化け物の襲撃から逃れ、乃木若葉、上里ひなた、そして海パンマッチョの謎の男二人に先導され、生き残った人々は人類最後の砦である四国へとたどり着いた。
四国は神樹と呼ばれる神によって守られており、怪物も簡単には手出し出来ないはずだ。
島根からの道中、幾度も星屑やその進化体と遭遇したが、男たちから与えられた生太刀と勇者服の力を使った若葉の活躍によって、一人の怪我人も出さずに済んだのだった。
「ぬわああああん疲れたもおおおおん」
疲労でへたり込む人たちの中、まだ余力のあった若葉は男達の元に来た。
「貴方たちのおかげで友達が死なずにすんだ。本当にありがとう」
「(気にしなくても)いいですよ……(小声)」
頭を下げて礼を述べる若葉に、赤いパンツの男が応えた。
「こっちは鈴木で、向こうが、チョコボール向井っていうんだ。これから、仲良くしようよ」
白いパンツの男──鈴木が自己紹介をする。赤いパンツのチョコボール向井も会釈をした。
「向井さんと鈴木さんか。私は乃木若葉だ。貴方たちの恩に報いたい。私にできることがあったら、なんでも言ってくれ!」
ん? 今なんでもするって言ったよね? 男たちの目がギラリと輝く。
「ここは丸亀市で、向こうに、大社本部があるんだ。今から、そこへ行こうよ」
「大社……?」
言われるがまま、若葉は二人に連れられ大社と呼ばれる組織がある建物へ向かう。
大社とは、人々を襲った星屑を含む怪物の総称であるバーテックスに対処するためにつくられた機関である、という説明を若葉は道中で受けた。
「わぁ、これが大社本部ですかー」
厳かな雰囲気のある建物を見て、若葉は感嘆の声を漏らす。
「シャア、どうぞ」
鈴木に案内され通された部屋には、若葉と同年代と思われる4人の少女がいた。
高嶋友奈、郡千景、土井球子、伊予島杏。
彼女たちこそ、若葉同様バーテックスから人類を守護するため神に選ばれ者──勇者であった。
「わぁ、これが訓練ルームですかー」
「色んな運動器具がありますねー。こんなに揃ってるとは思わなかったぁ」
向井と鈴木から世界の有様を知らされた少女たちは、勇者としてバーテックスと戦うことを了承した。
バーテックスが本格的に残された人類を滅ぼしに攻めてくるまで、三年の猶予があることが巫女であるひなたから伝えられている。
残された時間で少女たちを鍛えられるだけ鍛えっ、鍛え上げようぜ~と、向井らは五人の勇者をひきつれ早速訓練場に入った。
「それで、まずはなにからやるんです? 私は剣技だったら自信がありますよ」
若葉が
「タマも運動は得意だぞ! 趣味はアウトドア全般だ!」
張り合うように球子も言う。
「わ、私は運動はちょっと……」
「私もインドア派だから、体を動かすのは苦手ね」
「私は趣味で武道をかじってるから、空手とか出来まーす!」
杏、千景、友奈が続いた。
五人の意見を聞いて、向井はルイヴィトンのバッグからマルティスポーターを取り出す。
「これですよ、マルティスポーターって言うんです。デパートなんかで、実演しているんですよ」
マルティスポーターとは、ゴムの弾力を利用して筋肉を鍛える道具であり、昭和の頃に流行った携帯用運動器具である。
「なるほど。まずは基礎体力を付けろ、ということですか」
納得し、器具を受け取る若葉。他の4人にもマルティスポーターが配られる。
しかしこの道具は少女たちが生まれるよりもっと前に使われていたものであるため、5人は使用法が分からず首をかしげている。
「これどうやって使うのか、ちょっとやって見せてお」
困っている様子の少女たちを見た鈴木が向井に言った。
それに応えた向井は、実際にマルティスポーターを使い足、上腕二頭筋、三頭筋、肩などを鍛えていく。
少女たちも向井に習って、体の各部を鍛え始めた。
「結構効きそうですねぇ(素)」
と杏。
千景もだが、普段あまり運動をしない二人でもこれなら、大きな疲労をせずに体力をつけることが出来るようだ。
「効果的な運動ですね」
五人の勇者たちは、バーテックスの襲来に備えこれから先も向井、鈴木と共に筋力向上に励むことになる。
だがそれが、まさかマルティスポーターを使った体力トレーニングだけに三年間を費やすことになろうとは、誰にも想像できないことだった。
◇ ◆ ◇ ◆
あっという間に時は流れ、ついにバーテックスが侵攻を始めた。
三年間のトレーニングのおかげで少女たちの体は見事に鍛え上げられ、女性らしい細く美しい、しなやかな筋肉を手に入れていた。
ボディービルコンテストに出たら優勝は間違いないだろう肉体美に、彼女らと肩を並べる大社職員もメロメロである。
ありがとナス、マルティスポーター。ありがとナス、向井と鈴木。
肉体派勇者と化した若葉たちは現在、樹海化した丸亀城でバーテックスを待ち構えている。
若葉、球子、千景、友奈の四人はすでに勇者服に変身を終えていたが、杏だけがまだ私服のままだ。
杏はこれから起こる初めての戦いを前に、緊張と恐怖から戦意を失い勇者になることが出来ないでいた。
「杏はここにいろ。あっちはタマたちに任せタマえ!」
そう言って球子たち四人は、結界を越えてやって来る星屑を倒すため向かっていく。
一人残された杏は、自分の不甲斐なさに落ち込んでいた。
「タマっち先輩たちだって怖いのは同じなのに、私だけ安全な所にいて……私って、ダメだ……」
「(なら、)一緒に(バーテックスを)殺ろっか」
「っ……!?」
ふいに杏にかけられた男の声。それは普段着の海パンのみを身に着けたマッチョ二人組、チョコボール向井と鈴木のものだった。
「ぇ……向井さんと鈴木さん!? なんでここに!?」
大社から、樹海にはバーテックス以外には、勇者である五人の少女たちしか存在することは出来ないと聞かされている。
なのになぜ、この場に向井と鈴木がいるのか……。
二人は杏の疑問には応えず、戦闘中の勇者たちを指さす。
その先に杏が目をやれば、そこには星屑に囲まれ劣勢に追い込まれている球子の姿があった。
球子の武器は中距離用のもので、接近され囲まれている今では威力を発揮できず防戦に徹している。
しかも相手は複数。いつまでも持ち堪えられないだろう。
今にも星屑に食いつかれんとしている球子の姿を見て、杏はあっと声を上げる。
「あれですよ、友達って言うんです。ピンチなんかになると、助けたくなるんですよ」
友達……向井の言葉を聞いて、杏は意を決する。
「教えてください! どうすれば私も変身できるんですか!?」
「じゃあ最初に、スマホのアイコンをタッチ」
向井に言われるまま、杏はスマートフォンに搭載されている勇者アプリをタップした。
同時に彼女の服が
「私も、変われた……!」
杏の姿を見て、向井と鈴木は満足気な笑みを浮かべている。
「シャア、(戦って、)どうぞ」
「はいっ!」
バキィ!(球子を取り囲む星屑を蹴散らす音)
頷いた杏は一直線に球子の元へ向かい、颯爽と友人を危機から救った。
その姿は普段から杏が憧れいている王子様を、少女自身が体現しているかのようだった。
5人そろった勇者は一転攻勢、星屑を圧倒していく。
これに対し星屑は残された個体を集結、融合し進化体を形成した。
今回現れた進化体は以前若葉が島根で遭遇したものとは違い、今までに見たことのない形状をしていた。
物干しざおの様な一本の細い棒から、板状の器官を形成する個体。
「どんな相手だって、今の私たちの敵じゃないよ!」
友奈はそう言い、必殺の勇者パンチを進化体に放つ。
バァン!
しかし友奈の攻撃はあえなくはじき返されてしまった。
続けて球子、杏も攻撃するが、同様に反射されてしまう。
「相手の攻撃をそのまま跳ね返すなんて、厄介な敵ね……」
忌々しげにこぼす千景。
そこに向井と鈴木もやって来た。
合流した二人は、友奈に新たなスマートフォンを差しだす。
「? スマホならもう持ってますけど……」
「これですよ、憑依って言うんです。精霊の力なんかを、宿すことができるんですよ」
向井と鈴木が友奈に渡したスマートフォンには勇者への変身システムに加え、新しく精霊と呼ばれる概念的存在の力を上乗せする機能が備えられていた。
これは大社が、対バーテックス用に用意した
「これどうやって使うのか、ちょっとやって見せてお」
鈴木が友奈に、精霊システムの使用を促す。
「……わかりました。来て、一目連!」
友奈はスマートフォンを通して神樹にアクセス。記録から再現された精霊、一目連の力をその身に降ろした。
「いっくぞー! 百連・勇者パアアアアアアアアアンチッ!!」
嵐の具現化である一目連の力を上乗せした友奈必殺の拳の連打が、板状進化体に叩き込まれる。
バキィ!(進化体が砕け散る音)
一目連の力と、三年間マルティスポーターで鍛えられた友奈の筋力の合わせ技で、進化体は彼女の拳を跳ね返すことかなわず、その身を粉砕された。
もしこれが一目連だけの力なら、勇者パンチは千回も叩き込まねばならなかっただろう。
それが十分の一の百発で倒しきるとは、これもマルティスポーターと、それを与えた向井と鈴木のおかげである。ありがナス!(二度目)
結界内部に押し入ってきたバーテックスはこれですべて排除された。
神樹も樹海化を解き、世界は元の姿を取り戻す。
「やったな、みんな」
「私たち勝てたのね」
「若葉ちゃんも、ぐんちゃんもお疲れさま!」
「ま、タマにかかればどーってことないな!」
「みんな無事でよかった……」
初の戦いで誰一人欠けることなく勝利を収めることができた勇者たち。
勝利に沸く少女らを、向井と鈴木も微笑ましげに見つめていた。
そんな二人に杏が振り返り声をかける。
「向井さん、鈴木さん。お二人のおかげで、私も戦う決心がつきました」
「劇的な成長ですね」
「(みんなの)仲が、(もっと)良くなりますよ」
向井と鈴木は、子供の成長を喜ぶ親のような温かい言葉で返した。
「ところで、お二人はどうやって樹海に入ることができたんですか?」
温かな交流から一転、杏は真剣な表情で二人に問うた。
樹海に入れるのは勇者だけ。そして勇者に選ばれるのは無垢な少女だけ。では、そのルールから外れる向井と鈴木は一体何者なのか……。
「わぁ、これが精霊システムですかー。色んな不具合がありますねー。こんなに不完全だとは思わなかったぁ」
「精霊システムには反動があって、後で、精神に異常をきたすんだ。大社に、文句を言おうよ」
「すぐ直しましたよ」
二人はやはり、杏の疑問には応えなかった。
代わりに、精霊システムを使用すると起きるマイナス感情の増幅という不具合を修正した、ということだけを少女らに伝えその場から去っていく。
離れて行く向井と鈴木の背を見送りながら、杏らは二人の存在について思いを巡らせるのだった。