京都での捜査を終え、神戸へと戻ってきたヨシヒコたち。平田由貴子に父の死を知らせ、より詳しい事情を訊くため、署へと向かった。
その途中。
「ボス、ちょっといいですか?」と、ヤスが手を挙げた。「由貴子のアリバイを洗うため、僕は自宅周辺の聞き込みをしてきます。ボスたちは、予定通り由貴子から事情聴取をしてください」
そう言うと、ヤスはパーティーを抜けさっさと行ってしまった。
「なんだアイツ?」と、メレブは首をひねる。「急に別行動とか言い出して?」
「ヤスくん犯人だからね。誰か殺しに行くんじゃない? 一応これ、連続殺人事件だし」ムラサキは言った。
「のんきに言ってる場合か。誰か殺しに行くなら、止めないと」
「でも、正当な捜査では、まだヤスくんを犯人だと決められないし」ムラサキは肩をすくめた。
「だから、後を追って殺害現場を目撃すれば、現行犯逮捕できるじゃないか」
「あ、そだね。それはいいアイデアかも」
ムラサキはぱんっと手を叩き、ヤスの後を追おうとしたが。
「ダメだ!」と、ヨシヒコが鬼のような形相で言った。「我々は由貴子さんとデートするいや事情聴取をしなければならない! 聞き込みはヤスに任せておけ!」
「出たよ。こりゃきかねーぞ?」ムラサキはメレブを見る。「どうする? あたしらも、別行動する?」
「いや、ムリじゃないかな。ヤスはNPCつまりノンプレイキャラだから自分の意思でパーティーから抜けられるけど、俺たち真実の仲間は酒場に行かないと抜けられない。そんなことをしている間に、ヤスは目的を達成するだろう」
「そっか。ホントめんどくさいね、あたしらの世界のシステムって」
仕方がないので、ムラサキとメレブもヨシヒコと共に署へと戻った。取調室に戻ると、タイミングよく電話が鳴る。相手はヤスだった。
《ボス、由貴子の家の近所の人から証言が取れました。耕造が殺された十七日の夜、由貴子が出かけるのを目撃したそうです》
「おっと。聞き込みはホントにしたようだな」メレブはムラサキを見た。
ムラサキは腕を組んだ。「由貴子ちゃんは、十七日の夜は家にいたと言っていた。でも、出かけたという証言があり、そして、耕造の屋敷の前には恐らく由貴子のものと思われる指輪が落ちていた。父親は耕造から多額の借金をしている」
「だったらなんだと言うんです!」顔を真っ赤にして声を上げるヨシヒコ。「由貴子さんが犯人だとでも言うんですか!? あんなカワイイ女子高生に人を殺せるはずがない!!」
「カワイイから殺せないってことはないでしょ」と、ムラサキはムッとした声で言うも、すぐに声を改めた。「……とはいえ、それも一理あるんだよね。女子高生があの屋敷に忍び込んで耕造をナイフで刺して殺すっていうのは、ちょっとムリがあるよ。それに、一応密室の謎もあるし。由貴子ちゃんじゃ、密室状態を作ることができないから」
「じゃあ、なんのために耕造の屋敷に行ったのかを聞く必要があるな」メレブが言った。
「そだね。じゃあ、由貴子ちゃん呼ぶよ? ……と、その前に」
ムラサキはヨシヒコに手のひらを向けた。
「バシルーラ!!」
ムラサキが呪文を唱えると、ヨシヒコは窓を突き破ってはるか彼方へと飛んで行った。バシルーラは対象一体を遠くへ飛ばす呪文である。
「アイツがいると、いろいろ脱線して話が進まないから」ムラサキは清々した顔で言った。
「勇者にバシルーラは効かないはずだが……あいつはもう勇者じゃないんだな」メレブはヨシヒコが飛び去った先を見つめながら呟いた。
気を取り直し、事情聴取のため由貴子を部屋に呼ぶ。父親が京都で自殺した旨を伝えると、由貴子は目を大きく見開き、かなりのショックを受けている様子だった。が、それでも、涙は流さなかった。膝の上でぎゅっと拳を握り、我慢しているように見えた。
ムラサキは、「こんな時に申し訳ないんですが……」と切り出した。「十七日のアリバイを、もう一度確認させてください」
「家にいたって言ったじゃん」由貴子はいつもの口調で答えた。
「でも、あなたがあの夜出かけるのを見たという人がいるんです。それに、俊之があなたに渡したという指輪も、屋敷の前に落ちていました」
「…………」
黙り込む由貴子。以前のような無邪気な明るさは感じられない。父親の死を知らされたばかりだからそれも当然だろう。気丈に振る舞ってはいるが、やはり女子高生なのだから。
「由貴子さん。あたしたちは、あなたが耕造を殺したと考えているわけではありません。あなたがやったにしては、不自然な点が多いんです。ただ、何をしに耕造の屋敷に行ったのかは、ハッキリさせておかないといけません」
ムラサキがそう促すと、由貴子は小さく息を吐き、「判ったよ。言うよ」と言って、話し始めた。
「……確かにあの日、屋敷に行った。夜の七時頃だったかな。親父に、もっとお金を貸してもらえないかな、と思って」
「耕造に、さらに借金を頼みに行ったということですか?」
「そう。親父、別のところからももっとお金を借りてて、その取り立てが酷かったんだよ。そのことを話したら、貸すって言ってくれたよ」
「耕造の借金の取り立ては、どんな感じだったのですか?」
「耕造さんは、返済はいつでも構わないって言ってくれた。利子も普通よりもうんと低くしてくれて、すごくイイ人だったよ。耕造さんを頼れば、なんとかなったかもしれないのに」
そう言った後、由貴子は顔を伏せた。「……親父はバカだよ! なにも、自殺することないのにさ……」
由貴子の言葉は嗚咽へと変わった。ムラサキは小さく息をつくと、礼を言い、事情聴取を終えることにした。
「耕造が平田を助けようとしていたというのは、意外な話だったな」
由貴子を玄関まで見送り、帰ってきたムラサキに向かって、メレブが言った。「そうなると、平田も由貴子も動機が消え、完全にシロだな」
「なんかあたし、耕造って人が判らなくなってきたよ。昔は悪いことしてたけど、最近はそうでもなかったのかな?」
「案外、昔の悪事を悔いていたのかもな。まあそれはさておき、ここまでの状況を整理しよう」
メレブは例のホワイトボードを持ってきた。
「遺体第一発見者の文江と小宮は両方アリバイがある。甥の俊之も、殺害時間に麻薬の取り引きをしていた。平田は耕造よりも前の時間に自殺。由貴子には殺害動機が無い。そうなると――」メレブは、川村の名前をマジックで大きく囲んだ。「やっぱり、この川村って男だな」
ムラサキがあごに手を当てた。「川村まさじ……耕造の昔の詐欺仲間。十五年前に淡路島の洲本から神戸にやってきて、事業を始めるも失敗。その後神戸でも詐欺行為を働き、六度の逮捕歴がある。一方の耕造は、神戸で金融業を始めて成功。詐欺師からはすっかり足を洗った。昔の悪事を悔いていたような様子もある」
「地下迷宮の金庫にあったメモによると、耕造は川村に何度も金を渡している。ひょっとしたら、昔の悪事をネタに脅されていたのかもな」
「よし。じゃあ、次はこの川村を探そう。問題は、どうやって探すかだけど……」
ドアがノックされ、この前の事務員ちゃんが入って来た。「失礼します。おこいさんという方から、金髪で素敵なホクロのにいさん様にご伝言です」
「そんな人ここにはいません」さらりと答えるムラサキ。
「何を言っているのかなムラサキ君。目の前にいるではないか」メレブは胸を張っていやホクロを張って前に出た。
「この世界の美的センスはどうなってるんだ」ムラサキは汚物を見る目をメレブのホクロに向けた後、気を取り直して事務員ちゃんを見た。「それで、伝言って?」
「えっと、以前川村さんからもらった名刺を見つけたそうです。住所が書いてあったので、伝えてほしいと」
「お? ナイスタイミング」
「ご都合主義とも言うけどな」
「何でもいいのよ、ありがと、事務員ちゃん」
二人は礼を言ってメモを受け取った。それによると、川村はすみれ荘というアパートにいるらしい。住所も書かれてある。二人は署を出て一度深海地へ向かい、バシルーラで飛ばしたヨシヒコと合流した後、すみれ荘へと向かった。
ヨシヒコたちが通り過ぎた後、電柱の陰からヒサが顔を出した。
「兄様、詐欺師の部屋になんて行って大丈夫かしら……ヒサはしんぱ――」
後ろからもう一人ヒサが現れ、前のヒサの頭を変化の杖でぽかりと殴った。前のヒサはボン! と爆発し、黄色い炎のようなモンスターに姿を変えた。モシャスの呪文を使い自由に姿を変えることができるモンスター・マネマネだ。
「兄様、もうすぐクライマックスなのに、あんな雑な扱いで大丈夫かしら……ヒサは心配です」
「マネマネ~」
ヒサとマネマネは不安そうにつぶやいた。