉妹では一人もいないどころか三玖以外はまさかの三〇点未満の赤点だ。

 ただ風太郎にも一つ救いがあった。

 

「それに引き替え千早、全問正解一〇〇点! お前は勉強ができるヤツだったんだな!」

「えへへ~」

 

 五つ子姉妹は落第級のバカだが長男は違ったようだ。

 比較的簡単な問題ばかりだったとは言えこれだけできるのであれば風太郎と相性の悪い二乃と五月を千早に任せるという方法も採れる。

 暗雲立ちこめる中に一筋の光明が見えてきた――かに見えた。

 

「ちょっと待って……」

「どうしたんだ三玖?」 

「千早に問題。厳島の戦いで毛利元就が破った武将は?」

「おいおい、それは今のテストの一問目だろう。一〇〇点の千早ならわかってる問題をなぜ問う?」

「いいから。千早、答えて……」

「え、えへへ~」

 

 わかっているはずの答えを言わず困った笑みしか浮かべない千早に風太郎は嫌な予感がする。

 

「……おい千早、続けて問二だ」

 

 いやそんなまさかと思いながら風太郎は今行ったテストの二問目以降を千早に問いかけていくが千早が返したのはいずれも困ったような笑みだけだった。

 このことから導き出される答えは一つ。

 

「あーっ! そういえば上杉さんのテストって全部選択式だった!」

「なら千早が外すなんてあり得ないわね」

「運が絡むことに関してはすごい強運ですからね千早は」

「宝くじ一枚買ってそれが一等一億円だった時はびっくりしたよね」

 

 当てずっぽうで答えて全問正解したということだ。

 

「(勘で答えて全問正解とか、なんてヤツだ! それに宝くじで一等一億円当選だと!? 羨ましすぎる! いや待て今問題なのはそんなことじゃない)」

 

 千早に全問問いかけて解答ゼロ。

 すなわち千早の本当の実力は0点。六人兄姉妹の中で一番のバカと言うことだ。

 

「ま、まぁでも学校のテストなら大丈夫だよ。マークシートなら答えわからなくても正解できるもん」

「うちの学校の試験は記述式だ」

「そ、そんな!」

「そんな……は、こっちの台詞だ! まさか六人揃って赤点候補かよ!」

 

 がくりと項垂れる千早だったが項垂れたいのは風太郎の方だった。

 

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