「なんか、この前は大変だったそうだな」
「ええ。四宮先輩だけでなく藤原先輩にまであんな破廉恥なことをして。純粋なお二人の耳が腐らせる所業です」
「藤原先輩はすでに爛れていると思うんですけど」
敬愛する藤原書記を侮蔑された睨む伊井野。
しかし、問題はここからである。他校の生徒会交流会は意外にも好評であったため、引き続き行われることになった。
前回の桜才学園生徒会の惨状を聞いてしまった白銀会長以下三名は今度はまともな生徒会が来てくれるように祈るのである。
ちなみに煮え湯を飲まされた二人は現在それぞれが所属している部活動の集まりに参加しており遅れてくる模様。
さて、今回の生徒会は――
「
「同じく星華高校生徒会の幸村祥一郎です」
先頭に立った生徒会長は勝気そうなセミロングの少女、鮎川美咲。そして後ろに控える見るからに弱気そうな幸村副会長以下生徒会長メンバーである。
星華高等学校。
前回の桜才学園とは逆に男子校から共学になったばかりの学校であり、会長の鮎川は前回の津田タカトシと同様に入学してから初の異性の生徒会役員である。ただ異なるのが、津田が推薦で選ばれたのに対して彼女は完全に実力で勝ち取ったという点である。
文武両道、品行方正。そして男所帯が多い星華高校でも負けない強さで会長にまでのし上がったのである。
――彼女が星華高校の生徒会長。なかなか真面目そうな人だ。四宮にどこか似ている気配がするが、ここは私情を謹んで交流会を進めないと。そうして握手を交わして、鮎川会長を心から精一杯歓迎する白銀会長である。
だが一方で、以前に似たような人物と学校に遭遇していた鮎川会長は警戒心でいっぱいだった。
――ここが超一流の金持ちの子供が通う秀知院学園。雅ヶ丘学園とほぼ同じランクで住む世界が違う学校あるとは。しかもよりによって、金髪頭の会長とくる! こいつも五十嵐のように上っ面だけは温厚で礼儀正しいが実は内面はそこはかとなくえげつないことを考えているに違いない。前の時とは違い味方は多いが、油断しないようにしなければ。
と両者の思惑がすれ違いながら交流会が開始する直前で、石上が疑問の挙手をする。
「あのすみません。なんか人数があわないのですが」
「何? 誰か校舎内で迷ったのか。しょうがない私が探して」
「いえ、人数が多いんです」
――多い? 鮎川会長が一人づつ生徒会メンバーを数え直す。
――幸村。沢。小杉。今回は生徒会の役員全員は連れてきていないはずだからこれで全員。そして碓氷もいるし問題は……
「
「え、会長がまた金持ち高校に道場破りに行くと聞いて心配だからついてきた」
「道場破りではない! 純粋な他校生徒会交流会だ! というかどうやって入った」
「この学校の女の子に、会長と知り合いだから入れてくれないって頼んだら入れてくれた」
あまりにもあっさり侵入経路を暴露する碓氷であるが、悪気はまったく感じられない。鮎川会長が怒髪天を貫かんとした直前、風紀委員の伊井野が前に出た。
「鮎川会長さんが仰せられた通り、部外者は立ち入り禁止です。お帰りください!」
「へぇ~、強気だね。まるで会長みたいだ。でも俺が不審者というならどうして風紀委員が出てこなかったのかな。それ仕事として欠陥があるんじゃない?」
「うっ、それは」
伊井野は言えなかった。相方の大仏が本日体調不良で風紀委員の見回りに出られなかったのだ。交流会までは伊井野が担当をしていたのだがたった一人で秀知院学園の広大な敷地すべてを回り切ることは不可能。加えて風紀委員という風あたりが強い所に人が来るはずもなく、現在人員不足。少しでも病欠が出てしまえば、碓氷のような人間が入ってしまう可能性が大きく出てしまう。
「見たところ、この学校は風紀が厳しい学校ではない自由な気風だ。けど君のような人間が風紀委員だと人が少ないようだね」
見抜かれている。しかしここで引き下がっては、正義が崩される。こんな規律違反が服を着て歩いているような男に負けてはならないと歯を食いしばる。
「けど、君のような人間がいるからこの学校を守っているんだよな。
耳元で囁かれた碓氷の甘く優しい言葉。そして伊井野の弱点*1である「がんばっているね」という相乗効果により。
停止!! 思考停止!! むしろ癒される伊井野!!
「この金髪男、あの小型狂犬を手懐けやがった」
震える石上。
そして唐突に資料をぶちまけてしまう幸村副会長。
「なにやってんだ幸村。ちゃんと紙はホッチキスで留めておけと」
「すみません。えっと、どのページが何番だっけ」
「手伝おうか鮎川会長」
「いいっ!」
白銀会長の優しい手を振り払い、資料の紙を整理する鮎川会長。
――くそっ。こんな失態が続けばうちの高校が下に見られてしまう。なんとしてでも挽回しないと。
この他校交流会。星華高校の評判を上げるために勝ち取った案件、両校の関係が蜜月な間柄になるよう必死になっているのである。
「はい、会長。ページ順番にしておいたよ。すみませんがホッチキス貸してもらえますか」
「あ、ああ。構わないが」
碓氷がホッチキスを手にすると、そこからは鮮やかだった。留めていなかった星華高校側の資料があっという間に見やすい形で付けられ、そしていつの間にか両校の交流会のセッティングが完了していた。
この碓氷拓海という男。完璧超人なのである。
「この人ただの金髪イケメンオーラ男じゃないすね」
「俺の評価厳しい人多いなぁ。ところで俺邪魔になるなら出て行くけど」
「いや、見学と言う体なら居てもいい」
「なっ。うむぅ仕方ない」
――鮎川会長のために慕っている生徒がいるのだから無碍に帰すわけにはいかないな。白銀会長の好意により碓氷拓海を交えて交流会がスタートする。と思われた矢先、関取の着ぐるみを着た藤原書記が帰ってくる。
「どすこーい。TG部の集会終わったので帰ってきました」
「おう藤原書記。ってなんだその恰好!?」
「えへへ、TG部の新しいゲームで。野球拳で服を脱ぐよりも別の服に着替える方が面白いと思って。うわ交流会もう始まっているんですか!?」
知らず知らず入ってきてしまった藤原書記。ここで秀知院学園生徒会側の誰かがどんなゲームですかと気遣いを入れるところ。しかし藤原書記の手にしているボードゲームの内容を嫌でも熟知している白銀会長と石上はあくまでスルーをする選択を取る。まかり間違ってもそのゲームに手を出したら痛い目を見るのは必然であるからだ。
しかし、何も知らない善意で藤原書記の下に幸村副会長が来てしまった。
「コスプレとボードゲームですか?」
「これは私の所属している部活動のものです。よかったらやってみませんか? これも交流会の一環として」
「わあ、面白そうですね。会長僕、藤原さんと」
「……まぁそれも両校の部活動を知る活動の一環だ。相手の方に失礼がないようにな」
何も知らないとは恐ろしいことである。幸村副会長はまんまと自らの手で闇のゲーム*2に
さて両校の交流会であるが、下ネタで時間切れとなった前回とは違いかなりスムーズに進んでいた。
「わが校は今後男女共学を推進する方針だ。そのためには女子生徒が入学しやすい環境をつくるため、清潔な環境と荒れていた学校の風紀を正すことが目標で」
「風紀については、一年生の伊井野が詳しい説明してくれ」
「はい、近年わが校の風紀は乱れがあり、実際の統計調査で、近隣住民から苦情が年々増えていて一部の活動が制限されている状況を鑑み、近隣住民との交流を深めるためボランティア活動を」
「ふ~ん、口やかましいと思ったけど、学校のために努力しているだな。偉いぞ」
「はぁ~」
「碓氷、お前わざとやっているだろ。からかうのはやめろ」
「でも本人が満足しているからいいじゃん」
そんなやり取りが続き、まもなくタイムアップが迫る。
――四宮は来られないか。せめて顔合わせだけするためにもう少しだけ時間を伸ばすようにするか。
「すみませんが、議論が白熱しているのでここで休憩を入れてもよろしいでしょうか。その分時間は押しますが」
「構わない。うちの役員も少し疲れの色が出ている」
――これで四宮が帰ってくる時間を稼げばいいが。
小休憩を挟んで、少しばかり遅延作戦を取る白銀会長。休憩時間を利用してトイレに行った後、生徒会に戻ってくると鮎川会長と碓氷がなにやら揉み合っていた。
「ねぇ美咲ちゃん。この後、ご飯に行こうよ。メイド美咲ちゃんのご奉仕で」
「行くか! 今日はこのまま学校に帰って資料をまとめる予定だ」
「えー、じゃあコスプレでいいから。この前お店でコスプレキャンペーンやってたじゃん」
「あれは、店長が勝手にやったことだから。というかスマホで撮った写真を持ってくるな!」
――あの二人実は仲が悪いのか? 雰囲気の悪い状態で四宮を迎え入れては気まずい。
事情を知らない白銀会長が二人の間に割って諍いを止めようとする。だが、碓氷が鮎川会長がメイド姿で映っている写真が出ている状態のスマホを落としてしまった。
「このメイド、鮎川会長ですよね」
戦慄が走る。彼女がメイド喫茶で働いていることは彼女の学校内でも秘密にしている。それが他校の、それも金持ちばかりが通う学校の生徒会長に見られてしまうという、苦い記憶が蘇りそうになる。
「会長さん、こいつ家の事情でメイド喫茶でアルバイトしているんだ。金持ちだからその感覚はわからないかもしれない。けど俺も似たようなもんで、遊び半分で会長がバイトしているところに行くんだが、決して手なんか抜いてなんかない。うちの会長は何にでも真剣に取り組んでいるんだ」
鮎川会長のバイトに碓氷が決死のフォローをする。雅ヶ丘学園とは違い完全アウェー、それでも碓氷は鮎川会長を守ろうとしていた。
だが。
「素晴らしい! 家のためにバイトをするだなんて!」
「「……え?」」
「いや俺も、家の事情でアルバイトをいくつも掛け持ちしているんだ。金持ちばかりの学園で、あんまり人には公に言えないその苦労はわかる。しかもこの写真、心の底から客に対して完璧な接客する美しさが表れている! 鮎川会長は立派にメイド喫茶をしている姿、労働者の鑑じゃないか」
からかうようなことも馬鹿にするようなこともない。純粋な賛美。
今まで味わったことがない喜びに鮎川会長は、今まで必死にアルバイトをする者がいない環境で見つけた同士に白銀会長は――握手した!
そのタイミングで四宮かぐやが生徒会室前に到着する。
「会長、遅れて申し訳ございません。弓道部の今後の部員募集について時間がかかりまして……って! 会長! 何をしているんですか。他校の生徒会の、それも女の人とそんな近くで手なんか握って!! すぐに離してください」
「俺も、会長がよその会長に盗られるの。嫌だぜ」
片やラブコメのヒロイン的な雰囲気で片思いの相手を、片や少女漫画のヒーロー的な雰囲気でお互いの会長を引きはがそうとする。
しかし!
「何をする四宮。俺は同じく大事なもののためにバイトをしているという同士を見つけたんだ。その友情を壊さないでくれ!」
「離してくれるな碓氷。私は白銀会長に教えられた。どんな職業だろうと貴賎はない。誰かのために働いて、その職務に勤しむことへの誇りを。そんな立派な人から差し伸べられたこの手を離してなるものか!」
強情な二人が出会ったことにより、がっちり握られたその手はダイヤモンドよりも固かった。
「もぅ! なんでこういうことばっかり。私の時は、手を握るなんてマッサージの時ぐらいしかなかったのに」
「へぇ~、もしかして君、あの目つきの悪い金髪の会長のことが好きなんだ」
「そんなわけありません! ただ両校が私情を挟んでいることが問題なのです!」
「でも君、白銀会長を引きはがそうとした時めっちゃ焼きもち妬いてんじゃん」
「妬いてません!!」
本日の勝敗。両校生徒会長の勝利。
「鮎川会長、今後とも両校の繁栄とアルバイトのことについて話し合いましょう! 仕事の後の水はコーラよりうまいこととか」
「いや両校の繁栄だけで結構だ。というかそれは普通にコーラを飲めばいいのでは」
なお藤原書記のデスゲームに敗北した幸村副会長は罰ゲームとして女装をされてしまったのであるが、他の生徒会メンバーは全員「あんなかわいい子におもちゃにされて羨ましい」と小さな嫉妬心を植え付けられた。
ちなみに伊井野は帰り際、碓氷の声を収録した個人的な励ましヒーリングミュージックの収録をお願いしていた。
「不躾ながらお願いします」
「いいの~?」
「早坂ぁ!! バイト! バイトを探して」
「私はタウンワ〇クじゃないですよ。そこら辺の求人情報誌でも探してください」
「違うの! 会長と同じバイトがしたいの」
「まあこの展開は読めてましたけどね。ですが白銀会長と同じバイトを探すとなると」
「もちろんすぐにとは言わないし、バイトする時間も部活も調整するから」
「いえ、そうではなく。同じバイトをするとなると怪しまれませんか。わざわざアルバイトしなくてもいい人が時間を割いてまで好きな人と同じ職場でするとなると」
早坂の言葉にかぐやは想像した。バイト初日、同じ職場にバイトとして入ってきた四宮を見て白銀がその三白眼をぎろりと睨んで蔑む顔で「そんなに俺と一緒の職場で働きたいとはお可愛いやつめ」という姿を!
「別の、別のバイトを探すわ。そう会長が働いている職場の隣で!」
「バカですか」
結局家の方針で取り消しになった。