いちご狩りに行こう!   作:基倉灯大

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やっといちご狩りに行きます。


後編

 今日はいちご狩りの日だというのに、朝からヤダモンの機嫌は悪かった。ヤダモンとタイモンの間にはギスギスした空気が流れており、ルブラン家の面々を困惑させた。ジャン達はケンカでもしたのだろうと当たりをつけて、仲直りを促そうとヤダモンに色々話しかけてみたのだが、誰が何を言っても「知らない」「タイモンが悪いんだもん」とツンとした返事が返ってくるばかりで、取り付く島もない。

 ハンナもやって来ていざ出発、という段になっても、二人の仲は険悪なままで、ヤダモンは不機嫌を隠さずタイモンを見ようともしないし、タイモンは定位置のヤダモンの頭の上ではなく、今日はジャンの腕の中に納まってしょぼくれていた。

 とりあえず、二人のことは時間が解決してくれるのを待つことにして、一行は研究所に向けて出発した。ジャンはタイモンを抱えたまま、隣を歩くハンナに話しかけた。

「ハンナは、いちご狩りって行ったことある?」

「ううん、初めてよ。ランドでいちご狩りをできるなんて、思ってもみなかったわ。

……せっかくだから、パパも来られたらよかったのに」

「……そうだね。お仕事だから仕方ないけど、やっぱりヨハンさんも一緒がよかったなぁ」

 実は、ハンナの父、ヨハンも一緒に来るはずだったのだが、緊急の動物搬入で港に向かったため、この場には居なかった。ヨハンの不在を再確認してしまい、湿っぽくなった子供たちの肩を、エディはポンと叩いて励ました。

「ヨハン君ももう少ししたらこっちに来るから、その時にいちごをご馳走してあげるといいよ。たくさん採っておいてあげよう、ね」

「うん、パパ!」

「はい、おじさま!」

「エディ、あなたは受け入れの準備は大丈夫?」

「ああ、ぬかりないよ。ヨハン君が来たらすぐに引き継いで、処置室へ連れて行くさ」

 そんなことを話しながら歩いている内に、研究所に到着した。動物研究の拠点として名高いこの研究所だが、植物研究の施設も備えている。エディ達が向かっているガーデンとは、研究所の西側に設えられたガラス張りの温室の通称だ。温室の中は、さらにいくつかの区画に分かれており、多種多様な植物が育てられていた。

 すれ違う研究所の職員達に気さくに挨拶しながら、一行がガーデンに到着すると、そこにはブッチ&エンリコ兄弟が待ち構えていた。二人はお揃いのニッカボッカにゴム長靴、麦わら帽子を身につけ、「農家の人です!」と言わんばかりの姿だった。どうやら兄弟は形から入るタイプらしい。

 ブッチはエディ達の姿を見つけると、仰々しく両手を広げて歓迎のあいさつを述べた。

「これはこれは皆さま、お待ちしておりましたぞ!

ようこそ、私の『ブッチウルトラデリシャスいちごガーデン』へ~!」

「はは、ブッチ君のガーデンってわけじゃあないんだけどね……」

「おぉう、固いことは言いっこなしだぞ、エディ博士!

 僕と君との仲じゃないか、なあエディ博士!?」

「ブッチお兄様が丹精込めて育てたいちごが、今まさに食べごろとなっております。

 皆さま、遠慮なさらずお召し上がりください。

 ささ、こちらへ」

 エンリコの案内でいちごの植わっている区画(ブッチの言う所の、『ブッチウルトラデリシャスいちごガーデン』)に到着すると、ジャン、ハンナ、ヤダモンは「わぁっ」と歓声を上げた。

教室4つ分はありそうな空間に、白いプランターが整然と並べられている。どこを見てもいちごの蔓が青々と茂っており、鈴なりの赤い果実を重そうに垂らしている。確かにこの景観を見れば、エディが「いちごのジャングル」と評したのにも頷ける。さらに、いちごを採る際に屈まなくても済むようにと、腰の高さにプランターを設置する気の配り様だ。

 

 手を伸ばせばすぐにいちごに届く、この光景を見てヤダモンは

「すごいすごーい!魔女の森みたい!」

と叫んで駆けだした。

 ブッチとエンリコは、敬愛する少女が喜んでいるのを見て満足げに笑みを浮かべていたが、ふとジャンの手元に目をやったエンリコが首を傾げた。

「おや、珍しいですね?今日はジャンお坊ちゃまとタイモン君が一緒なのですか?」

「うん。実はタイモン、ヤダモンとケンカしちゃったみたいで、朝から元気がないんだ」

「なんとぉ!?スーパー女の子とタイモン君がケンカぁ!?」

 ケンカという言葉に、ブッチが大げさに反応した。彼はタイモンを抱き上げ、頬を寄せて彼特有の大仰な口調で喚いた。

「ケンカ、それは悲しいもの……ケンカ、それは苦しいもの……

 弟エンリコよ、この傷ついたタイモン君を、我々兄弟で慰めてあげようではないか~!」

「はい、ブッチお兄たま!」

「しかして弟エンリコよ、タイモン君を慰めるにはどうすればよいだろうか?」

「名案がございます、ブッチお兄たま!タイモン君の大好物はいちご、そしてこのガーデンにはいちごがたくさん!

 美味しいいちごをお腹いっぱい食べてもらって、悲しいケンカのことは忘れてもらうのです!」

「さすがだ、弟エンリコよ!それでは早速、タイモン君のために美味しいいちごを集めようではないか~!

「了解です、ブッチお兄たま!」

「ではタイモン君、ちょ~っとここで待っていてくれたまえ」

 ひとしきり騒いだ後、タイモンを近くのテーブルの上に置いて、兄弟はいちご畑の中へ消えていった。彼らの芝居がかったやり取りをぽかんと見ていたエディ達だったが、気を取り直して、本来の目的を楽しむことにした。

「タイモンのことは彼らに任せて、僕達もいちご狩りに行こうか」

 エディはそう言って、いちご狩り用のバスケットをみんなに配った。

「うん!ハンナ、行こう!」

「ええ、パパにもたくさん採ってあげなきゃ!」

 マリアは駆けだした子供たちを見送ると、タイモンの顔をのぞき込んで微笑んだ。

「タイモン、私は絶対、ヤダモンと仲直りできると思うわよ。

 だって、ヤダモンはあなたのことが大好きなんですもの。

 ヤダモンの機嫌が直ったら、仲直りを手伝ってあげるから、元気出して、ね?」

 そう言って、マリアはタイモンの頭を優しく撫でた。

 タイモンは「ふみゃあ」と力なく返事をして、エディに手を引かれて歩き出したマリアを、ぼんやりと目で追うのだった。

 

 

 

 

 一人で駆け出したヤダモンは、大喜びでプランターの間を走り回っていた。そこかしこに果物が生っていて、周り全てが植物に囲まれているこのガーデンは、ヤダモンに魔女の森を思い出させた。ヤダモンはいちごをもいで食べたり、蔓を引っ張って遊んだりしていたが、ひときわ大きく丸いいちごを見つけて、けらけら笑った。

「見て見てタイモン、このいちご、タイモンにそっくり!

 ……あれ?」

 いつもは頭の上に乗っている友達が、今は一緒に居ないことを思い出して、ヤダモンはつまらなそうに呟いた。

「むー、タイモンいない、つまんない。

 そうだ、ジャンとあそぼうっと!

 おーい、ジャーン!」

 きょろきょろと辺りを見回してジャンの姿を見つけると、ヤダモンは大急ぎで駆け寄った。

「ねえ、ジャン、遊ぼう!」

「わっ、ヤダモン!?

ダメだよ、せっかくいちご狩りに来てるんだから、遊ぶのはもうちょっと後にしよう」

「ねえヤダモン、今、パパの分のいちごを集めてるの。

 一緒に手伝ってくれない?」

「えぇ~、そんなのつまんない。

 いいもん、ジャンパパに遊んでもらうもん!」

相手をしてくれないジャンとハンナに背を向け、ヤダモンはエディの所へと走った。

 

「ジャンパパ、遊んで!」

「ヤダモン!?遊んでって、いちご狩りはもういいのかい?」

「うん、だってつまんないんだもん。

 ねえジャンパパ、遊んで!」

 不満げな顔でエディの腕を引っ張るヤダモンに、マリアが穏やかに話しかけた。

「ヤダモン、私、どうしてあなたがつまらないのか知ってるわよ」

「ジャンママ?」

「ヤダモンは、タイモンが居なくて寂しいんじゃない?

 大切な友達が一緒に居ないから、つまらないんだと思うわ」

「そんなことないもん!タイモンなんてキライだもん!」

「でも、タイモンはお友達なんでしょう?」

 

 咄嗟に「ちがうもん!」と言いかけたヤダモンだったが、しかしタイモンが友達でないとはどうしても言えず、マリアの言葉に無言でこくりと頷いた。

 マリアはにこりと笑うと、ヤダモンの髪を撫でて話を続けた。

「お友達と一緒に居られないのは、寂しいわよね。

 だからヤダモンは、つまらないって感じてるんじゃないかしら」

「ヤダモン、タイモンもとっても悲しそうな顔をしていたよ。

 もう仲直りしてあげても、いいんじゃないかな?」

 

 マリアとエディの言葉を聞いて、ヤダモンにも反省の気持ちが湧いてきた。タイモンはいつも口うるさくて、おせっかいで、たまにお調子者で……、だけど誰よりも自分のことを心配してくれていることを、ヤダモンは知っていた。ケンカして「だいきらい」なんて言ってしまったけれど、本当は大好きな友達なのだ。

 しばしの逡巡の後、ヤダモンは意を決して顔をあげると、

「ジャンパパ、ジャンママ!あたし、タイモンと仲直りしてくる!」

と言って走り出した。勢いよく飛び出したヤダモンだったが、途中で何かを思い出したように立ち止まって、エディの元へ帰ってきたかと思うと

「ジャンパパ、これかして!」

と言って、エディの手から空のバスケットを奪っていった。

 バスケットを強奪されてきょとんとしたエディだったが、マリアと目を見合わせて「ふふっ」と笑い合うと、大切な友達の元へ向かった少女の背中を満足気に見送った。

 

 

 いちご畑の入り口に一人残されたタイモンは、時折見え隠れするジャン達の姿をぼんやりと眺めていた。ジャンとハンナが楽し気にいちごを摘む様子や、エディとマリアが仲睦まじくいちごを食べさせ合っている姿を見ていると、なんだか惨めな気持ちになった。みんなは好きな人と一緒に、楽しいひと時を過ごしているというのに、自分はひとりぼっちだ。大好きなヤダモンには「だいきらい」と言われて口もきいてもらえず、それが悲しくて大好物のいちごも喉を通らない。ヤダモンのために、妖精王の反対を押し切って、姿を変えてまで人間界について来たというのに、今の所、その想いが報われそうな気配はない。己の不甲斐なさ、情けなさに涙がこぼれそうになった、その時だった。

 

「タイモン、こんなとこにいた!」

 

 と、ヤダモンの声が降ってきた。タイモンは慌てて涙を拭い、顔をあげると、目の前には手を後ろで組んで、にこにこと笑うヤダモンの姿があった。

 ヤダモンは、背中に隠していたバスケットを差し出して、

「ね、タイモン。いちご、いっしょにたべよ?」

と、山盛りのいちごをタイモンに見せた。

 

「ヤダモン……このいちご、ぼくのために採ってきてくれたのかい?」

「うん!だって昨日ジャンパパが言ってたもん。

 おいしいものは、大切な人と一緒に食べるのが一番いいって!

 ね、はやく食べようよ~!」

 ヤダモンがすとんと椅子に腰を下ろして、いちごを摘み上げるのを見ていたタイモンは、さっきまで惨めにいじけていた自分が恥ずかしくなって、もごもごとヤダモンに謝った。

「ヤダモン、今朝は分からずや、なんて言ってごめんね」

それを聞いて、ヤダモンも申し訳なさげに眉尻を下げて、タイモンに謝った。

「ううん、あたしもイジワルしちゃってごめんね。

 ねえ、謝ったから仲直りしてくれる?」

「もちろん!だってぼく、ヤダモンのこと大好きだもの!」

「えへへ、あたしもタイモンのこと、だーいすき!」

 そう言って、二人は顔を見合わせてくすくすと笑った。

 

 ひとしきり笑い合った後、タイモンのお腹がくぅ、と鳴ったのを合図に、二人はいちごを食べ始めた。甘酸っぱくて、みずみずしくて、ヤダモンと一緒に食べるそのいちごは、タイモンにとって、今までに食べたどんないちごよりもおいしいものだった。

 




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ヤダモンに「タイモンだいすき」と言わせたかっただけw
アニメの21話「タイモン大好き」では、冗談めかして「だ~いっきらい」って言ってるので、もっと素直に大好きって言ってるヤダモンを見たくなったんです。。。

因みにブッチとエンリコはいちご集めに夢中で、まだしばらく帰って来ません。
きっとバスタブいっぱいになろうかという量を集めてきてくれるでしょうw
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