その日何気なく見たテレビに、知ってる名前が出た。
『宇宙飛行士・森野真理さんが女性初の月面着陸へ』。NASAの月面探査チームに彼女が選ばれたことで、こういったテロップが流れた訳だが、それを見た私は大急ぎで課題を済ませ、先輩に連絡を取った―――
『もしもし、森野でーす』
「お久しぶりです、モンロー先輩。真中です」
『わあっ、あおちゃんまで連絡くれたの?ありがとう〜〜』
「おめでとうございます。来月くらいには月面、ですか?」
『えぇ。地学部の皆のお陰でここまで来れたわ〜!』
「みらや地学部の先輩方からお祝いは……?」
『もう祝われたわ。あおちゃんが一番最後よ?』
「そ、そうだったんですか……こちらも立て込んでましたし………
そうだ、月面着陸第一声とか決めてます?」
『ふふっ、あおちゃんって意外とせっかちね。みらちゃんにも同じコト聞かれたわ。でも、まだなーんにも考えてない!』
「良いんですか、それ………?」
『良いの。まだ1ヶ月もあるんだから。それに、私はきっと、その時に思ったことをそのまま言うだろうから。』
「……『イェーイ』だけはやめてくださいね?」
『ふふ、流石に南波さんみたいな事はしないわよ〜』
私のジョークに、モンロー先輩は笑う。
というのも、ちょっと前くらいに、日本人の男性宇宙飛行士が初めて月面に立ったのだ。その人の名こそ南波日々人氏。日本にとっての歴史的瞬間、彼が月面に降り立った際に言い放った最初の一言が………
『イェ〜〜〜〜〜〜〜〜イ!!!』
―――だったのだ。
これを受けて世界中は「さすがサムライの国は一味違うぜ、HAHAHA!!」と大笑い、日本中は「イェーイってお前wwww」ともっと大笑いし、その発言に便乗するかのような商品が多く世に出たのである。
「あの後どういう訳か『イェーイ』ブームになりましたからね。
どこもかしこも『イェーイ』ばっかりでした。牛乳にまで書かれる始末ですよ」
『星咲祭みたいじゃない。あおちゃんってそういう空気好きじゃない?』
「みらのお陰で好きになりましたけど、『イェーイ』ブームの再来だけは勘弁して欲しいです」
『ふふふ〜』
この人の事だから、ついウッカリポロッとやらかしそうなんだよなぁ。桜先輩曰く「高校の頃からあんま変わってない」らしいし。
『……あ、ちょっと待ってね―――
―――――――――――
……そろそろ行かなきゃ。それじゃあ、またね』
「え、あ、はい! 先輩も、体に気をつけてください!」
『ありがと〜〜、それじゃ』
電話が切れた。
宇宙飛行士なんだ、忙しいのだろう。そんな中で地学部の皆が電話でモンロー先輩を祝えたのは奇跡のように感じた。
さて、私は私のやる事に取り掛からなきゃ。
―――1ヶ月後のとある朝。
モンロー先輩の電話を思い出しながらテレビをつけると、やはりと言うべきか待ちかねたニュースの報道途中だった。
そしてそれは、NASAの通信記録とカメラ映像だった。
『マリ飛行士、まもなく月面着陸です』
『了解』
そして……モンロー先輩らしき宇宙服の人が月面に降り立ち―――
『ヤッホー! みんな、見てるー??』
「ンゴッフ」
―――私は口に含んだコーヒーを吹き出した。
……このちょっと抜けた「第一声」は、やはり再び世界中に笑いを巻き起こした。
桜先輩を「地球に帰ってきたら説教してやるわ……!」と言わしめ。
イノ先輩を「まぁ…モンロー先輩らしいですけど……」苦笑いさせ。
日本中に『イェーイブーム』の再来を思わせる『モンローブーム』を呼び寄せた。関連グッズを集めたみらが目を輝かせながら私に密に連絡をしてくるようになった。
―――まぁ、私としては、みらとモンロー先輩が楽しそうならそれでいいんだけどね。
日本人で初めて月面着陸を成した宇宙飛行士。着陸時の第一声は「イェ〜〜〜〜〜〜〜イ!!!」。
私達の先輩にして、初めて月面着陸を成し遂げた女性宇宙飛行士。着陸時の第一声は「ヤッホー! みんな見てるー?」。
………二人のせいでというべきかお陰でというべきか、外国の人々に日本人の民族性を色々と誤解されそうな気がしてきた……
☆南波日々人
『宇宙兄弟』に登場する、主人公の弟の方。細かいことを煩う性格。兄より先に宇宙飛行士になり、月面着陸に成功する。その後、月面での任務中にとある事故に遭うが……?
みなさんの好きな人は
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みら
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あお
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モンロー先輩
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イノ先輩
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桜先輩