「何だこれは」
ヤルキマングループの上から見下ろすように多々良はその光景に見入っていた。口をポカーンと開け、信じられないと零す。だが、何かのきっかけで勃発しても不思議ではないため、そこまで焦ることはなく、冷静に見れた。
死闘。
海賊王の右腕であるシルバーズ・レイリーと海軍の英雄であるモンキー・D・ガープが殺し合いをしていた。互いに傷つけ合い、血を流しながらも、その手を止めることはない。血に扮し赤黒く染まったその拳と返り血を浴び、狂信に会える猛虎な劔が互いに、殴り、斬り合い、使える限りそれをまた特攻する。捨て身の攻撃で防御という動作を1つとしてない。稀に回避をしながらも最短距離で
「凄い」
好きで彼らは傷ついているわけではない。見聞色を使える者や戦闘の熟練者なら分かること。攻撃をする上で何が効率的で有効なダメージを与えることができるのか。その過程において流血しているに過ぎない。通常痛みで筋肉が萎縮する所を、彼らは攻撃を通すための布石として捉える。自ら描くイメージ通りにことが運んでいることに満足を覚えながら、互いに攻撃は加速し、自ずと覇気と覇気の濃密な衝撃が激化して行く。
「オレも乱入しようかな」
多々良は自分も参加してこのゲームを楽しみたいと思い始める。レイリー戦での不完全燃焼というものもあるが、今の自分の実力がガープにどれくらい通用するか試してみたい。あいにく覇気も回復した。1発くらいなら覇王色を纏った銃弾――〈梅重〉も撃てるだろう。その反動で体調を壊すかもしれないが、2、3日寝れば問題ないだろう。
「そうと決まればやるのみ」
そう呟きながら先程まで手入れしていた愛銃――『雷管式36口径・多々良』を構えて、覇気を込め始める。気分は八重の桜。鉄砲娘で無双したい。
紅は最近嫌いだ。
品がない。赤に比べて美しいが血よりは汚い。汚く惨めな何もかも無力を感じさせるもの。興味本位で勝手に作られた哀れな色。だが、血を連想するのにこれ以外ない。
――バキューン!
紅色に染まったその弾丸を2人へ向けて打ち出す。彗星の如く紅は弾け弾丸を象徴するようにその役目を終える。本命は弾丸。いつ覇気が主人公になったのだ。それを見送るのが覇気としての務め。覇気でそれを保護し狙いに無事送り届ける。覇気とは持ち主と運命を共にするもの。
覇気は強くて弱い。
細胞のように日々入れ替わっておりその寿命は蟻より短い。だが覇気とは記憶を共有するもの。記憶を共有することで改善策を生み出しそれを実行に移す。有言実行。覇気とは物事に決められた運命に沿うものではなく、自らレールを敷き、道徳の観念においてそれを遂行する。覇気は日々成長し進化し次の世代へと守り抜き、持ち主と共に歩み行く。
多々良は何となくそれを知っている。いつからなのかは分からないが覇気を極め始め、銃弾に毎日ように込めていた時、自然と理解したのだろう。武装色を極めると覇気の見方も変化する。彼らと対話し何をどうすれば自ずと返ってくる。互いに協力し合い、日々の壁を超えて行く。
「オレは勝つ」
多々良は少し飢えている。
海に出て多くの体験をして来たが、死にかけることはあれど、死闘を繰り広げることはなかった。ニューゲートとは暇つぶしついでに襲いかかったり、レイリーとは面白半分で覇気の実験台にした。だが、本物の死闘と言われるものはしたことがない。多々良は飢えている。
「おりゃああああ!」
拳が空気をぶん殴る。
大気にも影響を与えてしまうその暴君は1つの剣に吸い込まれる。赤黒く染まった愛ある拳と流れるように覇気が
「チッ」
蝶のように舞い、蜂のように刺す。浅葱に染まった空気が握られた剣と共に敵の膝付近を狙い打つ。狙いは機動力を削ぎテンポをずらすこと。戦いにおいて足とは重要な器官だ。リズムを崩し敵のプランを白紙にすることで、対応力がなければ死へ直行する。機動力の他に回避力、反応力、攻撃する上での足運び。全てに直結するそれは海賊問わずに戦う者にとっての生命線。これを理由に引退する者も多い。
「まだまだ!」
ゴリラが華麗に回避し、死角から左ストレートをお見舞いする。威力はあるものの違和感を感じさせる。覇気が通常に比べ大雑把。濃度は高いがその質は脆い。
受ければダメージが通るのは必然。大地を蹴り後退する。だが、ガープはそれにニヤつき、慌てて見聞色を使うと後退すると同時に吹っ飛ぶ錯覚を覚える。
「フェイクか」
――ニヤ
本命は右のパンチ。
ついちょっと前にはなかったその拳は瞬きの隙に忽然と出現した。左のそれに目が釘付けになっていたがため、レイリーは気づかないでいた。見聞色で隠していたのではない。視線を誘導して存在を薄れさせていたのだ。
――ゴゴォォォン!ザァザァ!
右のストレートを直に受け、横に吹っ飛んでいく。後退した時重心が後方に移動し足に力が入らなかった。古武術を応用して重心移動だけで反射を利用した方法があるが、それをしてしまうと第二第三の攻撃を躱すことができなくなってしまう。覇気使いの戦闘において重心の移動は敵も知っていること。腰を低く構え、ダメージを受けたとしてもそれ以降の攻撃は受け付けない。
――スパッ!ギギィン!
剣を払いガープを辻斬り。
それを読んでいたが拳を合わせてくる。だが放たれたそれは空気を削り摩擦熱と共にガープを殴り切る。覇気は最小限にとどめつつも、自らの腕で勝負するレイリーは覇気無駄使いのゴリラとは違い、熟練者を連想させるものである。
「ブワッハッハッハッ!やはり全力を出せるのは良いわい」
「私はあまり嬉しくないのだがね」
大きく笑い全力を出せることに喜ぶガープ。つい先日、金獅子のシキとやったばかりというのに、それでも足りないのか、戦いたくてしょうがない戦闘狂である。血は流れながらも、口角を上げ嬉しそうな笑みをこぼす。今にでも相手を殴り腹に溜まっている鬱憤を吐き出したいのか、内から湧き出る覇気が少しずつ濃くなり、次第にその笑みは殺意へと変貌する。
その一方で溜め息を吐きながら剣の調子を確かめ、目尻を寄せるレイリー。早く終わらせたいという、もう少し楽しみたいという、2つの気持ちが複雑に混ざり合っていた。理性では多々良と捜索し己のやる事を済ませたいと思っているが、本能ではこの戦闘での時間を楽しみたいと思っている。頭が大義名分を掲げ理解していながらも、体は言うことを聞かない。そんな自分に呆れはするも、これがロジャーの隣にいたと言う自らの証しなのだろうと、勝手に思ったりする。要は戦闘はしたいがそれを口にできない、ツンデレなのだろう。
「せっかくだ。もっと上がるぞ」
「地図が変わるぞ」
「そこら辺はセンゴクがなんとかするに違いないわい。ブワッハッハッハッ!」
「元帥も大変だな。少し同情する」
大抵の面倒ごとの後処理は回りに回って最終的に減衰であるセンゴクの所へ行き着く。昔からの問題ではあるが、英雄を支える者は全て苦労人の務めだ。まるで与えられた悲しい指名であり、活躍する者の裏はいつも闇深く、胃に穴が開く。どのような職業でも同じこと。責任問題が付き纏う職種はいつも大変だ。主に建設業は納期があるため社長はいつの時代も悲惨だ。
「なら早く済ませよう。邪魔者が来る前にな」
「ああ、そうだな。レイリー」
互いに呟き得物に力が入る。愛ある拳と流れる剣。2つの得物が互いに牽制し合い、一撃に狙いを定める。焦点を合わせゴールを決めると2人は走り始め、剣は鳩尾を、拳は頭部に向かって斬り、殴る。
――ギィイィィィィィ!
衝突。
最初から分かっていた答え。2人が描くその軌跡は、良くか悪くか互いの通り道を邪魔し自然と力がその一点に集中する。力の矛先を失ったそのエネルギーは互いを擦り抜け、解放されたそれは辺りに撒き散らす。化け物同士によって生み出されたその衝撃波は、次第に大地へのそよ風となり、周りにあるヤルキマングローブを躱すように流れて行く。島の空気が中から外へと循環し、濃密な覇気は空気と共に薄れ、島全体に覆い被さる。
だが、覇気は覇気。薄れたとはいえ、怪物から解き放されたそれは気絶してもおかしくないほど。現に気が弱い者が倒れると言う現象が島全体で発生した。通常の覇王色とは異なるが互いに競い合うかのように化学反応を起こし、殺意のそよ風として変化する。その結果シャボンディ諸島全土を巻き込む。そして、それに気づいた猛者や世界政府関係者、サイファーポールが情報収集のため近づき、その小さな存在の粒が次第に大きくなるのを2人は戦闘をしながらも感じ取れた。
「あ!やっちまった!」
頭に手を当て間抜けな顔を浮かべるガープ。先程の戦慄なルックスはどこにもない。血が流れただの重症人患者となったガープに貫禄は皆無。
「やれやれ」
首で横に振るレイリー。内心呆れながら先行き不安定な状況に不安を覚える。
「これで私の隠居先が――」
――バキューン!
そんな時だった。ガープに呆れここらで終わろうと提案しようと思った時、それはやってきた。
こちらに向かって来る濃密な覇気。
――ピュュュュュュウ!!!
いや、銃弾。
〈
紅よりも重く、桜より軽い。桔梗じみたそれは黒き放蕩への貢物。静かでありながら、やり遂げることに明確性がある。そんな我が儘で破天荒な銃弾は鉄を含んだ血のように、存在感を感じさせ、命が宿った1つの生き物として宙を舞う。落ち葉が踊る、空気で支えられたそれは2人の帆を掠め取る。
赤い赤い血の涙が辺りを照らした。