最近うちの店が賑やかすぎるんだが...まぁいいか   作:名もなき村人C

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初執筆&初投稿です。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

サイモン:近作品の鈍感系料理大好き主人公(独身)。セントシュタイン城下町の婿にしたい人ランキング(非公式)では上位3位だとか。

リッカ:亡き父親の遺志を継ぎ、宿屋王を目指す少女。元気っ娘だけど寂しがりやな一面もある。あと主人公のことが好き。


肉じゃが

 ここはセントシュタイン城下町。毎日、数多くの冒険者や行商人、町人などで賑わう大きな城下町だ。そんな城下町の大通りから脇道に入ったところに、やや小規模だが小洒落た食事処がある。それはオレンジのレンガの屋根の建物で、白い壁は木の柱支えられている。

 場所と外観が相まって、隠れ名店のような雰囲気が出ている。

 

「よし、これで仕込みは大丈夫だな。」

 

 その飲食店の厨房では、20代半ばくらいの男が料理の仕込みをしていた。彼の名前はサイモン、この飲食店の店主である。

 

「……ん? そろそろ開店の時間か。」

 

 サイモンはそう独言すると、店の外に出て「仕込み中」の掛札を「商い中」へと変える。

 そして、

 

「よし、『創作料理店 たいよう』、今日も開店だ!」

 

 今日も、サイモンの料理人としての仕事が始まる。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 店を開けてから数十分、『創作料理店 たいよう』はさっそく少なくない客で賑わっていた。

 

「日替わり定食2つときまぐれ定食、お待ちどう」

「会計か? 全部で1760ゴールドだ」

 

 店員はサイモン以外誰もいないため、調理、配膳、会計などすべてを1人でこなさなければならない。常人なら目が回りそうだが、サイモンは慣れた手つきで、それらを難なくこなす。

 

「お、今日はきまぐれの日か! ツイてるぜ!」

「マジか!? へぇ……今回のヤツも旨そうじゃねぇか」

 

 創作料理店と言うだけあって、サイモンはおよそ数か月に1回ほどのペースで新しい料理を作り、それをきまぐれ定食として客に出す。その中で特に好評だったものは店の定番メニューにしたり、期間限定の特別メニューにしたりして、多くの客を楽しませてきた。

 

 また、この店の特徴はそれだけではない。

 

「はぁぁぁ。やっぱここのライスが一番よ……」

「そうよね。なんかこう、おかずとスープと、全部の調和がとれているのよ」

 

 ベクセリア地方から入荷している米を炊いたライスと、それに合わせた味噌を使ったスープ、そして魅力的なおかずたち。これらがまるで芸術のごとく口の中で一体となり、食べた者たちを幸福にしてくれるのだ。

 

「ベクセリアの焼飯も美味しいけど、私はここのライスの方が好みね」

「僕もそう思うよ。この素朴だけど優しい味わい……。ぜひとも歌にしたいものさ」

 

 ベクセリア地方でしか栽培できない米は、世界に普及していないため、美味しいライスを食べられるのは『創作料理店 たいよう』だけであった。

 

「ごちそうさん、今日も旨かったぜ!」

「あぁ、またいつでも来い」

 

 そんなこんなで町人や旅人、商人たちに料理を振る舞っていると、1人、また1人と食事を終えて、徐々に客足が落ち着き始める。そして、14時近くになってようやく一息つけた。

 

「ふぅ……。今日のきまぐれ定食も、悪くない手ごたえだったな」

 

 今日の新作も、常連客たちの反応から手ごたえを感じていた。

 材料や仕入れ値、料理の手間などを考え、定番メニューにするか期間限定にするかを考えていると、カランと小気味いい音を立てて店の扉が開かれる。そして、明るく元気な声が店内に響いた。

 

「サイモンさん、こんにちは! 今日もサイモンさんのお料理、食べに来たよ!」

「いらっしゃい、リッカ。適当に座ってくれ」

 

 やってきたのは宿屋で働くリッカであった。彼女は客足が落ち着いた時間にやってきて遅めの昼食をとる。リッカがセントシュタイン城下町に引っ越してきてからちょくちょく面倒を見ていたのもあり、それなりに懐かれているらしい。

 今ではすっかり『創作料理店 たいよう』の常連客であり、忙しいだろうに、最近はほぼ毎日店にやってくる。

 

「サイモンさん、聞いて聞いてっ! 実は今日の朝、宿泊していた冒険者さんが――」

 

 リッカは慣れたようにカウンターに腰を掛けると、今朝の出来事を話してくる。コロコロと変わるリッカの表情や声色をバックにサイモンは皿洗いなどを行う。サイモンは妹がいたらこんな感じなのだろうか、と思いながらときおり相槌を打つ。

 

「へぇ、そんなことがあったのか。それは大変だったな」

「ほんとだよぉ……。でも向こうが勘違いしていたことをわかってくれたから、大事にはならなかったんだけどね」

「ははは、それはよかった。さて、リッカ。注文はどうするんだ?」

 

 ある程度話を聞いた後、リッカに注文を尋ねる。

 するとリッカは、顔を輝かせて元気に、

 

「もちろん、いつものアレ! 肉じゃがをお願いします!」

 

 と答えるのであった。

 

「わかったよ。いつもの肉じゃが定食だな。」

 

 ほぼ毎回リッカは肉じゃがを頼む。飽きないのか、とサイモンが尋ねても

 

「え、えぇと// ま、毎日食べたいくらい……お、美味しいから///」

 

 と、なんとも料理人冥利に尽きることを言ってくれる。なぜかリッカの顔が赤かったのだが、料理のことで頭がいっぱいなサイモンは大して気にせず料理に取り掛かる。

 リッカは思わずため息を吐くのだが、それすらサイモンの耳には届かなかった。

 

 膨れっ面なリッカを尻目に、サイモンは床下からニンジン、ジャガイモ、タマネギを取り出す。サッと水で洗うと、慣れた手つきで皮を剥き、タマネギは半分をくし切りして残りをみじん切りにした。一方でニンジンとジャガイモは乱切りにする。そして、切ったジャガイモを水の入ったボールに入れた。

 

「これでジャガイモの煮崩れを防げる。あとは……」

 

 水にジャガイモをつけている間、鍋にガマのあぶらを敷いて火をかける。また、氷室から牛肉を取り出して、野菜と同様に素早く食べやすい大きさに切る。

 

「そろそろ火が回ったか?」

 

 鍋の油が十分温まったら、みじん切りにしたタマネギと牛肉を投下し、炒めていく。牛肉に火が通ったら残りの野菜も加え、さらに炒める。

 

「調味料の黄金比は1:1だが、砂糖は気持ち少なめで、と」

 

 油が全体に回ったら、水と砂糖を加えて煮込み、灰汁をとっていく。十分に灰汁をとったら醤油、みりん、酒、糸コンニャクを追加し、落し蓋をして弱火で煮込んでいく。

 

「タマネギのみじん切りが溶けて、いい甘さを出してくれる」

 

 弱火で煮込むことでジャガイモを煮崩れさせず、みじん切りのタマネギのみを溶かす。そして、味も染み込ませやすい。サイモンは肉じゃがを作り終えると、ライスや味噌スープ、副菜などを盛り付けてリッカの元へ運ぶ。

 

「リッカ、待たせたな。肉じゃが定食できたぞ」

 

 料理すること約40分。出来立てを食べてほしい、とサイモンは少し急ぎ足でリッカの元へ向かうのであった。

 

 

◆◆◆

 

 

「はぁ、全然反応してくれなかった……。ロクサーヌさんの嘘つき。」

 

 リッカは1年ほど前にルイーダに誘われ、セントシュタイン城下町ので宿屋で働くことになった。かつて父が世界の宿王選手権でチャンピオンの座を獲得した宿屋である。父の遺志を継いで、宿屋を営みたいという想いは本物だし、ルイーダをはじめ、従業員のみんなは良くしてくれる。だが、ふとした時に家族やウォルロ村のことを思い出しては、寂しい気持ちになることは少なくなかった。

 

 そんなときリッカに声をかけたのがサイモンだった。元気のないリッカを見て放っておけなかったらしい。美味しいものを食べれば元気になれる、と言うサイモンは、リッカを元気づけようと店に招待した。サイモンに釣られるまま店に入り、料理を振る舞ってもらった。そのとき振る舞ってもらった料理が、肉じゃがであった。

 

「おいひい、おいひいよぉぉぉ……」

「そうか。それはよか……って、な、泣かないでくれ」

 

 生まれて初めて食べる料理だったが、素朴で温かく、優しい味わいで、家族や故郷のことを思い出させる。その時は肉じゃがを食べてながら思わず泣いてしまい、サイモンを驚かせてしまったが、そのあとサイモンに優しく慰められ、励まされた。その後に温かい目で見られて恥ずかしい思いをしたが、サイモンのおかげでリッカはまた前を向いて、宿王を目指すことができた。

 

「何があったか知らないが、無理はするな。オレでよければ力になるよ」

 

 それ以来、時間が空いたらちょくちょくサイモンの店を訪れるようになった。その度に楽しかったことや悲しいことを聞いてもらったり、創作料理をごちそうしてもらったりして、気が付けば数年が経っていた。初めは尊敬の感情が強かったが、今では立派な恋心が芽生えている。

 

「でもサイモンさんはきっと、わたしを妹みたいに思っているんだろうなぁ」

 

 いつも優しい表情で迎え入れてくれるのは嬉しい。だが、その表情のほとんどは異性ではなくまるで妹に向ける表情だった。勇気を振り絞って、料理人ならこの言葉で落とせますよ、と緑のメイド服の従業員に言われた言葉を、自分なりにアレンジして伝えてみたが、効果なし。やはり、大人の魅力を持った女性が好きなのだろうか、とサイモンをじっと見つめる。

 

 そんなリッカの複雑な乙女心を露ほども知らないサイモンは、真剣な表情で肉じゃがを作っていた。サイモンの料理を姿を見るのが、リッカは好きであった。そして、そのままサイモンの異性の好みや私生活について想像していく。

 

 やっぱりルイーダさん? なんか仲が良さそうだし。いやレナさんとも時々食事しているわよね。

 もし、サイモンさんが結婚したら、どんな感じなんだろう。仕事が終わって家に帰るとサイモンさんが料理を作って待っていて。いつもみたいに優しく「おかえり」って言ってくれて、その日の出来事を楽しく話しながら一緒に夕食を食べて。食器を洗って、身体も清めて、そしてその後は――

 

「……リッカ?」

「っ!? な、なんでもないよ!?」

 

 危なかった。乙女として、大切な何かを失うところであった。一人百面相をしていたリッカの前には、いつの間にかサイモンがお盆を持っていた。

 

「大丈夫か、リッカ。顔が赤いぞ?」

「ええええッ!? えぅ、だ、大丈夫だよ!?」

 

 なんとか誤魔化さないといけない。目をぐるぐるにしながらも、必死で否定する。サイモンは少し驚いた様子だったが、

 

「そ、そうか……。まぁ、無理はするな。オレでよければ力になるよ」

「あっ……」

 

 奇しくも、それはあの日に言われた言葉で、

 

 

 ――ほんと、ズルいなぁ

 

 

「うん? 何か言ったか?」

「ううん。肉じゃが、美味しそうだなー、って!!」

 

 ――今はまだ、この気持ちはあなたに届かないかもしれないけど、いつかきっと届かせて見せます。だから、覚悟していてくださいね?

 

「ん~! おいしい~~~!!」

「ははは。それはよかった。おかわりもあるからな」

 

 でも今は、出来立ての肉じゃがを胃袋に届けることから始めよう。

 フォークとスプーンを装備したリッカは、今日も果敢に肉じゃがと戦うのであった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。

ドラクエは全部好きですが、なんとなくドラクエ9でこんな感じの小説を書きたくなりました。

ベクセリア地方の説明が「紅葉に染まった木々と黄金色のススキが美しい丘陵地帯」と攻略本に書かれていたので、ススキ=イネ科から、米の産地をベクセリア地方と捏造しました。

では、またいつかお会いしましょう。
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