「敵の数が多すぎるッピ!」
樹海化した大地に立った勇者たちは叫んだ。
今回攻め込んできた星屑の数は、千体っ。
これまで幾度か襲来した星屑ですが、今回のバーテックスは通常の十倍の戦力を投入してきました。
まだ中学生の勇者たちはこの猛攻に耐えきることが出来るでしょうか?
それではご覧ください。
「みんな、臆するな!」
若葉は、膨大な数の敵に戸惑いを見せる四人に檄を飛ばす。
「向井さんと鈴木さんとの訓練を思い出せ。私たちは三年間も、あのマルティスポーターを使ったひたすら地味な筋トレに耐えてきた。その成果を今こそ見せる時だ!」
「若葉ちゃんの言う通りだよ! 私たちの筋肉なら出来る!」
「敵の数が十倍いても、今の私たちも十倍は強くなっているはずだものね」
「おー、そうか。タマたちはあいつらと互角なのか!」
「そう言われると、なんだかやれそうな気がしてきました」
若葉の言葉で四人にも活気が湧く。
「私たちは、今までも奴らの襲撃を退けてきた。今回も勝つぞ! 勇者たちよ、私に続け!!」
バキィ!(進化体を切り伏せる音)
若葉を先頭に星屑に挑む勇者たち。
敵の数は膨大だが、リーダーの若葉が指示を飛ばすことで確実に星屑を処理していく。
もしも若葉が島根で友人をバーテックスに殺されていたら、今の彼女は怒りにとりつかれ仲間を顧みず、自分勝手な戦いを繰り広げていただろう。
しかし、その未来は向井と鈴木のおかげで回避された。
今の若葉は復讐心ではなく、四国に住まう人々を守るという使命で動いている。
そして、その守るべき人たちの中には、今共に戦う四人の仲間も含まれているのだ。
若葉は敵を倒し、なおかつ仲間の安全も守りながら刀を振るう。
そんな彼女を四人も信頼し、安心して命を預けることが出来ていた。
「おい、みんな! あれを見ろよ見ろよ」
球子の叫びで彼女の言う方に目をやると、星屑が集結し次々と進化体を形成し始める。
すでに侵攻してきた星屑は893匹位はやっつけているので、残りの進化体の数は……29です。
「よっしゃ、ここはタマに任せタマえ!」
球子は自分の体に精霊、輪入道を降ろす。
「イクゾオオオ! オエッ」
即座に巨大化した旋刃盤に炎をまとわせ、進化体に向けて放り投げた。
バキィ!(成すすべもなく進化体が破損する音)
進化体は高速で回転しながら突き進む旋刃盤の威力に耐えきれず次々と砕かれていき、あっという間にその数をゼロにした。
「見タマえ、タマの雄姿を!」
「やったね、タマっち先輩!」
ハイタッチしながら勝利を喜ぶ球子と杏。
戦いを終えた少女たちは、戦果を報告するため丸亀城にいる向井と鈴木の元へ向かった。
「わぁ、これが完全勝利ですかー」
「すぐ褒めますよ」
今回の戦力差では苦戦するかもしれないと予想していた向井と鈴木だったが、その心配も杞憂に終わったことで安堵の息をつく。
「向井さんと鈴木さんとの訓練のおかげで、私たちもパワーアップ出来てました!」
友奈が嬉しそうに言った。二人も笑顔で返す。
「効果的な運動ですね」
「主に、戦場で、よく発揮します」
不断の努力で鍛えてきた成果は裏切らないと向井と鈴木は言う。
そしてマジメな顔つきになると、以降も気を抜かないように、と少女たちに伝えた。
「えぇ、(これから先も)色々(な困難が)ありますよ」
断言する向井と鈴木。
まるでこれから勇者たちを待ち受けている運命を、すでに見越しているかのような確信の響きがあった。
◇ ◆ ◇ ◆
バーテックスが総攻撃を仕掛けてくる。
それは大社へと出向していたひなたに下された、神樹からの神託だった。
総攻撃ともなれば、前回の一千体の侵攻をさらに大きく上回る数での大侵略になるだろう。
「あかん、このままじゃ勇者の誰かが死ぬぅ!」
大社の神官は、今度こそ勇者の側に死者が出るだろうと予測した。
しかし、当の少女たちはというと
「(私たちが死ぬなんて)これは(冗談)キツイですよ」
「これ(生き残ること)も、勇者の使命なんですよ」
と、まったく意に介していなかった。
もちろん、これは自分たちの力を過信して調子に乗っているわけではない。
少女たちは信じているのだ。向井と鈴木とマルティスポーターに鍛えられた自分たちが、怪物なんかに負けるはずがない、ということを。
しかし、気合だけで勝てるほど甘い相手ではないのも事実。
そこで向井と鈴木は、勇者たちに一つのアイディアを提示した。
「戦記物の小説を読み漁って仕入れた、この素敵な知識を聞かせてお」
「戦略ゲームコンテストで優勝した、この素敵な作戦を聞かせてお」
向井と鈴木は、杏と千景に対バーテックス用の陣形を考えるように言う。
これまでの戦いでは各々個別に怪物に対処してきたが、それでは数の差で押し切られるのは必至。
ゆえに、こちらはチームワークで対処しよう、という訳だ。
杏と千景を中心に、向井と鈴木も加えて勇者たちはアイディアを出し合う。
日中からの議論の末、無事その日の夕方には陣形の案はまとまった。
ずっと話し合いに徹していたメンバーは食事もまともに取らなかったので、すでにお腹はペコペコだ。
せっかくだからみんなで一緒に夕食を食べようという友奈の声で、ひなたも加えた一行は食堂に移動する。
「あ、いらっしゃいませ、えーと本日、えー素敵なお夕飯のお料理を担当させていただきます、不死鳥料理人の中野です。どうぞよろしくお願いします」
席に着いた一同の前に、さっそく大社専属の料理人である中野くんが料理を運んできた。
美味しい料理に舌鼓を打ち英気を養った少女たちは、翌日に控えた大侵攻に備え、早めに床に就くのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
バキィ!(迫りくる星屑を倒していく音)
ついに大侵攻は始まった。
勇者たちは杏と千景の考えた陣形で戦闘と休憩を繰り返し、長時間の戦いでも怪我を負うことなく安定して戦局を進められている。
戦闘開始から数時間が経過し、星屑の数もずいぶんと減ってきた。
終わりが見え始めたことで、勇者たちの間にも安堵の気持ちが湧いてくる。
もうひと頑張り、というところでバーテックスにも新たな動きが。
残りの星屑が全て進化体になることで、戦力をアップさせたのだ。
「! これは、ちょっとマズいですよ」
後方で各勇者を援護していた杏が、焦りの声を漏らした。
徐々にだが、前線にいる若葉、友奈、球子たちが押され始めている。
「……私が行くわ」
杏の横で休憩していた千景が言った。まだ交代の時間には早いのだが。
「でも……」
「大丈夫、もう十分休ませてもらったわ」
「これはキツい(戦いになりそう)ですよ」
「分かってる。私に考えがあるの」
「考え?」
「ええ。信じて、任せてくれるかしら」
杏の目をまっすぐ見つめる千景。彼女の言葉はとても力強いものだった。
千景の自信に満ちた表情を見て、杏も彼女の言葉を信じることにした。
「分かりました。お任せします」
「イッキーマウス」
千景は星屑の相手をしていた友奈と交代する。
「ごめん、ぐんちゃん。あとをよろしく!」
「かしこまりッ!」
千景は意識を集中することで、神樹の概念記録にアクセス。自分の体に精霊の力を降ろした。
「頼むわよ、『七人岬』……!」
精霊『七人岬』の力を使った千景は、名前の通り七人に姿を増やした。
この分身は、それぞれが本体と同じ戦力を持った実態でもある。
「来なさい化け物共。今の私を、止められるものならね」
バキィ!(進化体を蹴散らす音)
七人の千景は怒涛の勢いで進化体を切り伏せて行く。
戦力を七倍にも増やす千景のチート技の前に、攻め込んできたバーテックスはあえなく消え去るのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
のちに『丸亀城の戦い』と呼ばれる激戦は、無事勇者の勝利で終わった。
大社はいまだバーテックスの存在に怯える人々を元気づけるため、マスコミを通して今回の勝利を大々的に宣伝していった。
テレビのワイドショーや新聞、雑誌の特集などは、連日にわたって一面が勇者の話題一色に染まっている。
当然、立役者である勇者の少女たちもインタビューに呼ばれ、ここ数日はテレビや新聞からの質問攻めにてんやわんやだった。
一週間ほどが経つと、若葉はようやくマスコミから解放された。
今は一人、丸亀城の食堂でぐったりとテーブルの上に突っ伏している。
「これはキツいですよ……」
溜息と共に、呻くように若葉は漏らした。
勇者である彼女の体力は大人以上にあるはずなのだが、心理的プレッシャーへの耐性はそうでもないらしい。
「これは精神の疲労になるのかな?」
「そうです……精神の中の疲労です」
側にいたチョコボール向井と鈴木も、心配そうな眼差しを若葉に向けていた。
「じゃあ……これは?」
鈴木はそう言って、若葉に栄養ドリンクを手渡した。
大赦の職員であり勇者たちのお目付け役でもある二人だから、疲れ切った様子の若葉が気がかりなのだ。
「結構効きそうですねぇ(素)」
若葉は鈴木から栄養ドリンクを受け取ると、一息で飲み干した。
余程疲れがたまっていたのだろう。気休めかもしれないが、ドリンクを飲み終わった若葉の顔色はずいぶんマシになったように見えた。
「それにしても、どの番組も私たちのことばかりだな」
若葉は、食堂に備えられているテレビのチャンネルを回しながら独りごちた。
彼女の言うように、テレビは全局朝から晩まで勇者のことを取り上げている。
それが四国に住む人々の、一番の関心ごとであるからだ。
「これは印象操作で、向こうに、聴衆扇動があるんだ。後で、それをやろうよ」
鈴木が若葉に言った。
印象操作という聞こえは悪いが、確かに大社がやっていることはある種の洗脳でもあるだろう。
しかし、それは悪魔でも人々の不安を拭い去るために行っていることなので、潔癖な若葉も強く文句を言えないでいた。
不意にテレビから聞き覚えのある少女の声が流れてくると、若葉は画面に目を向ける。
そこには、インタビュアーの質問にたどたどしく答えている千景の姿が映っていた。
現在、千景は実家のある高知県へと一時的に里帰りをしている。
どうやらこれは、凱旋記念の催しでもあるらしかった。
「中々不満気な顔してるねぇ(ねっとり)」
「すぐ理由を聞きますよ」
鈴木と向井の言う通り、テレビを見る若葉の表情は難色を浮かべている。
若葉は言ってもいいのかと迷いを見せるが、やがて二人に対して口を開いた。
「……以前、千景から聞いたんです。彼女の家は過去に、村ぐるみで迫害を受けていたと。それが勇者になってから、このように掌を返されるなんて……あまりにも自分勝手すぎるではありませんか」
若葉は自分のことのように怒りを滲ませながら言う。
「人々に賞賛されている、あの素敵な笑顔を見てお」
向井が、画面の向こうの千景を指さす。
彼の言うように、テレビの中の千景は村の人たちから持てはやされ、恥ずかしそうに、しかし満足気な笑みを浮かべていた。
「……千景の精神は不安定な所がある。それを取り繕うための大社の演出、という訳ですね? だが、それは欺瞞だ」
若葉は、人を騙すような行いをする大社の在り方に異を唱える。
「白鳥さんとも連絡が取れなくなった。おそらく諏訪は、すでに陥落したのでしょう……。だが、貴方たちはそのことも隠し、四国の外に生き残った地域があると報道している」
諏訪の勇者である白鳥歌野と若葉は、定期的に通信でやり取りを行っていたが、それもしばらく前から途絶えてしまった。
諏訪はバーテックスによって滅ぼされたのだろうと、若葉は認めたくない事実を口にする。
「みんなに不安を抱かせたくないというのも分かる。しかし、だからといって騙すような行いをするのは、私は納得できない」
大社を批難するような若葉の物言いを、向井と鈴木は黙って聞いていた。
やがて、向井が静かに口を開く。
「これですよ、嘘って言うんです。でも相手を想ってつく嘘なんかは、その人を幸せにすることもあるんですよ」
「嘘が……人を幸せに……?」
向井の言葉に虚を突かれたような表情を浮かべる若葉。
確かに今の千景は嘘を吐かれているかもしれない。
しかし、本人が幸せを感じているのなら、それでもいいのではないかと向井と鈴木は考えていた。
本当のことだけが常に人を幸福にするとは限らない。時には優しい嘘も必要なのではないか。
若葉は二人の言葉を聞き、しばし思い悩んだ末に口を開いた。
「……じゃあ今、(真実は私の)胸に秘めるから」
結局、若葉は向井と鈴木の想いを尊重することにした。
そしてこれ以上の反論は止め、千景に嘘を吐き続けることを決意する。彼女の幸せを守るためにも。
「効果的な洗脳ですね」
最後に一言、皮肉を口にして。