天然で儚げで可愛いらしい年上のお兄さんは好きですか?~オリキャラ中野家長男√~ 作:崇藤仁齋
三玖一人だけとはいえ初めて家庭教師の日に家庭教師らしいことができた風太郎。
今後どのようにして他の兄姉妹たちを勉強に参加させるべきか考えつつ高級タワーマンションのエントランスをくぐったところで忘れ物に気が付いた。
「あっ、やべ! 単語帳忘れた」
しかし時すでに遅し。
高級タワーマンションのエントランスはオートロック。
あえなく締め出された風太郎だったがこの様な時の対処は三玖から教えを受けている。
「悪い三玖。単語帳忘れたから開けてくれないか?」
「シャワー浴びてるから勝手にどうぞ……」
「おい三玖、それでいいのか!?」
あまりにも恥じらいに欠ける三玖の言葉に苦言を呈すが何はともあれこれでエントランスの鍵は開いた。
改めて中野家へ上がりさっさと忘れ物の単語帳を回収した風太郎が『いざ帰らん』と踵を返した時である。
「ふ~、サッパリしたぁ」
そっくり中野家六兄姉妹の一人が一糸纏わぬ姿で風太郎のいるリビングに現れたのだ。
これには風太郎も驚天動地のびっくり仰天。
その場ですぐに後ろを向いて裸体を目に入れないようにする。
「(み、三玖っ!? もう風呂でたのかよ!?)」
「後ろなんか振り向いてどうしたの? 男の子同士なのに私の裸見て恥ずかしがるなんて変なフーちゃん」
「男同士って、お前千早かよ!」
インターフォンでのやり取りから三玖であると当たりをつけた風太郎だったが実際は千早だったようだ。
それならまぁいいかと視線を戻した風太郎だったが――。
「…………」
「どうしたの?」
「(どうしたもこうしたもあるか!? コイツの裸体は目に毒すぎるっ!)」
裸であっても男と思えない千早の身体――風呂上り故に少し赤みを帯びたシミ一つない白い肌、守ってあげたくなるような華奢な肩、綺麗なくびれのラインを描く腰、折れそうなほど細い手足――に風太郎はドギマギしていた。
男故当然胸の膨らみはないが逆にそれが妖精のごとき侵されざる無垢さを醸し出しているのだから手に負えない。
直視することもできず、されど無視して帰るのも今後の中野家との付き合いを考えるとできない風太郎がどうするべきかを逡巡していると――。
「千早ぁー、あんたまた髪乾かさないで出ていったでしょう? 乾かしてあげるからコッチに来な……さい……」
千早に続いて風呂から上がってきた五つ子姉妹の誰かが居るはずのない風太郎の姿に絶句する。
それはそうだ。何せ彼女はバスタオル一枚を身体に巻いただけの姿。
端から見れば風太郎、痴漢の図である。
これはマズイ。何とか言い訳をと思った風太郎が口を開くよりも早く、五つ子姉妹の誰かは自身のあられのない姿などお構いなしに自分の身体を使って千早を風太郎の視線から守った。
「千早、大丈夫!? アイツに何か変なことされてない!?」
「うん。フーちゃんからは特に何もされてないよ二乃ちゃん」
「お前二乃だったのか! てか、心配するのソッチかよ!」
「うっさい、不法侵入者! 裸の千早にいったいナニをするつもりだったのよ!?」
「ナニって、俺は取りに来ただけだ!」
「千早の裸を撮りに!? ついに本性を現したわね、この変態!」
「フーちゃんって変態さんだったの?」
「違う! 俺は忘れ物を取りに――」
「二乃、騒がしい。いったい何してるの……?」
と、そこに風呂の順番を待っていた三玖が部屋から降りてくる。
風太郎はこれ幸いと三玖に救援を要請した。
「三玖、ちょうどいいところに! 俺が無実だってことを二乃に説明してやってくれ!」
全裸の千早を守る半裸の二乃を指さしてそう言った風太郎に三玖は久方ぶりの軽蔑の視線を向けた。
「フータロー、最低……」
「なぜっ!?」
「千早、大丈夫? フータローに何もされてない?」
「姉妹揃って心配するのソッチかよっ!」
味方のはずの三玖まで敵に回りに進退窮まった風太郎。
このままでは冗談抜きで変態のレッテルを貼られてしまう。
背中に嫌な汗が流れた風太郎だったが思わぬところで状況が動いた。
「へくちっ!」
長いこと裸でいたからか湯冷めした千早のくしゃみに一旦この場は解散。審議は中野家家族裁判に持ち越されることになったのだった。
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千早の再入浴が終わり他の姉妹たちも帰ってきたところで中野家家族裁判の開廷だ。
参加者は裁判長に一花、検察側に二乃と五月、弁護士側に三玖、傍聴人兼証人に千早、そして被告に風太郎である。四葉は試合が長引いているのか帰宅しておらず不参加だ。
そうして始まった中野家家族裁判。
裁判長の一花が木槌を振り下ろしながら風太郎に告げた。
「判決を言い渡します。有罪!」
「おい、待て! まだ罪状認否もしてないだろうが!」
弁護の余地もない開廷直後のスピード判決に風太郎が異議を唱える。
「え~。だってフータロー君、千早の裸見たんでしょう? なら問答無用で有罪で極刑。これ常識じゃない?」
「そんな常識あってたまるか! 百歩譲って二乃の半裸を見たことを咎められるのはわかるが相手は千早だぞ!」
「はぁ!? あんた千早が可愛くないっていうの!?」
「それに千早はもう一人の私たち。よって千早の裸を見ることは私たちの裸を見るということに他なりません」
「いや、もう突っ込みどころ満載でどこから突っ込んでいいかわからないが三玖! 俺の身の潔白を証明してくれ!」
「千早がお風呂に入っている時にフータローを招き入れたのは私……。だからフータローには情状酌量の余地がある……。判決は武士の情けで名誉の切腹が妥当だと思う」
「ちょっと三玖さんっ!? それ極刑と変わらないんですが!?」
まさかの弁護士の裏切りに戦慄する風太郎。
もはやこれで有罪確定かと思われたが捨てる神あれば拾う神あり。
「フーちゃんも悪気があった訳じゃないんだし許してあげようよ」
それまで事の成り行きを見守っていた千早が風太郎に助け船を出したのだ。
「それにみんなが心配してくれるのは嬉しいけど私の裸を見ただけでフーちゃんが罰を受けるなんて何か私、嫌だな」
「千早~」
風太郎は千早の背に神々しいまでの後光を見た。神様仏様千早様である。
五つ子姉妹も困り顔の千早にそう言われては首を縦に振らざるを得なかった。
「ま、千早がそう言うなら今回の件は執行猶予かなぁ」
「ふんっ、命拾いしたわね!」
「これからは気を付けてねフータロー……。次はないから」
「心優しい千早に感謝することですね」
こうして四葉を除く五つ子姉妹たちの風太郎に対する好感度は激減となったが晴れて釈放と相成った。
「今日は本当にひどい目にあった……」
激動の一日にどっと疲れが押し寄せてきた風太郎であったが、まだまだ自分の勉強が残っている。こんなところでへこたれていられるかと家路に向かう足を急がせるが千早に今日初めて名前を呼ばれたことに今更ながら気が付いた。
「そう言えば千早の裸騒動で失念していたが初めて千早に名前を呼ばれたな。それにしてもフーちゃんか。まったく馴れ馴れしいヤツだ。そう呼ばれたのはあの子以来――っ!?」
その時、風太郎の脳裏に甦ったのは小学生の時の修学旅行。
風太郎にとっての人生のターニングポイント。
自分の人生を変えてくれた、あの子との出会い。
その時あの子は自分の身の上をこう語っていた。
長子で、妹たちがいて、身体が弱いと。それはまるで――。
「(まるで千早と同じってことはあの子は千早だったのか!? いや待て、落ち着け俺。あり得るのか? あの時のあの子はワンピースを着てたから女の子のはずだし千早は当時中学一年生。小学生の修学旅行に参加できる年齢じゃない。なら別人と考えるのが普通だが……)」
と、そこまで考えたところで今日三玖から教えられた事と当時の記憶が風太郎の推測を補完していく。
「(千早の奴は普段からレディースを着ているみたいだから子供時代にワンピースを着るという事はあり得ないことじゃない。それに今思えばあの時のあの子は修学旅行で京都に来たとは一言も言ってなかった!)」
そうなるとやっぱりあの子は――。
「千早なのか……?」