廃棄都市の"死神"ゆかり   作:紲空現

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間1
008 東北の仕込みと"鬼儺(おにやらい)"


 廃棄都市の東北の方。名前に違わずその方角に、東北三姉妹は居を構えていた。とはいえ立派な庭に日本家屋といった構成ではなく、地下の表層、その一角を除染し切り取った迷宮状の領域を家としていた。そのため実態を掴んでいる人間はごく少数であったし、また爆弾等による安易な破壊工作とその被害も軽減されていた。

 

 東北三姉妹は、基本的に全員が1ヶ所に揃うことは少ない。長姉のイタコと末妹のきりたんは家に居ることが多いものの、次姉のずん子は基本的に外を歩き回っている。故に集まることは少なく、今回のように3人が集うのは珍しいことであった。

 

「ふう、とりあえず今日のゲームはこれで終わりにしますか」

「きりちゃん、もう遊んでいても大丈夫なんですの?」

「ええ、そうですね。この前大量に垢BANされたのでやる気をなくしていたんですけど、最近はずん姉様がアカウントを調達してくれたので元気が出てきました」

「相変わらずぴこぴこに詳しいんですのね。ともあれ、元気になってくれたようでなによりですわ」

 

 そんな会話を2人がしていると、背後からずん子が現れた。

 

「ただいま帰りました!」

「おや、ずん姉様。相変わらず心臓に悪いですね」

「気配が全く感じ取れませんものね……でも、私は分かるので問題ないですわ」

「あっタコ姉様、ずるいです」

「だめですよきりたん、外はともかくここも物騒なので自分の感知能力も鍛えましょうね」

「うええ……特訓は疲れるので勘弁してください」

「だめですよ?」

「そうですわきりちゃん、諦めなさいな」

 

 直接的な戦闘能力という点で見ると、三姉妹の中ではずん子が飛び抜けて強く、きりたんは非常に弱い部類となっていた。しかしこれはそれぞれがコンセプトの下に特化しているためであり、戦い方を選ばなければ誰しもが強者として認められるほどではあった。

 しかしきりたんは、それにしても得手不得手が尖りすぎている。そのため定期的にずん子を筆頭とした鍛錬を行っていて、きりたんにとっては分かってはいるものの面倒なイベントであった。

 

「あっ、そ、その前にご飯にしませんか?」

「……そうですわね。食べて落ち着いてからの方がいいですわ」

「食べたらすぐにやりましょうね。今月の食料は主にレーションなのでその辺も考えられていますから」

「おうふ」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 食後の運動を終えたあと、ずん子は外出する前に他の2人を呼び止めていた。

 

「そういえば。ゆかりさんがお仕事に行くらしいです」

「「……もうその時期ですか」」

「ええ。だからきりたん、そろそろ情報捜索の手を広げておいて。それが自然だと思うから」

「ふむ、そうですね。今やってるゲームのチートNPCが動き回っているのが、そろそろ一般プレイヤーにも広まっているでしょうし、匂い消しもかねてやりますか」

「わたくしはどうしたらいいんですの?」

「それは私から。このあと複垢でいくつかの組織から情報を抜き出してくるので、めぼしい所を私がピックアップしたら適当に死者交信で情報を引き抜いてください。見ている限り憑依は負荷が高そうなので、まだそちらの方がリソース管理の観点からも最適かと」

「イタコ姉様……」

「だ、大丈夫ですわ。ちゃんと月末には回復させますし、今日は例の予感がしているので特別に体調を整えてありますの。」

「イタコ姉様、私は近くにいないことが多いのであまり言えませんけど、無理はしないでくださいね」

「ええ、勿論ですわ。でも今夜はずんちゃんの方に現れそうですの。ということで付いていってもよろしくて?」

「おっとそうなると、私は1人でゲームをすることになりますね。MMORPGとTD系の並行ですか……ぐふふ、なかなか楽しそうですね」

 

 ずん子とイタコはきりたんを単独で家に置いていくことを不安に思っていたが、家を空けておく方が危険だし、侵入者対策として大量の防衛設備も設置している。このシステムは主に東の国から"機狂い"経由で拝借してきたもので、独自進化をさせるため提携を結んだ結果、ここに実装されている。それに対する信頼があるからこそ、2人はきりたんに留守番を任せられるし、きりたんの自信にもつながっている。

 かくして、ずん子はイタコとともに、陽の落ちた都市へと繰り出した。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ずんちゃん、来ましたわよ」

「了解です、イタコ姉様」

 

 短いやりとりで、2人は現状を確認する。場所は都市の南東方向で、中心からは近くも遠くもない、なんの変哲もない路地。ずん子には辺りを覆う刺激臭しか感じ取れていなかったが、イタコの感覚には確かにその存在が捉えられていた。そして、それは2人の向かい側からふらふらと歩いてきた。

 

「……ぁ、東北か。久しぶりやな」

「久しぶりですわね、ついなちゃん」

「あーー……」

「ついなちゃん、大丈夫ですか?」

「んい、今は昼か、夜か?」

「……夜に入ったところですわ、ついなちゃん」

「そうか、夜か。そいなら薬を飲まんとな」

 

 げっそりとした顔のついなが薬を飲むのを見つめながら、イタコはこの後どうしようかと考えを巡らせていた。イタコの経験では、この後はおよそ3通り。暴走して鬼たるずんちゃんを狩るか、正気に戻って会話できるか、そのまま寝るか。やっぱり真ん中がありがたいですわと思いながら、事態を静観していた。そして今回は__当たりを引いたらしい。

 

「ふう、すまへんな。今のウチは薬が離せんさかいに、えろう迷惑をかけるとこやったわ」

「いいんですわよ。それと、やっぱりしっかり寝た方がいいのではなくて? 薬を適量飲めば落ち着くんですわよね?」

「そうは思っているんやけどな、さっきの状態で地下に降りてしまうと制御が利かんくて、もう何日寝て何日寝てないのかようわからんのや。今分析した限りやと15日ほどは居眠りしつつ動いていたみたいやな」

「そうですの……」

 

 イタコは既に当たりを引いたことを確信していたが、正気に戻ったとはいえ"緑鬼"と呼ばれるずん子と"鬼儺(おにやらい)"たるついなと長く接触させておくのは危険だと考えていた。だからこそ、話したそうなそぶりを見せるずん子を抑えながらついなちゃんとの交渉を手短に済ませることにしていた。

 

「それで、なにか見つかったんですの? こちらは黄色いのが10年前の欠片を見つけたらしいですけど」

「そうか。なるほど……せやな、地下にある可能性は高いと思う。ただ、地上でも中心部にはその情報がありそうや。気がついた時に見た書類から考えるに、現在進行形で重工系グループがここで秘密実験をしているらしいしな、なにかあるとウチは思うで」

「貴重な情報、感謝しますわ。では、こちらからはセーフハウスを提供するので、そこで薬を適量まで飲んで寝なさいな。そちらがそういうのを確保できる状態でないことは分かっておりますし、仕掛けが全部壊されるのも理解しているのでなにもしませんわ」

「ほんま恩に着るわ。薬が絶妙に足りないと正気になるんやけどこれも長くはないし、いつもそう言うってことはどの状態でも生存本能はあるみたいやからなあ……」

「では、場所はここから上って3つめを脇に、あとは分かりますわよね」

「いつもの場所かいな。まあその方が安心できるわ。じゃあまた、ずん子ちゃんにもよろしく言うといてな、ってここに居るんか。暴れとるウチはアホやさかいに、上手いこと使ってくれて構わんからな。それじゃ」

 

 ついなはそう言い残すと、イタコやずん子の返事も待たずに姿が見えなくなった。しばらく警戒をしていた2人は、しかし確実に去ったことを確認するとどちらともなく別れていった。イタコは家へ、ずん子は仕込みへ。ゆかりに次いでバランサーとして活動している東北家にはあまり余裕があるわけではない。仕込みも生存も危ういバランスの上で成り立っている。互いにするべきことに向けて移動を開始したのであった。




Tips:ついなちゃんは昼夜逆転で安定するほどの夜型だったらしい
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