フィニアスとファーブ イン アビス   作:クロブネペリー

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ハローアビス1:「異世界に行くよ!」

 傍らに置いているラジオから、ご機嫌なナンバーが流れ続けている。

 燦々と降り注ぐ夏の陽光を木陰で凌ぎながら、二人の少年がぼんやりと芝生の上で寛いでいた。

 

 

 青空を見上げながら自身の膝の上にいる、ペットのカモノハシを撫でる少年。

 赤い髪が特徴的な、こじんまりとした身長の少年だ。

 

 

「ハァ〜……参ったな」

 

 

 少年は困ったように、カモノハシを撫でていた両手を頭の後ろに持って来る。

 そのまま隣にいたもう一人に話しかけた。

 

 

「『ファーブ』、どうしよう。今日何をしようか、ちっとも思い浮かばないや」

 

 

 ファーブと呼ばれた彼は背が高くヒョロッとした、緑色の髪の少年だ。

 彼は何を考えているのか分からない表情を常に見せ付けつつ、虚空を眺め続けていた。

 

 

「ジェットコースター作る? いや、だいぶ最初の方に作ったなぁ……」

 

「…………」

 

「それかテレビゲームでも作ってみる? ソフトからストーリー、ドット絵まで全部!……いやいや。外で身体を動かしたい気分なんだよな」

 

「…………」

 

「潜水艦を作って、新種の深海ザメを探しに行こう! マリアナ海溝でメガロドンを捕獲して…………駄目だ。これじゃ身体を動かしている事にならない」

 

「…………」

 

「陸上選手型アンドロイドを作って競走す──いや。勝ち目ないか」

 

「…………」

 

「太陽に火を点けるとか!」

 

「…………」

 

「……あぁ、分かってるよファーブ。意味ないよね。言ってみただけ」

 

 

 提案をしては却下を繰り返しながら、あれこれ思案する少年。

 

 

 暫くすると、二人の母親らしき女性が現れた。

 

 

「あら、『フィニアス』にファーブ。今日は珍しくつまらなそうね」

 

「あぁ、ママ……そうなんだ。なーんにも思い付かないや」

 

 

 赤い髪の少年ことフィニアスは、肩を竦めて溜め息を吐く。

 

 

「まぁまぁ。ここのところずっと遊びにお出かけに大忙しだったし、こんな日もたまには良いじゃないかしら?」

 

「うーん……それじゃ困るんだ。折角の夏休み、1日たりとも無駄にはしたくない。何とか思い付かないと……」

 

 

 あれこれ思案を繰り返す息子を微笑ましく思いながら、母親はホホホと笑った。

 

 

「何か楽しい事でも見つけられたら良いわね。それじゃ、ママはパパと映画を観に行って来るから────」

 

 

 横目でチラリと、いつの間にか立っていた少女を見やる。

 彼女はムッとしながら、二人を睨み付けていた。

 

 

「何かあったらお姉ちゃんに頼るのよ」

 

「えぇ、ママ。あたしがしぃ〜〜〜〜ッッかり、監視しとくから」

 

 

 一歩前に踏み出し、フィニアスとファーブの前で腕を組む。

 何か因縁でもあるのか、異様に二人に対し警戒心が強い。

 

 

「やぁ、『キャンディス』。キャンディスも暇なの?」

 

 

 二人の姉でもある少女、キャンディスは大きく首を振る。

 

 

「言っとくけどねぇ、あたしは二人ほど暇じゃないの! オシャレに演劇練習にお勉強と自分磨きに大忙しなんだから!…………今日は星占いでワーストだったから控えてるけど……とにかくッ!! あたしの前で、いつもみたいに変な事企んだりしたら承知しないわよッ!! 速攻でママに言うからねッ!!」

 

 

 人差し指をググッとフィニアスに押し付け、厳しい表情で忠告する。

 その間、母親は手を振ってその場を後にしようとしていた。

 

 

「それじゃあ行って来るわね、三人とも。キャンディス、何かあったら連絡するのよ?」

 

「行ってらっしゃい、ママ」

 

「えぇ、ママ! 行ってらっしゃい!……分かったわねッ!?」

 

 

 最後にもう一度強く言い付けてから、キャンディスもまた家の中に戻る。

 二人を見送ってからまたフィニアスは、溜め息を吐く。

 

 

「これで予定がないのは僕らだけになっちゃったぞ。イザベラとファイアーサイドガールズたちも合宿に行っちゃったし……」

 

「…………」

 

「うーん……何か、面白い事でも降ってこないかなぁ……ん?」

 

 

 そこでやっとフィニアスは、自身の膝の上にいたハズのペットが消えている事に気がついた。

 

 

 

 

「あれ?『ペリー』どこだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人から離れたカモノハシのペリーは、四足歩行のままテチテチとリビングのテレビの前まで来る。

 何も考えていないような間抜け面で、まずは辺りを見渡した。

 

 

 

 誰もいない事を確認したペリーは、何と立ち上がって二足歩行となる。

 

 どこからか取り出した中折れ帽を被る頃には、さっきまでの間抜け面が凛々しい表情に変わっていた。

 

 そして、これまたどこからか取り出したスイッチを、テレビに向けて押す。

 

 

『ミスター・クックの、三分クッキング〜〜!』

 

「………………」

 

『…………嘘。実は、三十分クッキング〜〜!』

 

 

 普通にテレビの電源が入った。

 ペリーは呆れた表情でスイッチを投げ捨て、また別のスイッチを取り出して押す。

 

 

 

 

 すると、液晶が下にスライドし、テレビの中身が露出。

 ペリーは何の躊躇もなく、その中へ飛び込んだ。

 

 飛び込んだと同時に、液晶はすぐ元に戻る。

 

 

 

 

『あー……やっぱ、六十分クッキング〜〜!』

 

 

 

 

 

 

 テレビの中はテレビ台を経由し、地下へ続く長いスライダーが設置されていた。

 ペリーはスライダーでどんどんと滑り降りて行く。

 

 

 辿り着いた場所は、大型のビジョンやマシンが揃えられた秘密基地。

 スライダーから降りたと同時に、ペリーはビジョンの前の椅子に座る。

 

 

 

 同時に、画面に初老の男の姿が映し出された。

 

 

『ごくろう、エージェン──うぉおおーーッ!?』

 

「!?」

 

 

 だが男は、左からやって来たカバのような生物に踏みつけられ、一度画面から姿を消した。

 

 ペリーは何度も目を疑う。

 動物のような、虫のような。およそ見た事のない生物が、画面の向こうの基地に闊歩していたからだ。

 

 

 

 一度、姿を消した男が、またヒョッコリと顔を出す。

 頭の上に、平べったいイタチのような生物を乗せていた。

 

 

「………………」

 

『……ゴホンッ……ごくろう、エージェントP。少し、美味いスクランブルエッグの焼き方について語りたいと思っていたが、事態は急を要するようだ。手短に済ませるぞ』

 

 

 何事も無かったかのように話し出す男に困惑しながらも、ペリーは彼の指令を静聴する。

 

 

『事の発端は三日前の夜、我々のサイバー部隊が「ドゥーフェンシュマーツ博士」の研究所より、とある装置の設計図を吸い出したところから始まる。何でもその装置とは、「異世界とこの世界を繋げる装置」との事だ!』

 

「………………」

 

『我々は即座に……いや。実は、それから土曜日曜と休日に入ってな。休日明け、即座に特殊部隊を送り込もうと計画していた訳だが』

 

「………………」

 

『あー……ほら。最近、働き方について色々と言われておるだろ。近頃は、ハンバーガーを買いに行く感覚でストとかみんなやっちゃうし……』

 

「………………」

 

『……ゴホンッ。それで、我々は即座に、特殊部隊を奴の研究所に送り込んだ……だが、一足遅かった! 装置は完成していたのだ!』

 

「………………」

 

 

 言いたい事はかなりあったが、ペリーは抗議する気にもなれなかった。

 

 

『ドゥーフェンシュマーツ博士は異世界へと逃れ、そして奴は嫌がらせのように、異世界の生物をこの基地に送り込んで来ている訳だ────あー、もうっ! あっち行けッ!!』

 

 

 ブーンと飛んで来た、葉っぱの擬態が出来そうな大きな羽虫を追っ払う。

 

 

『……それで、君への任務だが────』

 

『少佐〜〜』

 

『なんだね、カール?』

 

 

 奥から、鉄製の鎧に身を包んだ、カールと呼ばれた青年が姿を現す。

 鎧はベコベコにへこみ、鋭い棘が突き刺さっていた。

 

 

『あのトゲトゲした生物、何とか意思の疎通が出来そうです〜〜』

 

『それは良かった。あわよくばエージェントに勧誘したまえ』

 

「………………」

 

『……おっと、君への任務だったな』

 

 

 飛んで来る虫を殺虫剤で撃退しながら、司令官の男は命令をペリーへ下した。

 

 

 

 

『君は、異世界へと逃れたドゥーフェンシュマーツ博士を追い、奴の野望を打ち砕いてくれたまえ!!』

 

「………………」

 

 

 

 

 司令官のその命令に対し、ペリーは顰めっ面で静かに抗議する。

 

 

『……あー。君の言いたい事は分かるぞ、エージェントP。どうやって異世界に行くんだって話だよな?』

 

 

 ゆっくりとペリーは首肯した。

 司令官は若干得意げそうに、鼻を鳴らす。

 

 

『心配には及ぶまい。奴の作ったこの……あー……「ゼロから始まる異世界生活ネーター」? の、設計図は我々の手にあるッ!! この装置を我々が活用し、ドゥーフェンシュマーツ博士を追うのだッ!!』

 

「!」

 

 

 ペリーは驚いたように目を見開きながらも、何とか了解の意を込めて敬礼をする。

 

 

『……しかし、一つ問題が発生してな』

 

「?」

 

 

 司令官は一転して、やや自信を落としたかのような表情となる。

 頭の上にいたイタチのような生物が、慰めるように尻尾で彼の肩を叩く。

 

 

 

 

『…………技術班がストライキを起こしていてな。全くと言って良いほど、開発が進んでおらんのだ』

 

「………………」

 

『…………えーと、だな……そこでエージェントP! 君の任務は、この装置を作れそうな技術者を見つけ出し、装置を完成させ、異世界に飛んでくれッ!! この悪夢を終わらせられるなら、最悪、他の悪の天才科学者でも構わんッ!!』

 

「………………」

 

『という訳だエージェントPッ!! 幸運を祈る……うぉっ!? 何か降って来た!?……なんだこの魚は!? 気持ちわるッ! 生理的に無理ッ!! どう言う進化をしたらこうなるんだッ!?』

 

 

 ビチビチビチと不快な音を最後に通信が終了した。

 同時に、ペリーの前にある印刷機から、例の装置の設計図が吐き出される。

 

 ペリーはほとほと呆れ果てながらも、その設計図を手に取った。

 

 

 

 ほぼ無茶振りに近い、司令官の命令。

 誰か当てがいないかと思案している内に、心当たりを見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、フィニアスとファーブはと言えば、相変わらず木の下でぼんやりとしていた。

 

 

「高粒子レーザーカッターを作って、月に僕らの名前を彫るとかは?」

 

「………………」

 

「あー……夜まで待たなくちゃ駄目だね。じゃあ、ボイジャー1号を回収して、『地球の音』に僕らの家の住所を彫るとか!」

 

「………………」

 

「プライバシーに関わるか……じゃあ、高振動波発生装置を作って、庭の土をサラ砂にして巨大な砂の城を────」

 

 

 その時、フィニアスの頭の上にひらりひらりと、何かの紙が落ちて来た。

 紙に気が付くと、フィニアスはすぐにそれを流し見する。

 

 

 

「うん? なんだコレ?……ゼロから始める異世界生活ネーター……?」

 

 

 紙に書かれていたのは、複雑な機構と専門用語だらけの、何かの機械の設計図だった。

 その機械の概説や名前を読み、気怠げだったフィニアスの目は途端にキラキラと輝き出す。

 

 

「…………! ファーブッ!! 今日やる事決まりだッ!!」

 

「……?」

 

 

 

 ファーブの眼前に突き付けるように設計図を見せ、フィニアスは断言した。

 

 

 

 

 

「異世界に行こうッ!! この装置を作ってッ!!」

 

 

 その時、頭上を大きな鳥が飛んで行く。

 およそ人間よりも巨大な、白と薄紅色の羽毛を持った鳥だ。

 

 

「……見た事ない鳥だね。まぁ良い。早速取り掛かろう!!」

 

 

 テチテチと、フィニアスの足元にカモノハシのペリーが四足歩行で現れた。

 

 

「あぁ。いたのかペリー」

 

 

 ペリーはいつも通りの間抜け面のまま、奇妙な鳴き声を発する。




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