天然で儚げで可愛いらしい年上のお兄さんは好きですか?~オリキャラ中野家長男√~ 作:崇藤仁齋
偶然と努力と誠意により三玖の信頼を勝ち得た風太郎。
これで最初から風太郎に好意的だった千早と四葉に三玖を加えて勉強会参加者は三人。六人兄姉妹の半数を味方に付けることができた風太郎は確かな手応えを感じていた。
そして迎えた次の家庭教師の日。
その日は千早、三玖、四葉の三人に加え、三玖の急激な心変わりに何かがあると好奇心が疼いたのか一花が『見ているだけ』と公言したとは言え自分からリビングに降りてきたし、千早が心配な五月も風太郎に教わる気は未だないものの同じ場所で自習をするということになった。
参加率で言えば六人中五人という快挙だ。
「(まだまだ問題はあるが最初に比べれば急激な進歩だ。こいつらだってバカだが人の子。理解し合えないってことは絶対にない)」
現に三玖とは相互理解を深めることができた。
一人にできることは五つ子にもできる――なら、今は静観を貫いている一花も、強い敵意を抱く二乃も、未だ頑なな五月も、向き合っていけば必ず心を融かすことができる。
そう思って『いざ勉強を』と思った時だ。悪魔が降りてきたのは。
「そうだ四葉。バスケ部の知り合いが怪我で故障した部員の替わりに大会臨時メンバーを探してるだけど、あんた運動できるんだし今から行ってあげれば?」
「一花も二時からバイトって言ってなかったけ?」
「五月もこんなうるさいところにいるより図書館とか行った方がいいよ。千早の面倒は私が見ておいてあげるから」
悪魔の囁き――二乃の言葉に一人また一人と姉妹たちが抜けていき、気がつけば残ったのは千早と三玖の二人だけだった。
いとも容易く勉強の場を解散せしめられた風太郎はガクリと肩を落とす。
「(二乃のヤツ、毎度毎度邪魔をしやがって! いったい何が目的だ!?)」
勉強したくないのなら部屋に籠もるなり外出するなりして参加しなければそれで済む――仕事である以上風太郎はそれで済ます気はさらさらないが――はずなのにわざわざ勉強の場をかき乱してくるのだ。まるで兄姉妹たちを風太郎に関わらせまいとするかのように。
「あれ~、三玖まだいたんだ? 間違って飲んだ私のジュース買ってきなさいよ」
これで三玖を追い出せば残るは天然で無垢な千早のみ。
邪魔をする姉妹が居なければどうとでも風太郎から引き離せる。
これでミッションコンプリートとほくそ笑んだ二乃だったがその思惑は外れることになる。
「もう買ってきた……」
「えっ!?」
そういって指さすテーブルの上にコンビニの袋に入った抹茶ソーダがあった。
どうやら三玖は二乃がこのような手に出ることを予測し先手を打っていたようだ。
「さあ、授業を始めよう。千早も一緒に」
「うん。二人だけになっちゃったけど頑張ろうね三玖ちゃん」
「よし、切り替えていこう。今日は三玖の希望通り日本史をやろう思うが時代はそうだな……鎌倉時代から始めてみるか」
こうなるとおもしろくないのは二乃だ。
「三玖、あんたいつからコイツと仲良くなったワケ? もしかしてこういう冴えない顔の男が好みだったの?」
「こいつ、今ひどいこと言った」
「二乃は面食いだから」
「お前も地味にひどいな!」
二乃の言葉を否定してくれなかった三玖に抗議の声を上げた風太郎だったが姉妹の言い合いにヒートアップした二乃に邪魔とばかりに突き飛ばされ会話の外に追いやられた。
「はぁ~、面食いのなにが悪いんですかぁ? 外見より中身とかいいたいワケ?」
「だったら……?」
「なぁるほどぉ。外見気にしないからこんなダッサイ服で出かけられるんだ」
「この尖った爪がおしゃれなの?」
「あんたにはわかんないかなぁ」
「わかりたくもない」
火花を散らす二人に風太郎は仲裁に入る。
「おい、お前ら! 姉妹なんだから仲良くしろよ。千早、お前も二人を止めてくれ」
「二人とも仲いいよねぇ」
「どこをどうみたらそうなる!?」
「うん?」
「なぜ不思議そうに首を傾げる!?」
千早の天然ぶりに頭を抱える風太郎だったが二乃と三玖の言い合いはさらに頭を抱える展開となった。
「じゃあ三玖の言うとおり中身で勝負しようじゃない。どっちが家庭的か料理対決! 私が勝ったら今日の勉強はなしでどう?」
「受けてたつ……!」
「受けて立つな!」
「審判は……まぁ、あんたでいいわ」
「いやだから俺の話を聞け!」
「おもしろそ~。私も参加する~」
「千早、お前もか!」
なんということでしょう。
御恩と奉公のいざ鎌倉を勉強しようとしていたはずがいつの間にやら料理対決になっているではありませんか。
劇的ビフォーアフターバーナー・オーギュメンターなこの展開にはさすがの風太郎もお手上げだった。
そうして待つこと数十分。
各々が完成させた料理が風太郎の前にサーブされる。
「じゃーん! 旬の野菜と生ハムのダッチベイビー」
「お待ちどうさま。ふわとろ卵のオムレツだよ」
「お、オムライス……」
はずんだ声の二乃や楽しげな千早とは対照的に三玖の声は暗かった。
それも無理はない。
おしゃれなカフェで出てくるような見た目も鮮やかな二乃の料理とシンプルながらも美味しそうな千早の料理に対し三玖の料理は崩れて見た目も悪くところどころがコゲていたのだ。
「さあ、どれが美味しいかジャッジしてよ」
「やっぱいい! 自分で食べ……」
「いただきます」
「フータローっ!?」
二人の出来映えと比べかなり見劣りする料理に三玖は風太郎の前から皿を取り上げようとするが、それより早く風太郎は料理に口を付けていた。
三人の料理を一口ずつ咀嚼し飲み込んだ風太郎の判定は――。
「うん。どれも普通に美味いな」
貧乏舌によるガバガバ判定の引き分けだった。
「はぁ!? そんなワケ――」
どう見たって三玖の一人負けが明らかなこの状況に二乃が文句を付けようとするも、嬉しそうに微笑む三玖を見るとそれ以上何も言えなかった。
だが腹の虫が治まった訳ではない。
「っ! なにそれ、つまんない! 千早、いこ!」
「あ、うん。ついて行くから引っ張らないで二乃ちゃん」
「あっ、こら二乃! 千早を連れて行くな!」
「うっさい!」
聞く耳持たず千早を連れ去った二乃に風太郎はこめかみを押さえた。
「まったく二乃ヤツ。とりあえず千早だけでも連れ戻しに――」
「待ってフータロー」
「三玖?」
「今はそっとして置いてあげて。今の二乃には千早が必要だから……」
「どう言う意味だ?」
「得意な料理で私に勝てなかったことが二乃にとってはすごく悔しいんだよ。私だって戦国武将の知識で姉妹に勝てなかったら落ち込む……」
「いや、それは理解できるが何故そこに千早が絡む?」
「私たち五つ子が甘えられる相手は今はもう千早だけだからだよ。だから今は、今だけは、二乃と千早を一緒にいさせてあげて」
「……ったく、仕方がない。じゃあこれ食い終わったら二人で日本史の勉強やるか」
「うん。改めてよろしくねフータロー」
結局、その日の家庭教師は三玖一人を見ただけで終わったのだった。
おまけの一幕 ~風太郎と三玖、勉強の合間にて~
「それはそうと千早に甘えるって言っても具体的には何してるんだろうな?」
「千早を着せ替え人形にして二乃の少女趣味全開な服をいろいろと着させてるんだと思う」
「そ、それでいいのか千早は……」
「千早、肩も腰も華奢だから普段着はレディースだし下着もユニセックスだよ」
「今明かされる驚愕の真実っ!?」