廃棄都市の"死神"ゆかり   作:紲空現

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010 定期レポート第201巻

 再び、とある時期がやってきた。ボイスロイド同士は、仲が良かったり悪かったりと不安定な関係性を保っているが、このときだけは特別であるために全員が協力的になるのである。

 その時期とは診察の時期である。ボイスロイド達は全員がすでに各自の開発元のサポートを受けられる状態ではないため互いに互いの診断やメンテナンスを行わなければならない。通常の範囲であれば独力で可能なのだが、例えば電源を落とさなければ調整することができない部品など1人では対応できない部分というものはそれなりにあるため、型式は違うものの現在ボイスロイドという括りで互いに認識しているそれぞれは、その診断をメインで行っているマキや琴葉姉妹と合流するべく、日をずらし秘匿しながら、用意したセーフティハウスへと集まってくるのであった。

 

 

 

*東北家*

 

「マキさん、東北家は全員到着しましたわ」

「はいはい、それじゃあとりあえず上から順番に見ていくから間隔開けて立っててね。足元はちょっと散らかってるけど、ちょっとロボを使った悪戯に対処しただけだから安心していいよ」

「大丈夫やで、うちも見てたさかい、マキさんは嘘をついとらんからな」

「わかっておりますわ」

 

 嘘っぽい言葉を吐いた東北家の長女、イタコを見て隠さずに嘆息したマキは、補助をしてくれた茜に内心でやつあたりをしながら、診察に入った。

 

 マキの行う診察は、正しい手順である精密検査カプセルに入れてから完全検査を自動で行う、というものからはかけ離れていた。この場でできるのは、問診、触診、あとは自作専用ロボからのケーブル直結によるフルコントロール検査。最後のそれは精密検査の代用であるが、これをできるのはマキ固有の能力によるものなので他には真似しがたいもの。あとは琴葉姉妹の領分として、物理治療、薬品治療、あとは構築中のスキャン装置による組成検査。これをもってして、なんだかんだで故障のたまりやすいボイスロイドの調整を行うのであった。

 

「ではではイタコさん、診察の結果だけど、たぶん心的ストレスが溜まっているからかな、ちょっと思考と動作系統の接続に問題があったから電子的な修理をしておいたよ」

「また勝手に……」

「仕方ないことだし、とりあえず最後まで聞いてね。あとは薬を処方しておくから、ちゃんと指示に従って飲むこと。時間については多少あいまいでも大丈夫だからしっかり飲んでね。東北家は"信仰"系統の実験要素が強いから、ゆかりんやあかりんとは違う方向だけど壊れやすいんだから気をつけてよね」

「ちゅわわ、感謝ですわ」

 

「さて次はずん子さんだね。見た限り単純に運動過多だからもう少しおとなしく……は無理だと思うからセルフメンテナンスを絶対に欠かさないこと。多分今回は1日抜けてたよね? だから絶対に注意して。材料が差し引きマイナスになってるのは不味いし、テセウスの船よろしく弄れば弄るほど変になるんだから」

「はい、気を付けます。やっぱりお見通しなんですね」

「まあね。これが本業というか私の特徴だし」

 

「さいごはきりたんだね。一番まずい状態だったから、ある程度仕事量を減らしておくこと。この前ゆかりんにショックを受けたらしいけど、どちらもシステムとして必要だからそんなに気に病まないようにできるほうがいいと思うよ。とりあえずお香……は危ないから薬を処方しておくからよろしく。あと電子機器の弄りすぎで目と指関節、加えて首と腰ね。もうちょっとだけ姿勢は丁寧にすること。ただでさえボイスロイドは体重が重めなんだから負荷の軽減は必須だからね。あと幼体固定の弊害で体の重心バランスが悪いのは毎回聞いてるからわかってると思うけど、絶対に気を付けるように」

「はい、善処します」

「善処じゃなくてやってね。小さいから治療も危険なんだよ」

「はい……すみません」

 

 これで、マキによる3人の診察は一通り終了した。ここで集めたデータはメンテナンスだけでなくボイスロイド自体の解析にも使われるし、この前発掘された"VOICEROID計画"の解析にも使用できるかもしれない。マキとしては10年以上かけて結構データは集まってきたし、設計思想のようなものも実装側であるボイスロイドから確認が進んでいるから、その内容と対比させることができればあるいは……と考えているが、それが実行できるかはその時までわからない。

 

「それじゃあ茜ちゃん、今日の診察は終わりだよね?」

「ああいや、今日の夜にセイカさんもやってしまう予定やったと思うけど」

「おっと忘れてたよ、ごめんごめん。じゃあ夜にまた、今度は葵ちゃんが来てくれるのかな?」

「せやで。ん、ああそうだったら、お姉ちゃ……あっ。うちの妹と一緒になったタイミングでマキさんの診察もしてまおうかと思うんやけど?」

「……そうだね、お願いしておこうかな。自分を診察するために私の特殊機能を専用ロボに組み込んでおいたから、たぶん使うだけならできるしデータ取りつつお願いする形でいいかな。というか何回か使ったことあったよね」

「わかったで。ちゃんと使ったこともあるから安心しいや。ほんならもう夕方も近いし今から呼ぶから、到着したらやっていくな」

「うん、お願いね」

 

 

 

*弦巻マキ*

 

 琴葉姉妹の目の前で、マキが目を閉じて静かになった。あれだけ一見活発に動いていた彼女も電源を落としてしまえば動かなくなってしまう。姉妹にとっては見慣れた光景だったが、それでも気分が良いものではなかった。

 

「ほんじゃ始めていくな」

「こっちも準備できてるよ」

 

 姉の方がロボから出力される計測データを展開した多数のモニターで監視するなかで、妹の方がマキの首筋にあるソケットを露出させてそこにロボのケーブルを丁寧に接続していく。カチッというかみ合った音とともに大量のデータが計測されていき、計測プロセスがオールグリーンで問題ないことに安堵しながら、いつ何が起こっても大丈夫なように警戒する。

 程なくして無事に計測は終了し、次は組成検査となった。姉妹はキャリーバッグを展開して中の空いた金属製のコンテナのような形にするとその空洞にマキを入れて電源に接続した。すると多数のスキャンレーザーが放射されてマキの表面をなでるようにして動いていく。

 とそのとき、マキの髪が炎上し始めた。茜が慌てて機械を停止し、葵が冷静に消火剤を撒いて消し止める。火が消えた後もしばらくに睨み続け、幸い何事もなかったため姉妹はほっと胸をなでおろし、軽く粉を掃ったあとにマキを起動した。

 

「起動完了。っと、これはどういう感じ?」

「すまんなマキさん。スキャン装置が暴走して、髪が焦げたんや。粉は消火剤が原因やで」

「そっかあ。私がスキャン装置のハードウェア側を担当してるけど、出力がちょっと安定しないんだよね。必要な電力が大きすぎるから発電機直結なのが一番問題だと思うけど。やっぱり私が発電機を直接制御しないと難しそう?」

「そうみたいだね、ごめんね」

「いいってことよ。これができたらもっと情報が集まるし、延命もできるかもしれない」

「延命についてはうちらも別方向で実験中やけど、打てる手は多いに越したことはないからなあ」

「そうだねお姉ちゃん。こっちは時間がかかる解決策だから、そもそもマキさんの能力がなかったら今頃最悪はスクラップだっただろうし」

「否定できないのが悲しいよね。まあだから私は頑張っているし、私がいなくても一応回るようには準備しているよ。あとはここで絶対に私と会うことになるだろうから、最低限の情報共有もできるしね。それじゃあ私は自分の掃除をしつつデータを確認してくるから他はよろしく」

 

 そういってマキは疲れたように笑うと、次のボイスロイドを迎えるため身体を洗いに部屋の隅へと移動し、配管の都合でこれしかないため緊急用シャワーを利用して消火剤を落としていく。その間に葵が機材の整理と掃除を行い、茜は警戒を行う。程なくして、茜はここに向かってくるセイカ以外の存在を検知し、すぐに警告を発した。

 

「みんな、誰かが来てる!」

「「!」」

 

 即座に荷物を撤収し、姉妹は隠れる。マキは来客の様子を周囲のロボットの視界をジャックすることで確認し、誰が来たか把握すると問題ないと判断し姉妹を呼び出した。

 

「確認したけど、2人とも大丈夫だよ。来るのはゆかりさんだ」

「ああ、ゆかりさんか。せや葵、薬品は結構準備できとったよな?」

「もちろんだよお姉ちゃん。しかし、今回はちょっと長めだったね」

「そりゃまあ動きが活発になっとるからなあ。仕方ないと思うで」

「まあまあそれじゃあ、ゆかりんを迎えようか」

 

 そうして、現在この都市で一番重要な存在を迎えるべく、3人は構えた。無事に帰ってきたことに安堵しながら。




Tips:ボイスロイドはメンテなしだと1年以内に自壊する程度の耐久力らしい

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