刑事ヨシヒコと犯人は○○   作:ドラ麦茶

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第六話 京都の事件

 片道一一〇〇円、約一時間で神戸駅から京都駅へ下り立ったヨシヒコ一行。駅前から五重塔と『大』という大きな文字が書かれた山を見ながら寺蛇屋旅館まで移動する。女将に警察手帳見せてからきちんと事情を説明し、ようやく平田についての話を聞くことができた。

 

「十六日の夕方に来られて、一泊されていかはりました。チェックアウトのとき、亜美蛇ヶ峰(あみだがみね)への行き方をお訊ねでしたので、地図を広げて教えてさしあげました」

 

 亜美蛇ヶ峰とは、駅から東へ少し行ったところにある山である。標高二百メートルほどで、山頂には豊臣秀吉のお墓があるという。

 

 旅館ではそれ以上の情報は得られなかった為、一行は亜美蛇ヶ峰へと向かった。途中、念のため聞き込みをしながら向かうと、近くの神社で平田の目撃情報を得られた。十七日の昼前、おかしな男が三十分くらい必死な形相で拝んでいたらしいが、その男が平田に似ていたと言う。やはり、平田は亜美蛇ヶ峰へ向かったに違いない。

 

 本来ならば山頂までは五六五段の石段を登らなければいけないが、そこは八十年台のゲームということでカットされ、いきなり山頂に着く一行。山道の両脇には林が広がっている。

 

「おや? ボス、奥に何かありますね?」

 

 ヤスが何かを見つけ、林の中へ入って行った。ヨシヒコたちも続く。しばらく進むと、一本の木の枝からぶらんぶらんと何か大きなものがぶら下がっていた。

 

「大変ですボス! 平田が首を吊っています!!」

 

 ヤスが叫んだ。慌てて駆け寄るヨシヒコたち。それは、確かに平田の首吊り遺体だった。

 

「耕造を殺して、自らも自殺をしたんですね」ヤスがヨシヒコに向かって言った。

 

「おっと? ヤスのやつ、今まで俺らの捜査の補助しかしなかったのに、なんか急に捜査方針に口を出してきたぞ?」メレブは小声でムラサキに言った。

 

「まあ、あたしら気付いてないフリしてるけど犯人はヤスくんだからね。平田の犯行にして捜査を終わらせたいんじゃない?」ムラサキも小声で答えた。

 

「ボス――」と、ヤスは続ける。「あっけない幕切れですが、事件は解決しました。どうか捜査やめろと命令してください」

 

「いやー、ここで捜査やめる人はさすがにいないんじゃないかなー?」とメレブは言ったが。

 

「捜査やめろ!!」ヨシヒコは大声で叫んだ。

 

「いたよ。すぐそばにいたよ。いやヨシくんここで捜査やめるってことはないよ? 犯人の思うつぼだよ?」

 

「うるさい! 私は帰って由貴子さんとデートしなければならないのだ!」

 

「だめだ。完全にイカれてる」メレブはムラサキと顔を見合わせ、大きくため息をついた。

 

「仏! 捜査は終わりました!!」

 

 ヨシヒコが空に向かって言うと、またまた空に『now connecting』という文字とくるくる回る輪っかが表示され、仏が姿を現した。メレブが渡した眼鏡をかけるヨシヒコ。

 

「えーっと、バカなのかな? ヨシヒコくんはバカなのかな?」仏はゆっくりと教え聞かせるように言う。「行方不明だった参考人が首吊りしてて、そこで捜査をやめる刑事がどこにいる? そんな結末で納得する読者がどこにいる? せめて自殺の理由とか、死亡推定時刻とか調べて?」

 

「しかし、我々は神戸の人間です! 京都で起こった事件は京都の警察の管轄で、我々が勝手に捜査したら大問題になります!!」

 

「あー、キライだなー。このテのお話でそういう正論言う人キライだなー。いいの。これはそんなマジメなお話じゃないんだから。そんな細かいこと気にしないでいいの。ね?」

 

 それでもヨシヒコは正論をかざして捜査を打ち切ろうとするが、結局は仏ビームを喰らい捜査を続行することになった。

 

「足元に遺書があった」メレブが拾った遺書を広げた。「借金に耐えられなくなった、と書いてある。耕造を殺したというようなことは、どこにも書いてないな」

 

「遺体の方は、見た感じ争った形跡はないね」遺体を調べていたムラサキも言う。「詳しくは検死してみないと判らないけど、自殺で間違いないんじゃない?」

 

 すると、ヨシヒコははっとしたような顔になった。

 

「またバカなこと言い始めるのか? コイツ」ムラサキは肩をすくめる。

 

「いや、さっき仏からビーム喰らってマジメになってるからな。また冴えた推理するのかもしれんぞ? 一応聞いてみよう。ヨシくん、何か思いついたのかな?」

 

「はい。とんでもないことに気が付きました」

 

「おお、それはなに?」

 

「我々は、耕造が死に、行方不明となっていた平田を探していました」

 

「そうだな」

 

「なのに、その平田が死んだ」

 

「うむ」

 

「毎年一人が死に、一人が消える……これが、この村のルールです」

 

「そんなルールは無いしここは村でもないが、一応最後まで聞こう」

 

「でも、今年は二人死んだ」

 

「うむ」

 

「なら、行方不明になるのも、二人いるってことではないでしょうか!?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ヨシくんそれアレでしょ? 綿流しの後に起こるヤツ。前にも言ったけどさ、ここ雛見沢じゃないから。鬼隠しも綿流しも起こんないから。みんなそんな心配してないから」

 

「みんなって誰だよ!?」

 

「ダメだ。ほっとこう」

 

「現場での捜査はこれくらいかな」ヨシヒコに構わず捜査を続けていたムラサキは手についた埃をパンパンとはらった。「後は京都の警察に頼んで、検死してもらおっか?」

 

 遺体を京都の警察に預け、近くの料亭で京懐石を食べながら待つ一行。もちろん経費でおとすのである。しばらくすると電話がかかって来た。

 

「ボス、検死の結果が出たそうです」電話を受けたヤスが報告する。「平田の死亡時刻は、十七日の午後一時頃だそうです」

 

「十七日の午後一時か」メレブが手帳を取り出し書き込んだ。

 

「耕造が殺されたのは十七日の午後九時だから、そのときには、平田はもう死んでるってことになるね」ムラサキが言った。

 

「そんなバカな!?」と、ヨシヒコが声を上げた。「それじゃあ、死人が耕造を殺したとでも言うんですか!?」

 

「言わねーよ。いいかげん雛見沢から離れろ」

 

「まあ、普通に考えると、平田は犯人じゃないってことだな」メレブは手帳を懐にしまう。

 

「神戸に戻って、もう一度由貴子ちゃんに事情を訊く必要があるね」

 

「そうだ! 由貴子さんに話を聞く必要がある!!」拳を握って立ち上がるヨシヒコ。「さあ帰りましょういま帰りましょうすぐ帰りましょう!! ムラサキ! ルーラの呪文を!!」

 

「いや、あたしルーラまだ覚えてないし」

 

 メレブが呆れた目を向けた。「……なんでアバカムやイオラが使えてルーラが使えないんだよ。相変わらず呪文を覚える順番がおかしいなお前は」

 

「ほっとけ。ていうか、ルーラは勇者の方が先に覚えるもんでしょ。ヨシヒコこそ使えないの?」

 

「使えん!」

 

「偉そうに言うな。じゃあ、また電車で帰るしかないね」

 

 食事を終え、ヨシヒコたちは料亭を出た。

 

「おおっと。どうやら俺は、またこのタイミングで新たな呪文を覚えてしまったようだ」料亭の門をくぐったところで、メレブがひらめいたように言う。「しかも、まさにタイミングバッチリ、移動に使える呪文だ」

 

「どーせオメーのことだから、時速四キロでしか移動できないとか、使用には片道一一〇〇円かかるとか、そんなんだろ?」やはり疑わしそうな目を向けるムラサキ。

 

「フフッ、そう考えるのがむねたいらさんの乳のあさましいところだな。俺が覚えたのは失われし古代呪文・ルーラだ」

 

「いや、ルーラは現役バリバリ呪文でしょ」

 

「それが違うんだな。このルーラは、現代呪文のルーラとは違い、移動する街や城を選ぶことはできない。最後に復活の呪文を聞いた場所にしか移動できないのだ」

 

「じゃあ、不便じゃねぇかよ」

 

「確かにそうですが――」と、ヨシヒコが言う。「瞬間移動できるのなら、大幅に時間の節約になります。使ってくださいメレブさん。ぜひ古代呪文のルーラを使ってください!」

 

「うむ。では使って進ぜよう。ルーラ!」

 

 ぱらりろりろり、と、光り輝いて。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 しかし、何も起きなかった。

 

「どういうことでしょう?」ヨシヒコは首をひねった。「まさか、ここは呪文がかき消されるエリアなのでしょうか?」

 

「いや違うな」メレブは冷静な口調で言う。「説明しよう。古代呪文のルーラは、最後に復活の呪文を聞いた町や城に移動できる。しかし、この一九八五年の世界は、冒険の書はもちろん復活の呪文さえ存在しない場所なのだ。復活の呪文を聞いてないのだから、当然、呪文は効果を発揮しない」

 

「じゃあダメじゃねぇかよ」呆れ声のムラサキ。

 

「期待させるだけさせておいてこのザマか!」ヨシヒコは鬼のような形相で言った。「時間をムダにしやがってこのブサボクロが!」

 

「ヒドイ! 俺をブサイクと言うならまだしも、ホクロをブサイクと言うなんて!」メレブは泣き崩れた。

 

 結局、ヨシヒコたちは電車で帰るしかなく、京都駅へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 料亭の門の陰から、ヒサがひょっこりと顔を出した。手には、キメラのつばさを持っている。

 

「兄様、ちゃんと神戸に帰れるかしら……ヒサは心配です」

 

 そう言った後、キメラのつばさを空に向かって投げる。ヒサの身体は光に包まれ、神戸へ向かってばびゅん! と、飛んで行った。

 

 

 

 

 

 


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