狙撃手・多々良   作:おべ

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シャボンディ諸島⑥

 

 

 

 

 

 

『シャッキー'S ぼったくりBAR』

 

 

 

 2人の男女が酒を酌み交わし雑談に花が咲いていた。1人は新聞を読みながら。もう1人は煙草を吸いながら。

 

 

 

「それで多々良ちゃんはこの有様ってわけね」

 

 

 

 ベットの上で力尽きた青年、多々良の様子を見ながら口にする官能的な女性――シャクヤク。溜め息を吐き、やってくれたわね――と吐き捨てた。

 

 

 

「すまない、シャッキー」

 

 

 

 読んでいる新聞を畳み、部の悪そうな顔を浮かべる男性――シルバーズ・レイリー

 

 

 

「いいわよ。多々良ちゃんが本気を出したんでしょ?」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 レイリーもレイリーですまないと思っている。多々良が大変なことになっていることは薄々気づいていたことであったが、興奮のあまり忘れていた。ガープという宿敵と出くわし通常の判断ができなかったのだろう。ついついガープとノリノリになってしまい、多々良を倒すためにほんのひと時であったが、協力して戦った。

 

 

 

「ガープとレイリー。2人の伝説が多々良ちゃんを弱い者いじめ。それを聞いた時は呆れたわ」

 

 

 

 

「すまないと思っているよ。現に私はこうやって謝っている」

 

 

 

「ふーん。多々良ちゃんじゃなくて私にね」

 

 

 

 目が笑ってない。

 笑みをこぼしているが内心はカンカンに怒っている。謝罪させに行かせたのに、瀕死状態となった多々良が帰って来た時は流石に驚愕した。事情を問いただした所、なんともまあ男2人して虐めていたことが発覚し、剰あまつさえそれを楽しんでいたのだからキレるのも必然的行動であろう。

 

 

 

「今回だけよ。また、面倒ごと持って来たら…分かるわよね?」

 

 

 

「ああ、肝に命じておく」

 

 

 

「そう。それならいいわ」

 

 

 

 長い長い説教タイムが幕を閉じる。レイリーによる出来る範囲の応急処置の後、抱えて『シャッキー'S ぼったくりBAR』まで運んで来たのだが、そこに待ち構えるかのようにシャクヤクが立っていた。直ぐにベットまで運びシャクヤクが的確に診断と治療を行い、それが終わるとレイリーはシャクヤクに呼ばれ、尋問方式で全てを履かされ、キツイ説教を受けた。レイリーの心はぼろぼろである。

 

 

 

 


 

 

 

 

「それでレイさん。あの子の背中」

 

 

 

「ああ、おそらくと思っていたが。あの家紋、『九曜(くよう)』だったな」

 

 

 

 九曜。

 真ん中に1つ周りに8つの丸が描かれた紋のことで、歴史上人物である『平将門(たいらのまさかど)』の家紋である。月星紋に関連した有名な紋は、『毛利三つ星』や『渡邊星』、『月に星』が主にあげられる。『毛利三つ星』(一文字三星紋)は有名な毛利元就(もとなり)の家紋である。

 

 

 

 九曜とは古代インドを源流とする宿曜道(すくようどう)や陰陽道などの星占いに用いられる。太陽から数えて、水星、火星、金星、月、火星、木星、土星の7つ、空想である、計都(けいと)羅睺(らごう)の2つを合わせたもの。最古の和歌集である『万葉集』にも登場し、長寿延命や息災招福《いきさいしょうふく》の意味合いがある強力な紋を意味している。

 

 

 

「月星紋。その中で上位に君臨する九曜。そして、綾小路家の末裔。これらを意味するのは――」

 

 

 

 神妙に目尻に皺を寄せる。瞳は鋭く光り己れの解を心の中で導き出し、声には出さないが心の中でひっそりと呟く。丸眼鏡から覗く鋭い視線は九曜を見つつ、どこか先の未来を見ているようだった。

 

 

 

「世界が荒れるわね。()()()よりも」

 

 

 

 勘付いた表情を浮かべるシャクヤク。

 官能的な顔から打って変わり、詮索する瞳へと変貌し始める。シャクヤクは多々良の情報を集めている。初めて会ったのは2日前とはいえ、少し前から関心を抱いており、白ひげ海賊団でゼロ番隊隊長を務めていると耳にした時から、経歴を洗っていたほど。結果、何も出ず黒よりグレーといった所。ここで、九曜の紋を目にするのは想定外で内心驚いている。

 

 

 

「――そうだな。ラフテルの件然り、光月の件然り、九曜の件然り、世界は幾度なく唸り続ける。私は隠居の身。これからは彼の時代なのかもしれん」

 

 

 

 ラフテルと光月。

 レイリーは過去の出来事に想いを寄せ、未来の海が荒れると予想。隠居の身と称して何かを企みはするも直接的には手を加えない。次の世代に身預け、この先に待ち受ける試練に向けて、ロジャーの意志を継ぐ者を探すことに決める。

 

 

 

「でも、あの子は何もかも失いそう。いえ、自ら失う道を歩むと思うわ」

 

 

 

 多々良は普通じゃない。

 普通の子じゃない。何か世界の理から遠く離れた位置にいる。

 

 

 

「そうかもしれん。だが、多々良くんは……」

 

 

 

 レイリーとて気づいている。シャクヤクが言いたいことも。多々良は今後多くの者を殺すことだろう。レイリーは当然反対ではあるが、他人に口出しするつもりは毛頭ない。危険と感じれば動くかもしれないが、現段階において自ら行動に移すことは皆無。隠居して次の世代を見守ることに徹する。

 

 

 

「最愛なる人まで血に染めるわ」

 

 

 

 多々良は肉親にすら手にかける。友人を殺し、戦友を殺し、仲間を殺し、親友を殺し、敵を殺し、男女子供関係なく等しく殺すだろう。シャクヤクは確信している。九曜とはそういうものであるからと。

 

 

 

「せめて、あの人のようになってくれれば」

 

 

 

 シャクヤクは願う。

 多々良のことを思い、せめて世界を壊すことだけに留めて欲しいと。仲間を殺すのではなく、世界の秩序を殺すだけにして欲しいと。

 

 

 

「私達ができることは見守ることだけなのかもしれん」

 

 

 

 レイリーは思う。

 私達は見守ると。傍観ではない。他人事ではないのだから。せめて、導くことはできるかもしれない。()()()()()()()()()()()()()()としても。

 

 

 

「多々良ちゃんは何にでも染まるわ。味方にも敵にもコロコロとね」

 

 

 

 多々良を案ずる気持ちは同じ。

 しかしながら、多々良は今後大きなことをしでかす。2人も馬鹿ではない。それだけに内に秘めている力が世界を赦しかねない。多々良は人を殺すことに特化しているのだから。

 

 

 


 

 

 

「お世話になりました」

 

 

 

 多々良はすっかりと元気となった。まだ、戦闘の疲労は残っているため激しい闘いはまだ難しいが、そこら辺の有象無象の敵相手には遅れを取らない。枯渇していた覇気も扱うことができ、シャクヤクによるドクターストップも解除した。そのため、今日は晴れて出航許可が下りた。

 

 

 

「いいのよ、多々良ちゃん」

 

 

 

 涼しく笑みを浮かべるシャクヤク。どこか濁りがあるようだが、笑みという仮面を被り隠しているように思える。先日のガープの一件もあったため、少し疲れた様子も伺えた。

 

 

 

「それでこれからどこへ向かうのかしら?」

 

 

 

 唐突に質問をぶつける。

 シャクヤクとて情報通。商売人として気になっているのだろう。吊り目をよそに訊いてくるあたりどこか胡散臭く感じる。これがルフィなら疑問持つことなくペラペラ喋るだろう。

 

 

 

「そうですね。とりあえず、新世界へ」

 

 

 

「また戻るのね。じゃぁ白ひげの所へ行くの?」

 

 

 

「いえ、暫くは所属は避け、ブラブラと徘徊するつもりで」

 

 

 

「分かったわ。ありがとうね」

 

 

 

「いえいえ大丈夫ですよ」

 

 

 

 別にシャクヤクにバレても問題ないがレイリーの耳に入ることだけは勘弁願いたい。多々良が寝ている間の話は知らないが、多々良がやろうとすることは原作を知る身として看過出来ないものであろう。故に多々良はシャクヤクにそのことを伝えたりはしない。信用してないわけではない。ただ、言ってしまったら面白くないだけだ。

 

 

 

「んじゃ、オレはそろそろ行くんで」

 

 

 

「あら、寂しくなるわ」

 

 

 

「大丈夫ですよ。ちょくちょく戻ってくるんで」

 

 

 

「そう。なら大丈夫そうな」

 

 

 

「ええ。んじゃ、ここらで失礼」

 

 

 

 多々良はおもむろに振り返り旅立っていく。別にまだ居ても良いのだがこれ以上いれば間違いなくレイリーが飛んで来そう。面倒ごとの種になりそうな人物と関わりたくないと思い、多々良は元気になり調子を取り戻し始めた矢先に、この地を後にしようと決めていた。また、ダラダラとこの地に居続けるのも内心嫌であるため、テキトーに満喫したのち離れるつもりでもあった。

 

 

 


 

 

 

「行ってしまったわね」

 

 

 

「そうだな」

 

 

 

 多々良を見送る2人。

 レイリーとシャクヤクは多々良の背中を見てそう呟く。レイリーは見送りに見聞色で気配を消しながら参加していた。

 

 

 

「心配かい?」

 

 

 

「そりゃ心配よ。多々良ちゃんはトラブルメーカーだもの」

 

 

 

「それは否定しないが……、うん?それの手配書はもしかして」

 

 

 

「そうよ。新しく更新したものよ」

 

 

 

シャクヤクの手に握られた新しく更新された多々良の手配書。その更新された額は新世界レベル。充分、立派な海賊となっていた。

 

 

 

「わはははは。これは先が楽しみだな」

 

 

 

「そうな。多々良ちゃんはこれから忙しいみたいだから」

 

 

 

「訊いたのかい?」

 

 

 

「いいえ。訊いてないわ。ただ、隠し事してたみたいだから」

 

 

 

「シャッキーに隠し事か。多々良くんも腹が黒そうだ」

 

 

 

「レイさんに言われてもね」

 

 

 

「それもそうだな」

 

 

 

 2人は手配書を見ながら呟く。レイリーと多々良はどことなく似ていると。本質ではない。その色だ。

 

 

 

「まぁ楽しくやればいいさ。それが海賊だ」

 

 

 

「ふふ」

 

 

 

彼らは笑いながら見送る。

 

 

 


 

 

 

名前 綾小路・多々良

 

通り名 倆紅(りょうこう)の多々良

 

肩書き 元白ひげ海賊団ゼロ番隊隊長

 

懸賞金 5億1520万ベリー

 

 

 

 

 

 

 




通り名は〈倆紅〉にしてみました。倆は訓読みで(うでまえ)音読みで(りょう)と読み、伎倆は技量の旧字体です。紅はご存知の通り覇気を表現。ONE PIECEの通り名は基本的に色が入ってるのが多いのでこのようにしました。

久しぶりに原作読みましたが結構進んでいるんですね。一応、96巻まで読みましたが、所々間違う可能性があります。その際はご指摘お願いします。

それでは、シャボンディ諸島編終了です。




――べべんっ!!!
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