フィニアスとファーブ イン アビス   作:クロブネペリー

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ハローアビス2:「メカでアビス!」

 二人が今日やる事を見つけられた頃、キャンディスはガレージにて、車に乗る両親を見送っていた。

 

 

「あとはよろしくね」

 

「そりゃもう、任して! 絶対にあの二人に変な事はさせないから!」

 

「奇行で言ったらあなたの方が心配な気がするけど。任せるわ、キャンディス」

 

 

 助手席に乗り込み、運転を担当する夫へ尋ねる。

 

 

「ところでパパ、何の映画を観に行くの?」

 

 

 すると彼は嬉々として話し出した。

 

 

「昔、何度も観て好きだったアクション映画でね。リバイバル上映されるからと聞いて是非、君と映画館で観たいと思っていたんだ!」

 

「まぁ、嬉しいわ! でも何度も観たのなら、内容とか全部覚えているでしょ? あたしはともかく、パパは楽しくないんじゃないかしら?」

 

「ハッハッハッ! そんな事はないよ! いっつも途中で寝ちゃって最後まで観た事ないからね!」

 

 

 アクセルを踏み、車を発進させる。

 車はガレージを出て行き、車道に乗る。

 そのまま進行方向に流れて行く二人の車を程々まで見送り、キャンディスはまた家内に戻った。

 

 

「さぁーて、あの二人をキッチリしっかり見張るわよ! ちょっとでも怪しい動きを見せたら電話してやる!」

 

 

 とは言いつつ、さっきまでのダラけた二人の姿を思い出す。

 やる事が見つからず、若干定年過ぎの老人のような哀愁さえあった。

 

 

「……まぁ、あの調子だったら今日は大人しいかしら? たまにはお姉ちゃんらしく、どこか連れて行ってあげるのもアリね」

 

 

 そう思いながら、少しだけ優しい気持ちで庭に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 庭の中心に、巨大なまん丸いメカを見て、その優しい気持ちは吹き飛んだ。

 

 

 メカと繋がった妙なヘルメットを被り、瞑想しているかのように鎮座するファーブ。その前でフィニアスは機材を配送した業者からサインを頼まれていた。

 因みにペリーは、メカの中から窓を通してこっちを見つめていた。

 

 

「それじゃ、ここにサインを……しかしコレ、エリア51に運び込まれるような代物だよ? 君たちが取り扱うにしては若過ぎないか?」

 

「えぇ、そうですね。良く言われます」

 

 

 サインを済まし、業者は退散する。

 入れ替わるように現れたのは、怒りの形相のキャンディスだった。

 

 

「フィニアーースッ!!!!」

 

「やぁ、キャンディス。僕たちも予定が出来たんだ」

 

「予定が出来たんだ〜じゃないわよッ!! 何を企んでいるのッ!? この妙な機械と………………」

 

 

 妙なヘルメットを被り、メカと繋がれたファーブをチラリと見る。

 

 

「…………ファーブは何やってるの?」

 

「意識を装置内の電脳空間に送って、バグを探しているんだ。ファーブ、順調かい?」

 

「………………」

 

「順調みたいだね」

 

「ふーん……そうなの……………………」

 

 

 やや空気に飲まれかけてしまったが、気を取り直してキャンディスは怒鳴りつける。

 

 

「あんたたち、あたしが言った事覚えているわよねッ!? ママに言いつけてやるわッ!! これであんたたちは終わりよッ!! お・わ・りッ!!」

 

「物語的にはプロローグも良いところだけどね」

 

「うるさい、終わりなのよッ!! 電話してやるわッ!! ママが見たら何て言うでしょうねぇッ!? 今に見てなさい、おーーっほっほっほっほッ!!」

 

 

 キャンディスは颯爽と、家の中へ戻って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりよッ!!!!」

 

 

 ダメ押しにもう一回現れ、また家の中へ戻って行く。

 

 キャンディスを見送った後、フィニアスはファーブの様子を見た。

 気が付けばファーブの目には、「読み込み中」のアイコンが表示されている。

 

 

「ファーブ? ファ〜〜ブ? あぁ……人間を辞める一歩手前まで来ちゃった。効率的だけど、意識だけ異空間に行っちゃうのが難点だなぁ……」

 

「ヴエ……コ……ヴエコ……」

 

「変な電波でも拾っちゃったかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大急ぎで家に戻ったキャンディス。

 宅内電話を目指し、急いで走る。

 

 

「今ならまだ間に合うわ! 見てなさいフィニアス、今日こそは決定的瞬間をママに────」

 

 

 番号を押して、コールが鳴る。

 母親の携帯電話に繋がるまで、勝利を確信した表情で待つキャンディス。

 

 

 しかし次には、パッと驚き顔に変わった。

 

 

 

 

「キャンディス? キャンディース?」

 

 

 

 母親の声が電話口からではなく、ガレージの方から聞こえたからだ。

 

 

「え? ママ? もう帰って来たの? 昔の映画って早いのね……ナイスタイミングッ!! ママーーーーッ!!」

 

 

 受話器を置き、即座にキャンディスは声のする方へ駆け出した。

 

 

 

 

『もしもし? キャンディス? 今日は電話するまで早かったわね』

 

 

 放置された受話器から、母親の声が鳴る。

 

 

 

 

 

 何振り構わず大急ぎでガレージに到着したキャンディス。

 すぐに大声で母親を呼んだ。

 

 

「ママーーーーッ!! フィニアスとファーブが……原理は分からないけど、絶対普通じゃない装置を────!」

 

 

 しかしガレージ内に、車は停められていなかった。

 二人が出て行った後の光景がそのまま、残っている。

 

 キャンディスは釈然としない様子で、中へ踏み入った。

 

 

「あ、あれ? 確かにママの声が聞こえたんだけど……」

 

「キャンディース?」

 

「あ! やっぱり聞こえた! なんだぁ、ガレージの外なのねん!」

 

「キャンディス、キャンディス? キャンディス? キャンディス?」

 

「なんか、凄い呼んで来るわね。あたし、何かやっちゃったな……」

 

 

 ガレージの外に出て、軒先まで歩く。

 だが、車も人影も一切無かった。

 

 

「…………ん? ママー? どこにいるのー?」

 

 

 一応、呼びかけてみる。

 するとまた、呼び声が聞こえた。今度は近い。

 

 

「キャンディス、キャンディス、キャンディス」

 

「あぁ、なによママ、屋根の上にいたの。屋根の上にいるなら屋根の上にいるって………………」

 

 

 パッとバリバリの違和感に襲われ、声の聞こえた車庫の上を見上げた。

 

 

 

 そこにいたのは、白く、若干の紅色を帯びた羽毛を持つ巨大な鳥……らしき生物がいた。

 

 屋根の上からギョロリと、二つの目がキャンディスを捉える。

 その二つの目の内、右目の方がやけに大きく、顔の中央まで寄っており、サイクロプスの目のようにも思えた。

 

 

 閉じた花弁のような口の隙間から、ウネウネと数本の舌を出している。

 

 

「……………………」

 

「キャンディス……キャンディ〜〜〜〜ス」

 

 

 その口の奥からハッキリと、母親の声が。

 どうやらオウムのような声真似が得意のようだ。

 

 

「…………あー。良く聞いたら、ママにしてはちょっと声が低いわね」

 

「キャンディス?」

 

「あっ、今のは似てた! あははは! ははは……はは…………はぁ〜……あー……」

 

 

 

 鳥が大きく、翼を広げた。

 たまらずキャンディスはとうとう、悲鳴をあげる。

 

 

 

 

「アァーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

「アァーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

「アァーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

「アァーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

「アァーーーーーーーーッ!?!?!?…………悲鳴の真似だけやけに上手いわね…………アァーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

「アァーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

「アァーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

 

 飛びかかる鳥らしき生物。

 キャンディスはすっかり驚愕で身体が膠着し、あっさり二本の脚で鷲掴まれてしまった。

 

 

「アァーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

 

 恐らく鳥と思われる生物に掴まれ、取水塔より高い位置まで飛ぶ。

 

 

 叫びながらふと、自分のいた場所を見下ろした。

 

 

 

 

 

 さっきまで自分が立っていた場所の、アスファルトを突き破って巨大なサソリらしき生物が出現。

 

 

「うぇえ!? 何あれ!? も、もしかして、あたしを助けてくれた……?」

 

 

 見た目ほど凶悪な奴じゃないんだなと、ホッとキャンディスは胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

 

 視線の先にある木の上の、この生物の巣にいる雛たちを見るまでは。

 自分はエサなのだと気付く。

 

 

「アァーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

「アァーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

「せめてあたしの声で叫ばないでッ!!」

 

 

 巣の位置まで、あと六メートルほど。

 エサになるまで、あと六メートル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くから、聞き覚えのある悲鳴が響いた気がした。

 

 

「うん? おかしいな……キャンディスの声が聞こえた気がしたんだけど……」

 

 

 やっと意識を戻し、クラクラしているファーブへ心配の声をかけるフィニアス。

 

 

「ファーブ、大丈夫かい?」

 

「ここは暖かく優しい闇の中。故に耐え難いのだ」

 

「大丈夫みたいだね。それより……!」

 

 

 フィニアスは設計図と相違ない事を確認すると、目をキラキラさせた。

 

 

 

 

 

「完成だーーーーッ!!!!」

 

「祈り、捧げ続けよう。魂が還る、その刻まで」

 

 

 完成したメカは、人が三人ほど乗れる大きさの、球体型の装置だ。

 天面にあるアンテナのような射出装置で異世界へのホールを開き、反重力発生機を備え付けたこの球体で飛び上が、その中へ入る訳だ。

 

 

「さぁ! ファーブ! 早くこれで異世界に行こう!」

 

「常闇の中、確かにある光を見つけるのだ」

 

「ファーブ、本当に大丈夫?」

 

 

 早速、フィニアスとファーブとペリーは、メカに乗り込んだ。

 内部は様々な操作パネルやキーボード、液晶やメーターやフラミンゴで満ちていた。

 

 

「おい、誰だ。フラミンゴを備え付けたの!」

 

「永劫と憧れを抱き、そして手放すべからず」

 

「え? 設計図にあるって?…………あ、ホントだ。じゃあ、これで良いのか」

 

 

 気を取り直し、フィニアスとファーブはスイッチを押したりデータの入力を開始したりと、装置の起動を開始。

 メーターや観測機が強く動き出し、呼応するようにメカ全体が震え出した。

 

 

「いざ、ご近所さんの異世界へ! 目的地────」

 

 

 内部にある全てのモニターが、一つの観測点を表示した。

 

 

 

 

 

「────オブザーベーションポイント・『アビス』!!」

 

 

 

 

 

 メカのアンテナから、緑色の光線が真上に向けて放たれる。

 それは少し上空に光球となって留まったかと思えば、空間を割るように穴を作り出す。

 

 

 反重力発生機が、メカを浮かせる。

 少々の土を巻き込みながら、メカは瞬時に穴の中へ飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 二人と一匹を乗せたメカが消えた頃、穴は勝手に閉まる。

 

 何事も無かったかのように、後には何も残らなかった。

 

 

 さっきまでメカがあった場所を、ヤドカリのように大きな貝殻を背負ったリスっぽい生物が走り行く。

 

 

 

 

 

 

 巣の上で、キャンディスは上から押さえつける鳥っぽい生物と、食べようと口を伸ばす雛たちに対抗しまくっていた。

 

 

「アァーーーーーーーーッ!!?? 待って!? 免許取るまで死ねないんだってばッ!!」

 

「免許、取る、まで……」

 

「声真似するなっつのッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大穴には、魔力があった。

 その魔力が、人々を捕らえて離さないのである。

 

 大穴の底を見た者は、まだ誰もいない。

 

 

 貴重かつ危険な原生生物たち。

 

 

 理を越えた不可思議な異物。

 

 

 奈落の果てに眠るという黄金郷……

 

 

 

 それら全てが、1900年もの昔から今に至るまで、人々を誘い駆り立ててきた

 

 

 

 

 

 未知へのロマンと、

 

 

 

 数多の伝説を餌に、

 

 

 

 その名にふさわしい数の人々を呑み込んできた大穴……

 

 

 

 

 

 

 大穴の名は『アビス』という。

 

 

 

 

 

 

 全て踏み明かされたこの世界の、

 

 

 

 

 

 

 

 

 唯一最後の深淵である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異世界を繋ぐ穴が、岸壁近くに現れる。

 空はまだ暗く、薄霧がガス灯の光に照らされていた。

 

 

 穴が開き、中からフィニアスらを乗せたメカが出現する。

 

 メカは下部にある緩衝用の脚部が地面を踏み、優しく着地。

 

 すると穴は行きの時と同じように、瞬時に閉じた。

 

 

 

 

 そこは強く冷たい風が吹き荒ぶ、暗がりの街角。

 着地し、機械が安定したところで入口が開く。

 

 

 フィニアスとファーブ、そしてペリーが、異世界の地に降り立った。

 

 

「やったぁ! 時間移動に続いて、異世界まで移動しちゃったぞ! やっぱり僕ら、最高のコンビだ!!」

 

「………………」

 

「……まぁ、もっと凄いのは設計図書いた人だけどね。でも僕らは確かに、異世界に来たんだ!」

 

 

 辺りを見回し、ややフィニアスは拍子抜けしたかのような声を漏らした。

 

 

「……なんか、汚い所だね。もっとこう、ダンジョンズ&ドラゴンズみたいな世界を想像していたんだけど」

 

「………………」

 

「……まぁ、贅沢はこの際無しだ。早速探検しよう! 一緒に作った探検キット、どこ置いてたっけ?」

 

 

 一旦、荷物を取りにメカの中へ戻ろうとするフィニアス。

 しかしファーブは彼の襟元を掴み、引き止めた。

 

 

「おとと……どうしたんだい、ファーブ?」

 

「………………」

 

「え? なに? 見ろって?」

 

 

 ピッとどこかを指差すファーブ。

 その先をずーっと目で追ってみた。

 

 

 

 暗がりに沈み、良く見えない。

 だが段々と、不明瞭だった輪郭が、はっきりくっきりと線を描いた。

 

 

 なぜ見えるようになったかと言えば、空が明るくなって来ていたからだ。

 

 この世界ではもう夜明け。

 遥か遠くに見える地平線から、太陽が昇り始めた。

 

 

 

 

 

「……うわぁ! なにこれ!? 凄いっ!!」

 

 

 感嘆の声をあげるフィニアス。

 

 

 

 

 

 

 二人の眼前には、あまりにも大きな大穴が広がっていたからだ。

 

 

 大穴はずっと底まで続いており、とうとう薄霧と土煙によって見えなくなるほどまで、どこまでも深かった。

 

 

 まるで巨大な怪物が、口を開けたまま眠っているかのようだ。

 

 二人がいるのはその、縁の部分。

 大穴の縁をなぞるようにして、また大穴を囲む崖に吸い付くようにして、綺麗な街が成り立っている。

 

 

 

 

 穴の底から吹き上がる風が、大きく髪を揺らす。

 

 

 不気味ながら、なぜか惹きつけられる。

 この不思議な大穴は、二人を歓迎するかのように風の唸り声をあげていた。

 

 

 

 

 大穴の街、「オース」。

 

 メカは大穴の、本当に際どいラインの所に止まっていた。

 

 二人の足元から、穴の下が良く見える位置だった。

 

 

「ファーブ見ろよ! あそこにゴンドラがあるぞ! この街の人は穴の中に入って行くみたいだね! 下に何かあるんだ!」

 

「………………」

 

「しかし、凄い大きくて、深そうな穴だなぁ……ソンドン洞窟かブルーホール、それかマリアナ海溝よりも深いのかな!」

 

「………………」

 

「あぁ言う所に潜る人の気が知れないって言いたげな顔だね。まぁ、そう言うなよファーブ。なら、この大穴の探検はまた今度にして、今日は街の探検を────」

 

 

 

 

 どこからともなく、強風で飛んで来た木の板がガツンと、メカに当たった。

 

 

 元々、際どいラインに着地していたメカは、その木の板による些細な衝撃で一気に傾く。

 

 

 

 気が付けば、あれよあれよで奈落の底へと落っこちて行ってしまった。

 

 

 

 

 

「……大変だファーブ。どうやら、僕らはどうしても大穴に潜らなきゃいけなくなったみたいだ」

 

「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」

 

「とりあえず、まずは情報収集だ! さぁ行こう!」

 

 

 かなりの大事態なハズだが、割とポジティブなフィニアス。

 寧ろイキイキとしながら、ファーブを引き連れて街の中へ入って行く。

 

 

 

 

 

 ペリーはこっそりと、穴の中を眺める。

 

 

 異世界に逃れたドゥーフェンシュマーツは、果たしてここにいるのだろうか。

 

 いるとすれば、鈍臭いあの男の事だから、多分穴の中だろうか。

 

 

「ペリー来い!」

 

 

 自分を呼ぶ飼い主の声に呼応し、ペリーは一度大穴から背を向ける。

 

 

 

 

 

 どこからか、白い花びらが舞い上がった。

 

 

 やって来た異邦人を祝福するかのように。

 

 

 訪れた黎明を大衆へと伝えるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは大穴の、かなりの深部にある建物。

 

 円形の古代遺跡と、最新の建築技術が融合したかのような、神秘と新鋭が混ざり合ったような、そんな場所だ。

 

 

 その建物の壁でもある、緩やかに回る外周部に、大きな塔が建築中だった。

 塔に括り付けられた看板には、英語で文字が書かれている。

 

 

 

 

『悪の、ドゥーフェンシュマーツ・ボンドルド社〜〜♪』

 

 

 

「あぁーん……なんか、いつものリズムに当て嵌めるとテンポが悪いなぁ……表層の街で良い音楽家を雇うんだった」

 

 

 その塔を眺めながら一人、顎を触りながら考え込む人影。

 ヒョロリとした体躯と、不健康そうな顔つきをした、如何にも「悪」な感じの人相の、白衣を着た男。

 

 

 この男がペリーが追跡している、今回の騒動の元凶たる「ドゥーフェンシュマーツ博士」だ。

 

 

「まぁ、この際贅沢は抜きだ。今日もこの『イチから始める元世界転送ネーター』で、アビスの生物を三つの州に送り付け、人々を恐怖のどん底に落としてやるーーッ!!」

 

 

 ドゥーフェンシュマーツは懐から出した、奇妙な銃を見せつけて高らかに笑う。

 

 

「…………あー。しかし、追手の来ない場所で好き放題やると言うのはさすがに、邪魔してくる奴らに申し訳ないな……それに良く良く考えてみれば、人々が恐怖のどん底に落ちているところを私が見れないではないか」

 

 

 なぜかガックシと、肩を落としているドゥーフェンシュマーツ。

 そんな彼の元へ近付く、小さな人影があった。

 

 

 その人影は彼の膝の下まで来ると、ゲシッと膝裏を蹴飛ばした。

 

 

「痛いッ!! 何をする!? 膝の皿の部分が最近マズい事になって来ているんだぞ!」

 

「うるさい! ドゥードゥー!」

 

「ドゥーフェンシュマーツだッ! 私の名前は、ハインツ・ドゥーフェンシュマーツ博士ッ!!」

 

「なんだって良いわ! それより独り言が激し過ぎるのよドゥードゥー!! 聞いているこっちが恥ずかしいんだから!」

 

「ドゥーフェンシュマーツ博士だッ!! 他人の膝裏を見たら蹴飛ばせってパパに教わっているのか!?」

 

 

 彼の膝裏を蹴飛ばした人物は、まだあどけない少女だった。

 唸った白い髪を帽子で押さえつけるようにした、赤い瞳の可愛らしい少女だ。

 

 

「ねえ、ドゥードゥー。この大きな塔は、何する場所なのさ?」

 

「んん〜? 聞きたいかぁ?」

 

「勿体ぶらないで教えてよ」

 

 

 待っていましたと言わんばかりに、ドゥーフェンシュマーツはしたり顔で答えた。

 

 

「ハッハッハッハッ!! このタワーは私と、そしてお前の『父上』である卿と共同で作った、恐るべき悪の会社のビルなのだーーッ!!…………まぁ、定款とか諸々何も登録しとらんから、勝手にやってるだけだがな」

 

「うーーん……まず、ドゥードゥー。カ・イ・シャって、なんなの?」

 

「あー……いざ説明するとなると難しいな……まぁ、何か売ったりとか、仕入れたりする集団とか組合の事だな」

 

 

 またまたドゥーフェンシュマーツは、高らかに悪い笑い声をあげた。

 

 

「そしてこのタワーが出来た暁にはッ!! アビス中の生物を一気に三つの州に送り込み、ついでにアビス共々根こそぎ支配してやるのだーーーーッ!!」

 

「それって、何か売ったりしているのか? カイシャなんでしょ?」

 

「…………言われてみれば、会社らしい事は何一つしとらんな。別に会社を名乗る必要はないか?」

 

 

 着々と出来上がって行く、共同会社の本社ビルを見上げながら、少女は好奇心を含ませた息を吐く。

 

 

「でもドゥードゥーって、パパよりは凄くないけど凄い科学者なんでしょ?」

 

「なんか妙にカチンとする言い方だな……まぁ良い。その通りッ!! 私は悪の天才科学者として、元の世界では恐れられていたのだーーッ!!」

 

「モトの世界ってのが良く分からないけど……ねぇ、さっきパパから聞いたけど、『アビスの呪い』を無効化する物とか作ったり出来るのか?」

 

 

 そう聞かれたドゥーフェンシュマーツは、胸を大きく張った。

 

 

「その通りッ!! 目下、卿と制作を急いでいる、『アビスの呪い無効化ネーター』が実現出来ればッ!! 私はこのアビスの支配者となれるッ!!…………二層から上に限った話でな?」

 

「それが出来たら、上の層にも行き放題?」

 

「勿論だとも! その為にこの、タワーが必要なのだ!!」

 

 

 再びビルを見上げる少女。

 少しだけ、恐怖を交えた表情をしていた。

 

 

「……確かこの塔って、上に行けるんだよな?『上昇負荷』とか、大丈夫なの?」

 

「あーー……いや、設計段階ではイケるなと思ったが、いざ作ってみると私もマズいと思ったよ……それは、アビスの呪い無効化ネーターが完成したら問題はないな。それにッ!! 『アンブラハンズ』の勇姿たちなら、上昇負荷なんぞ物ともせず建ててくれると信じているッ!!」

 

 

 上から誰かが降ってきて、下の方へ落ちて行った。

 

 

「…………あー、今のは見なかった事にしようか」

 

「え? なになに? 何か落ちて来た?」

 

「まぁまぁ。それより、卿の所に案内してくれ。今後についてとか、如何に薄口のコーンポタージュが愚かな食べ物であるかとか、話し合っておきたいからなぁ」

 

 

 そう言ってドゥーフェンシュマーツは、少女に「パパ」の元へと案内を頼んだ。

 

 

 少女は「こっちこっち」と手招きしながら、彼を建物の内部へと連れて行く。

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