フィニアスとファーブ イン アビス 作:クロブネペリー
『ドゥーフェンシュマーツ・ボンドルドの基地〜♪』
「駄目だぁ、一気にリズムが崩れてしまった! やっぱ、一回地上に戻って音楽家を雇おうかな?」
「あ。会社ってのやめたんすか」
「良く良く考えたら会社らしい事はしてないからなぁ」
「まぁ、良く良く考えなくても会社っぽくなかったっすけど」
「あーあー言うんじゃない言うんじゃない! 私はそういう『ちょっと考えたら分かりますよね』みたいなの言われると、半年は引き摺るタイプなんだ!」
着実に出来上がりつつあるタワーを見上げる、ドゥーフェンシュマーツ。
その隣には、紫光を浮かび上がらせる面長の仮面を被った、大柄の男が立っていた。
仮面の男は腕組みし、呆れたように溜め息を吐く。
「しかし許可した旦那もだが、あんたも変な人っすねぇ。どうしてアビス内でわざわざ、上に向かう建物作っちゃうんだか……」
「別に良いではないか! アビス内だからって、下向きの建物を作れって法律はないッ!!」
「うわ。『プルシュカ』でもそんな屁理屈言わないっすよ?」
「えーい! うるさいッ!! なんなんださっきからグチグチグチグチ!! それ以上グチグチ言うなら、毎晩お前さんの部屋のベッドを湿らしてやるからなッ!!」
「地味過ぎない?」
ドゥーフェンシュマーツは「まぁ良い」と言って機嫌を戻し、男をタワーの方へ案内する。
既に半分以上は建て進んでおり、高さは20メートルほどにまで行っていた。
「付いて来たまえ、あー……なんて名前だったかな?」
「『グェイラ』っすよ、博士。忘れたんすか?」
「そうじゃない! 卿もだが、ここの連中は似た仮面を被ってるせいで名前が一致せんのだ! タワーが出来たら、タワー内は仮面禁止にしてやる!」
「プルシュカでも覚えられたのに?」
タワーの入り口は、両開きの扉だった。
しかし立て付けが悪いのか、全体重をかけて押してもなかなか動かず、また盛大に軋んだ。
「なんでこんな、開きにくいんだ!? 扉の採寸間違えたかな?」
「え? そんなに立て付け悪いっすか?」
「なんだ、私が非力だと言うのか? まぁ、実際非力な方だが……でも本当に開きにくいんだ。ほれ、閉めてみろ!」
後続のグェイラが扉を閉める。
彼の言う通り、開閉に難儀が生じるほど酷い立て付けの悪さだ。
何とか閉め切った時に、鉄が折れたような音が響く。
「うーわ。こりゃ酷いっすわ。後で調整しときます?」
「あぁ。是非ともそうしてくれたまえ。全く! 私の実家の窓でも、ここまで立て付けは悪くなかったぞ!……いや。やっぱ、実家の方が酷かったな。両親は良く、私の好きだった木彫り人形のコーギー君をテコにして開けていたもんだよ」
「閉めたっすけど、これこっちから開くんすかね? なんか、鳴っちゃ駄目な音が鳴ったような」
「入れたんなら出られるだろ、心配するんじゃない。それよりほれ、例の物を見せてやろう!」
回廊を歩き、暫く進んだ所でまた、扉が出て来た。
扉ではあるが、取手やドアノブと言った手を掛ける部分はない。傍らにレバーがあるだけだ。
「なんすかコレ……昇降機っすか?」
「そうだ、昇降機だ。だがッ!! ただの昇降機ではないッ!!」
ドゥーフェンシュマーツにそう言われ、改めて昇降機の様子を確認してみるグェイラ。
「…………ただの変わった昇降機にしか見えないっすけどね」
「あー! なーんでお前さんはそう、まず否定から入るんだ!? 私がただの昇降機じゃないって言っているんだから、ただの昇降機じゃないのッ!! どうせ聞くなら『どこが違うのですか?』って言ってくれないか!?」
「そうすか? じゃあ、どの辺が違うんすか?」
「良くぞ聞いてくれたッ!!」
「聞くように誘導されたんすけどね」
「一言多いなぁッ!! あーもう! 調子狂う!!」
不満げな表情のまま、ドゥーフェンシュマーツはガコンと、レバーを下ろした。
「とにかく、まずは入りたまえ」
すると扉がスライドして開き、円形のこじんまりとしたホールが姿を現す。
妙にグェイラは、そのホールには見覚えがあった。
「……あれ? 博士、これ、もしかしてっすけど……」
「ん? あぁ。卿から頂いた昇降機をリサイクルしたのだ。資源は大事にしないとな。貧乏性とか言うなよ?」
瞬時にグェイラは、居心地悪そうに呻く。
そんな彼の様子には気付かず、ドゥーフェンシュマーツは嬉々として説明を続けた。
「横繋がりのニコイチだったが、一つずつに分けて使わして貰った」
「……えー。何に使ったとかは聞いたんすか?」
「アビスの呪いを克服する為の実験装置と聞いていたぞ? いやぁ! 彼の研究者精神には恐れ入る!」
「嘘は言ってないっすね」
「片っぽの方は床にケチャップでも落としたのか、それを掃除するのが大変だったがなぁ。この通り景観の為ウッドデッキを敷いたし、まぁ目立たんだろ!」
「あー……そっちの方使っちゃったんすか」
色々と察しながらも、ドゥーフェンシュマーツに誘われるままに昇降機のホールへ入る。
中は男二人が入るには、あまりにも狭い。
肩がぶつかる程度には窮屈だ。
「……めちゃくちゃ狭いっすね」
「参ったなこりゃ……これならいっそ、もう一つの方と合併しときゃ良かった」
そのまま、内部の方にあったレバーに手を掛ける。
「それを上げたら、昇るんすよね? 俺は慣れてますけど、博士は上昇負荷、大丈夫なんすか?」
ドゥーフェンシュマーツはなぜだか、得意げだ。
「フフフフフ…………だからただの昇降機ではないと言っているだろ! これこそッ!! 私が卿と共に作り上げた傑作ッ!!『アビスの呪い無効化ネーター』!!……の、『試作機ネーター』なのだーーーーッ!!」
腕を掲げてそう宣言した為、ちょっと拳がガツッとグェイラの仮面に当たる。
少しの間を置き、グェイラは首を捻りながら意見を述べた。
「…………もうちょいネーミングどうにかならなかったんすか? それがマジなら、凄い発明っすよ? ネーミングで損してますぜ」
「んん? 何を言っている。寧ろ分かりやすくてナイスなネーミングだろぅ?」
「分かりやすいっすけど、ナイスじゃないっすね」
「あーハイハイ! お前さんは絶対そう言うと思いましたー! でももう譲らないもんねー!」
ドゥーフェンシュマーツがレバーを上げると、扉が閉まった。
「『呪い除けの籠』と言う遺物を分析し、何とか再現したものだ! 全く、苦労したぞぉ! 三日もかけてしまった!」
「…………いや、本当にあんた、天才っすね」
昇降機内が大きく揺れる。あちこちから、機械が回転するような音が響いた。
これから駆動し、上昇を始めるようだ。
「これでもう! アビスの呪いなんか怖くないもんねーーッ!! ハーッハッハッハーーッ!!」
ドゥーフェンシュマーツの高笑いと共に、大きなエンジン音と共に昇降機が上がる。
外から見れば、昇降機が一つの階を跨ぐごとにランプが点灯していた。
最初は黄色、次は赤、その次は蒼、そして紫と続いて、頂点に着くとそれらが一斉に点滅。
タワーの頂点はまだ未完成の為、内部が剥き出しの屋上のような状態だった。
扉が開き、ドゥーフェンシュマーツとグェイラが現れる。
「……うぷっ」
「え?」
ドゥーフェンシュマーツの顔色がみるみる青くなり、何か溜め込んでいるのか頬が膨れた。
「おえーーーーッ!!??」
「うわ、マジすか」
グェイラの隣で突然吐く、ドゥーフェンシュマーツの姿。
どうやら呪いの完全な無効化に失敗したようだ。
「それ、多分二層の呪いっすね?」
「ど、どうやら、ネーミングを変える必要があるな……『アビスの呪い軽減ネーター』の完成だーーッ!!…………ぅげぇーーーーッ!!」
「無効化出来てないじゃないっすか」
「てか、なんでお前さんは平気なんだ!?」
「黒笛までなりゃ二層より上の呪いはあってないようなモンすよ。慣れっすね慣れ」
「あー……人間の慣れって凄いパワーだな。いっそ私も克服しおえぇーーーーッ!!??」
「………………」
隣で吐き続ける彼に対し、グェイラは黄昏るようにタワーから『イドフロント』の姿を俯瞰していた。
中央部の「祭壇」が、いつも通り妖しく輝いている。
ドゥーフェンシュマーツの気分が落ち着いたところで、また昇降機でタワーの最下層に戻る二人。
彼は酷くグロッキーになっており、足元も覚束ない状態だ。
「うぇー……頭痛が酷い……改善の余地があるな」
「呪いの軽減だけでも、なかなかだと思うっすけどね。もしかすりゃ、三層辺りの呪いならマジに無効化出来ているかもしんないじゃないっすか?」
「問題は六層以降にも適用出来るかどうかだな……だからって、危険過ぎるから試してみる訳にはいかんし……」
「まぁそれは、旦那が何とかやってくれますって」
グェイラが入り口の扉を開けようとした。
しかし、なぜか扉は押しても引いても、全く動かない。
「ん? あ、あれ?」
「どうした? 立て付け悪いから、思いっきり引かんと!」
「いや。全然……あれ? え? 開かないっすわ」
「なにをしてるんだ! ええい、どけ! 私がやってやろう!」
代わりにドゥーフェンシュマーツが担当するものの、やっぱり開かない。
それどころか、入った時よりも圧倒的に立て付けが悪くなっている。もはや扉は、岩のように動かない。
「んがーっ!!…………あー。こりゃマズいやつだな」
「他の祈手を呼ぼうにも、出られないっすもんね。どうするかなぁ……」
「こうなるんだったら、キッチリ採寸を測っとくんだった……どうする!? 我々が中にいるって、他の者は知らんだろぉ!?」
「うーーん…………」
少し考えた後、グェイラは思い出したように首を上げた。
すぐにゴソゴソとコートの裏ポケットへ腕を入れ、何かを取り出す。
「ロープとフック、俺持ってんすけど」
「おぉ! そう言えばお前さん、探窟家だったな!」
「これで上から降りるしかないっすかね」
彼の提案に、ドゥーフェンシュマーツは手を叩いて大声で称賛した。
「それは名案だッ!! それを使って上から……え? 上から?」
「上から」
「え? 私も?」
「そりゃ、外から開く保証ないっすからね」
暫くして、タワーのランプが光る。
黄色、赤、蒼、紫、そして全部が点滅。
最上階で、昇降機の扉が開く。
「おえーーーーッ!!??」
また吐き出したドゥーフェンシュマーツを無視し、グェイラはロープとフックを繋ぎつつ準備を淡々とこなしていた。
その頃地上は、夜明け前を迎えていた。
フィニアスらがリコらをインタビューしてから、一日が経過。
孤児院を抜け出し、街の南部にあるスラムを行く四人の人影があった。
大きめの外套で姿を隠し、頼りない小さな灯りを必死に目で捉える。
暗がりを歩き進み、進み続け、途端に巨大な唸り声が辺りにこだました。
それが声ではなく、穴の底から噴き上がった空気によるものだとはすぐに気付く。
彼らの目の前には光を飲み込むほどの深淵が、どこまでも広がっていた。
「………………」
その一行らの一人であるナットは、悲しそうな目で穴を見つめる。
貧相な柵の向こうは、アビスだ。
この日、リコとレグは、アビスの底へと挑む。
「リコ……」
ナットは弱々しい声で、外套を脱ぎ捨て、探窟服の姿となるリコの名を呼ぶ。
呼ばれた事に気が付いた彼女は、いつも通りの天真爛漫な笑みを見せつけ、ナットに感謝をした。
これからアビスに挑む者とは思えない、恐怖や迷いのない笑みだった。
「ありがとね! 凄いよナット! こんなにするっと行けるなんてびっくりだよ!」
「お、おう……」
彼女らをアビスの非正規侵入口まで案内したのは、ナットだった。
「あ、あの、リコ。俺な……」
我慢していたものの、耐え切れずに泣き出すナット。
「泣かないで」とあやすリコだが、彼女もまた釣られて泣き出しそうになっていた。
「あのな……」
言葉が出てこない。言い出すのが怖かった。
震え声で何とか何かを話そうとしたところで、リコはナットの手を強く握る。
「大丈夫っ!!」
「っ!」
「に……二度と、二度と会えなくても……アビスで繋がってるから……!」
気付けばナット以上に、リコは涙と鼻水を流していた。
あまりにも凄まじい泣きっ面に、思わずナットは笑ってしまう。
「上にいても……呪われた奈落の彼方にいても……私たちはアビスで繋がってるの! ここで生きたこともっ、忘れたりしないから! だがら大丈夫っ!!」
涙声で震えて、嗄れたリコの声。
頼りないようで、あまりにも大きな覚悟と信念による宣言だ。
あれだけ悲しげだったナットの表情も、にこやかになっていた。
「まーた、始まったな」
リコは鼻水をすすり、指差しでいつもの決め台詞を言い放つ。
その言葉もまた、大きな信念に満ちていた。
「そうっ!!! 始まっていたのですっ!!!!」
「うるせーーぞッ!!」
ついでに声も大きかった。
近隣の住人が起こされ、怒号を散らす。
「ヤベェ!? 住人起きた!!」
「レグ! 急いで!!」
ナットと、同じく付き添いで来ていたシギーが大急ぎでリコとレグを後押しする。
彼女らの友情に心打たれていたレグもまた涙目だったが、ハッと気持ちを戻した。
「急げリコ、レグ! 早く早く!!」
「ほら! 早くしないと住人が来ちゃうよ……!」
「あぁ、すいません! ちょっと用事に来てまして!」
「は?」
突然響く、五人目の声。
驚き、ひるみ、全員の動きが止まる。
「なんだ! 誰かと思えば、君たちじゃないか!」
「えぇ、そうです! お騒がせしましたー!」
「君たちなら問題ないな! おやすみー!」
「はい、おやすみなさい!」
あれだけ怒鳴り散らしていた住人が、一瞬で態度を軟化させて引っ込んだ。
再び静まり返った中で、住人を宥めた張本人が闇から姿を現す。
「……あれ? どうしてみんなココに?」
昨日、孤児院に来ていた兄弟、フィニアスとファーブだった。
足元にはペリーがテチテチと付いてきていた。
「フィニアスにファーブ!?」
「君たちこそなんでここに!?」
リコとレグが同時に声を発する。
無理もない。来るハズない場所になぜか、二人が来たからだ。
「やぁ、リコにレグ。それにナットと……あー、君ははじめましてだっけ?」
「き、君たちが、孤児院の供給機を改造した兄弟……!?」
「そうだね。僕がフィニアスで、こっちが弟のファーブ」
「僕はシギーだ……! い、い、一回会ってみたかったんです……!」
「光栄だね。お近付きの証にリトル・ファーブあげるね」
「待て待て待て!! なに普通に自己紹介してんだよ!?」
ナットが止めるのも無理はない。
気になるのは二人の服装。
フィニアスとファーブ、ついでにペリーもまた、探窟服に身を包んでいたからだ。
背中には荷物を満載したリュックも背負っている。まるで彼らもアビスに挑もうと言わんばかりの格好だ。
ナットとシギーを突き飛ばし、リコが二人に迫る。
「も、もしかして二人もアビスに!?」
「そうだよ」
「えぇ!? 二人とも探窟家だっけ!?」
「ううん。今日が初めての探窟になるかな」
「鈴付きでもないのに!?!?」
当たり前だが、彼らに関してはナットもシギーも止めに入る。
「お、お、お前ら!? アビス舐めてんのか!?」
「探窟家組合のマニュアルは読んで来たよ。上昇負荷の話ならバッチリだ」
「マニュアルで済む話じゃないんだよ!? アビスには色んな危険があるって知っているのかい!?」
「だから色々作って来たんだ」
「つ、作って来た……?」
フィニアスとファーブはお互いに背負っていたリュックを下ろし、入っていた物を見せてくれた。
「まずエチケット袋に、対生物用の囮人形。どっからどう見ても大きな生物にしか見えないパラシュートに、幻覚対策マシン」
「幻覚対策マシン……?」
「三層の呪い用だね。僕らの挙動がおかしくなった瞬間にビックリ箱が開いて、幻覚を打ち消すんだ」
ファーブが腹部に巻いていた袋を叩くと、その幻覚対策マシンが作動する。
袋から拳を模したオモチャがバネに押されて飛び出し、ファーブの顔面を殴った。
オモチャが引っ込んだ後、ファーブは目をクルクル回していた。
「ショック療法かよ……」
「後は下降用の小型昇降機に、偵察用リトル・ファーブ。安眠用の小波音発生装置に、すぐに組み立てられるビッグ・ファーブ。落ちた時用のクッション姫乳房」
「クッション姫乳房ぁ!?」
「僕たちが発見したんだけど、姫乳房に液化した酸素を付けると一気に膨らむんだ!」
瞬間、ボンッとフィニアスの背後から膨張化した姫乳房が飛び出した。
その大きさはフィニアスを包み込むほどで、彼のクッションになっている。
あまりの情報量に、リコたちにとってブレインの役目を担っているシギーも呆然としていた。
「ひ、姫乳房にそんな利用方法が……!?」
「ふ、ふわふわだ……さ、触っても……!?」
「良いよ」
「お、おほほ……おおー……!!」
欲望に抗えなくなったレグが、膨張化した姫乳房に抱き付く。
「もしや……これらを作る為に遺物を集めていたのか……!?」
「お前それから離れろレグ」
「そうなるね。既にP&Fワークスの権利は譲ったし」
「会社譲ったのか!? あれだけ有名になっていたのに!?」
「うん。売り上げたお金も、この岸壁街の子どもたちを支援する為に全部寄付したよ。準備も整ったし、会社を続ける理由は無いからね」
だからこの街の人たちにも顔が立つのかと、姫乳房に抱き付きながら納得するレグ。
ある程度の紹介が終わった段階で、リコはフィニアスの手を握った。
「凄過ぎるよ二人ともっ!! どこまで行くの!?」
「それは未定」
「なら、私たちと一緒に行かない!?」
「あぁ、それは良いね! 是非、同行させて貰うよ!」
クッション姫乳房が萎み、フィニアスのリュックに収まった。
レグが名残惜しそうに、それを眺めている。
最後にもう一度、シギーはフィニアスに問いかけた。
「ほ、本当に行くつもり……なん、ですか……?」
「うん。そうだけど」
「アビスは予想以上の危険がある。その……君たちの技術力は正直、無くすのは惜しいよ……」
「それでも好奇心には敵わないからね」
困ったように笑うフィニアス。
彼の心意気に感化されたのか、レグが背後から彼の肩を掴んで称賛する。
「君って奴は〜〜! 探窟家の鑑だ〜〜!! 僕は、僕は君たちに敬意を表する!!」
「あー、ありがとう、レグ。じゃあ早速、行こうか。後は頼んだよ、パンクスさん」
「はい……! フィニアス様、ファーブ様……!!」
「誰だよ!?」
ナットの隣にいつの間にか、知らないおじさんが立っていた。
凄い泣き顔で、兄弟のアビス入りを見届けている。
「彼はパンクスさん。P&Fワークスの権利は彼に譲ったよ。それじゃあ、殲滅卿伝記の改訂版とか、よろしくね」
「必ず完成させまず……! 絶対に……! 完成ざぜまず……!!」
「本当に誰なんだよ……」
話はひと段落し、気を取り直して支度を整えるリコ、レグに、フィニアスとファーブ。とペリー。
ペリーはフィニアスの頭の上にしがみ付いていた。
四人はアビスが望める、岸壁の前に並んだ。
「本当に手紙書けよ! 俺が取ってやるから……あ、あとフィニアスとファーブ。お前、良い奴だったんだな……」
「気を付けてね!……みんな、すぐ戻って来てもいいからね」
「フィニアス様ーッ!! ファーブ様ぁーーッ!!」
「うるせぇこのおっさん……」
リコと荷物を抱き抱え、降下を開始するレグ。フィニアスとファーブもまた、リュックから出ていたフックを床に突き刺していた。
最後に四人へと、ナット、シギー、パンクスさんが声をかける。
「君らも達者でな」
「二人ともありがと! 良い知らせを待っていたまえー!」
「あぁ、ワクワクするね! ファーブ!」
「やっている事ほぼ違反行為だけどね」
「え!? 今、ファーブって子喋らなかった!?」
「喋れたのかファーブ!?」
「ちょっと無口なだけで喋れるよ」
「割とショック」
別れの挨拶が済んだ。
レグの腕から下が伸び始め、シュルシュルとロープな物を残して勢い良く降下する。
「それじゃ!! 行って来ます!!」
リコの言葉を最後に、二人はアビスが醸す暗闇の中へ消えて行ってしまった。
対してフィニアスとファーブは、お互いに腕に付いた機械のスイッチを指にかけた。
「あのレグって子、まるでロボットみたいだね」
「………………」
「じゃあ、ファーブ。行こうか!」
同時にスイッチを押す。
するとレグの腕と同じように、フックに繋がった鉄製のワイヤーが伸び、二人はゴンドラのように下へ下へ降って行った。
そして二人の姿が見えなくなると、フックは飛び上がるようにして一人でに地面から外れる。
彼らが見えなくなるまで見送る、ナットとシギー。パンクスさん。
ロープを伸ばして縮める音が、とうとう聞こえなくなった。