耕造の人間関係を洗うため、深海地のスナックぱるへとやって来たヨシヒコ一行。犯行現場である耕造の書斎で見つけたマッチの店だ。ヨシヒコ一行にとっては仲間を入れ替えできる場所でもあり、ヤスを仲間にするためにダンジョーを外した店だ。
店に入ると、奥の席でダンジョーが美人のホステスに囲まれ酒を飲んでいた。すでにかなりの量の酒が入っているらしく、真っ赤な顔で上機嫌に笑っている。
「ダンジョーのやつ、仲間から外れることを嫌がってたのに、すっかり楽しんでるな」呆れ声のメレブ。
「ま、おっさんはほっといて、聞き込みするよ」
ムラサキはカウンターへ行くと、マスターにマッチを見せようとした。「すみません。このマッチのお店は、ここで間違いないですよね?」
しかし、ムラサキが取り出したのはマッチではなくライターだった。耕造の屋敷の応接間で見つけたものである。
「あれー。間違えちゃったー。てへぺろー」ムラサキはライターをしまおうとしたが。
「あ、そのライター、川村さんのだ。見覚えがあります」と、マスターが言った。
「えー? そうなのー? ぐうぜんー?」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ムラサキちゃんよー」と、メレブ。「事情聴取で由貴子に指輪を見せた時も思ったけど、そういうご都合主義的なことやめろよ」
「仕方ないでしょ。ホントなら関係者全員に見覚えがないか確認しないといけないけど、会う人全員に全部の証拠品を見せてたらキリないし」
「まあそうだけど、もっとうまいやり方は無かったのか」
「何でもいいでしょ。どうせ結果は同じなんだし」ムラサキはコホンと咳ばらいをした。「川村って、耕造がお金を渡してた人物だよね? このお店に来てたんだ」
メレブもえへんと咳払いをする。「そのようだな。耕造との関係を訊いてみよう」
ムラサキは耕造の写真を取り出し、マスターに見せた。「この人のことは、ご存知ないですか?」
「あ、この人! いつだったか、ここで川村さんと大ゲンカしてた人です」
「耕造と川村が、ケンカ? 原因は、なんですか?」
「さあ……そこまでは判りませんが、二人とも、すごい剣幕でしたよ」
「そうでうすか。耕造と川村さんは、どのような関係だったかご存知ですか?」
「うーん、この店で何度か飲んでたってだけで、それ以上のことは判りません。お二人とも、最近は来店されていませんし……すみませんねぇ。でも、隣のお店で働いているおこいさんが親しかったはずですよ?」
「おこいさん、ですね。判りました。ありがとうございます」
礼を言い、ヨシヒコたちはダンジョーには一切声をかけず店を出た。
スナックぱるの隣は、新劇シルバーという店だった。店の前に立てかけられた看板には「ヌードッコ」とあり、出演者と思われる名前が連ねられてある。そのトップに夕日おこいという名があった。
「おお! どうやら、ストリップ劇場のようだな! 懐かしい」と、メレブは嬉しそうに声を上げた。
ムラサキは汚い物を見る目をメレブに向ける「……イヤな予感しかしないけど、なに? ストリップ劇場って?」
メレブは咳払いをし、声を改めて説明する。「あー、ストリップ劇場とは、女性ダンサーが踊りながら服を脱いでいくショーを見せる場所だ。八十年代までは風俗店の中でも人気だったが、直接触れ合える系の風俗店が増えるにしたがって、どんどん廃れていった。今では絶滅危惧種に指定されているとかいないとか」
「ほー? ずいぶん詳しいみたいだな。こういう店、よく利用するのか?」
「いやいやいやいやいやいやいや、よく利用したりはしない。たまに週二度くらい来る程度だな。もちろん、古くから伝わる日本の文化を調査し守るためだ。決して、
「邪まなホクロでよく言うぜ」
「なんもいいです!!」と、ヨシヒコが声を荒らげた。「行きましょう! さっそくストリップ劇場へ行きましょう!! そして、隅から隅まで徹底的に捜査しまくりましょう!!」
鼻血を噴き出してお店へ突撃しようとするヨシヒコだったが、店内の様子を描写すると年齢制限をつけないといけない恐れがあるとのことで、残念ながらおこいを取調室に呼び出しての事情聴取となった。もちろん、ヨシヒコには事前にラリホーマをかけている。
ヤスが説明する。「
おこいを部屋に呼ぶ。ピンク地に白ドット柄の派手なカーディガンを羽織った三十前後の女だ。化粧と髪型も服同様派手だが、人気ダンサーとあってかなりの美人である。
ムラサキは事件の詳細を一通り説明し、話を聞いた。「川村という人と、親しかったそうですね?」
「親しいという程でもないわ。耕造さんと三人で何度か飲んだって程度やな。まあ、口説かれたりはしたけどな」
「川村がいまどこにいるか、ご存知ですか?」
「そういうたら最近見てないなあ……どこにおるんやろ? 口説かれたとき名刺渡されたけど、もうどこにあるかわからへんな。興味ないから捨ててしもうたかも」
「そうですか……他に、川村や耕造のことでご存知のことはないですか?」
と、ムラサキが問うと。
おこいは、なぜかうっとりとした表情でメレブを見た。「お兄さん、ええほくろしてはるね?」
「おお。俺のホクロの良さが判るとは、なかなか見どころがある」嬉しそうに答えるメレブ。
「お兄さんのホクロ気に入ったから教えてあげるわ。耕造さんね、昔、川村と詐欺仲間やったんやって」
ムラサキが大きく目を見開いた。「耕造と川村が、詐欺仲間!?」
「ええ。その辺が、事件と関係してるんちゃう? 知らんけど」
ムラサキはメレブを見る。「確かに、耕造は昔、かなりあくどいことをしてたらしいからね」
「耕造の過去を徹底的に洗ってみる必要がありそうだな」
と、いうことで、おこいに帰ってもらい、ムラサキたちは耕造と川村の過去を調べることにした。経歴によると、耕造は神戸から海を渡ってすぐにある淡路島の洲本市出身だそうだ。若い頃から定職に就かずぶらぶらしていたようだが、十五年ほど前に神戸市に引っ越してきた。耕造は現在の事業を始め、一応成功する。
また、耕造と川村は詐欺仲間だったというおこいの話をもとに、詐欺事件を専門に取り扱う捜査二課に問い合わせると、すぐに回答が得られた。フルネームは川村まさじ。何度も逮捕歴があり、二課もマークしている人物らしい。川村は耕造と同じく十五年前に神戸へやってきて事業を始めるも失敗。その後は詐欺行為を行い、計六度逮捕されている。ただ、しばらく事件は起こしていないため、現在どこに住んでいるのかは判らないそうだ。
ムラサキは、以上の情報をホワイトボードに書き込んだ。「耕造が神戸で事業を始める資金をどう集めたのかが気になるね。川村と詐欺仲間だったなら、事件にはなってないけど、何かしらの詐欺行為を働いていた可能性もあると思う」
「となると、洲本に行って耕造と川村の過去を調べるか?」
「もしくは、川村の足取りを追うっていう手もあるよ? 前科六犯ならその筋に名前が知られているだろうし、探せばすぐに見つかるかも」
ドアがノックされ、事務服姿の女性が入って来た。「失礼します。ヨシヒコ様に、平田由貴子さんという方からご伝言です」
その途端、まるでザメハの呪文を唱えたかのように目を覚ましてがばっと起き上がるヨシヒコ。
「由貴子ちゃんの名前聞いただけでこれだよ」呆れるムラサキ。
「伝言とはなんですか!? デートのお誘いですか!? 愛の告白ですか!? 伝説の樹の下で待ってるってことですか!?」
「いえ……お父さんの上着のポケットから、電話番号が書かれたメモが見つかったそうです。これが番号です」
怯えたような呆れたような表情でメモを差し出す事務員ちゃん。ヨシヒコはメモをひったくるように取った。
「これはまさか、デートに誘ってほしいというサインでは!?」
「いや、父親の上着のポケットから出てきたっつってんじゃん」
怖い声で言うムラサキを無視して、室内の電話に飛びついてダイヤルを回すヨシヒコ。しかし、どうやら通じなかったらしく。
《おかけになった電話番号は、現在使用されておりません》
という声が受話器から漏れ聞こえてきた。
「ぬおおぁぁ!! なんという焦らしプレイだ!! 興奮してきたああぁぁ」ヨシヒコは身震いしながら声を上げた。
「いや、平田は京都に行くと言ってたらしいから、京都の番号じゃね?」メレブが言う。「市外にかける場合は、最初に市外局番をつけるんだ」
メレブの説明に従い、電話をかけ直すヨシヒコ。何度かコールした後。
《はい、
と聞こえた。
「寺蛇屋旅館だと!? そんな所に用は無い!! 出せ! 由貴子ちゃんを出せ!!」さらに声を上げるヨシヒコ。
「マヌーサ!!」
ムラサキは呪文を唱えた。幻に包まれる呪文である。呪文が効いたヨシヒコは、「ああ、由貴子ちゃーん」と何も無い空間に抱きつき、「文恵ちゃーん」と壁に激突し、その後も空振り攻撃を続けた。
ムラサキが受話器を取った。「失礼しました。そちら、旅人の宿ですか?」
《変な呼び方ですが、まあそうですね》
ムラサキは名乗ると、平田という人がそちらに泊まっていないか訊いた。しかし、そういうことにはお答えできない、と言われ、教えてくれなかった。
「ま、そうだろうね」ムラサキは受話器を置いた。「電話じゃ、こっちがホントに警察かも判んないし」
「これは、直接行ってみるしかないな」
「そだね。じゃ、耕造と川村の捜査は、一旦保留ということで。事務員ちゃん、ありがと」
ムラサキたちは事務員ちゃんに礼を言うと、空振り攻撃を続けるヨシヒコを引きずって、京都へと向かった。
取調室に残った事務員の身体がキラキラと光りはじめた。光はどんどん強さを増し、やがて全身を包み込む。その光が消えると、事務員ではなくヒサが立っていた。手には変化の杖を持っている。
「兄様、ちゃんと電車に乗れるかしら……? ヒサは心配です」
ヒサは不安そうに言った。